会社売却を検討する経営者の中には「いくらで会社が売れるのだろう」と不安や疑問を感じる方もいるのではないでしょうか。特に、会社売却後のリタイアを考える場合、売却価格がいくらになり、手元にどれくらいの金額が残るかは気になる点です。
本記事では、会社売却の基礎知識やメリット・デメリット、会社売却の相場や売却価格の計算方法を解説します。会社売却時にかかる費用や売却の手順も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
▷関連記事:「M&Aとは?意味・流れ・手法・費用などゼロからわかる完全ガイド【2025年最新】」
▷関連記事:「M&Aの価格算定方法とは?3つの手法と相場、実施の流れや注意点を解説」
安田 亮
https://www.yasuda-cpa-office.com/
企業価値100億円の企業の条件とは
・企業価値10億円と100億円の算出ロジックの違い
・業種ごとのEBITDA倍率の参考例
・企業価値100億円に到達するための条件
自社の成長を加速させたい方は是非ご一読ください!
目次
会社売却とは
会社売却とは、会社や事業を第三者へ譲渡することです。会社を売却する方法には、自社株式を譲渡する「株式譲渡」や事業の一部を譲渡する「事業譲渡」などが挙げられます。一般的に、会社を売却する企業を「譲渡企業」、会社を買い取る企業を「譲受企業」と呼びます。
会社売却は、以下のような様々な理由で実施されます。
| ・事業承継や大企業への統合 ・不採算事業の分離による中核事業への経営資源の集中 ・株式上場(IPO)後の譲渡益の獲得 |
特に、経営者の高齢化や後継者不足に悩む中小企業において、会社売却は事業の継続や従業員の雇用維持のために有効な選択肢です。
会社売却と事業売却の違い
事業売却は、会社の事業のうち、一部または全てを第三者に譲渡することです。会社売却の場合は経営権が譲受企業へと移りますが、事業売却の場合は対象が「事業」であり、経営権は移りません。
例えば、株式譲渡で会社売却した場合、売却の対象となるのは会社の株式であり、対価は株主が受け取ります。一方、事業売却の対象は事業であり、対価を受け取るのは会社です。税務面でも違いがあり、株式譲渡での会社売却は消費税が課税されませんが、一方で事業売却は課税対象です。
▷関連記事:「株式譲渡とは?メリット・デメリットや手続きの流れ、注意点や税金について徹底解説」
会社売却と廃業の違い
会社売却と廃業は、経営者が引退する場合や事業を終了する場合の主な選択肢となります。ただし、両者は会社の存続や従業員の雇用などの面で多くの違いがあります。それぞれの主な違いは以下のとおりです。
| 項目 | 会社売却 | 廃業 |
| 会社の存続 | 会社自体は存続する | 会社が消滅する |
| 会社の資産評価 | 売却時点での時価 | 精算に伴う処分価格 |
| 経営者が受け取れる資金 | 比較的多い | 少ないまたはゼロの場合もある |
| 従業員の雇用 | 基本的に継続する | 原則として全員解雇 |
| 取引先・顧客 | 基本的に継続する | 関係が途切れる |
| 経営資源やノウハウ | 引き継ぎが可能 | 引き継がれない |
会社売却を選択すると、会社が手掛ける事業は存続し、従業員の雇用や取引先・顧客との関係も基本的に引き継がれます。会社売却の対価を受け取れるため、経営者の手元に残る資金も比較的多い点が特徴です。
一方、廃業を選択すると会社自体が消滅し、従業員の雇用や取引先・顧客との関係も継続されません。経営者だけでなく、従業員や取引先などのステークホルダーにとっても、会社売却はメリットの多い選択肢といえます。
会社売却のメリット
会社売却の代表的なメリットは次のとおりです。
| ・売却益が得られる ・事業を継続できる ・従業員の雇用を守れる ・後継者問題の解決につながる |
例えば、会社の創業者が発行済株式の多くを保有する場合、会社売却により売却益を得られます。経営状況が悪化している会社の場合は、売却により事業を継続できる他、従業員の雇用を守れる点もメリットです。
また、後継者不足は、近年多くの中小企業に共通する課題です。後継者がいないことにより、会社の廃業を検討する経営者も少なくありません。会社売却で事業を引き継ぐことができれば、後継者問題の解決につながります。廃業コストを削減できるだけでなく、取引先や従業員への影響も軽減できます。
会社売却のデメリット
会社売却の主なデメリットは次のとおりです。
| ・競業避止義務を負う場合がある ・ロックアップの可能性がある ・従業員の離職の可能性がある |
会社を売却すると、一定期間、同じエリアで同一の事業をできない可能性があります。例えば、ラーメン店を売却した際、競業避止義務が規定されていれば、原則として一定期間同じエリアでラーメン店を開業することができません。特に、事業譲渡の場合は会社法第21条で競業避止義務が規定されているため、注意しましょう。
その他、売却契約によっては、売却後の一定期間、その会社で働かなければならない条項(ロックアップ)が盛り込まれる場合があります。また、売却で経営方針が変わり、従業員の離職につながる可能性にも注意が必要です。
▷関連記事:「会社売却とは?メリット・デメリットや流れ、注意点や事例を解説」
会社売却の相場
会社売却の相場は、以下の計算式で算出されます。
| ・純資産(時価)+営業利益の3年~5年分 |
これは、年買法(年倍法)と呼ばれる算定方式です。売却時の資産価値に数年分の営業利益を上乗せすることにより、会社の価値を計算します。例えば、会社売却時の純資産が10億円で、毎事業年度の営業利益が約2億円であった場合、会社売却の相場は以下となります。
| ・10億円+(2億円×3年~5年)=16億円~20億円 |
その他、M&Aや事業承継を支援する団体・専門業者のツールでも相場の目安は把握可能です。
例えば、日本政策金融公庫が運営する事業承継マッチング支援の公式サイトでは、「譲渡価格算出ツール」が提供されています。業種や地域、売上や減価償却費、営業利益や純資産額などを入力すると、売却価格の試算を知ることができてとても便利です。
ただし、年買法や譲渡価格算出ツールで得られた金額は、あくまで売却価格の「目安」または「参考値」を示すものです。年買法の価格が基準となる場合もありますが、売却価格には複数の計算方法があるため、実際にはその中から適した方法が採用され、交渉の基礎となります。
次の章で、アプローチごとの計算方法を紹介するため、参考にしてください。
会社売却価格の計算方法
会社の売却価格の基礎となる金額の計算方法には、主に3つのアプローチがあります。
| ・マーケットアプローチ ・インカムアプローチ ・コストアプローチ |
各アプローチの特徴と、それぞれの方法を解説します。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、株式市場やM&A市場の取引価額をもとに価格を算定する手法です。主な方法には次が挙げられます。
| ・市場株価法 ・類似会社比較法(マルチプル法) |
市場株価法は、株式市場の株価をもとに売却価格を算定する方法です。売却を検討する会社が上場している場合に採用されます。
類似会社比較法は、売却を検討する会社と類似した上場企業を選定し、選定した企業の企業価値や株式価値、各種財務指標を参考に売却価格を算定する方法です。
上場企業は財務指標を公表していることから、データの取得が容易です。また、売却を検討する会社が上場していない場合にも用いることが可能です。採用される指標には、EV/EBITDA倍率やEV/EBIT倍率、PERやPBRなどが挙げられます。
▷関連記事:「【企業価値評価】マーケットアプローチとは?よく使われる計算方法やシミュレーション方法」
インカムアプローチ
インカムアプローチは、会社の収益力に着目した手法です。代表的な方法には次が挙げられます。
| ・DCF法 ・配当還元法 ・収益還元法 |
インカムアプローチの中でも、会社売却でよく採用される方法が「DCF(Discounted Cash Flow、ディスカウント・キャッシュ・フロー)法」です。
DCF法は、会社が将来的に生み出すキャッシュフローを予測し、リスクを反映した割引率を適用して現在の株式価値を計算します。DCF法は会社の将来的な収益能力を売却価格に反映させやすいため、会社の価値を緻密に計算したい場合におすすめの方法です。
ただし、DCF法は計算が難しく、直感的には理解しづらいという難点があります。DCF法で理解が必要な割引現在価値やフリーキャッシュフローは以下の記事でまとめているため、あわせてご確認ください。
▷関連記事:「【企業価値評価】インカムアプローチとは?DCF法の計算方法」
コストアプローチ
コストアプローチは、会社の純資産価値に着目した手法です。具体的には次の計算方法が挙げられます。
| ・簿価純資産法 ・時価純資産法 ・年買法 |
簿価純資産法は、帳簿に計上された資産合計から負債合計を差し引いて売却価格を計算する方法です。時価純資産法では、帳簿価格を売却時の時価に換算して計算します。さらに年買法では、純資産に営業権(のれん)を加算して会社の価値を計算します。
年買法が会社売却の相場の計算でよく用いられるように、直感的にわかりやすく、計算が容易な点がコストアプローチの特徴です。特に中小企業は、同規模の企業と比較するマーケットアプローチや将来の収益予測をするインカムアプローチを採用しにくいことから、コストアプローチが多く用いられます。
▷関連記事:「【企業価値評価】コストアプローチとは?メリット・計算方法・他の方法との違い」
会社売却の相場に影響する要因
会社売却の価格は、前述のマーケットアプローチやインカムアプローチで算出された金額をベースに、譲渡企業と譲受企業の交渉を経て最終的な価格が決定されます。交渉の際に価格に影響する主な要因は以下のとおりです。
| ・企業の財務状況 ・技術力やブランド力、ノウハウなどの無形資産 ・譲受企業の強い購買意欲 ・業種・業界動向 ・将来性 ・各種リスク |
例えば、財務状況が健全で利益率が高い会社は、売却価格も高くなる傾向にあります。独自の技術やノウハウ、長年の実績で積み上げられたブランド力なども、売却価格に影響を与える要因です。
また、市場が拡大傾向にあり、今後の成長が見込める業種では、より高い価格での売却が期待できます。
一方、会社が持つ各種リスクは、売却価格の減額につながる要因です。具体的には、コンプライアンスリスクのある会社や従業員の離職率が高い会社は、売却価格にマイナスの影響を与える可能性があります。
売却価格を相場より高くする方法

多くの経営者の方が、会社の経営に様々な苦労をしてきたことでしょう。できることなら、納得のいく価格で会社を売却したいところです。以下では、売却価格を相場より高くするためのポイントを紹介します。
財務状況を改善する
会社の売却価格は、各種財務指標をもとに計算されます。例えば、年買法では会社の純資産額や営業利益が計算の基礎となり、類似企業比較法では、利払い前、税引き前、減価償却前、その他償却前利益である「EBITDA」がよく用いられる財務指標です。
最終的な売却価格は譲渡企業と譲受企業の交渉で決定されますが、財務指標をもとに計算された金額は交渉の基礎となります。そのため、「純資産額を増やす」「債務を減らす」など財務状況を改善すると、売却価格の増加を見込めます。
自社の強みを把握して効果的にアピールする
自社の持つ経営資源は、譲受企業にアピールできる大切な要素です。会社を売却する前に、優秀な人材、技術、ノウハウ、販路、顧客ネットワークなどの強みを洗い出して譲受企業に効果的にアピールすると、売却価格を高めることにつながります。
複数の譲受企業を検討する
自社に対する評価は、買収を希望する企業により様々です。例えば、自社の持つノウハウや技術を持たない企業にとって、その経営資源は高い価値があるでしょう。
したがって、売却先の譲受企業は複数社から検討することをおすすめします。複数の企業の中から、自社の経営資源を高く評価してくれる企業を見つけられれば、相場より高値での売却価格が見込めます。
複数の売却先候補を見つけることが難しい場合は、M&A専門業者を活用してみましょう。例えば、fundbookは幅広いネットワークや独自のプラットフォームを保有するため、数ある企業の中から自社に適した売却先を見つけやすくなります。
タイミングを見極める
タイミングの見極めは会社売却の重要なポイントです。自社の業績や市場が成長するタイミングであれば、売却先から将来性を高く評価され、より納得のいく売却価格が期待できます。会社売却を検討する際は、今が売却に適切な時期であるかを慎重に判断しましょう。
専門家の支援を受ける
会社を売却する際には、M&Aの経験豊富な専門家からの支援がとても重要です。専門家からの適正な評価や多様な選択肢の提示は、売却価格の向上に役立ちます。
例えば、M&A仲介会社やFAに依頼すると、客観的かつ専門的な手法から導き出された適正な評価を受けられます。
譲渡企業・譲受企業の双方が納得する根拠に基づいた価格を算出でき、自社だけでは見落としがちなブランド力や技術力を評価に反映できる場合もあるため、より高い価格での売却の可能性が高まります。
また、専門家が有する豊富なネットワークにより、多様な選択肢の中から売却先を選べる点もメリットです。M&A仲介会社が持つ独自のプラットフォームは、自社の価値をより高く評価し、相乗効果が見込める売却先の選定につながります。
会社売却時にかかる費用
会社売却時にかかる費用は、大きく「各種税金」と「その他の諸経費」に分けられます。どのような費用が必要かを事前に知っておくと、売却後に手元に残る金額をより正確に把握できます。
各種税金
会社売却時に課される税金は、その手法や売却した方の属性により異なります。例えば、株式譲渡で売却した場合、個人株主には所得税や住民税が課され、法人株主には法人税が課されることが一般的です。
事業譲渡で売却した場合、個人株主には譲渡資産に応じて所得税が課され、法人株主には法人税が課されます。なお、課税事業者が事業用資産を譲渡した場合、消費税が課される点に注意しましょう。
その他の諸経費
会社売却時に発生するその他の諸経費は次のとおりです。
| ・M&A専門業者への手数料 ・弁護士や税理士など各士業への報酬 ・デューディリジェンス費用 |
M&A専門業者に依頼した場合は、手数料が発生します。業者により着手金や月額報酬が求められたり、成功報酬のみの場合があったりと異なるため、事前にチェックしておきましょう。弁護士や税理士に依頼した場合も着手金や報酬の支払いが生じます。
なお、デューディリジェンスとは、基本契約後に売却側が開示した情報に誤りがないか精査するプロセスです。通常、外部の専門家に依頼するため、別途料金が発生します。
▷関連記事:「M&Aにかかる手数料はどのくらい?費用相場や種類、計算方法を解説」
▷関連記事:「M&Aの費用の相場・目安は?会計処理や仕訳、税務面まで解説」
会社売却の手続きの流れ
会社売却は、次の手順を踏んで進められるのが一般的です。
| 1. 会社売却の検討、戦略の策定 2. M&A専門業者の選定 3. マッチング 4. 企業概要書の開示やトップ面談 5. 基本条件の交渉と基本同意書の締結 6. デューディリジェンス 7. 最終契約 8. クロージング |
自社内で会社売却が適切な経営戦略かを検討した後に、売却先を探し、交渉を重ねて最終契約を結ぶのが大まかな流れです。M&A専門業者に依頼した場合、売却戦略の検討からマッチング、最終契約までの総合的なサポートを受けられます。
まとめ
会社売却は、後継者が見つからない時や譲渡益を得たい時などに有効な手段です。会社売却の相場は、純資産額の時価や営業利益をもとに、大まかな目安が得られます。会社の暫定的な価値を算定できるツールを提供する団体や専門業者もあるため、活用してみましょう。
fundbookでは、契約前の方でも利用できる無料の企業価値算定を実施しています。また、お問い合わせいただいたお客様に、別途譲渡先のご検討依頼などをお送りすることがあります。
fundbookにはM&A経験豊富なアドバイザーや高い専門性を持つ公認会計士・税理士が在籍しており、わかりづらい会社売却の進行も丁寧にサポートします。会社売却を検討している方は、ぜひfundbookまでご相談ください。