株式譲渡は、M&Aにおいてよく用いられる手法の一つです。最近では大企業同士によるM&Aだけでなく、中小企業や有限会社であっても頻繁にM&Aが行われており、その手段の多くは株式譲渡なのです。しかし、全ての株式が自由に取引可能なわけではありません。
原則として株式は自由な取引が認められていますが、設立して間もない会社や規模がそこまで大きくない会社は、株式の譲渡に制限を付けているケースがほとんどです。会社法では明記されていませんが、定款にて譲渡の際に制限が設けられていたり、一定の機関の承認が必要だったり、ルールが存在します。本記事では、そんなときに役立つ株式譲渡の具体的な進め方をご紹介します。
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目次
自分で何株所持している?自社株式の確認方法
株式譲渡を実施するためには、自社の発行済株式数を把握する必要があります。なぜなら株式の保有率によって得られる権限は異なり、意図せずしてご自身の持つべき権利を手放してしまう可能性があるからです。M&Aの手段として株式譲渡を行う際には、基本的には譲渡企業の全株式を売却する形となります。
しかしながら、M&A実施後も会社の経営に対して一定の発言力を保持しておきたい場合は、それに応じた株式保有率が必要となります。そのためにどれくらいの株式を保有しなければならないのか把握するためには。発行株式数の把握は必須です。
発行済株式数は登記簿謄本に記載されている
自社の発行済株式数がわからない場合、どのようにして調べればいいのでしょうか。そのような場合は登記簿謄本を参照するのが良いでしょう。登記簿謄本には発行可能株式数及び発行済株式数が記載され、定款には会社が株式を何株発行して、一株あたりいくらで出しているのかなどが記載されている場合もあります。もし株主名簿や定款が見つからない場合は、税務申告書を確認したり、顧問税理士に尋ねるといいでしょう。
株主名簿とは
M&Aにおける株式譲渡は全株式の譲渡が一般的です。そのため、株式譲渡時には株式数だけではなく、株主の把握も必要です。株主の把握には株主名簿を参照します。株主名簿とは、株主を管理するための帳簿のことですが、株式会社は、この株主名簿を作成して会社に備え置いておくというルールがあります。
特に株券を発行してない会社の場合は、この株主名簿こそが株主であることの証明となる重要な物です。株主名簿を参照することで誰がどれぐらい株式を所有しているか確認することができるため、株式譲渡の際には必要となります。
株主名簿がない時の対応方法
株主名簿は自社の代表取締役が作成し、登記申請の際必要に応じ会社設立後に法務局へ提出するものです。しかし、会社の登記事項によっては法務局への提出が必要とされない場合があります。そのため、株主名簿を作成していない会社が多くあるのも事実です。特に、株式100%保有のオーナー社長の場合、自分一人しかいない会社だからといって株主名簿を作成しない人もいます。
しかし、たとえ株主が自分しかいなくとも株式会社であれば株主名簿は必ず作成しなければなりません。作成していなかったり、紛失した場合は、以下の必要事項を記載して、手書きでもデータでも構わないのですぐに作成しておきましょう。
株主名簿の必須項目
・株主の氏名(法人の場合は名称)及び住所
・株主が所有する株式の数(種類株式発行会社の場合は株式の種類とその数)
・株主が株式を取得した年月日
・株券の番号(株券発行会社の場合)
なお、株式譲渡によるM&Aを行うことで株主が変動するので、株式譲渡契約を締結した後に株主名簿の書き換えを行います。
株式譲渡制限について知ろう
株式譲渡を行おうとしても、すぐに譲渡ができるわけではありません。譲渡対象の株式に対して、譲渡制限の規定されている可能性があるからです。
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譲渡制限の有無の確認方法について
一般的に中小企業の場合、株式に譲渡制限が設けられているケースがほとんどです。譲渡制限を付けておかないと、万が一のケースとして競合会社や、経営上不都合な第三者に株式が渡ってしまう恐れがあるからです。株式に譲渡制限をつけることが、いわば企業防衛策の一環なのです。
それでは、株式に譲渡制限があるかどうかはどのように確認すればいいのでしょうか?株式の譲渡制限は定款にて規定されます。定款に「譲渡により当社の株式を取得するには株主総会の承認を受けなくてはならない」と記載することで(株主総会が取締役会となっている場合もあります)譲渡制限を課すことができます。
有限会社の株式には譲渡制限がある?
有限会社の場合はどうなるでしょうか?
有限会社は現在(2018年11月)、新たに設立することはできなくなっていますが、昔に設立された有限会社は今も存在しています。有限会社は事実上、株式に譲渡制限がついているという前提だったので、もともと定款に譲渡制限規定が記載されていません。そのため、今後新たに定款を作成する際には譲渡制限を追加記載しておくことが必要です。
株式を譲渡することになった場合、後述する【譲渡制限株式(パターン1)】なのか、【制限のない株式(パターン2)】なのかによって手続きが異なるので注意しましょう。
実際の手順については、次章で詳しく解説します。
【パターン1】譲渡制限株式を譲渡する際の手続きの手順
手順1「譲渡制限の確認」
譲渡対象の株式に譲渡制限があるかどうかを、定款ならびに登記事項証明書を参照して確認します。
手順2「株式譲渡するための承認請求」
譲渡制限株式の場合、対象株式の発行企業=譲渡企業に対して譲渡の承認請求手続きを行います。具体的には、以下2点を記載した株式譲渡承認請求書を当該会社に請求しなければなりません。
①譲渡する株式の種類と株数
②譲受人の氏名・名称
手順3「承認機関による承認諾否の決定」
株式譲渡承認請求を受けた譲渡企業は、原則として株主総会もしくは取締役会にて承認の可否を審議します。審議の結果、承認が可決すると、以下の手順によって譲渡が実行されます。
株式譲渡が承認された場合
手順4「承認可決の通知」
株式譲渡承認が決定すると、会社から請求者に通知が届きます。
手順5「株式譲渡契約の締結」
株式譲渡契約承認請求者は譲受人と株式譲渡契約を締結する必要があります。その際の譲渡価格は、当事者間で決定することが可能です。ただし、譲渡株式が株券発行会社の場合は、譲渡人から譲受人に対して株券を交付します。交付をしないと株式譲渡の効力は発生しません。
手順6「株主名簿の書き換え請求」
株式譲渡契約締結後は、会社に株主名簿書き換えの請求をしなければなりません。これは譲渡人と譲受人が共同で行います。書き換えは早いか遅いかの順によって発生効力が生まれるので、万が一の二重譲渡の危険性を回避するためにも速やかに行う必要があります。
手順7「株主名簿記載事項証明書の交付請求」
株主名簿の書き換えが完了したら、株主譲受人は株主になったことを証明するために株主名簿記載事項証明書の交付を請求します。株主名簿記載事項証明書には、譲受人の個人情報と株式保有数などが記載され、かつ会社の代表取締役の署名もしくは記名押印がなければなりません。
ただし、株券発行会社の株式を譲受した場合、株券のある株式は譲受の際に譲受人にはすでに株券が交付されているはずなので、株券を有している者が株主であると推定されます。その場合は、株主名簿記載事項証明書の交付請求は不要です。
株式譲渡が承認されなかった場合
手順4「承認否決の通知」
株式譲渡の承認が下りない場合、会社は、2週間(これを下回る期間を定款で定めたときはその期間)以内に承認請求者に不承認の通知をしなければなりません。万が一、2週間を経過しても通知が届かない場合は、たとえ会社の不手際によるものでも譲渡企業が承認したとみなされます。不承認の場合、会社は不承認の通知をした日から一定期間内に承認請求者に対して通知をしなければなりません。
手順5「会社あるいは指定譲受人による株式買取の決定」
株式譲渡不承認の決定をした場合、承認請求者から「不承認時に会社または指定買取人が買い取る請求」を受けた会社は以下の3つの方法から買取先を決定しなければなりません。
①株式を会社自らが買い取る
②指定譲受人を指定して買い取る
③二者共同で買い取る
誰が買い取るかの決定は、株主総会または取締役会の決議に委ねられます。会社自らが譲り受ける場合は、1株あたり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額の供託を証明する書面を承諾請求した株主に交付し、かつ会社が買い取る株式の決定と株式の種類及び数を会社が譲渡承認をしない旨の通知の日から40日以内に行わなければなりません。また、会社ではなく指定譲受人が買い取る場合は、上記と同様の手続を会社が譲渡しない旨を通知した日から10日以内に通知する必要があります。
手順6「会社が買い取る場合の特別決議」
株式譲渡の承認が否決された場合、当該株式を会社が譲り受けるための決議方法が異なります。承認否決が株主総会であれば、買取決議も同じ株主総会の議場で問題ありませんが、承認否決が取締役会の場合は、改めて株式総会を開催して決議する必要があります。いずれにしても、株主総会で決議する必要があるのです。
手順7「買取価格相当額の供託」
会社もしくは指定譲受人は、株主に買取通知を行う前に、以下に従って買取相当額を会社の本店所在地に供託しなくてはなりません。
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買い取り相当額 = 一株当たりの純資産額 × 買取株式数
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また株主に対して、供託を証明する書面を交付したうえで「会社が買い取る旨」「買取株式数」を不承認通知から以下の日数内に通知する必要があります。
・会社が買い取る場合 ⇛ 不承認通知から40日以内
・指定譲受人が買い取る場合 ⇛ 不承認通知から10日以内
上記通知期間はあくまで上限のため、会社の定款によっては短縮されていることもあります。正確な期間を定款で必ず確認しましょう。
手順8「株主の株券供託」
譲渡対象株式の株券が発行されている場合、株主は株券を供託しなくてはなりません。供託する時期は、会社あるいは指定譲受人から、買取通知と買取価格相当額が供託されたことを証明する書面を受領した日から1週間以内です。そして、自身の株券を供託したあとは会社に対して遅滞なくに供託の旨を通知する必要があります。供託しないまま1週間が経過すると、会社や指定譲受人は譲渡契約を解除することが可能になります。
手順9「株式譲渡価格についての協議・申し立て」
買取通知受領後、株主と会社や指定譲受人は株式の譲渡価格について協議します。譲渡価格について合意しない場合には、裁判所に対して「株式譲渡価格決定の申し立て」を両者のどちらからでも行うことができます。裁判所の決定を希望する際には、申し立ては買取通知受領後20日以内に行わなければなりません。
ただし、株主が申し立てを行わないまま20日間が経過すると、会社もしくは指定譲受人が供託した額が譲渡価格として認められます。また、供託金を受け取るためにはさらなる手間がかかります。会社もしくは指定譲受人から、譲渡価格の協議が合意に至らなかった証明書を提出していただく必要があるためです。
手順10「裁判所による譲渡価格の決定」
申し立てを受けた裁判所は、審問の期日に両者の主張を聴取したうえで、専門家の意見なども加味しながら適正価格を算定しますが、和解を促されることもあります。和解に至らない場合は、裁判所が最終的に価格を決定します。決定価格に不服がある場合は、裁判の告知を受けた日から2週間以内であれば抗告することが可能です。2週間を経過すると、裁判所の決定に従って譲渡価格が確定することになります。
【パターン2】譲渡制限のない株式を譲渡する際の手続きの手順
譲渡対象の株式が譲渡制限対象なのかどうかを、定款ならびに登記事項証明書を参照して確認します。譲渡制限がなかった場合は株式総会の承認の必要なく、自由に株式を譲渡できます。ここからは前述の【株式譲渡が承認された場合】と同様の流れに則り、
①株式譲渡契約の締結
②株主名簿の書き換え請求
③株主名簿記載事項証明書の交付請求
を行います。
有限会社では譲渡制限の内容を変更できない
前述しましたが有限会社は設立の前提として全ての株式に対して譲渡制限が付けられています。そして、譲渡制限の内容については変更不可能です。有限会社の「株式の譲渡制限に関する規定」(整備法9条1項)は以下のとおりです。
第九条 特例有限会社の定款には、その発行する全部の株式の内容として当該株式を譲渡により取得することについて当該特例有限会社の承認を要する旨及び当該特例有限会社の株主が当該株式を譲渡により取得する場合においては当該特例有限会社が会社法第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしたものとみなす旨の定めがあるものとみなす。
つまりこの規定の意味は、「株主間で株式を譲渡する場合は会社の承認は不要」ということです。そしてこの規定は法律で定められているため、内容を変更することはできません。ただし、株主でない第三者に譲渡する場合は会社(株主総会)の承認が必要となります。
まとめ
今回は株式譲渡の流れ、手続きについて解説しました。株式に譲渡制限が設けられているか否かによって手続きが大きく変わるため、株式譲渡を行うには、譲渡制限の有無の確認が欠かせません。また、株式譲渡制限の有無とは別に、手続きには通知期間などに期限が細かく決まっています。周到を期すためには専門家のアドバイスをもとに行うことが必要です。