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2024/08/23

スクイーズアウトとは?手法やメリット、手続きの流れ

スクイーズアウトとは?手法やメリット、手続きの流れ

スクイーズアウトとは

スクイーズアウト(Squeeze Out)とは、少数の株主や特定の株主から、大株主が強制的に株式を取得する手法を指します。意見の対立する少数株主や連絡がとれなくなった株主に対して金銭等を交付して強制的に株式を買い取り、株主から排除する方法です。

M&Aを実施する際には、分散した株式を集約させたり、株主を整理する必要性が生じる場面があります。場合によっては、スクイーズアウトにより、法律に従って少数株主を排除することが必要です。

多くの場合では「株主が複数人存在し、株式が分散している場合」にこのスクイーズアウトの手法が用いられますが、上場廃止をする上で活用されることもあります。

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スクイーズアウトの目的と重要性

スクイーズアウトは、中小企業におけるM&Aなどで活用されることが多いです。どのような場面で行われるのか、スクイーズアウトが活用される目的について見ていきます。

①完全子会社化(持ち株比率を100%)したい

M&A後の会社運営を円滑にするため、少数株主の経営への影響力を排除する目的が挙げられます。3%以上の議決権を保有する株主は「会計帳簿を閲覧などの請求をする権利」、10%以上では「会社解散請求権」を持つことになるため、経営に影響を及ぼすことが可能です。特に会社の方針に賛同しない株主が現れるとその意見に対応する必要が出てくるため、会社の意思決定に影響があったり、鈍化したりする可能性があります。そのため、円滑で自由な経営を行いたいオーナーは、株式を100%所有することが理想的とされています。

また、株式譲渡が行われるケースが多い中小企業によるM&Aにおいては、譲受企業は譲渡企業の株主からすべての株式を買い取り、完全子会社化する場合がたびたびあります。
その際、M&Aに反対の株主がおり、対応しないままM&Aを進めていくと、株式の取得が上手く行われず、M&A自体が不成立となってしまう可能性があります。仮にM&Aが進んだとしても、譲受企業に反対する株主が潜在することになり、円滑で迅速な意思決定ができず、その後の企業運営に影響を及ぼすリスクもあります。
スクイーズアウトは、こういったリスクを未然に防ぐためにも活用されます。

▷関連記事:M&Aとは?M&Aの意味・流れ・手法・費用など基本をわかりやすく解説

▷関連記事:株式譲渡とは?株式譲渡と事業譲渡の違いや注意事項を解説【動画付】

②税制上のメリットを享受したい

株式併合および株式等売渡請求を用いた手法により完全子会社化する場合、株式交換と同じく組織再編税制と位置付けられます。これにより、承継する会社の繰越欠損金の損益通算が可能になるなど、組織再編税制のメリットが得られます。具体的にどれだけのメリットが得られるかなどの詳細については税理士に確認しましょう。

③上場廃止を実施したい

企業にとっては、上場することで資金調達がしやすくなったり社会的信用を獲得できるといったメリットを享受できます。

反対に、上場廃止(株式非公開化)を実行することで、株主が経営者層に限定でき、経営上の制約が減って自由な経営が実現できることや、上場していることによる敵対的買収のリスクから逃れ、経営権を守り安定した事業運営が可能となるというメリットも享受できます。

上場廃止を実施するには、企業の持株比率を100%にしなければならない場面があります。企業によっては上場廃止前にTOBが実施されますが、指定価格で強制的に取得するというスクイーズアウトが実施される場合もあります。

スクイーズアウトを行うメリット

スクイーズアウトとは?手法やメリット、手続きの流れ

スクイーズアウトのメリットはいくつかありますが、主にあげられるのは以下の5点です。

①迅速な意思決定

経営に関する重要な決議を行うためには、株主総会を開催する必要があります。その決議に反対する少数株主がいる場合、意思決定に時間を要することとなります。しかし、スクイーズアウトによって株式を大株主グループなどに集中させることで、スムーズな意思決定が可能です。

②事務手続きの削減

株主総会を行う際、その事務処理に多くの手間や時間がかかってしまいます。株式が少数株主に分散している場合などは尚更です。しかし、スクイーズアウトによって少数株主が保有していた株式をオーナー経営者1人に集中できれば、株主総会を開催せずに書面の作成のみで株式総会を省略することが可能になります(会社法第319条、第320条)。

③株式の集約

仮に株主が亡くなると、その株式は相続財産となって相続人が新たな株主となります。その結果、株式が相続人ごとに細かく分散してしまうと連絡を取れない株主や面識のない株主が増え、会社運営においてリスクが増大する場合があります。しかし、スクイーズアウトによって株式を集中させておけば、こうしたリスクを回避することが可能です。

④税制上のメリットが大きくなる

スクイーズアウトにより少数株主をなくしたうえでM&Aによって買収すると、売り手企業を完全子会社化できます。完全親・子会社の関係となると連結納税制度が選択できるため、税制上のメリットが大きくなります。

⑤訴訟リスクの削減

株主の中に意見に反対する少数株主グループがいる場合、取締役陣は常に株主代表訴訟のリスクを背負いながら経営判断を行わなければなりません。このような場合に、スクイーズアウトにより少数株主をなくしておけば、訴訟リスクが削減されます。

⑥長期的な視点での経営ができる

他に多数の株主がいると、短期的な利益が求められるため長期間の施策や投資を実施しにくくなります。しかしスクイーズアウトを実施することで株主を排除することができ、長期的な視点での経営が実現できるようになります。

スクイーズアウトを行うデメリット

スクイーズアウトによるメリットは上述の通りですが、一方でデメリットもあります。
主にあげられるのは以下の4点です。

①手続きにおける制約

スクイーズアウトはどの会社でも行えるわけではありません。一定の株式保有あるいは一定の株主の同意がありはじめて手続きを進めることができます。実施を検討するのであれば事前に条件の整理等はしておく必要があります。

②対価の支払い

スクイーズアウトを実施する場合、少数株主に株式に対する対価の支払が必要となります。対価の支払ができるほどの財務余力がなければ、同意を得たとしても進めることができません。規模や少数株主の割合など詳細は個別具体的な内容になりますが、株式の対価は会社あるいは大株主にとって負担になりえます。

特に、未上場株式においては企業の資産価値によって対価の算定が行われる場合が多いため、資産価値が高い企業がスクイーズアウトを実施する際は、支払う対価が高額になる場合があります。

③裁判に発展する可能性

スクイーズアウトでは少数株主の保護の観点から、買取価格をめぐって裁判に発展する可能性があります。スクイーズアウトはある一定の割合を株式保有あるいは賛同があれば、手続きは進めることができますが、少数株主が株式の買取価格に同意できない場合には、少数株主側は裁判所に売却価格決定の申立てを行い、裁判を行う権利があります(会社法第179条の8)。
そのため、スクイーズアウトを実行するにあたっては買取価格をめぐって裁判になる可能性に細心の注意を払う必要があります。

④時間的な制限

スクイーズアウトのそれぞれの手法において、いずれの場合も株価の算定が必要になります。そのため、第三者算定機関の決定と株価算定の時間が必要となります。また、手続きのめんでも開示書面を作成したり取締役会・株主総会を開催したりと時間を要します。

また、選択するスクイーズアウトの手法によって要する時間も異なります。最も迅速に実行できるとされている「特別支配株主の株式等売渡請求」においても、株式を取得できるまでに最低20日は必要です。また、長いものだと手続き完了までに2ヵ月程度を要する可能性もあるため、時間的な余裕を見ておく必要があります。

スクイーズアウトの具体的な4つの手法

意思決定を円滑に進めるためにも有効なスクイーズアウトですが、いくつかの手法があります。代表的な手法を理解しておきましょう。なお一般的には、まずは各株主に対する買い取り交渉を行っていきます。そのうえで、様々な理由により買い取ることができない場合に、スクイーズアウトの手続きを行うことになります。

①株式等売渡請求を用いた手法

株式等売渡請求を用いた手法とは、対象会社の議決権を90%以上を保有する特別支配株主が、対象会社の承認を得たうえで、他の株主の株式を強制的に取得することです。

株主総会における決議を必要とせず、対象会社からの承認は取締役会設置会社であれば取締役会決議、取締役会非設置会社では過半数の取締役の合意で完結する点が特徴です。シンプルでありながらスピーディに請求でき、最短20日間程度でスクイーズアウトが実施可能です。

②株式併合

株式併合とは、複数の株式を1株にまとめる手法です。例えば併合比率を4:1とした場合、3株以下の株主の保有株式を1株未満にすることができます。少数株主の持ち株が1株未満の端株にすると、株式の効力を失い、株主としての権利を行使できなくなるため、スクイーズアウトの目的は達成されます。なお、端株は複数の株主が所有しているそれぞれの株式を合算して1株になった時点で、会社が時価で買い取ります。この対価は元々端株を所有していた株主に按分*1されます。株主総会の2/3以上の議決権を持つ特別決議で可決されれば、このスキームは実施可能です。

*1 按分:基準となる数量に比例した割合で割り振ること。例えば、0.3株、0.5株、0.2株を集約して100円で売った場合、30円、50円、20円の配分となります。

③全部取得条項付種類株式

全部取得条項付種類株式とは、種類株式の一種で、株主総会を開催して議決権の2/3となる特別決議で可決されれば、株式のすべてを強制的に取得することが可能な株式です。

この場合は特定の株主に限定して株式を買い上げることはできないため、一旦全発行済株式を全部取得条項付種類株式に変更し、その後少数株主に株が残らないように比率を調整した上で普通株式を対価として買い上げる特殊な手法です。端株は株式併合と同様に会社もしくは大株主が買い上げます。

④株式交換の応用

主に子会社の少数株主から株式を回収するために活用する手法です。まず、親会社は子会社に対して株式交換を行います。これにより、少数株主が有する株式は子会社の株式ではなく、交換された親会社の株式となります。その上で、親会社が株式併合を行うことで、株式の保有割合を調整します。少数株主の保有株式を1株未満にすることで、スクイーズアウトが達成されます。

また、現金対価の株式交換も可能です。子会社の少数株主に対して親会社の株式ではなく現金を付与します。これにより、親会社は子会社の株式を回収することができます。現金対価の手法は平成29年度の税制適格要件の見直しが行われたため、選択肢の1つとして活用されるようになりました。

▷関連記事:適格株式交換とは?株式交換の適格要件を満たす基準や税制改正後の法律について解説

株式の併合によるスクイーズアウトの手続きの流れ

スクイーズアウトとは?手法やメリット、手続きの流れ

次に、株式の併合によるスクイーズアウトの具体的な手続きの流れを解説します。

①株主総会を招集するための取締役会開催

株式の併合および株主総会の招集を決議するために、事前に取締役会を開催します。取締役会を招集する場合は、取締役会の日の1週間前までに、各取締役および各監査役に対して、通知をする必要があります(会社法368条1項)。また、取締役会が適正に開催されたことの証として議事録を作成し、出席した取締役および監査役は署名、または記名押印することが定められています(会社法369条3項)。

②株式の併合に関する資料の本店備置

取締役会で株式の併合を決議後、株式の併合の概要および併合の割合の相当性、最終年度の貸借対照表などを会社本店に据え置く必要があります(会社法182条の2第1項および会社法施行規則33条の9)。株主総会の2週間前、もしくは株主への通知・公告の日のいずれか早い日から数えて6ヶ月間据置きます。

③株主総会招集通知発送

定款に定めがある以外は、株主総会の日より2週間前までに株主総会招集の通知を発送します(会社法299条1項)。

④株主総会の実施

議決権を持つ過半数の株主が出席、議決権の2/3以上の賛成を以って決議されます(会社法309条2項4号、180条2項)。株主総会の決議内容は議事録を作成します。取締役会と同様に記載すべき事項は法律で定められています。

⑤株主に対する個別の通知

株式併合の効力が発生する日の20日前までに、すべての株主に対し、個別に株式の併合の概要および併合の割合などを記載した通知書を送付します。すでに株主総会招集通知が発送されていますが、当該通知書も送らなければなりません(会社法181条1項、182条の4第3項)。

⑥株式併合の効力発生

株主総会にて決議された効力発生日になると、そのまま株式併合の効力が発生します。

⑦株式の併合が完了した後の、資料の本店備置

株式の併合効力発生日から6ヵ月間は、いつでも株主が閲覧できるように定められた資料の備置が義務付けられています(会社法182条の6)。

スクイーズアウトが実施された事例

最後に、M&Aにおいてスクイーズアウトが実施された事例について紹介します。

●LINE×Zホールディングス

LINE株式会社は東京都新宿区に本社を置く、コミュニケーションアプリ「LINE」を事業運営している会社です。一方、Zホールディングス株式会社は、東京都千代田区に本社を置く、Yahoo!Japanを運営するヤフー株式会社などの子会社を複数保有している持株会社です。

Zホールディングスとの経営統合に向けた手続きの一環として株式統合が実施されました。Zホールディングスの親会社であるソフトバンクと韓国のネイバーがスクイーズアウトに先駆けて実施したLINE株のTOB(株式公開買い付け)で全株式を取得できなかったことをうけ、残った少数株主をスクイーズアウトする目的で、LINEは2020年9月、東京都内で臨時株主総会を開き約2900万株を1株に併合する議案を可決しました。

その結果、LINEの株式総数は32株となり、LINE株は20年12月に上場廃止となりました。最終的にはソフトバンクとネイバーの折半出資会社がZホールディングスの株式65.3%を保有する親会社となり、LINEはZホールディングスの完全子会社となりました。21年3月に統合を完了しています。

●佐渡汽船×みちのりホールディングス

 佐渡汽船株式会社は新潟県佐渡市に本社を置く、新潟県本土と佐渡島とを結ぶ定期航路を運航する海運会社です。一方、株式会社みちのりホールディングスは、岩手県北バス・福島交通・会津バス・関東自動車(栃木)・茨城交通・湘南モノレールの公共交通事業6社と、みちのりトラベルジャパン(旅行会社)とからなる、東日本有数の交通・観光事業会社です。

佐渡汽船は、2022年2月7日にみちのりホールディングスの傘下に入り、ジャスダックでの上場を廃止すると発表しました。この発表に併せ、27万株の普通株式を1株に併合する株式併合を行い、端株に関しては発表前営業日に1株あたり202円だった同社株を30円で引き取るスクイーズアウトを行うことが公表されました。通常であればこのような価格でのスクイーズアウトは少数株主から訴えられる可能性が高いですが、債務超過に陥り再建中であったことから、法律上問題なく実行されることとなりました。

●ローソン×KDDI・三菱商事

2024年4月、KDDIはローソンへのTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表しました。三菱商事と50%ずつを出資する持ち分法適用会社にするとし、消費者との接点が多いコンビニとの連携を経済圏拡大につなげる狙いです。

ローソンは2024年7月に自己株式の消却と株式併合を実施し、発行株式が「2株」のみとなりました。これによりスクイーズアウトの手続きがほぼ完了しました。

2024年8月には株主がKDDIと三菱商事のみとなったことを明らかにしました。これにより、KDDIと三菱商事によるローソンの共同経営に関わる資本業務提携契約を履行するための要件は、全て充足されたことになります。

【動画】スクイーズアウトとは?手法と流れ

まとめ

M&Aや事業承継など事業再編を行う場合、スクイーズアウト(強制取得手続)の検討は重要です。

スムーズに手続きを進める上でも、再編後の会社運営を円滑で迅速に推進するためにも、持ち株比率を100%に近づけることが理想といえるでしょう。スクイーズアウトにはいくつかの手続きがあり、専門的な知識が求められるため、不明な点がある場合は司法書士や弁護士など専門家に相談するなど、最適な手法を選択し実行することをおすすめします。

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