事業承継では、借入金に対する経営者保証がネックとなり、後継者が見つからない場合があります。
事業承継を検討している方の中にも、経営者保証の負担を考え、事業の承継に二の足を踏んでいる方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、経営者保証とは何か、事業承継とどのような関係があるのか具体的に解説します。
経営者保証ガイドラインや事業承継特別保証制度についても、あわせて紹介します。
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目次
経営者保証とは
経営者保証とは、中小企業や個人事業主・フリーランスなどの小規模事業者が金融機関から融資を受けるときに、経営者個人が連帯保証人となることです。
例えば、ある中小企業が銀行から融資を受けたいけれども、信用力などで足りない部分があるとします。
企業は融資が受けられなければ、事業用の資金を得ることができません。このとき、経営者である社長自らが連帯保証人になり、個人保証の提供により信用の補完をすると、事業に必要な資金の融資が受けられるケースがあります。経営者保証は、中小企業が金融機関から資金を調達するときに一般的に行われた慣行でした。
しかし、経営者保証があると、会社が倒産した場合には経営者個人が借入金を返済しなければなりません。
経営者保証は保証人となる個人の負担が大きいことから、昨今、そのあり方が見直されています。
経営者保証と事業承継の関係
経営者保証は、例えば以下のような理由から、円滑な事業承継の妨げとなっています。
・経営者保証があると、後継者は将来的に多額の借金を負うリスクがある
・結果、後継者候補が後継者になることをためらってしまう
・経営者保証が必須となると、経営者は思い切った事業展開ができない
先述のように、経営者保証付きの借入金は、会社が倒産したときに経営者が保証債務を履行します。この負担の重さが、後継者候補が事業を承継する妨げとなっています。
事実、平成29年度に中小企業基盤整備機構が公表したアンケートによると、後継者の候補となる方がいるにもかかわらずその後継者候補が事業承継を拒否している理由として、59.8%の方が「個人保証(経営者保証)」を挙げています。経営者の高齢化が進む現在、事業承継の円滑な進行は喫緊の課題です。
このような経営者保証の問題を考慮し、「経営者保証に関するガイドライン」が策定されました。
事業承継を後押しする「経営者保証ガイドライン」
経営者保証ガイドラインとは、全国銀行協会と日本商工会議所が策定した金融機関共通の自主ルールです。2013年12月5日に公表され、2014年2月1日より適用が開始されています。
経営者保証ガイドラインとはどのような内容であるのか、以下で詳しくみていきましょう。
▷経営者保証ガイドライン策定の背景
経営者保証ガイドラインが策定された大きな理由は、経営者や後継者にとって負担となっている経営者保証のあり方を見直し、改善を図るためです。
もし、借入金についている経営者保証を解除できれば、後継者の負担が軽減され、後継者も事業承継に前向きとなりやすくなります。また、経営者保証のない融資が増えることで、経営者は活発に事業を展開できる環境を整えられます。
▷経営者保証ガイドラインの対象や要件
経営者保証ガイドラインには、適用対象と適用要件があります。
対象と要件の内容は以下のとおりです。
経営者保証ガイドラインの対象
経営者保証ガイドラインは、以下の条件を満たす保証契約が対象となっています。
・主債務者が中小企業
・個人が保証人となっており、主債務者である中小企業の経営者などである
・主債務者と保証人が弁済に誠実で、財産状況などを適切に開示していること
・主債務者と保証人が反社会的勢力ではなく、その恐れもないこと
全ての保証契約が経営者保証ガイドラインの対象ではない点は覚えておきましょう。
経営者保証ガイドラインの要件
経営者保証ガイドラインでは、以下の3つの要件が定められています。
・法人と経営者の資金のやりとりや財産の所有が明確に区分・分離されていること
・財産基盤が強化されていて、融資を受ける会社の収益や資産で返済が可能と判断できること
・会社の財務情報が適切に開示されており、経営の透明性が保たれていること
例えば、会社から経営者に多額の資金が貸し付けられている、会社が経営者の保有する事業用の土地を借りているなどの場合、法人と経営者の資産が区分されていないため、要件を満たしていないこととなります。
経営者保証ガイドラインが示す3つの要件の全てあるいは一部を満たしている場合、金融機関には保証を求めない融資や代替的な手法の検討など、柔軟な対応が求められます。
▷経営者保証ガイドラインの活用法
経営者保証ガイドラインの活用には、金融機関に相談するとともに、適用要件の全てまたは一部を満たすことが重要です。
先述の例のように会社から経営者に多額の資金が貸し付けられているような状況では、会社と経営者のお金の流れが不透明となるので、貸付金を解消するなどの改善が必要となります。
適用要件を満たす努力が金融機関から評価されれば、経営者保証の解除が実現される場合もあるでしょう。あくまで経営者保証ガイドラインは中小企業や金融機関共通の「自主ルール」であるため、確実に経営者保証が解除されるわけではありませんが、解除に向けた建設的な交渉が期待されています。
なお、2019年には事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の「特則」が策定されました。特則には、「経営者と後継者双方からの二重徴求の禁止」や「経営者との保証契約の適切な見直し」などが盛り込まれています。こちらも併せてご確認ください。
経営者保証解除に活用できる「事業承継特別保証制度」
政府は、事業承継での経営者保証の負担を考慮し、「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」を策定しています。
その一環として、経営者保証を不要とする「事業承継特別保証制度」が2020年4月より開始されました。事業承継特別保証制度は、経営者保証ガイドラインとともに、経営者保証の解除で重要な制度です。
以下、詳しい内容をご紹介します。
▷事業承継特別保証制度とは
事業承継特別保証制度とは、事業承継で利用でき、一定の要件を満たす融資について経営者保証不要で融資が受けられる制度です。経営者保証ありの既存の借入金を借り換えることもできるので、事業承継時の経営者保証の解除に役立てられます。
事業承継特別保証制度のメリットには、以下のようなものがあります。
・事業承継時に必要な資金の融資を受けるときに経営者保証を不要とできる
・経営者保証付きの借入金を経営者保証なしの借入金に借り換えできる
・経営者保証コーディネーターの確認で保証料率を軽減できる
円滑な事業承継の妨げとなる経営者保証がなくなり、後継者の負担を軽減できます。
利用の際は保証料を支払う必要がありますが、専門家(経営者保証コーディネーター)の確認を受けると保証料率の大幅な軽減が可能です。
▷事業承継特別保証制度の要件
事業承継特別保証制度を利用するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
制度の対象となるのは以下のような方です。
1:保証申込受付日から3年以内に事業承継を予定しており、事業承継計画を有する法人
2:2020年1月1日から2025年3月31日までに事業承継を実施した法人であり、事業承継日から3年経過していない方
上記の1と2のどちらかに該当する方が事業承継特別保証制度の対象となります。
さらに、以下の要件を全て満たす必要もあります。
・資産超過であること
・EBITDA有利子負債倍率が15倍以内であること
・法人・個人の分離がなされていること
・返済緩和している借入金がないこと
「EBITDA有利子負債倍率」とは利益に対する借入の割合を示す指標です。「(借入金・社債―現預金)÷(営業利益+減価償却費)」の計算式により算出できます。制度が開始された当初は10倍以内でしたが、2022年8月31日付けで緩和され、現在は15倍以内が要件となっています。
▷事業承継特別保証制度の活用法
事業承継特別保証制度を活用したい場合は、お住いの地域の信用保証協会や取引のある金融機関に相談してみましょう。
また、申し込みには以下のような資料・書類が必要です。あわせて準備してください。
・信用保証協会所定の申込資料
・事業承継計画書
・借換債務等確認書(借り換えの際に必要となる)
・他行借換依頼書兼確認書(申込金融機関以外の金融機関からの借り換えに必要となる)
・事業承継時判断チェックシート(経営者保証コーディネーターの確認による保証料率の軽減の際に必要となる)
なお、事業承継特別保証制度の保証料率は経営者保証コーディネーターの確認を受けると大幅に軽減されます。
次の項では、経営者保証コーディネーターについてご紹介します。
経営者保証解除を支援する「経営者保証コーディネーター」
経営者保証コーディネーターとは、全国の事業承継・引継ぎ支援センターに配置された専門家のことです。
経営者保証解除に向け、経営者保証ガイドラインの充足状況の確認や金融機関との話し合いなど、さまざまなサポートが受けられます。
▷確認に使われる「事業承継時判断材料チェックシート」とは
先述のように、経営者保証ガイドラインの要件を満たすと、金融機関との交渉で経営者保証を解除できる場合があります。
しかし、経営者保証ガイドラインの要件を満たしているかどうかは、財務・会計などの専門知識が必要です。経営者だけでは判断できない可能性があります。このとき、経営者保証コーディネーターに相談すると、「事業承継時判断材料チェックシート」をもとに自分の会社がガイドラインの要件をどれくらい満たしているかチェックしてくれます。
事業承継時判断材料チェックシートでは、事業承継計画書や決算書、試算表や資金繰り表をもとに、ガイドラインの充足状況の確認を行います。
▷経営者保証コーディネーターの確認を受けるメリット
チェックシートをクリアし、経営者保証コーディネーターの確認を受けた場合、いくつかのメリットがあります。
例えば、事業承継特別保証制度を利用するとき、経営者保証コーディネーターの確認を受けていると保証料率を大幅に軽減できます。また、チェックシートをクリアできなかった場合、改善に向けたアドバイスが受けられるケースもあります。
事業承継における経営者保証解除のポイントをわかりやすく紹介
最後に、事業承継で経営者保証を解除するためのポイントを紹介します。
金融機関や専門家と相談し、円滑な事業承継を目指しましょう。
▷経営者保証解除のポイント①:取引先の金融機関と相談
経営者保証ガイドラインの策定により、金融機関には経営者保証に対して柔軟な対応が求められています。そのため、まずは経営者保証つきの融資がある金融機関と相談してみましょう。取引先との相談により、経営者保証が解除できる可能性があります。
ただし、繰り返し述べているように、ガイドラインの適用には要件があります。話し合いの中で、法人と個人の分離や財務基盤の強化など要件の充足を金融機関側から求められた場合は、実現に向けた努力も必要です。
また、ガイドラインはあくまで自主的なルールであり、最終的な判断は金融機関が行う点には注意してください。
▷経営者保証解除のポイント②:事業承継特別保証制度の活用
事業承継特別保証制度は、経営者保証ありの借入金を経営者保証なしの借入金へ借り変えることが可能です。
例えば、取引先の金融機関との相談の結果、経営者保証を解除できなかった場合などに有用です。
また、金融機関のほうから事業承継特別保証制度の利用を提案されることもあります。事業承継特別保証制度を活用すれば、現経営者が事業承継後も引き続き債務保証を背負うことはなくなり、後継者もまた経営者保証の負担を避けられます。
▷経営者保証解除のポイント③:不明な点は専門家に相談
経営者保証解除でわからない点がある場合は、専門家に相談しましょう。
相談先には、各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センター、経営者保証コーディネーター、商工会議所の経営指導員や税理士、中小企業診断士などがあります。
例えば、ガイドラインの1つである財務基盤の強化を求められた場合、中小企業の経営に詳しい専門家に相談すれば具体的なアドバイスが受けられる場合があります。また、必要な書類の作成についても、専門家に相談するとよりスムーズになるでしょう。
まとめ
経営者保証とは、中小企業などの経営者が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が連帯保証人となることです。
経営者保証つきの借入金がある会社が倒産すれば、経営者自身がその保証債務を履行しなければなりません。経営者保証の負担は重く、円滑な事業承継の妨げとなっています。
経営者保証の問題を解決するために、経営者保証ガイドラインが策定され、事業承継特別保証制度が開始されました。
ただし、活用には一定の要件を満たす必要があります。経営者保証の解除を含め、事業承継ではさまざまな課題が発生します。
課題の解決には、専門家のアドバイスが有用です。
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