企業の経営戦略の一環として、近年ではM&Aによる買収や合併などが盛んに行われています。国内でのM&A、特に非上場企業のM&Aでは買収の形が多くなっていますが、上場企業を中心に対象企業の議決権の過半数を有しない「マイノリティ出資」の選択がとられる場合があります。
本記事では、マイノリティ出資とはどのような出資なのか、どういった目的で実施されるのか、メリットやデメリットは何なのかについて解説します。マイノリティ出資の手法に興味のある方はぜひ参考にしてください。
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マイノリティ出資とは?マジョリティ出資との違い
マイノリティ出資とは、一般的に、投資対象となる企業の株式を議決権の過半数を超えない範囲(50%未満)で取得する出資方法のことを指しています。
株式会社にとって、株式はとても重要な存在です。株式の売買は単純なお金の移動だけではなく、会社の意思決定で重要な議決権の譲渡も意味しています。例えば、株式会社の持ち株比率が3%を超えるとその株主には株主総会の招集請求権が認められますし、持ち株比率が50%を超える株主には、株主総会の普通決議を単独で可決できる権限が与えられます。
マイノリティ出資では、先述のように50%未満での出資となります。そのため、出資を受ける側にとっては経営権を渡すことなく、資金調達が可能です。出資する側では、出資先の経営権を脅かすことなく、出資先との協業やノウハウ獲得が可能となるメリットがあります。対象企業を完全子会社化するのではなく、資本参加や資本業務提携などで協業する形です。
一方、議決権の過半数を有する出資(50%以上)の場合はマジョリティ出資と呼ばれます。マジョリティ出資では議決権の過半数を取得するので、出資先の経営に対して大きな影響力を持つことができます。
マイノリティ出資の目的
マイノリティ出資は、出資先との協業によるノウハウやシナジー効果の獲得、事業の多角化などを目的に行われます。その他、近年ではデーティング投資として行われる場合もあります。
ノウハウやシナジー効果の獲得
マイノリティ出資は、新規事業のノウハウ獲得や出資先の持つ技術や販路とのシナジー取得に効果的です。
新規事業や新技術分野を開拓するとき、一から始める場合は相応の時間と費用がかかります。マイノリティ出資で新規事業や新技術分野のノウハウを持つ企業と協業できれば、その時間や費用を軽減できる場合があります。また、出資先の企業との共同開発や共同購入が可能になると、自社の事業とのシナジー効果が期待できます。
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事業の多角化
マイノリティ出資により自社が進出していない事業領域でのノウハウや知見、技術が得られれば、新しい事業分野への進出に役立ちます。
近年、不安定な世界情勢やAIなど新しい技術の発達により、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。また、消費者のニーズも多様化している状況です。企業が持続的に収益を上げていくためには、収益性の高い新たな市場の開拓が欠かせません。新規事業を開拓し事業の多角化を図る際に、マイノリティ出資は戦略上の1つの手段として注目されています。
デーティング投資としての活用
「デーティング(dating)」とは英語で「デートする」ことを意味しています。M&Aは結婚にも例えられており、結婚前にデートをして相手を見定めるように、デーティング投資では一定期間のマイノリティ出資(デーティング期間)をおくことにより、将来的なM&Aに向けた相手企業の将来性や自社とのシナジーを検証します。
いきなりマジョリティ出資をする場合は、相応の資金が必要となり、失敗したときのリスクも大きくなります。一方、デーティング投資でマイノリティ出資を行う場合は、協業を通じてM&Aによる効果予測を実施することで、将来的にM&Aで追加投資する場合にもリスクが抑えられます。
マイノリティ出資のメリット
多くの出資方法と同様に、マイノリティ出資にはメリットとデメリットがあります。初めにマイノリティ出資のメリットを紹介します。
リスクを分散できる
マイノリティ出資のメリットには、リスクを分散できる点が挙げられます。M&Aで企業を買収する際には相応の買収コストがかかりますが、必ずしも成功するとは限りません。M&Aが失敗した場合は、かかった費用が無駄となるリスクがあります。
マイノリティ出資では、議決権の過半数を超えない範囲(50%未満)で出資するため、マジョリティ出資や株式の完全取得と比較するとコストを抑えられます。また、マイノリティ出資中に相手企業との相性やシナジーなどを検証できる点もメリットです。
その他、出資先を1社に限定するのではなく、複数社に分散することでポートフォリオを構築できます。複数社の出資により、出資ノウハウや知見の蓄積も可能でしょう。このように、マイノリティ出資はM&Aのリスクを軽減しつつ、M&Aのプロセスを体験的に学んでいく手法として活用できます。
統合過程を円滑化できる
M&Aは成約がゴールではなく、成約後の統合過程(PMI:ポスト・マージャー・インテグレーション)が重要です。企業文化や組織風土、業務フローが異なる企業同士を統合していくプロセスは並大抵のものではありません。PMIはM&Aの成否に関わる大切な過程です。
マイノリティ出資は、M&A成約後の統合過程(PMI)の円滑化にも役立ちます。マジョリティ出資や完全子会社化のように経営権をいきなり取得するのではなく、マイノリティ出資により相手企業の事情を把握しつつデーティングを行えば、マジョリティを取得したあとのPMIに役立ちます。
マイノリティ出資のデメリット
次に、マイノリティ出資のデメリットや注意したい点を説明します。
出資先の意思決定への影響力に制限がある
マイノリティ出資のデメリットは、出資先の議決権がないことです。マイノリティ出資では50%未満での出資となるため、相手企業の意思決定への影響力は限定的となります。他の株主とのバランスや持ち株比率によっては、経営の意思決定にほとんど関与できないケースもあります。相手企業の意思決定に影響力を持つには、出資の際に持ち株比率に応じた契約を結ぶ、交渉上優位となる構造をつくる、などの工夫が必要です。
株式売却が難しい場合がある
マイノリティ出資によりデーティングを行っている場合、自社との相性やシナジーが見込めず、取得した株式を売却するケースもあります。しかし、株式の売却先を見つけることは簡単ではありません。一旦構築した資本関係は解消が難しい場合があり、資本関係を伴わない業務提携などと比較するとデメリットとなります。
マイノリティ出資のポイント
ノウハウや知見の獲得、将来的なマジョリティ出資・完全子会社化のための準備として、マイノリティ出資はメリットのある手法です。以下では、マイノリティ出資がどのような場面で活用されているか、どういった点に注意すべきかを説明します。
スタートアップのM&Aや文化の違うクロスボーダーM&Aに向いている
先述のとおり、マイノリティ出資でデーティングを行うと、相手企業の将来性や自社とのシナジーを見極められるというメリットがあります。そのため、大企業がスタートアップ企業のM&Aを検討する場合など、企業風土や社内慣行などが大きく異なる企業を買収する際のステップとして、マイノリティ出資は有効活用できる場合があります。
その他、クロスボーダーM&Aの場合は、外資規制により相手企業のマジョリティを取得すること自体が難しいケースも少なくありません。スタートアップM&Aを行う場合と同様に、企業風土や文化の違う企業をいきなり買収することにはリスクがあるケースもあるでしょう。結果、クロスボーダーM&Aでは買収と同程度にマイノリティ出資が活用されています。
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出資比率をもとにした契約が重要
マイノリティ出資では、相手企業に一定の影響力を持つために出資比率に応じた契約が重要となるケースがあります。合弁契約書を結び、一定の重要事項に関する拒否権を確保しておくことはその一例です。クロスボーダーM&Aで契約する際は現地の会社法などが適用されるので、現地の法体制の確認も大切です。
まとめ
マイノリティ出資とは、議決権の過半数未満(出資比率が50%を超えない)形での出資方法です。出資先との協業により、ノウハウやシナジーの獲得が見込め、将来的なM&Aを見据えたデーティング投資として活用できるメリットがあります。
一方、議決権を有するマジョリティ出資や完全子会社化する買収などと比較すると、出資先の議決権を得られるわけではありません。そのため、出資方法としてマイノリティ出資が適切なのか、事前の検討が大切です。
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