
M&Aは成立がゴールではなく、その後のPMIが重要です。PMIが失敗してしまうと、当初期待していた効果を実現できないだけでなく、場合によっては従業員の流出につながることもあります。
逆に、PMIが成功すれば期待以上の効果を得られる可能性があるため、M&Aの成功はPMIにかかっているといっても過言ではありません。
本記事では、PMIの計画の立て方や実施期間、期待できる効果、実行の際に意識すべきポイントを詳しく解説します。
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年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。

・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
「PMI」とはM&A成立後の統合プロセスのこと
PMIとは「Post Merger Integration」の略であり、M&A成立後の両社の経営方針や業務ルール、社員の意識を融合し、スムーズにM&Aの目的を実現するためのプロセスを指します。
PMIで必要な統合は、以下のとおりです。
PMIで必要な統合 | 概要 |
経営統合 | ・M&A後の譲渡側の新たな経営の方向性を検討する ・これまでの経営の方向性と新たな経営の方向性との差異を特定し、差異が社内外の関係者に与える影響を緩和するための対策を検討する |
信頼関係構築 | ・譲渡側経営者との協力関係や譲渡側従業員との信頼関係を構築する ・譲渡側企業の取引先との信頼関係を継続する |
業務統合 | ・譲渡側の業務運営について現状を把握する ・業務の引継ぎ、統合作業を実施する |
PMIの適切な進行は、M&Aを成功に導く非常に重要なポイントです。M&A成立以前の譲渡企業と譲受企業の従業員や企業文化、社内制度を加味して経営管理体制を構築することで、M&Aの相乗効果を生み出します。
統合後は、経営方針を明確に示すとともに、業務の円滑な引継ぎ作業を着実に実施することが求められます。また、譲渡側従業員が抱きがちな不安や不信感を丁寧に受け止め、納得感や共感を醸成し、協力を得られる関係性を構築する必要があります。
▷ M&AでPMIが重要な理由
M&Aの成功は、成立によって決まるのではなく、当初期待していた効果を実現できるかどうかで決まります。つまり、M&Aの成立はゴールではなく、スタートということです。
PMIを疎かにすると、以下のような問題が起きてしまい、M&Aが失敗に終わる可能性があります。
【PMIを疎かにした場合の失敗例※】 ・経営の方向性を明確に定めていなかった結果、M&A成立後、従業員の不安が募り、離職の温床となった ・譲渡側経営者について、M&A後に引継ぎを行うための在籍期間を事前に定めなかったため、長期にわたって譲渡側経営者の影響力が残り、進めようとしていた改革の抵抗勢力となった |
M&Aは2つの異なる文化を持つ企業が融合するため、「事前に定めたフローに従って統合作業をスムーズに進められるか」「譲渡企業の従業員や取引先などに理解を得られるか」「期待するシナジーが得られるか」などの不安や課題が生じます。
PMIは、M&Aにおける不安や課題を解決し、統合によって得られる効果を最大化する重要なプロセスです。そのため、M&A成功の可否は、PMIの成功に左右されるといっても過言ではありません。
PMIに向けた準備が行われるフェーズ
PMIとは、M&Aにおける最終契約締結後のプロセス全体を指します。
譲受企業は、「企業概要書が開示された段階」から、M&A成立後の相乗効果を考えて検討を進めます。具体的にどのような施策が実施できるかを、トップ面談などを通じて譲渡企業と話し合い、PMIの計画を立てていきます。
この段階から、業務面・意識面の双方を意識して計画を立てることがM&A成功の鍵になります。加えて、それぞれの良い面を尊重して適切な融合を図ることが大切です。
また、譲渡企業の代表者は、業務面・意識面の融合において重要な役割を担うことになるため、M&A後に退任する予定でも、基本合意の段階でM&A後も一定期間は会社に残ることを約束する場合が多いです。
業務の引き継ぎが必要になることはもちろんですが、融合の初期段階においては様々な面で変化への第一歩を踏み出すため、代表者のリーダーシップが必要になる場面が多くあります。
その後も融合を進める中では通常の業務以外の負担が大きいため、代表者がM&A後も残ることで、精神面でも従業員の支えとなります。
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PMIに要する期間
PMIはM&A成立後、約1年を目安に、集中期間を設けて実施することが重要です。集中期間では、主に以下が重要なポイントになります。
・役割を整理し、適切な人材に役割分担する ・現状把握、取り組み方針の検討、実行と効果検証を行う ・優先順位を付けて集中的に取り組む |
特に、PMI推進体制の確立、関係者との信頼関係の構築、M&A成立後の現状把握などは100日を目処に集中的に実施することが望ましいとされています。
なお、集中期間の目安は約1年ですが、その後もPMIの継続的な取り組みは必要です。
PMIにおける2つの融合
PMIの融合には「業務面」と「意識面」の2つの融合があります。以下でそれぞれ詳しく解説します。
▷PMIにおける融合①:業務面
業務面の融合とは、社内の業務プロセスや情報システムなど、M&A後にスムーズに業務が行えるように調整することです。
例えば、購買のプロセスや会計システム、予算の割り当て方法などが挙げられます。また、従業員の業務自体が変更される場合は、従業員に対して変更理由や手段の説明が必要です。
特に、業務面の融合に関わる従業員は、M&A成立後の調整業務が日々の業務に加えられるため、M&A成立直後は負担が多くなります。そのため、経営陣は従業員に対してM&Aの意味や融合の重要性など、丁寧に説明を行う必要があります。
業務面の融合の効率を重視する場合は、譲受企業の基幹システムに融合することが1つの手段として考えられます。しかし、譲渡企業の従業員は、慣れないオペレーションの対応に時間がかかり、非効率な状態が発生するという面もあります。
また、システムの入れ替えには、譲渡企業の従業員が拒否感を示す場合もあります。特に「譲受企業から押し付けられた」と思われるようなことのないよう、慎重に進める必要があります。
▷PMIにおける融合②:意識面
意識面での融合とは、M&A成立後、両社の従業員の相互理解や、新たな組織への理解を深めることです。具体的には、両社の従業員が目指すべき方向性を伝える社内研修や広報、ワークショップを行うなどの手段があります。
M&Aの情報は、基本合意の締結までは、譲渡企業の経営陣の中でも限られた人物にしか開示されないことが多く、従業員に情報が開示されるのは、最終契約締結後になるケースが多いです。
ただし、最終契約締結後の短い期間で多くの変更を行う場合は、従業員に心理的・身体的な負荷がかかることで、通常業務が滞ってしまうリスクがあります。
このようなリスクを回避するには、譲渡企業の従業員が受け入れやすいものから融合作業を進めたり、負荷が軽いものから着手したりと、優先順位を決めて進める方法が有効です。
融合が疎かになってしまうと、譲渡企業の従業員にとってはM&Aの目的や今後の業務計画が理解できず、モチベーションの低下や離職に至るケースもあります。
そのため、M&A成立後は従業員の気持ちを理解した融合を進めることが重要です。
PMIの流れ・プロセス
PMIは一般的に次の流れで行います。
1. M&Aの方針を決定する 2. ランディング・プラン(統合計画)を策定する 3. 100日プランを策定する 4. M&Aの実施・効果検証・フォローアップを行う |
以下では、各ステップの概要や必要な対応事項について解説します。
1. M&Aの方針を決定する
PMIの実施にあたっては、M&Aの方針を最初に決めておく必要があります。どのような手順やスキームによってM&Aを進めていくのか、まずは統合の方針を決定しましょう。統合には主に以下の3つのタイプがあり、それぞれ特徴が異なります。
・連邦型統合:買収した会社を子会社として残し、自主性を維持する統合形態 ・支配型統合:買収した会社を残す一方で経営に積極的に関与していく統合形態 ・吸収型統合:吸収合併などによって買収された会社を買収側の会社に吸収する統合形態 |
例えば、買収される会社の業績が好調で、そのまま残したほうがよい場合は、「連邦型統合」が適しています。ただし、連邦型統合ではシナジー効果は発揮されにくい点がデメリットです。
一方、「支配型統合」や「吸収型統合」はスピード感を持って統合を実現でき、シナジー効果を発揮しやすくなります。ただし、買収される側の自主性を維持する連邦型統合とは違い、買収する側が積極的に経営に関与するため、統合作業自体が大変になり従業員に負担がかかります。
2. ランディング・プラン(統合計画)を策定する
「ランディング・プラン(統合計画)」とは、クロージング後に行う統合作業の計画です。M&Aにおける経営権の移転手続きであるクロージングが終わった後、3〜6ヶ月以内に優先的に実施すべき事項を盛り込んで計画を作成します。
ランディング・プラン(統合計画)は買収元・買収先のそれぞれにおいて作成します。M&A成立後の実際の統合作業は対応すべき事項が多岐にわたるため、いつまでに何を行うのか計画書に落とし込み、漏れがないか確認します。また、統合作業をスムーズに進められるよう、買収側と売却側が意思疎通を図りながら協力して進めることも重要です。
なお、統合計画には、販売費や管理費の見直し・統合など事業面に関する事項や、組織や規定、経理、庶務の見直し・統合など管理面に関する事項などを盛り込みます。
3. 100日プランを策定する
100日プランとは、クロージングから100日間で行う作業の計画・スケジュールのことで、買収先企業における中期事業計画です。100日プランは一般的に以下の流れで進めます。
1. 統合作業を担当するプロジェクトチームの編成、担当者の決定 2. 現状分析・課題の洗い出し、アクションプランの策定 3. 100日プランの実行 |
プロジェクトチームを編成する際、譲受企業の従業員だけで編成すると譲渡企業のことをわかる人材がおらず、統合作業がうまくいかない可能性があるため、譲渡企業と譲受企業の双方から適切な人材を選ぶようにしましょう。
譲渡企業と譲受企業の現状を分析し、経営統合の課題となる点を洗い出したら、課題を解決する具体的な施策や対応方法を検討し、アクションプランを策定して実行に移します。
▷関連記事:「M&Aの100日プランとは?進め方やプランニングのポイントをわかりやすく解説!」
4. M&Aの実施・効果検証・フォローアップを行う
M&A成約後の統合作業では、統合作業を進める中で進捗状況を確認し、効果検証を実施し、統合作業計画を修正すべき場合は修正を行うなど、状況にあわせて適切に対応することが重要です。
「当初予定していた計画どおりに進んでいるか」「進捗に遅れが見られる場合は何が原因か」など、振り返りを行って反省点を以降の統合作業に反映させることで、M&A後の統合作業を、よりスムーズに進めることができます。
M&A後のPMIで期待できる効果
M&A後のPMIによって様々な効果が期待できますが、代表的な効果として「売上シナジー」と「コストシナジー」があります。
以下では、各効果の内容を解説します。
▷売上シナジー
PMIによって売上拡大に繋がる「売上シナジー」が期待できます。
売上シナジーには、譲渡企業と譲受企業がお互いの商品やサービスなどの相互活用によって売上拡大を実現する取り組みと、商品やサービスまたはその前提となる技術やノウハウなどの組み合わせによって売上拡大を実現する取り組みがあります。
売上シナジー | 内容 | 取り組みやすさ |
経営資源の相互活用 | クロスセル | 比較的容易 |
販売チャネルの拡大 | 比較的容易 | |
経営資源の組み合わせ | 製品・サービスの高付加価値化 | 難易度が高い |
新製品・サービスの開発 | 難易度が高い |
例えば、比較的取り組みやすいとされる経営資源の相互活用では、譲渡企業・譲受企業のそれぞれの既存顧客に対して、お互いの商品やサービスを併せて提供することで、追加的な売上を得られる可能性があります。
また、お互いの顧客情報を活用し、それぞれの既存顧客に対して自社の商品やサービスを提案すれば、販路拡大に繋がる可能性もあるでしょう。ただし、既存顧客の信用を損なうことのないよう、十分な情報連携を行い、理解を深めることが必要です。
▷コストシナジー
PMIによってコストカットや業務の効率化に繋がる「コストシナジー」が期待できます。
コストシナジーには、生産現場の改善やサプライヤーの見直しなどによる売上原価の削減と、広告・販促の見直しや間接業務の見直しなどによる販促費の削減があります。
コストシナジー | 内容 | 取り組みやすさ |
売上原価 | 生産現場の改善 | 比較的容易 |
サプライヤーの見直し | 比較的容易 | |
在庫管理方法の見直し | 比較的容易 | |
共同調達 | 難易度が高い | |
生産体制の見直し | 難易度が高い | |
販促費 | 広告宣伝・販促活動の見直し | 比較的容易 |
間接業務の見直し | 比較的容易 | |
共同配送 | 難易度が高い | |
管理機能の集約 | 難易度が高い | |
販売拠点の統廃合 | 難易度が高い |
例えば、譲渡企業の生産現場において、5Sの実施状況などが十分でなかった場合には、改善をすることで現場作業員のミス減少や作業効率改善につながり、生産性の向上が期待できます。
また、譲渡企業の広告宣伝・販促活動の目的を明確化し、費用対効果を考慮した実施判断を譲受企業が行うことで、広告宣伝・販促活動の総額を適切な水準に抑えられる可能性があります。
PMIを進める際に特に意識すべきポイント
PMIを進めるうえで、特に意識すべき点は次の3つです。
1. 目指すべき方向を明確にする 2. PMI推進のために人材体制を整える 3. 専門家に相談する |
以下でそれぞれ解説します。
▷目指すべき方向を明確にする
まず、業務の融合を進めるには、「譲渡企業の従業員の既存業務を変更する」必要があります。なお、これを実行するためには、「具体的にどのような変更を行うのか」を明確にする必要があります。この点が不明確だと、業務の融合が進まないだけでなく、会社の将来に対して従業員が不安を覚える可能性があります。
そのため、業務面においては事業戦略の目標や今後の計画を数値化し、従業員に明確に伝える必要があります。明確にすることによって従業員の不安を取り除き、意識面の融合を進めることにもつながります。
▷PMI推進のために人材体制を整える
PMIは部門を横断して進める必要があるため、譲渡企業の全部門を統括する立場にある役員などを責任者として、PMIを進めることが重要です。
また、PMIのプロセスの中では通常の業務に加えてM&A成立後の調整業務が多く発生するため、PMIを専門で進める担当者を置くことができれば、より望ましいでしょう。
▷専門家に相談する
PMIを実行するためには、法務・財務・会計など多岐にわたる専門的な知識が必要です。自社だけで対応するのは難しいため、M&Aに伴う統合作業は専門家のサポートを受けながら進めることが一般的です。
特に、スケジュールが限られている場合は専門家のサポートを受けることが望ましく、サポートを受けながら迅速に統合作業を進めることで、シナジー効果が早くに発揮されて統合後の事業経営がうまくいく可能性が高まります。
専門家に依頼する場合は費用がかかりますが、PMIの質やスピードを高めるためにも、社内でカバーしきれない領域については、弁護士・税理士・M&A仲介会社などの専門家に相談するのがおすすめです。
まとめ
PMIは、M&Aを成功に導くために欠かせないプロセスであり、PMIの成否がそのままM&Aの成否であるともいえます。M&Aの検討段階からPMI実行の計画を立て、業務面・意識面の融合を従業員と一緒に進めることが、M&Aの成功につながります。
なお、PMIを成功させるためには、M&Aに対する深い知識と経験を持つ専門家のサポートを受けて準備を進めるのが良いでしょう。
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