近年では、事業の多角化や不採算事業の切り離しを目的に「スピンアウト」を採用する企業が増えています。本記事では、スピンアウトを採用する際のメリットやデメリット、スピンオフとの違いを解説します。また、スピンオフの手法や成功事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
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目次
スピンアウトとは?
スピンアウトとは、企業が展開している技術やビジネスの一部を、新しい会社として「完全に独立・分離する」ことを指します。新会社は、親会社からの資金を受けずに独立するため、良くも悪くも親会社の影響を受けません。
スピンアウトを検討するケースは、以下のとおりです。
・親会社目線 → 採算が取れない事業を抱えている
・新会社目線 → 技術やアイディアをもつ社員が独立を検討
新企業は親会社の資金援助を受けられないため、独立前の資金調達が必須となるでしょう。
スピンオフとの違い
スピンオフとは、新企業が親企業から出資支援を受けて独立することを指します。独立後も親子会社の関係が続くので、資本関係も保たれます。対してスピンアウトは、親企業との関係が継続されないため、完全な独立となるのが大きな違いです。
▼スピンアウトとスピンオフの違い
スピンアウト | スピンオフ | |
元企業との資本関係 | 継続しない | 継続する |
元企業からの出資 | ない | ある |
カーブアウト
カーブアウトとは、親会社が戦略的に、子会社や自社の一部を外部に切り出す手法のことを指します。以前は、採算が取れない事業を切り離すためにカーブアウトを選択する企業が多く見られました。現在では、事業の成長を図るために手放す親会社も多いようです。
カーブアウトを選択すると、親会社からの資金援助を受けられます。また、外部からの融資も受けられる可能性があるので、企業の成長スピード加速を期待できるでしょう。
社内ベンチャー
社内ベンチャーとは、自社にはない新しいビジネスモデルを創出するために設置する独立組織のことを指します。スピンアウトのように事業を切り離さず「企業内の新組織」という意味合いで使われる用語です。
新規事業に乗り出すリスクを避けながらも、新たな挑戦でより多くの利益を上げるために導入するケースが多いでしょう。
スピンアウトのメリット
スピンアウトを実施すると、新企業は以下のようなメリットを得られます。
成長の促進が期待できる
スピンアウトの実施は、元の企業から独立して新しい体制を組むことで、成長の促進が期待できます。親会社からの干渉を受けないため、新分野での技術や知識磨きに専念できるでしょう。
また、他社との提携も自由になり、優れたパートナー企業を見つけやすい環境ができます。
よいパートナーが見つかれば、より一層、企業成長を期待できます。
リスク分散と投資家の誘致につながる
スピンアウトによって分離された新企業は、親企業の経営から解放されるので、負債を抱えるリスクを分散できます。ひとつのビジネスに集中している企業は、将来の見通しを立てやすい投資対象となり、多くの投資家を誘致しやすくなるでしょう。
投資家の誘致に成功すれば、運営資金調達への労力を減らせます。
柔軟性が向上する
既存の企業に比べ、スピンアウト後は組織の柔軟性が向上するメリットがあります。経営の自由度が高くなるので、元の企業にはない独自の戦略を立てられるのです。
独自の戦略が実を結んだら、海外進出といった可能性も広がるでしょう。将来性のある事業をスピンアウトすれば、短期間で大きな成長を目指すことも可能です。
スピンアウトのデメリット
メリットの多いスピンアウトですが、一方でデメリットもあります。
スピンアウトを実施する場合、以下のデメリットを視野に入れましょう。
人材が分散される
スピンアウトを実施すると、元の企業から人材が分散されるデメリットがあります。
特に、成長に必要な人材が親企業に残る場合、企業成長のスピードが遅れる可能性があるのです。
また、従業員の考えによっては、働く意欲がなくなるケースもあるでしょう。従業員が「自分が考えていたキャリアプランと違う」と感じたときには、最悪の場合、離職を選択する可能性もあります。
財務上のリスクを伴う
スピンアウトの実施には、財務上のリスクを伴う点もデメリットのひとつです。新しい企業が独立するためには、資金調達が欠かせません。スピンアウト後は、完全な独立企業になるため、親企業の経営資源は活用できなくなります。独立をする前に、十分な経営資金を確保して財務上のリスクを回避しましょう。
経営上の課題が生まれる
スピンアウトにより、元企業との経営状態が変更となると、新たな課題が生まれる可能性があります。
「新しい企業の経営者は誰がふさわしいのか」
「成功に至るまでの計画を完璧に作れるか」
個別具体的な状況で考えが変わるので、課題として挙がる声はさまざまでしょう。また、完全に分離されることで、今までのノウハウでは通用しない事案が発生する可能性もあります。これまでのノウハウが通じなければ、異なる方向性での事業展開が必要となるので、労力を要するでしょう。
スピンアウトで用いられる方法
スピンアウトを実施する際の代表的な手法は、以下の2つです。
自社にとって、経営の効率化を図るための適切な手法を検討してみてください。
会社分割によるスピンアウト
スピンアウトの実施は、M&Aの手法のひとつである「会社分割」によって行われる場合があります。会社分割とは、売却する事業の一部または全体を、買手企業がまとめて引き継ぐ手法です。
包括的に引き継ぐと、個々の従業員との契約や許認可の再取得への負担を減らせます。
また、企業を新設する際の「不動産所得税や登録免許税」の軽減措置も期待できるメリットがあるのです。
一方、まとめて引き継ぐことで、給与未払いといった将来起こり得る負債を抱える可能性もあるので注意しましょう。
取引方法には現金もありますが、株式を用いる場合が多く見られます。
株式会社や従業員数が多い企業には、メリットの多い手法といえるでしょう。
事業譲渡によるスピンアウト
スピンアウトは、会社分割だけでなく「事業譲渡」を用いて実施することもあります。
事業譲渡は、切り分けた事業の資産や負債を選択して引き継ぐ手法です。
ひとまとめに引き継ぐ会社分割とは違い、事業譲渡は、資産や負債にかかる契約を1つひとつ結び直す必要がある点に注意しましょう。
再契約の内容は「従業員の雇用や債権者と取り交わした契約・許認可」などが含まれます。
また、新設企業にかかる不動産取得税や登録免許税への軽減措置はありません。
しかし、事業譲渡は資産や負債ごとに契約を結び直すため、簿外債務といった将来起こり得るリスクを引き継がずに済みます。取引には現金が多く用いられるので、売却側には法人税が、買収側には所得税がかかる点を念頭に置きましょう。
スピンアウトの成功例
ここでは、スピンアウトの成功例を4つ紹介します。
有名企業の事例もありますので、ぜひ参考にしてみてください。
西友のプライベートブランドをスピンアウト【良品計画】
最も有名なスピンアウトの成功例として挙げられるのは、「無印良品」を展開する株式会社 良品計画です。無印良品は、元々「株式会社西友」のプライベートブランドとして展開されていました。1989年に、西友からスピンアウトをして「株式会社 良品計画」が新設された流れです。
現在では、日本を含む32カ国に事業を展開していることから、躍進し続ける企業といえます。無印良品を提供するだけでなく、カフェやキャンプ場の運営、住宅の提供と幅広い事業で成功を収めている企業です。
老舗店が違う業種でスピンアウト【花見煎餅】
スピンアウトを成功させている企業は、大手企業に限らず、東京都にある老舗せんべい屋「花見煎餅」の事例もあります。花見煎餅は、店内で営んでいた喫茶事業を「喫茶室ルノアール」としてスピンアウトし、副業にあたるビジネスを独立させました。
スピンアウトでは、親会社の経営資源活用は難しいのですが、両者の関係性によっては可能な部分もあるようです。
中国スマホ大手のスピンアウト【OPPO】
海外での成功事例は、中国のスマホ大手企業である「OPPO(オッポ)」です。
元は、DVDプレイヤー製造を手がける「広東歩歩電子工場」が立ち上げたブランドでした。
その後、同社のAV部門を率いていた陳明永氏がスピンアウトして「OPPO」を設立。
当初は音楽プレイヤーを販売していましたが、スピンアウト実施の4年後に、携帯電話事業に参入し成功を納めています。
米国Googleからスピンアウト【ナイアンティック】
米国のGoogle社では、優秀な社内ベンチャーには出資を行い、スピンアウトができる仕組みがあります。スピンアウトを利用し、誕生したのが「ナイアンティック」です。
ナイアンティックは「Google Earth・ストリートビュー・マップ」を作っていた従業員たちが主体となって立ち上げた会社です。ナイアンティックは「ポケモンGO」というスマホアプリの開発で、日本にも大きな影響を与えました。
まとめ
今回は、スピンアウトを採用した事業再生の方法や、メリット・デメリットを紹介しました。経営の効率化を目指した事業再生手法は、実にさまざまです。円滑な事業再生のため特定の事業を独立させ、企業価値の向上が促進されるケースもあるでしょう。
スピンアウトは親会社の影響を受けず、経営の自由度が高い反面、経営資源は活用できない点に留意しなければなりません。
スピンアウトだけでなく、スピンオフやカーブアウトも理解すると、自社に適した企業の成長方法が見つかるでしょう。