2006年以前の会社形態の1つに有限会社があり、現在(2022年7月時点)も特例有限会社として存続しているため、買収(M&A)することが可能です。
有限会社の買収には、株式会社にないメリットがある反面、有限会社ならではの注意点があるため、買収を検討するのであれば特徴を理解しておくことが大切でしょう。
本記事では、有限会社買収のメリットや注意点の他、株式会社との違いや有限会社のM&A事例も紹介します。
有限会社の買収を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
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有限会社とは
有限会社は、2006年5月の法改正以前に設立できた会社形態の1つです。株式会社と同様に法人格となりますが、現在は、法改正に伴い有限会社の設立はできません。
法改正以前、株式会社の設立には最低1,000万円の資本金が必要でしたが、有限会社は最低300万円の資本金で良かったため、株式会社を設立するよりハードルが低く、有限会社が多く存在しました。
しかし、法改正によって株式会社設立の最低資本金が1円となったことや、実態として株式会社と有限会社を区別する意味が薄れてきたため、有限会社の会社形態は不要となり、廃止されることになりました。
有限会社は現在の特例有限会社のこと
法改正以降は、以下の2つの選択肢が有限会社に与えられています。
・そのまま有限会社の名前を残した「特例有限会社」として存続する
・移行手続きを行い、株式会社に移行する
特に手続きをしない場合は、有限会社の性質を残した「特例有限会社」として存続します。つまり、現存する有限会社は、全て特例有限会社ということです。
一方、「特例有限会社の商号変更による株式会社設立登記申請書」と「特例有限会社の商号変更による解散登記申請書」の提出を行い、有限会社から株式会社へ移行する選択肢もあります。
ただし、有限会社から株式会社への移行には費用がかかってしまうため、そのまま特例有限会社として存続する道を選ぶ会社も多数存在しています。
なお、東京商工リサーチによると、有限会社は2013年から2018年の間に毎年10,000社以上が廃業・解散しており、年々数は減少しているのが現状です。
有限会社と株式会社との違い
有限会社と株式会社の主な違いは以下です。
会社形態 | (特例)有限会社 | 株式会社 |
商号 | 有限会社を名乗る | 株式会社を名乗る |
最低資本金 | 300万円以上 | 1円以上 |
株式の譲渡 | 制限あり | 定款の定めによって制限可能 |
取締役の任期 | なし | 原則2年(例外10年) |
決算公告の義務 | なし | あり |
有限会社と株式会社には、資本金の額や株式譲渡の制限、取締役の任期、決算公告の義務などの違いがありますが、会社法上はどちらも株式会社として扱われます。
もっとも大きな違いは、有限会社は株式会社と異なり現在新たに設立できない点です。
しかし、法改正により、株式会社は資本金1円以上で設立ができるようになった他、取締役の人数も1名以上(法改正以前は取締役3名以上、監査役1名以上)で良くなったため、株式会社設立のハードル自体が低くなっています。
有限会社の買収方法と手順
有限会社を買収する流れは、一般的なM&Aと同様です。ここでは、譲受企業側から見た大まかな流れを簡単に紹介します。
買収の流れは以下のとおりです。
1. M&Aの初期的な相談・登録
2. ノンネーム検討
3. 秘密保持契約の締結
4. 企業概要書の確認
5. アドバイザリー契約締結
6. トップ面談
7. 基本合意
8. デューデリジェンス
9. 最終合意
10 .最終契約の締結・クロージング
また、有限会社の買収方法には、株式譲渡と事業譲渡があります。ただし、有限会社は株式会社と手順が異なるため注意が必要です。
以下で、有限会社における株式譲渡と事業譲渡の特徴を紹介します。
▷関連記事:M&Aの一般的な手続きの流れ(プロセス) 検討~クロージングまで
株式譲渡
有限会社の買収では、一般的な株式会社と同様に株式譲渡による手法が可能です。ただし、有限会社は株式の譲渡制限があるため、株式会社より株式譲渡が難しくなる点に注意が必要でしょう。
会社法(第139条)により、譲渡制限がある株式に関しては、取締役会(取締役会設置会社)または株主総会(取締役会非設置会社)で承認が必要です。有限会社の場合は取締役会がないため、株式譲渡は株主総会で決議しなければいけません。
定款をあらかじめ変更して、株式譲渡の承認機関を株主総会以外(例えば代表取締役)に定めておくことも可能ですが、定款の変更には総株主の半数以上の賛成、かつ議決権の4分の3以上の賛成が必要になるため、どちらにせよ条件が厳しくなります。
なお、有限会社であっても、株式譲渡自体の流れは一般的な株式会社同士の流れと同じです。
▷関連記事:株式譲渡制限とは?メリットと譲渡決議の承認フローを完全ガイド
事業譲渡
事業譲渡は会社の一部または全部の事業を第三者に譲渡することで、譲渡対象となる事業には有形・無形の財産・債務、事業組織などが含まれます。事業譲渡では、譲渡企業だと譲渡したい対象事業を、譲受企業だと譲り受けたい対象事業を選択することが可能です。
有限会社の買収でも事業譲渡が用いられることがありますが、事業譲渡では基本的に株主総会で承認を得る必要があります。
また、以下のようなケースでは、その行為の効力が発生する前日までに、株主総会の特別決議で承認を得なければいけません。
・事業の全部を譲渡
・事業の重要な一部の譲渡
ただし、簡易手続きや略式手続きの場合は特別決議が不要です。そのため、事業譲渡を実施する場合は、該当するケースを把握しておく必要があるでしょう。
▷関連記事:事業譲渡の際に注意すべき会社法の項目は?定義や手続き、重要なポイントをわかりやすく解説
有限会社を買収するメリット3つ
有限会社を買収する主なメリットには以下が挙げられます。
・決算の公告義務がない
・登記費用がかからない
・培ってきた地盤を引き継げる
それぞれ解説します。
決算の公告義務がない
株式会社は決算公告の義務があるため、外部に財務諸表を公開しなければいけません。一方、有限会社には決算公告の義務がないため、買収後に財務諸表を公開する必要がなく、会社の秘密性を維持することが可能です。
登記費用がかからない
株式会社の場合は、役員の任期が2年(または10年)と決まっており、満了になると登記変更が必要です。登記変更には所定の費用がかかるため、株式会社だと役員の任期満了を迎えるたびに費用が発生します。
一方、有限会社は役員の任期に制限がないため、登記を変更する必要がなく、費用がかかりません。そのため、会社を存続するためのコストを抑えることができるでしょう。
培ってきた地盤を引き継げる
有限会社は2006年の法改正以前に設立された会社です。つまり、現時点(2023年7月時点)で15年以上存続している会社であるため、地域ではある程度の知名度があると考えられる他、社歴の長さをアピールでき、社会的信用性も高くなる可能性が高いです。
このように、買収する有限会社が培ってきた地盤を引き継げる点も、有限会社を買収するメリットになるでしょう。
有限会社を買収する時の注意点
有限会社を買収することにはメリットがある反面、いくつか注意点もあります。ここでは、有限会社を買収する時の主な注意点を紹介します。
買収が円滑に行われない可能性がある
前述したように、有限会社には株式の譲渡制限があり、株主総会で承認を得なくては第三者に株式を譲渡できません。
定款を変更していれば代表取締役の意思で譲渡も可能ですが、定款の変更にも株主総会の特別決議による議決権4分の3以上の賛成が必要になるため、一般的な株式会社の買収より時間がかかってしまう可能性があります。
有限会社は上場ができない
有限会社は、買収しても上場できない点に注意が必要です。上場は、企業が発行する株式を証券取引所で売買できるように証券取引所が資格を与えることです。
有限会社は譲渡制限があるため、株式を自由に売買できず、上場企業になれません。有限会社を買収後、株式会社への移行を行えば上場することが可能ですが、株式会社へ移行すると、有限会社のメリットの一部を享受できなくなってしまいます。
有限会社買収(M&A)の事例
以下では、有限会社の買収(M&A)事例を紹介します。実際の有限会社の買収事例を見ることで、よりイメージが掴みやすくなるので、参考にしてください。
県内2店舗の調剤薬局を大手が買収したケース
2020年、ココカラファインが有限会社薬宝商事の全株式を株式譲渡によって取得し、完全子会社化しました。
有限会社薬宝商事は1985年に設立され、神奈川県で調剤薬局2店舗を展開していた有限会社です。2019年6月期においては売上高352百万円・総資産122百万円という決算内容です。
ココカラファインは、自社が掲げる経営理念「人々のココロとカラダの健康を追求し、地域社会に貢献する」の実現を目指すためのものとして、買収を決めたとのことです。
このように、大手が事業拡大を目的として有限会社を買収するケースがあります。
事業譲渡により異業種から飲食業に参入したケース
2019年、建設業を営む株式会社プロジェクトは、ラーメン屋を2店舗展開する有限会社アドバンスから1店舗を譲受しました。
譲渡側の店主は70歳を超えており、後継者もいないことから廃業を検討していましたが、商工会議所の事業引継支援センターの協力のもと、株式会社プロジェクトへ譲渡を決めています。
譲受側の株式会社プロジェクトは、経営の多角化を目的に譲受し、今後は県外への展開も目指したいとしています。新規事業への足がかりとして有限会社を買収した事例です。
取引先を引き継ぐ形で買収したケース
2012年、株式会社有村紙工は、取引先であった有限会社ベル・トップを株式譲渡によって買収しました。
譲受企業の株式会社有村紙工は、取引先であった有限会社ベル・トップの社長と長い付き合いだったため、譲渡企業の状態を把握しており、譲渡企業の社長からM&Aの相談を受けて、買収を決めています。
株式会社有村紙工と有限会社ベル・トップは、ともに段ボールという共通の資材を扱う企業同士だったため、シナジー効果が高く、株式会社有村紙工はM&A の効果として、ベル・トップにおける既存取引先との取引拡大を目的としています。
このように、長年の取引先同士で、同意のもと買収するケースもあります。
まとめ
有限会社は2006年の法改正以降、設立できない会社形態です。特例有限会社という形で現在も存在していますが、年々数は減少しています。
有限会社には決算公告の義務がなく秘密性が高いことや、役員の任期がなく登記変更の費用がかからないことなどのメリットがある反面、買収に株式の譲渡制限があるため、円滑に進まないことがある点には注意が必要でしょう。
M&Aには幅広く専門性の高い知識が必要です。fundbookには100名以上のアドバイザーが在籍し、業界特化型の専門チームを組織しているので、有限会社のM&Aを検討している方は、ぜひ一度、fundbookにご相談ください。