
M&Aのストラクチャーとは、M&Aを進める際の手法や手順のことです。M&Aには複数のストラクチャーがあり、どのストラクチャーを選択するかで進め方や結果が異なります。
また、M&Aでは譲渡側と譲受側の当事者だけでなく、既存従業員や金融機関など様々な利害関係者がいます。このような利害関係者への影響の他、税務や法務なども考慮する必要があります。
本記事では、M&Aでのストラクチャーの意味や主な種類、選定のポイント、決定時の注意点などを解説します。
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M&Aでのストラクチャーとはスキームのこと
ストラクチャー(structure)とは、構造や組織・構成を指します。M&Aでのストラクチャーとは、M&Aを実行するための手法を指し、スキームとも呼ばれます。
M&Aには複数のストラクチャーがあり、どのストラクチャーを選択するかでその後の工程が大きく異なるため、M&Aを成功させるには自社にとって最適なストラクチャーを選択することが大切です。
M&Aで代表的な7つのストラクチャー
M&Aで代表的なストラクチャーは、以下のとおりです。
・合併
・会社分割
・株式譲渡
・株式移転
・株式交換
・第三者割当増資
それぞれの特徴を紹介します。
合併
「合併」とは、2つ以上の企業を1つに統合または再編するストラクチャーです。合併には「吸収合併」と「新設合併」があります。
・吸収合併:既存の譲受企業が譲渡企業の資産や負債などの全てを承継する
・新設合併:合併と同時に新しく会社を設立し、新設した会社が全ての資産や負債などを承継する
合併では、各企業が保有する資産を統合することで、シナジー効果や経営の効率化が期待できます。なお、新設合併は新たに会社を設立するため、手続きが煩雑になることから、M&Aの合併では吸収合併が多く用いられます。
▷関連記事:「会社合併の種類は?目的や手続きの違い、税務上の扱いや注意点を解説」
会社分割
会社分割とは、複数の事業を行っている譲渡企業が特定の事業の権利義務を譲受企業に承継するストラクチャーです。
譲渡側は事業を分割することで経営資源の選択・集中などができます。一方、譲受側は権利義務を包括的に承継できたり、シナジー効果を得られたりするメリットがあります。会社分割は、後述する事業譲渡と似ていますが、以下の点に明確な違いがあるので覚えておきましょう。
ストラクチャー | 会社分割 | 事業譲渡 |
対価 | 株式も選択可能 | 原則、現金 |
承継の範囲 | 従業員との雇用契約や取引先との契約などは包括的に承継する | 従業員との雇用契約や取引先との契約などは個別に承継する |
▷関連記事:「会社分割とは?手続きの流れ・吸収分割と新設分割の期間や事業譲渡との違いを解説」
▷関連記事:「事業譲渡と会社分割の違いを比較!メリット・デメリットや税務、許認可も解説」
事業譲渡
事業譲渡とは、企業が行う事業の一部または全てを譲渡するストラクチャーです。
M&Aで採用されることが多いストラクチャーの1つで、譲渡側は残したい事業や従業員の選定ができ、主力業務に注力できるメリットがあります。一方、譲受側にとっては、自社に必要な事業を選別できることがメリットです。
ただし、事業譲渡では資産や契約などを個別に移転させるため、各手続きを1つ1つ行わなければなりません。そのため、手続きが煩雑になるデメリットがあります。
▷関連記事:「事業譲渡とは?株式譲渡との違いやメリット・デメリットを徹底解説」
株式譲渡
株式譲渡は、M&Aで最も採用されているストラクチャーです。譲渡側が所有する株式の50%超を譲受側に譲渡し、経営権を移転します。
株式譲渡では株主の構成が変わるため経営権が移転しますが、譲渡側の保有する資産・権利などは変わりません。そのため、事業に与える影響が少ないのが特徴です。
▷関連記事:「株式譲渡とは?他のM&A手法との違いや手続きの流れ、税金について解説」
株式移転
株式移転とは、主に持株会社化する手段として用いられるストラクチャーです。
経営統合やグループ再編を行い、経営効率の向上や組織再編を目的とする場合に用いられる傾向があります。
株式移転では、既存の株式会社が新たに親会社となる会社を設立し、子会社となる会社は発行済株式の全てを親会社となる会社に移転するため、完全な親子関係となります。
一方、子会社となる株主は、既存の株式を全て手放す代わりに親会社が発行する株式を受け取ります。
▷関連記事:「株式移転とは?株式交換との違い、仕訳や会計処理を解説」
株式交換
株式交換は、主に持株会社化する手段として用いられるストラクチャーです。
100%親子関係になる意味では株式移転と同様ですが、株式移転では親会社を新たに設立する点が大きく異なります。なお、株式交換も株式移転と同様に、経営効率の向上や組織再編を目的として採用されるケースが多いです。
▷関連記事:「株式交換と株式移転の違いとは?メリットや事例、手続き【図解付き】」
第三者割当増資
第三者割当増資とは、企業が新たに株式を発行し、会社と関係を持たない特定の第三者に株式を割り当てるストラクチャーです。
譲渡企業は出資を受けられるため財務基盤の強化が可能になります。また、第三者割当増資では出資者を指定できるため、敵対的M&A対策としても用いられます。
▷関連記事:「第三者割当増資とは?目的とメリット・デメリットや手続きをわかりやすく解説」
M&A達成に向けたストラクチャー選定のポイント

M&Aの目的を達成するには、最適なストラクチャーを選ぶことが重要です。また、ストラクチャーを選ぶ際は、会計上や税務上でも考慮する点があります。
以下では、譲受側と譲渡側の視点でストラクチャーを選ぶ際のポイントの他、会計上や税務上で考慮するポイントも解説します。
譲受側のポイント
ストラクチャー選定時に譲受側が検討すべき項目は、以下のとおりです。
・買収対象とする事業の領域
・対象事業への支配レベル
・M&A成立後の事業形態
M&Aでは、取得する範囲が「特定の事業のみか」「企業単位か」によって選択するストラクチャーが異なるため、取得する事業範囲を決定する必要があります。
例えば、企業全体を取得するのであれば、比較的手続きがシンプルな株式譲渡を用いるケースが多いです。他方、事業単位の取得では個別承継が可能な事業譲渡を用いる傾向があります。
また、「完全子会社にするか、しないか」「買収対象が関連する事業なのか、関連性の低い事業なのか」などによっても、事業統合や別法人の設立などを検討する必要があります。
譲渡側のポイント
ストラクチャー選定時に譲渡側が検討すべき項目は、以下のとおりです。
・売却対象の事業
・譲渡後の支配レベル
・事業統合の形態
譲渡側は事業の一部を切り離すのか、全て譲渡するのかを決定する必要があります。例えば、ノンコア事業を売却し、コア事業に注力することを目的とするのであれば、事業ごとに承継が可能な事業譲渡などを検討します。
また、事業の全てを譲渡する場合でも、合併や子会社化のどちらを選ぶかでストラクチャーが異なります。
譲受側・譲渡側共通のポイント-税務・会計の考慮-
適切なストラクチャーの選定は、経営戦略の観点のみで考えれば良いわけではありません。M&Aでは、ストラクチャーによって税務処理や会計処理に与える影響が異なります。
そのため、M&Aを実行する際は、税率や適格要件などの税務処理や、M&Aの実行によってどの範囲にどの程度影響を与えるかなど会計上にも目を向ける必要があります。
税務・会計の内容は複雑で難易度が高いため、M&Aは税理士や公認会計士、弁護士などの専門家と一緒に進めるのが一般的です。
▷関連記事:「M&Aと会計。仕訳(会計処理)とのれんの扱い方をわかりやすく解説」
▷関連記事:「M&Aの費用の相場・目安は?会計処理や仕訳、税務面」
M&Aのストラクチャーを決定する際の注意点
M&Aの成功は、ストラクチャーの選択が鍵を握っています。自社にとって最適なストラクチャーを選ぶためにも、以下のポイントを押さえておきましょう。
・M&Aの目的・条件を明確にする
・各ストラクチャーの手続きや違いを理解する
・不安なことはM&Aの専門家に相談する
それぞれ解説します。
M&Aの目的・条件を明確にする
M&Aを実施する際は、自社がどのような目的で、なぜM&Aを選択するのかを明確にすることが大切です。目的によって最適なストラクチャーは異なるため、M&Aを実施する目的や条件は、M&Aの検討段階で明確にしておきましょう。
例えば、組織を再編するのであれば合併や株式交換、株式移転などの手法が用いられますが、目的が不明確であれば見当違いのストラクチャーを選択し、手間と時間だけを消費してしまう可能性があります。
また、会社を売却して自身は引退するなど、明確な条件を予め決めておくことで譲受側の条件との乖離も少なくなるため、最適な相手を見つけやすくなります。
各ストラクチャーの手続きや違いを理解する
M&Aのストラクチャーを決定する際は、事前にストラクチャーごとの手続きを理解しておくことが大切です。
例えば、株式譲渡では包括承継となるため、譲渡側が保有する資産や負債を個別に引き継ぐ手続きがありません。そのため、基本的に株式譲渡契約を締結し、譲受側から対価を受け取った後に株式名簿の名義書換を行い、クロージングとなります。
しかし、事業譲渡では個々の資産や取引に応じて個別に譲渡手続きが必要です。顧客や賃貸借契約などの承継に関しても手続きを行う必要があり、譲渡側の従業員に対しても移籍の同意を得る必要があります。
株式譲渡や事業譲渡はM&Aでよく利用されるストラクチャーですが、この2つだけでも異なる点が多数あります。
不安なことはM&Aの専門家に相談する
M&Aを成功させるには、豊富なストラクチャーから自社にとって最適なストラクチャーを選ばなければなりません。
ストラクチャーごとに様々な手続きや業務が必要であり、リスクやシナジー効果なども考慮した上で最適な相手選びが大切です。
また、M&Aには税務や財務、法務などの幅広い知識が必要になり、成功には各業界の動向なども知っておく必要があります。そのため、M&Aに関して不安なことがある場合は専門家への相談がおすすめです。
専門家に依頼すると、M&Aの基本的な相談から成約まで幅広いサポートを受けられるため、一般的にM&Aを実施する際は、専門家のサポートを受けながら進めるケースが多いです。
まとめ
M&Aのストラクチャーとは、M&Aを進める際の手法や手順のことです。M&Aストラクチャーは複数あるため、M&Aの目的や条件を明確にし、自社にとって最適なストラクチャーを選択することが大切です。
また、M&Aでは最適な相手を見つけることが重要となる他、財務や税務など専門性の高い幅広い知識が必要となるため、専門家のサポートを受けながら進めることをおすすめします。
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