事業承継では、自社株式や事業用資産を後継者へと承継します。従来は経営者の子どもや親族への承継が一般的でしたが、後継者不在の問題が顕在化している昨今では、第三者への売却(M&A)が選択されるケースも少なくありません。
ただし、会社の価値を金額で評価するのは難しいことです。M&Aでの事業承継を検討している経営者の方の中には、「自分の会社はどのくらいの金額が相場なのだろう」と気になる方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、M&Aで事業承継する際の価額相場やその算出方法、譲渡価額を算出する際のアプローチなどについて解説します。
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年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
M&Aで事業承継するときに価額相場はある?
相場は市場で取引される商品などの値段のことであり、会社や事業を売買する際にも価額の目安となる相場は存在します。ただし、会社の価値は純資産や株価、営業権や無形資産などさまざまな基準で算出されるため、市場で流通する野菜や肉類などの食品のように一定の相場があるわけではありません。どのような算出方法をとるか、どのアプローチを基準とするかによって、目安となる相場は異なる場合があります。
そのため、事業承継においてM&Aで会社を売却する際には、目安となる相場の算出方法を知っておくことが大切です。相場の算出方法や譲渡価額へのアプローチの仕方を理解しておくと、相場に対する適正な感覚をもとに譲渡価額を検討できます。
M&Aで事業承継するときの相場の決まり方
それでは、事業承継での相場はどのように決まっていくのでしょうか。以下では、譲渡側と譲受側のスタンスの違いや相場の算出方法をご紹介します。
譲渡側と譲受側のスタンスの違い
M&Aもいわゆる売買取引であることから、譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)にはスタンスの違いがあります。譲渡側はできるだけ高く売却したいため相場を高く見積もる傾向がありますし、譲受側はできれば少ない予算で購入したいので、相場を安く見積もる傾向があります。
事業承継においても、事業を承継する譲渡側と譲受側には同様のスタンスの違いがあります。しかし、双方が自社の要望を一方的に主張するばかりでは、円滑に取引が行えません。そのため、次の章で紹介するような算出方法をもとに、お互いにとってフェアな相場を探っていくこととなります。
M&A相場の算出方法
会社を売却する(M&A)際の相場の算出方法には数多くの方法がありますが、主な手法は下記のとおりです。
- ・修正純資産法
- ・DCF法
- ・類似会社比準法
各方法の詳細を解説します。
修正純資産法
修正純資産法とは、会社の純資産を基準に相場を算出する方法です。純資産は返済義務のない会社の資産であり、貸借対照表の資産と負債の差額から算出します。他の純資産を基準とする算出方法と比べ、修正純資産法は資産の時価評価を用いる点が特徴です。貸借対照表をもとに計算することから、比較的簡単に計算できるメリットがあります。
DCF法
DCF(Discounted Cash Flow)法は、将来の利益を現在価値に割り引いて算出する方法です。将来見込まれるキャッシュフローを予想して計算する点に特徴があります。M&Aの相場価額を算出する際にもよく採用される方法です。
類似会社比準法
類似会社比準法は、自社の事業と類似している上場会社の株価を基準に、PER(Price Earnings Ratio)やPBR(Price Book-value Ratio)などを活用して算出する方法です。類似企業を選ぶ際には、業種や規模、顧客属性や製品サービスなどを基準として対象とする会社を選択します。
M&Aで事業承継するときの譲渡価額へのアプローチ
さきほど紹介した「修正純資産法」や「DCF法」、「類似会社比準法」は譲渡価額を決める際の企業価値評価でも用いられる方法です。企業価値の評価をより大きな視点で見ると、下記の3つのアプローチに大別されます。
- ・コストアプローチ
- ・インカムアプローチ
- ・マーケットアプローチ
それぞれのアプローチの内容を以下でご紹介します。
コストアプローチ
コストアプローチは先述の「修正純資産法」と同様に譲渡企業の純資産(資産と負債の差額)に着目したアプローチです。コストアプローチには主に以下の方法があります。
- ・簿価純資産法
- ・修正純資産法(時価純資産法)
- ・修正純資産法+営業権(のれん代)
簿価純資産法は、事業承継する会社の帳簿上の資産と負債に基づいて計算する方法です。一方、修正純資産法は売掛金や有価証券などの資産、未払給与や退職給与引当金などの負債を時価で評価し直したのち、計算します。その他、会社のブランド力や人的資源など帳簿上では評価できない部分を営業権として加算して譲渡価額を算出する場合もあります。
コストアプローチは会社の帳簿上の資産などを基準に評価するので、算出が比較的容易な点がメリットです。そのため、中小企業などのM&Aで採用されることの多いアプローチとなっています。
▷関連記事:【図解付き】企業価値評価におけるコストアプローチとは?メリット・計算方法・他の方法との違いを解説
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、譲渡企業の収益力に着目したアプローチです。先述のDCF法を含め、以下のような方法があります。
- ・DCF法
- ・配当還元法
インカムアプローチでは、事業承継する会社から期待される利益、配当、キャッシュフローなどの収益を算出し、リスクを織り込んで現在価値に換算して(割引現在価値)企業価値を計算します。先述のコストアプローチとは異なり、会社が持つ将来の収益性を譲渡価額に反映できる点が特徴です。一方、将来的な収益を予測する手法である性質上、客観性の面で問題が生じるケースがあります。
インカムアプローチは後述のマーケットアプローチとともに、大企業のM&Aの際に採用されることが多い方法です。
▷関連記事:【徹底解説】企業価値評価の手法の一つ、インカムアプローチとDCF法の計算方法を解説
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、株式市場やM&A市場における取引価額を基準とするアプローチです。主な方法には先述の類似会社比準法の他、類似取引比準法があります。
- ・類似会社比準法
- ・類似取引比準法
類似会社比準法では、EV/EBIT倍率やEV/EBITDA倍率、PERやPBRなどの指標を活用し、上場している類似企業と比較して事業承継する会社の価値を算出します。上場企業の財務指標情報は入手しやすいことから、中小企業や大企業の価値評価で採用されることの多い方法です。
▷関連記事:企業価値評価の一つ、マーケットアプローチとは?よく使われる計算方法やシミュレーションも解説
M&Aで事業承継するときの譲渡価額の決め方
M&Aで会社を事業承継する際には、先述のアプローチにより企業価値評価を行い、事業承継する側と会社を買い取る側の交渉の上、決定されます。以下、M&Aの譲渡価額に影響を与える要素と交渉方法について説明します。
M&Aの譲渡価額に影響を与える要素
譲渡価額へのアプローチが複数あるように、譲渡価額にはさまざまな要素が影響を与えます。具体的には、コストアプローチで重視される「純資産」、インカムアプローチで重視される「将来的な会社の収益力」などです。その他、市場価値や人的資源、会社の技術やノウハウといった無形資産も考慮される場合があります。
企業価値の評価は譲渡価額を交渉する際の基準となるため、適正な譲渡価額で事業承継する際に大切なプロセスです。企業価値評価に精通したM&Aの専門家などとも相談しながら、自社の実情に合った方法を採用する必要があります。
交渉方法
M&Aの交渉は、譲渡企業と譲受企業双方のトップ面談から始まり、譲渡価額の条件面での双方の認識を共有しながら交渉を進めていくこととなります。
なお、M&Aの交渉をする際には主に下記の2つの方式があります。
- ・個別交渉方式
- ・オークション方式
各方式の内容を説明します。
個別交渉方式
個別交渉方式とは、事業承継の候補から1社を選び、その会社と交渉する方式です。譲渡価額や事業の承継の仕方などで互いに合意が得られればM&Aが成立します。条件の合意が得られなかった場合には、また別の会社と交渉を開始することとなります。
オークション方式
オークション方式とは、事業承継を希望する会社が匿名で情報を公開し、譲受を希望した会社の中からいくつかの会社を選び、それぞれに条件を出してもらって交渉する方式です。
M&Aで事業承継するときの相場に関する注意点
事業承継におけるM&Aの注意点には以下のようなものがあります。
- ・適正価額を把握しておく
- ・複数の候補先を検討する
- ・会社売買時の税金に注意する
- ・M&A専門家を活用する際には手数料を確認しておく
繰り返しとなりますが、事業承継でM&Aをする際には適正価額を把握しておくことが大切です。また、複数の候補先を検討しておくと、より条件の良い承継先を選びやすくなります。その他、会社を売買するときには税金が発生する場合がある点にも注意しましょう。M&A専門家を活用する際には、手数料の確認も重要です。
まとめ
会社や事業には一般的な「定価」はなく、価値の算出には複数の方法があります。ただし、事業承継を初めて実施する方にとって、どのアプローチや方法が適切か判断することには困難が伴う場合もあります。
もし、M&Aでの事業承継における相場などで不明な点がある場合には、一度fundbookまでご相談ください。fundbookでは、企業価値評価やM&Aなどの専門的な知識を有したアドバイザーが、経営者の方に寄り添ったサポートを提供しています。
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