M&Aの手法の一つである事業譲渡を行う際には、「のれん」が発生します。積極的にM&Aを行うソフトバンクが計上したのれんの償却負担額は、4兆円以上でした。(2017年8月期〜18年7月期)
また、2019年1月に行われた武田薬品によるシャイアー社の買収では、のれん代の合計は4.4兆円になるという試算もあります。
このように、のれんがニュースなどで取り上げられることもあり、耳にする機会も多いのではないでしょうか。中小企業における事業譲渡では、そのように巨額になることはほとんどありませんが、のれんは会計上・税務上で適切に処理しなければいけません。
しかし、のれんについて詳細な知識を持っている人は少ないと思います。
この記事では、事業譲渡を行う際に発生するのれんについて正しく理解し、会計上と税務上の取り扱いの違いまで分かるように、のれんについてご紹介します。
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事業譲渡を行う際に発生する「のれん」とは
のれんとは、貸借対照表における勘定科目の一つで、企業を譲受する際に支払われる取得原価(買収価額)と譲渡企業の時価純資産価額*1の差額を指します。また、譲受企業の取得額が時価純資産価額を上回る場合は、「正ののれん」、下回る場合は「負ののれん」ともいわれます。
のれんが発生する理由としては、譲渡企業の資産として数字で表せない、会社の社会的信用やブランドの知名度、会社の有する技術力、従業員の能力、取引先関係などの無形固定資産も買収価額に含まれるからです。
店先にかかっている暖簾(のれん)を想像して下さい。そのお店が有名だったり、信頼の置ける商品を取り扱っている場合、そののれんを見ただけで、お店に対する信頼感だったり、購買意欲が湧いたりとプラスの力が働きます。その目に見えない力がのれんです。
会社の信用やブランドの知名度といった目に見えない無形固定資産を明確に資産評価することは難しいですが、そこには価値があります。のれんは、超過収益力と呼ばれることもあり、企業の価値を正しく評価するためには、可視化できない無形固定資産を数字として評価する必要があります。
そのため、無形固定資産を大きくまとめてのれんとして、会計や税務で取り扱っているのです。なお、会社法の施行前はのれんのことを営業権としていました。そのため、今でものれん=営業権として扱う人もいます。ただし、厳密にいうと営業権は、「他の企業を上回る企業収益を得ることができる無形の財産的価値を有する権利」などを指し、のれんとは多少の違いがあります。
*1 時価純資産価額:当該事業に基づく簿価の資産と負債を時価に直した際の差額。※以下の項で詳細を解説
▷関連記事:M&Aで必ず知っておくべき「のれん代」を徹底解説
事業譲渡を行う際に発生するのれんの取り扱い方
取得原価(買収価額)と時価純資産価額の差額であるのれんは、実際に金銭の移動が発生します。そのため、日本の会計基準に照らし合わせて償却する必要があります。
その取り扱い方は会計上と税務上で異なるので、この項で解説します。
会計上の取り扱い
のれんの償却方法と耐用年数は、譲受企業が決めることになります。貸借対照表と損益計算書に計上されますが、会計上は無形固定資産として取り扱い、損益計算書では販売費および一般管理費の区分に表示されます。
資産として計上されたのれんは、日本の会計基準に照らし合わせると、その効果が及んでいる期間(見積耐用年数)を算出し、最大20年以内で毎年一定の減価償却を計上する定額法を用いて償却します。
一般的な事業譲渡では、譲渡側の資産に付加価値であるのれんをプラスして金額が決められます。しかし、事業譲渡を行った後に、譲渡企業の事業に問題が発生する可能性や債務の負担が見込まれる場合などでは、それらを見越して時価純資産額よりも低い金額で事業譲渡が実施されることがあります。
例えば、多額の簿外債務を引き受ける可能性が高い、損害賠償訴訟を抱えている、事業譲渡実施時に退職者に対して割増退職金を払う予定がある、といったケースが考えられます。
その場合ののれんは「負ののれん」となります。負ののれんは、譲受企業にとっては取得原価を下げられることで利益になるため、会計上では事業年度の特別利益として一括で計上します。のれんと処理が異なる点は、のれんが最大20年以内の償却なのに対し、負ののれんは一括処理という点です。
税務上の取り扱い
のれんに対する税務上の取り扱いに関しては、2006年の税制改正以降にのれんに類似する概念ができました。のれんは資産調整勘定、負ののれんは差額負債調整勘定として処理できるようになったのです。
注意点としては、のれんの計上額と資産調整勘定の計上額が一致した場合でも、のれん償却と資産調整勘定償却額が一致するとは限らないということです。先述の通り、のれんの償却期間は最大20年以内であるのに対して、資産調整勘定は5年の定額償却が適用されます。
その場合、会計上ののれんの金額と、税務上の資産調整勘定、差額負債調整勘定の金額は異なります。
株式を売買した場合は資産調整勘定は発生しないため、のれん償却の損金算入*2はできません。しかし、事業譲渡においては、のれんを損金算入することが可能となります。損金算入することができれば、節税効果になるという大きなメリットが得られます。
損金算入 *2:法人税法上、損金として処理が認められるもの
▶関連記事:【株式・事業譲渡などM&Aの税金】節税や税務、最新の税制変更を解説
事業譲渡を行う際の企業評価方法とのれん代の計算方法
ここまでは、事業譲渡を行う際に発生するのれんの概要と、会計上、税務上の取り扱いについて説明してきました。
ここからは、事業譲渡を行う際の企業の評価方法やのれんの計算方法について説明します。実際はどのような算定法や計算になっているのでしょうか。
中小企業の評価方法
上場していない中小企業が事業譲渡を行う場合、株式が証券市場に出回っていないため、株価と株式数を使用して自社の価値を図ることはできません。そのため、譲渡企業にどのくらいの価値があるのかを算出する企業価値評価(バリュエーション)を行う必要があります。
例えば、中小企業のM&Aにおいてはコストアプローチがよく採用されます。これは、企業の保有している資産および負債をもとに株式価値を算出する方法です。具体的には「簿価純資産法」と「時価純資産法」があります。
企業価値評価には、その他にもインカムアプローチやマーケットアプローチなど複数の手法があり、専門の知識が必要となります。不明な点がある場合はご自身で判断せずに、専門のM&Aアドバイザーや税理士などに相談しましょう。
▷関連記事:企業価値評価とは?M&Aで使用される企業価値の算出方法
事業に係る時価純資産価額とは?
のれん代の計算で使われたり、前述の企業価値評価の際に使われたりするのが時価純資産価額です。これは、当該事業に係る資産を全て時価に換算して、そこから負債の時価を引いた差額のことを指します。
資産と負債を時価換算する際には、売掛金、貸付金として回収不能と見込まれる債権がないかどうかや、棚卸資産として滞留品や販売中止予定品・赤字販売見込品・陳腐化した在庫はないかどうかなどをしっかりチェックしつつ、時価として正当な金額を算出します。
のれん代の計算方法
先述の通り、のれんは最終的には取得原価と譲渡企業の時価純資産価額の差額のことです。中小企業の企業価値を算定する際に用いられるのれん代は、事業譲渡の対象事業の修正後、税引前利益に業種や業績などを考慮した既定の年数を掛けることで算出されます。
一般的にその年数は、例えば飲食店など、流行に左右されることの多い業界は2~3年、一度開業すれば長期の営業が見込まれる事業の場合は5年といわれています。
【動画で解説】 M&Aとは? ~目的・手法・メリット・流れ~
まとめ
事業譲渡におけるのれんは、明確には表せないものの、当該事業におけるブランドや営業力、従業員など、なくてはならないものです。会計や税務でも取り扱う必要がある項目であるため、もし膨大な金額になれば償却や税金によって大きなデメリットにもなりかねません。
詳細な数字・処理方法まで把握するのは専門家でないと難しいですが、事業譲渡を行う経営者として、のれんに関する知識は身につけておくと良いでしょう。