事業承継では、先代の経営者から後継者へと自社株式や事業用資産、ノウハウなどを承継するために、さまざまな手続きを行います。減資は事業承継の際の経営判断として採用されることもある手法です。正しい手順で減資を行えば、事業承継において有効な手段となる場合があります。
本記事では、減資の基本的な意味から事業承継における効果、減資を行う際に必要な手順や注意点を解説します。事業承継で減資を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
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減資とは?
減資とは、資本金を減少させることを指します。資本金は会社が事業を行う際に必要な資金です。減資にあたっては株主に払い戻しをすればよいのではないかと考えるかもしれませんが、資本金はそのまま配当などとして株主に払い戻すことはできません。
そのため、減資の手続きにより資本金を配当可能な資本剰余金へと振り替えて、剰余金の配当が可能とする場合があります。その他、赤字がある場合の欠損金のてん補、税金への対策などを目的として実施されるケースもあります。
減資をする際は、原則として株主総会の特別決議や債権者保護手続きが必要です。なお、欠損金てん補の金額を超えない範囲で減資を行う際は、株主総会の普通決議で減資を行えます。
無償減資と有償減資
減資には、無償減資と有償減資の2つの種類があります。無償減資とは、株主への資産の払戻・返還を伴わない減資のことです。例えば、帳簿上で「資本金」を借方に計上し、貸方に「その他資本剰余金」や「資本準備金」を計上して資本金を振り替えると、資本金の金額は減少しますが、会社の純資産の部の合計金額に変化があるわけではありません。このように、帳簿上の資本金の額のみを減少させ、会社の財産の減少は伴わない方法が無償減資です。一方、有償減資とは、株主への資産の払戻・返還を伴う減資のことを指します。
なお、2006年5月に改正された会社法以降、減資は「無償減資」のことを指すようになりました。有償減資を行う際は無償減資により資本金の振替を行ったあと、その他資本剰余金を現預金などに振り替えて株主に配当する流れとなります。
事業承継における減資の効果
事業承継では、いくつかの目的で減資が行われる場合があります。以下、ケースごとに減資の効果を説明します。
事業承継税制の要件を満たせる
事業承継で減資が行われる1つのケースに、事業承継税制の要件を満たす目的があります。事業承継税制とは、先代の経営者から後継者へ自社株式などを贈与・相続した際に、贈与税や相続税の猶予や免除が受けられる制度です。
事業承継税制の要件の1つには「中小企業者であること」があり、業種ごとに資本金または従業員数のどちらかを満たしている必要があります。
業種 | 資本金 | 従業員数 |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
製造業のうちゴム製品製造業 (自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業 ならびに工業用ベルト製造業を除く) | 3億円以下 | 900人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
サービス業のうちソフトウェア業または情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
サービス業のうち旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
例えば、製造業の方の場合は、資本金が3億円以下であるか、従業員数が300人以下であるか、どちらかの要件を満たせば、事業承継税制の活用が可能です。したがって、減資により業種ごとに定められた資本金の要件を満たすことができれば、従業員数にかかわらず事業承継税制を活用できることになります。
購入できる自社株を増やせる
減資は自社株の購入にも有用です。事業承継後の安定した経営を考えると、自社株式の分散はできるだけ避けたいところです。しかし、自社株式の買い取りには財源規制があり、買い取り時点の分配可能額の範囲内でしか自社株を購入することはできません。
このとき、減資を行って分配可能額を増やすと、より多くの自社株を購入することが可能です。経営権を集中させることができ、後継者へのよりスムーズな事業承継に役立ちます。
税率の適用が変わる場合がある
減資をした場合、法人税や法人事業税、法人住民税の税率などに影響があるケースがあります。これは、法人税などが税率の基準の1つに資本金を採用しているためです。
例えば、減資を行って資本金が1億円以下となった場合、中小法人として扱われることになるため、法人税において軽減税率の適用や交際費課税の緩和などが受けられます。また、法人事業税では資本金1億円超の法人に対して外形標準課税を採用していますが、資本金が1億円以下であれば外形標準課税は適用されません。このように、減資により税率の適用が変わる場合がある点は覚えておくと良いでしょう。
事業承継における減資の手順
減資をする際の主な手順は下記のとおりです。
1.株主総会の特別決議の承認を得る
2.債権者保護手続きを行う
3.登記申請を実施する
各手順の詳細を以下で解説します。
1.株主総会の特別決議の承認を得る
減資をする際は、原則として株主総会の特別決議が必要です。決議が必要な事項は下記となります。
1.減少する資本金の額
2.減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
3.資本金の額の減少がその効力を生ずる日
なお、定時株主総会で欠損の範囲内の減資を行う際は、株主総会の普通決議で可能です。また、株式の発行と同時に減資を行い、資本金の額が減資前を下回らない場合は、取締役会決議や取締役の決定で減資を行えます。
2.債権者保護手続きを行う
減資は債権者にとって不利益となる場合もあるので、一定の場合を除き債権者保護手続きが必要となります。債権者保護手続きでは、下記の公告・催告を行います。
・官報公告
・債権者への個別の催告
官報公告や個別催告には、「資本金などが減少した内容」や「法務省令で定められた計算書類」、「債権者が一定の期間内に異議が述べられること」などの記載が必要です。債権者が異議を述べられる期間は1ヶ月以上設ける必要があるため、債権者保護手続きには最低でも1ヶ月以上の期間が必要となります。また、債権者から異議があった際には、減資の効力が発生するまでに債権の弁済や担保の提供などを行います。
3.登記申請を実施する
債権者保護手続きが完了し、株主総会などで定めた効力発生日がきたら、減資の効力が発生します。減資をした場合には、効力が発生してから2週間以内の登記が必要です。管轄の法務局に必要書類を提出し、登記を行います。
事業承継における減資の注意点
減資はいくつかのメリットがある一方、デメリットもあります。以下では、事業承継で減資をする際に注意したい点を紹介します。
事業承継税制の取消事由になる
減資は事業承継税制の要件を満たす際に活用できる場合がありますが、事業承継税制の適用を受けた後の減資には注意が必要です。理由は、減資が事業承継税制の取消事由となっているからです。
事業承継税制では贈与税や相続税の納税猶予を受けられます。ただし、事業承継税制の適用を受けた後に減資を行ってしまうと、納税猶予が取り消され、贈与税や相続税を支払わなければなりません。さらに、利子税の納付も必要となります。事業承継税制は大きなメリットがある一方、上記のような取消事由への配慮が大切です。
取引先や金融機関へのマイナスイメージ
減資は欠損金の補填で採用される場合も多く、減資を行うと「会社の業績が悪いのではないか」という印象を与える恐れがあります。取引先や金融機関、株主などの関係者にマイナスなイメージを持たれてしまうと、今後の経営に影響を及ぼしかねません。
そのため、事前にどのような目的で減資を行うのか、取引先や金融機関などの関係者に説明し、理解と協力が得られる環境づくりが大切です。
借入金などの債務がある場合に債権者から異議を申し立てられる場合がある
減資を行う際には債権者保護手続きが必要となり、場合によっては債権者から異議を申し立てられるケースがあります。債権者から異議を申し立てられた場合には、先述のように債務の弁済や担保の提供などの対応が迫られる可能性があるため、注意が必要です。
減資は資本金を減少する手続きであることから、利害関係者の多い方法です。取引先や金融機関などと同様に、債権者とも事前に相談する機会を持ち、理解を得ておくことが重要となります。
まとめ
減資は、会社の資本金を減少する手続きです。資本金は事業承継税制における要件や法人税などの税率の適用に関する基準となっており、減資を行うことでメリットを受けられる場合があります。また、事業承継に際して自社株買いを行う際にも有用です。
減資を行う際には、株主総会の特別決議や債権者保護手続きが必要となります。その他、事業承継税制の取消事由や取引先などの関係者へも配慮しなければなりません。
そのため、減資を行う際は減資が本当に必要か、またどのような点に注意しなければならないのか、専門家と相談しながら慎重に行うことが大切です。fundbookには100名以上のアドバイザーが在籍し、公認会計士や税理士などの有資格者を含めたチームでサポートを提供しています。事業承継やM&Aについて不明な点がある方は、ぜひ一度fundbookまでご相談ください。