M&Aによって新しい分野への新規参入や事業の拡大などの経営戦略を立てる場合、参考にしておきたいのは、実際にM&Aを行うことで目的を達成した成功事例です。
自社と業種や規模が異なる企業の成功事例の場合であっても、成功事例にはM&Aを上手く成約させ、実施後にシナジー効果を発揮して会社が発展、成長するためのヒントが見出せます。
まず、事例を参考にしながら自社が目指すべきM&Aの成功の形を知ることが大切です。また、一般的にM&Aを行う際には専門家であるM&Aアドバイザーに依頼して進めます。M&Aが成約した際には、取引金額に応じて成功報酬を支払う必要があり、報酬体型についても把握しておくべきでしょう。
専門家に相談する前に、M&Aの成功事例や報酬の知識があると専門家への相談もスムーズになります。ぜひ、この記事で基礎知識を身につけてください。
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企業価値100億円の企業の条件とは
・企業価値10億円と100億円の算出ロジックの違い
・業種ごとのEBITDA倍率の参考例
・企業価値100億円に到達するための条件
自社の成長を加速させたい方は是非ご一読ください!
経営者が注目するべきM&Aの成功事例
デロイト トーマツ コンサルティング株式会社の2013年の調査によると、日本企業におけるM&Aの成功率、日本企業が海外企業を譲り受けた場合のM&Aの成功率はそれぞれ36%、37%となっています。(この調査における「成功率」とは、事前に定めた成功基準を達成した、と回答した企業の割合を意味します)
成功例としてあげられるようなM&A事例は、経営者として非常に参考になる部分が多くあります。
ここでは、特に成功事例として参考にしたい3つの事例を紹介します。
DELLの成功事例
引用元:https://www.dell.com/
パソコンなどデジタルデバイスを始めテクノロジー関連の製品を広く手がけるDell Inc.(以下、デル)は、2016年9月にEMC Corporation(以下、EMC)を約670億ドル(約8兆円)という巨額で買収しました。
デルはパソコンメーカー大手の企業ですが、性能的にパソコンに迫るタブレットの登場や、スマートフォンの普及によりパソコン事業が不振に陥り、2013年には株主の意見に左右されず経営の意思決定を行うために株式を非公開化していました。
そして巨額買収に挑むことになるのですが、世界最大のストレージ機器開発企業であるEMCの買収は、同社単体としての価値を求めてのものではありません。EMCは、積極的にM&Aによる買収を行っている企業としても知られ、デスクトップPCやサーバの仮想化*1用ソフトウェアの販売・製造を行う世界的企業VMware, Incを始め、多くのソフトウェア企業などをグループ会社として保有していました。EMCの買収は、デルのクラウド関連事業の強化、そして巨大テクノロジー企業として成長するためには不可欠だったのです。
これによりデルは、ソフトウェア、セキュリティ、クラウド、IoT、ITインフラ全般などを手掛け、IT市場においてデバイスからクラウドまでのエンドツーエンド*2を実現しました。
サーバ仮想化 *1:1台のサーバを複数台の仮想サーバに分割して利用する仕組み。効率性を高めながらサーバー台数の減少によるコスト低減やスペースの確保が見込めます。
エンドツーエンド *2:通信・ネットワークの分野において、通信を行う二者、または二者間を結ぶ経路全体のこと
オークファンの成功事例
引用元:https://aucfan.co.jp/
株式会社オークファンは、オークションサイトやショッピングサイトの価格比較検索サイト「aucfan.com(オークファン)」を中心とする、情報提供サービスを手掛けて成長したIT企業です。
メインの事業が6年連続増収増益を重ねる中、オークファンが選んだのは、より大きな市場を取り込み、周辺事業までを幅広く展開する戦略でした。
そのためにM&Aを企業成長の手段として有効に活用し、まずはBtoBマーケットプレイス市場参入のために株式会社NETSEA(ネッシー)を子会社化。そして、既存事業との相乗効果による事業拡大のために、翌年には流通業を展開する株式会社リバリューも子会社化します。さらに、インターネット広告代理事業を運営する株式会社スマートソーシングの株式を取得して子会社化し、さらなる経営効率の追求を図る目的でした。
オークファンの買収戦略は、BtoB市場での成功という目標のために必要な技術や市場、プラットフォームを持つ企業を買収し、中核事業の強化や事業基盤の強化・整備、周辺事業への拡大などを適切に行なっています。
その結果、2019年2月に発表された四半期の売上では、NETSEA買収以前よりも約5.7倍となる約16.5億円を記録しています。
ソニーの成功事例
引用元:https://www.sony.co.jp/
ウォークマン(WALKMAN)やプレイステーション(PlayStation)、液晶テレビブラビア(BRAVIA)、デジタル一眼カメラα(アルファ)など多数のブランドを抱える世界的な企業として知られるソニー株式会社(SonyCorporation、Sony)。巨大家電メーカーとして一般的に広く知られていますが、実は、M&Aが日本に浸透する以前からM&Aを実施しており、2016年時点では全世界で1300社以上の子会社と100社以上の関連会社を抱えるコングロマリット(多種類の事業を行う複合企業)になっています。
主要なM&Aの実績は、音楽・映像の分野において米国CBSレコード社(SME、現在のソニー・ミュージックエンタテイメント)、コロンビア・ピクチャーズ・エンタテインメント社があげられます。他にも、同じく米国のEMI Music Publishing、Micronics, Inc(マイクロニクス社)といった海外企業とのM&Aを始め、国内企業においても、ソネットエンタテインメント株式会社など、数百億、数千億規模のM&Aを頻繁に行っているのです。
ソニーのM&Aが成功した要因としては、自社の保有するハード技術と買収企業のソフト技術を融合させ、シナジー効果を発揮したことによって新分野への進出、技術開発を実現できたためです。
一時期は開発力の低下やリーマンショック後の経済危機、不採算事業の増加などで不調に陥りました。しかし、不採算事業や保有資産の売却を行い、取得した資金を好調分野へ集中投資するといった構造改革を進め、その後もカメラのイメージセンサー、ゲーム事業、金融事業の好調により、復調を果たしています。
▷参考:ソニー工場の取得で村田製作所はどうなる? | マネ会
M&Aの成功に欠かせない重要なポイント
M&Aの成功事例から、目的に応じて適切な企業とM&Aができれば、M&Aは成功に繋がるということがイメージできたかと思います。
ここでは、その成功のポイントについて明確にし、重要な点を押さえて解説していきます。
シナジー効果の見極め
M&Aを成功させるための最重要ポイントといっても過言でないのがシナジー効果です。
シナジーとは、日本語に訳すと相乗効果、協働作用を指します。M&Aを行うことにより、譲受企業と譲渡企業の双方のそれぞれの強みを融合させることで、総和を超える効果が見込めます。その結果、事業が大きく成長したり、新たな技術を開発したり、多角化により新規事業を立ち上げたり、新たな販路の開拓などができます。
シナジー効果は、同業種間でのM&Aではもちろん、異業種間でも生み出すことができます。重要なポイントとしては、目的を明確に定め、それを達成するためには、どのような事業内容や技術などが必要なのかを見極めることです。
成功事例からいうと、デルがハードウェア事業だけではなく、ハードウェアを含むIT全般を自社の領域にしたいと考えた時に、パソコンというハードウェアと関連性の高いソフトウェアやストレージを扱うEMCを買収の対象にした例があります。
▷関連記事一覧:M&Aの動向と業界別の事例
▷関連記事:M&Aの成功を左右する「シナジー効果」とは。種類や事例と評価方法を紹介
社員へ告知をするタイミングやPMIなど人材マネジメントの重要性
M&Aを検討する上では、買収対象企業の事業内容や売上、財務状態など、数字やデータといった項目に注目しがちですが、人材マネジメントも重要性の高い事項です。
例えば、情報漏洩によって「自社がM&Aで買収されるらしい」「会社の経営状態が良くないのかも」といった噂が流れれば、「給料が下がるかもしれない」「解雇されるかもしれない」などとネガティブな面の不安が大きくなり、社員のモチベーション低下につながってしまいます。
社員への情報の開示については、情報管理、計画、譲渡企業との綿密な交渉を進め、基本的には最終契約の締結後に公表するのがベストタイミングです。ただし、会社の規模や社員との関係に応じて、段階的に開示していくという手法もあり得ます。
また、M&A実施後にも対応すべきことは複数あります。社内ルールの違いや待遇の違いなどが原因で、期待されたシナジー効果を発揮しづらくなるケースもあります。
例えば、いくら魅力的な技術を保有していても、それを研究、開発し、動かす社員がM&A実施後に能力を発揮してくれなかったり、そもそもM&A実施以前に退職してしまうこともあり得ます。
M&A実施後に重要とされる要件としては、新しい組織体制のスムーズな構築を目指すPMI(Post Merger Integration/ポスト・マージャー・インテグレーション)があります。これは、M&Aの成約後に両社の経営方針や業務ルール、社員の意識などを融合し、M&Aの
目的を実現するためのプロセスのことです。M&Aを成功に導くために、PMIを適切に進めることがとても重要となります。
▷関連記事:PMIとは?M&A成立後の統合プロセスについて株式譲渡を例に解説
仲介会社やM&Aアドバイザー、会計士など協力会社の違い
M&Aを成功させるためには、協力してくれる専門家の存在が欠かせません。
M&Aでは、多くの資料を準備したり、譲受企業と交渉する必要があるなど、想像しているよりも多くの業務が発生します。加えて、M&Aを成功させるには、法務や税務・財務、人事労務などの各専門知識のもとでM&Aを実施することが重要です。
M&Aは、会計士やM&A仲介会社(M&Aアドバイザー)などの専門家と進めることが一般的です。仲介会社は、譲渡企業と譲受企業の間に入り、中立的な立場で両社をマッチングさせ、双方のサポート業務を実施します。
M&Aを行う際に、自社の顧問弁護士や会計士、もしくは銀行に相談をするケースもありますが、M&Aには税務や財務の知識だけでなく、総合的な専門知識が必要となります。そのため、特定の分野に精通しているだけでは、十分なサポートが行えない場合が多く、
おおまかな相談に乗ってくれるのみの場合もあります。
また、費用に関しても専門家や依頼内容、M&Aの手法によって支払う報酬はさまざまです。
M&Aの相談をする際には、経験の有無や何を強みにしているかを確認し、いくつかの相談先と話してM&Aの知識や経験、人柄などを比較検討してから選ぶとよいでしょう。
▷関連記事:M&Aの相談は銀行、証券会社、税理士、弁護士、M&A専門家など、どこにすればいいのか?費用の違いは?
専門家への報酬はどのくらい?M&Aの成功報酬の目安や計算方法
M&Aを行う際、一般的には専門家であるM&Aアドバイザーに依頼して進めます。そのため、M&Aの成約後はM&Aアドバイザーに対して成功報酬を支払う必要があります。最近では、「支払いは成功報酬だけ」とする会社もありますが、その報酬の支払い規準、目安がどういったものなのかを紹介します。
成功報酬の目安
M&Aにおける成功報酬の算出には、一般的にレーマン方式という計算方法が用いられます。これは、取引金額によって報酬料率が変わる報酬体系のことです。
ただし、レーマン方式では仲介会社によって起算基準は異なります。また、仲介会社によって最低報酬金額を設定している場合もあります。そのため、契約する際は何に対して成功報酬料率を定めているのか確認することをおすすめします。
成功報酬の計算方法
レーマン方式を解説するために、取引金額と報酬料率を仮定し、料金テーブルの一例を作成しました。この表をもとに、算出例をご紹介します。
取引金額 | 報酬料率 |
5億円まで | 5% |
5~10億円まで | 4% |
10~50億円まで | 3% |
50~100億円まで | 2% |
100億円超 | 1% |
例えば、譲渡金額が5億円までの場合は成功報酬は取引額の5%になります。一方、譲渡金額が10億円までの場合は、5億円までの5%に5~10億円までの4%が加算されるという計算方式になります。
取引額が7億円だったM&Aを例にすると、後述のようになります。
(1)5億円 × 5% = 2,500万円
(2)2億円 × 4% = 800万円
(3) (1) + (2) = 3,300万円
取引額150億円の大型M&Aの場合では下記のように成功報酬も高額になります。
(1)5億円 × 5% = 2,500万円
(2)5億円 x 4% = 2,000万円
(3)40億円 × 3% = 1.2億円
(4)50億円 × 2% = 1億円
(5)50億円 × 1% = 5,000万円
(6) (1) + (2) + (3) + (4) + (5) = 3億1,500万円
まとめ
M&Aの成功事例から成功に欠かせない重要なポイント、そして成功報酬までを解説しました。
M&Aを成功に導くためには、しっかりした事前準備や知識が必要です。成功事例を知り、どのようなことが成功には必要なのかを経営者自身が知識として蓄えていけば、どのような準備をしたらいいのか、イメージを膨らませることができるでしょう。
そして、準備や知識を万全にして専門家に相談すれば、アドバイスや交渉の内容もスムーズに頭に入ってくることになります。知識を増やし、入念に準備した後、専門のM&Aアドバイザーなどを上手に活用して、M&A成功への道を一歩一歩進んでください。
▷参考:成約事例 | fundbook(ファンドブック )M&A仲介サービス