近年、日本では多くのM&Aが行われています。事業拡大や新規事業開拓、ポートフォリオの転換など、その目的はさまざまです。特に中小企業では、後継者不在の問題を背景にM&Aを活用した事業承継が増加しています。
ただし、M&Aは事前準備やM&Aの候補企業とのマッチングなど、多くのプロセスを必要とします。成約まで1年から2年程度の期間を要する場合もあり、長期に渡るプロジェクトです。M&Aを検討してはいるものの、M&Aに対する経験や知見がないことから、M&Aにためらいを感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事ではM&Aの流れを4つの段階に分け、各段階で必要な手続きや注意すべき点をわかりやすく解説します。M&Aで自社譲渡や他社譲受を検討されている方はぜひ参考にしてください。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
M&Aの流れ
M&Aの流れは、大きく4つに分けることができます。
1.事前準備
2.マッチングと条件交渉
3.契約
4.取引完了後
各段階でどのようなことが必要であるか、次項から一つひとつ詳しく見ていきましょう。
M&Aの進め方①事前準備
M&Aを進めるにあたって初めに行うことは、M&Aの事前準備です。事前準備では主に下記のような項目を実施します。
・M&Aの初期的な相談
・自社の分析
・アドバイザリー契約
各項目を詳しく解説します。
●M&Aの初期的な相談
M&Aを検討する場合、後継者不在や事業拡大などさまざまな要因があります。しかし、M&Aの意思決定を経営者のみで行うには困難が伴います。そのため、まずは専門的な機関とM&Aについて相談する方法がおすすめです。
M&Aの相談先には下記のような機関・業者があります。
・M&A仲介会社やM&Aアドバイザリー
・事業承継・引継ぎ支援センター
・商工団体
・公認会計士、弁護士、税理士などの士業
・金融機関
M&A仲介会社やM&AアドバイザリーはM&A専門の業者です。M&Aの経験が豊富であり、M&Aに関する専門的な知識をもっています。M&Aの初期的な相談から取引完了までトータル的なサポートを受けたい方におすすめの相談先です。
そのほか、公的な相談先には事業承継・引継ぎ支援センターや商工団体の経営相談窓口などがあります。また、顧問税理士や取引のある金融機関があれば、M&Aの相談に乗ってもらえる場合もあります。
●自社の分析
専門機関への相談と同時に、自社の分析を進めることも重要です。自社の分析を進める場合の主なチェックリストは下記のとおりです。
・M&Aの実施が自社の状況に合っているか
・M&Aの目的の明確化
・自社の経営状況、財務状況の把握
・条件の洗い出し
まずは、M&Aの実施が自社の状況に本当に適しているのかの確認が大切です。例えば、M&Aにより第三者への事業承継を考えている方の場合は、親族承継や社内承継と比較してはたしてM&Aが最善の選択なのか、検討する必要があるでしょう。
また、M&Aの目的の明確化、自社の経営状況や財務状況の把握、M&Aをする場合の条件の洗い出しなども、事前準備の段階で実施します。わからない点や悩んでいる点は専門機関と相談しつつ、M&Aの大まかな方向性を決定する段階です。
●アドバイザリー契約
アドバイザリー契約とは、M&A仲介会社やM&Aアドバイザリーに仲介業務を依頼する際に結ぶ契約のことです。
M&A仲介会社やM&AアドバイザリーにはM&Aアドバイザーが在籍しています。M&AアドバイザーはM&Aに必要な書類の草案作成、候補企業とのマッチング、条件交渉やデューディリジェンスの調整などさまざまなサポートを提供するため、M&Aを進行するにあたって頼りとなる存在です。
アドバイザリー契約を結ぶ際の主なチェックリストは下記のようになっています。
項目 | 内容 |
---|---|
専任契約・非専任契約 | ・依頼する業者を限定するか(専任契約)、限定しないか(非専任契約) ・一般的に専任契約の選択が多い |
仲介方式・アドバイザリー方式 | ・仲介方式は譲渡企業・譲受企業の間に立ち、中立的な立場からM&Aを進める方式 ・アドバイザリー方式は、譲渡企業・譲受企業のそれぞれにアドバイザーが立ち、交渉を行う方式 ・中小企業のM&Aでは仲介方式が多い |
業務内容・範囲 | アドバイザーがサポートを提供する業務内容や範囲のこと |
報酬や手数料 | 報酬や手数料は依頼する業者により異なるため、事前に確認する |
なお、M&A仲介会社やM&Aアドバイザリーとは自社の詳細な情報(財務情報や経営状況など)を共有するため、アドバイザリー契約とともに秘密保持契約を結ぶことが一般的です。
アドバイザリー契約や秘密保持契約が結ばれると、M&A仲介会社やM&Aアドバイザリーは会社の事業や財務状況の評価を目的にバリュエーション(企業価値評価)を実施します。
M&Aの進め方②マッチングと条件交渉
M&Aの事前準備が終わると、マッチングと条件交渉の段階へ移行します。マッチングとは、M&Aの候補企業を選定し、譲渡企業と譲受企業を引き合わせる段階です。候補企業が決定すれば、具体的な条件交渉への段階へ進みます。
マッチングと条件交渉で行われるプロセスは下記のとおりです。
・候補企業の選定
・経営者同士のトップ面談
・条件交渉
・基本条件の合意
・デューディリジェンス
各プロセスの内容を詳しくみていきましょう。
●候補企業の選定
候補企業の選定では、一般的に譲渡企業・譲受企業は下記のような資料を作成します。
資料名 | 内容 |
---|---|
ノンネームシート(ティーザー) | ・譲渡企業が自社を特定されない範囲で事業内容や財務状況を記載する資料 ・匿名で候補企業へコンタクトする場合など、マッチングの初期段階で利用される |
企業概要書(IM) | ・譲渡企業が自社の概要や事業内容、財務状況や組織形態など、詳細な情報を記載する資料 ・譲受企業がより具体的に興味をもった場合に提示されることが多い ・IMはInformation Memorandumの略称 |
意向表明書(LOI) | ・譲受企業が譲渡候補企業に対し、譲り受けの意思を表明する資料 ・M&Aの目的や形態、希望価額などを記載する ・一般的に、トップ面談の後に提出することが多い ・LOIはLetter of Intentの略称 |
譲渡企業はまずノンネームシート(ティーザー)を作成し、自社が特定されないかたちで複数の候補企業とコンタクトを取ります。この段階では候補企業を数十社程度リストアップし(ロングリスト)、多くの企業に打診するのが一般的です。
ノンネームシートに興味を示した企業があれば、秘密保持契約を前提により詳細な交渉を実施します。コンタクトする企業を限定し(ショートリスト)、企業概要書(IM)などより具体的な情報をもとに手続きを進めます。
なお、近年ではインターネット上で候補企業とコンタクトをとれるプラットフォームをもつ業者も増えてきました。プラットフォームをもつ業者では、オンライン上で自ら候補企業の検索が可能で、アドバイザーと相談しつつ、柔軟に候補先を検討できます。
▷関連記事:M&Aはマッチングサイトがおすすめ?種類やメリット、料金、選び方までまとめて解説
●経営者同士のトップ面談
経営者同士のトップ面談とは、譲渡企業と譲受企業の経営者が直接面談し、双方の経営理念や人柄、ビヴィジョンなどを話し合う場です。
候補企業とのコンタクトは、ノンネームシートや企業概要書など書面による情報交換から始まります。しかし、候補先の経営者が信頼できる人物か、M&Aの候補先としてふさわしいかなどの定性的な情報は、書面だけでは把握できません。実際に会って話すことで、候補企業に対する理解をより深めることができます。
トップ面談を実り多いものとするためには、下記のような準備が大切です。
項目 | 内容 |
---|---|
候補企業の調査 | ・候補企業の情報をできるだけ集める ・候補企業のホームページや帝国データバンクなどデータベースを活用する |
自社に関する情報のまとめ | ・相手の質問に的確に回答できるよう、自社の情報をまとめる ・創業の経緯や事業内容、財務情報を簡潔にまとめておく |
希望する候補先の明確化 | ・どのような企業に事業を譲渡したいかはよく質問される項目のため、事前に準備しておくのがよい ・従業員の待遇についても検討しておく |
期待するシナジー | M&Aによりどのようなシナジーが想定されるか検討しておく |
トップ面談は、必要であれば複数回行います。事前の準備をしっかりと行い、双方で納得できる面談の実施が重要です。M&Aの経験豊富なアドバイザーに調整を依頼すると、より円滑な面談が期待できます。
▷関連記事:M&Aのトップ面談の事前対策や最終契約までの流れを解説
●条件交渉
トップ面談にてM&Aの方向性を確認した後は、より具体的な条件交渉に入ります。条件交渉ではM&Aの形態や譲渡企業・譲受企業の状況によりさまざまな項目が検討されますが、主な項目は下記のとおりです。
・譲渡価額
・譲渡時期
・M&A後の従業員の待遇
・企業価値や事業価値は適正か
・必要な財務処理
・基本合意書に盛り込む内容
条件交渉のなかでも、譲渡価額は双方にとって重要な項目です。また、譲渡企業にとってはM&A後の従業員の待遇も大きな関心事となります。条件交渉の場では、双方が納得できる条件となるようにすり合わせが行われます。
▷関連記事:M&Aにおける条件交渉のチェックポイント。契約の前に確認したいこと
●基本条件の合意
M&Aではデューディリジェンスや最終契約に先立ち、基本合意書を締結します。これは一定の費用が必要となるデューディリジェンスを実施する前に、譲渡企業と譲受企業の双方でM&Aへの前向きな意思を確認し、大筋の合意を得ることが狙いです。
基本合意書では、これまでトップ面談や条件交渉で検討された内容が明文化されます。主に盛り込まれる内容は下記のとおりです。
・M&Aの取引形態
・M&Aの対象範囲
・譲渡日
・譲渡価額
・スケジュール
・デューディリジェンス
・独占交渉権の有無
・秘密保持
・その他の合意事項
なお、基本合意書は独占交渉権や秘密保持契約など一部の項目を除き、法的拘束力をもちません。理由は、デューディリジェンスを実施した結果を最終的な契約に反映させるためです。
●デューディリジェンス
デューディリジェンスとは、譲受企業が譲渡企業に対して行う実態調査のことです。デューディリジェンスは事業・財務・税務などさまざまな観点から行われ、帳簿だけでは確認できない企業の実態を調査、分析します。
デューディリジェンスの主要6項目と調査・分析する内容は下記のとおりです。
項目 | 調査・分析する内容 |
---|---|
事業デューディリジェンス | 事業の将来性の見極め、市場における対象企業の価値など |
財務デューディリジェンス | 対象企業の財政状態、将来的な収益性、簿外債務の有無など |
税務デューディリジェンス | 申告漏れや納税処理の誤りといった税務リスクの調査など |
法務デューディリジェンス | 定款や許認可の確認、権利・債権債務の法的なリスクなど |
人事デューディリジェンスス | 人事制度や人事システムは適正か、労務関係は適切に処理されているかなど |
ITデューディリジェンス | 自社のシステムとの統合に問題はないかなど |
デューディリジェンスは、一般的に譲受企業が専門家に依頼して実施します。そのため、一定の費用や期間がかかるプロセスです。デューディリジェンスを全般的に実施する場合もあれば、費用や期間を勘案し、範囲を限定して実施する場合もあります。
▷関連記事:「デューディリジェンス(DD)」とは?種類や手順・費用目安や注意点までくわしく解説
M&Aの進め方③契約
マッチングと条件交渉を進め、デューディリジェンスを実施した後は、最終的な契約の段階へと進みます。契約の段階で行うプロセスを下記のとおりです。
・最終契約書の締結
・クロージング
契約はM&Aの大詰めの段階です。契約を終えると、M&Aの取引はその大部分を完了することとなります。
●最終契約書の締結
最終契約書は、M&Aの手続きの最終段階で結ばれる契約書のことです。「最終契約書」という名称の契約書があるわけではなく、例えば、株式譲渡では「株式譲渡契約書」、事業譲渡では「事業譲渡契約書」などM&Aの形態に沿った契約書が結ばれます。
最終契約書では、主として下記のような条項が定められます。
・取引対象の特定と取引金額の確定または価額格調整
・表明保証
・補償条項
・誓約事項
・前提条件
・解除条件
・債務不履行にかかる損害賠償
・秘密保持
・公表
・競業避止義務
・費用負担
・裁判管轄
最終契約書は基本合意書で合意が形成され、デューディリジェンスの結果を反映したものが盛り込まれますが、基本合意書と異なり、法的な拘束力があります。専門家のアドバイスのもと、事前の十分な内容確認が必要です。
●クロージング
クロージングとは、最終契約書で結ばれた内容に基づいて実施される手続きのことです。例えば、株式譲渡では譲渡企業から譲受企業へ株式が譲渡され、譲受企業から譲渡企業へは譲渡の対価が支払われます。
クロージングを行う際に注意したい点は下記のとおりです。
・クロージング条件の確認
・条件を満たすためにどれくらいの期間が必要か
・必要な手続きの洗い出し
クロージング条件とは、最終契約書で定められるクロージングの前提となる条件のことです。具体的には、最終契約書の誓約事項が守られているか、表明保証の内容が適正であるかなどがあります。
クロージングを実施する際はクロージング条件を事前に確認し、適切にスケジュール調整を行った上で、必要な手続きを行う必要があります。
▷関連記事:M&Aがクロージングするまでの手続きや期間とは?クロージング条件のポイントも解説
M&Aの進め方④取引完了後
M&Aの取引自体はクロージングによりほぼ完了しますが、M&Aの目的を実現するためにはM&A取引完了後のプロセスも重要となります。
・ディスクロージャー
・経営統合(PMI)
・PMI後の事業展開(ポストPMI)
ここでは、M&A取引完了後のプロセスとして3つの項目を解説します。
●ディスクロージャー
M&Aのディスクロージャーとは、M&Aが成立したことを開示するプロセスです。M&Aはその性質上秘密保持が重要視され、最終契約書が結ばれるまで公にされることはあまり多くありません。
M&Aのディスクロージャーを実施する際のチェックポイントは下記のようになっています。
・従業員へのM&A成立の発表
・取引先企業やメインの金融機関への伝達
・法定開示や適時開示
M&Aではその成立により経営陣が交代したり、事業主体が変更となったりする場合があります。そのため、M&Aが成立した後は、従業員や取引先企業、メインの金融機関など関係各所への速やかなディスクロージャーが必要です。なお、企業によっては法定開示や適時開示を要する場合もあります。
●経営統合(PMI)
PMIはPost Merger Integrationの略称で、M&A成立後に実施される経営統合のプロセスのことです。M&Aでは、異なる企業風土や事業内容をもつ企業が1つの企業となります。PMIは異なる背景をもつ企業が円滑に融合するために欠かせない作業です。
PMIを実施する際に留意したい点は下記のとおりです。
・業務プロセス、業務フローの融合
・会計システムや人事システムなど、基幹システムの統合
・企業文化、風土の異なる2社の従業員の相互理解
また、PMIで目指すべき方向の明確化、適切な人材配置も重要です。M&Aのプロセスの早い段階から経営統合を視野に入れた行動をとっておくと、円滑な統合に役立ちます。
●PMI後の事業展開(ポストPMI)
PMIはM&A成立後の全体的なプロセスを指しますが、中小企業庁が公表した「中小PMIガイドライン」で示されているように、PMIをM&A成立後一定期間(1年程度)のプロセスに限定し、それ以降のプロセスをポストPMIとして別に捉える見方も出ています。
つまり、M&A成立後すぐの期間は対応が急務な部分から集中的に取り組み、その後は中長期的な視点から経営統合作業を行う考え方です。ポストPMIでは、下記のような視点が重要となります。
・集中的なPMI実施後も、長期的な視点から継続的に統合を進める
・M&Aの目的の達成度などM&A全体の振り返り、評価も重要
・必要に応じ、組織全体の体制の見直しも検討する
M&Aはあくまで手段であり、ゴールではありません。M&A成立後も継続してPMIを行うことにより、M&Aで期待していた目的を実現できます。
M&Aを進めるために抑えておきたいポイント
ここまで解説してきたように、M&Aには多くのプロセスがあります。事前準備、マッチングと条件交渉、契約、取引完了後の各プロセスで必要な手続きは異なります。
M&Aをスムーズに進めるためには、各プロセスでどのような作業が必要であり、どのような点に注意を払うべきか、事前に把握しておくことがとても重要です。
また、M&Aを進める上では時として困難に直面します。納得できる候補先がなかなか見つからない、候補先との条件交渉がうまくいかないなどです。
このような場合は1人で抱え込むことなく専門的な機関に相談しましょう。特に、信頼できるM&Aアドバイザーを選んでおくと、M&Aの各プロセスでトータル的なサポートを受けられます。
まとめ
今回はM&Aの進め方を4つのプロセスに分け、その詳細を解説しました。ただし、今回解説したプロセスはあくまで一般的なプロセスであり、実際のM&Aは各企業の状況、候補企業の有無などさまざまな要因により変化します。
fundbookでは、経験豊富で専門的な知識を有するM&AアドバイザーがM&Aの初期的な相談からクロージングまでトータル的な支援を提供しています。また、独自開発のM&Aプラットフォームにより、多数の優良企業のなかから最適な候補企業の選定が可能です。M&Aを検討されている方はぜひ弊社までご相談ください。
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