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2023/09/26

事業承継税制の取消事由とは?注意点とあわせて詳しく解説!

事業承継税制の取消事由とは?注意点とあわせて詳しく解説!

事業承継税制は、承継時に生じる贈与税または相続税の納税猶予・免除が受けられる制度であり、事業承継を検討している多くの方が利用を考えているはずです。

しかし、事業承継税制は適用後も要件を満たさなければいけないため、事業承継税制を利用するのであれば事前に取消事由を把握し、対策しておくことが大切です。

本記事では、事業承継税制の主な取消事由を紹介し、取消にならないためのポイントなども解説します。

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事業承継税制は承継時に受贈者が納税の猶予・免除を受けられる制度

事業承継税制は、後継者が引き継ぐ会社の株式を生前贈与や相続で取得した際、一定の要件を満たすことで、承継時の贈与税・相続税の納税を猶予または免除される制度です。

日本では中小企業経営者の高齢化が深刻化しており、多くの中小企業の廃業によって日本経済に大きな打撃を与えられることが危惧されています。

また、中小企業の事業承継では後継者が株式の取得を行いますが、その際に多額の税金(贈与税・相続税)を納めなくてはならず、事業承継後の経営を締め付けてしまうことが大きな課題となっていました。

このような背景で、事業承継を円滑に進めるために「経営承継円滑化法」が施行され、4つの柱のうちの1つとして事業承継税制が策定されています。経営承継円滑化法における4つの支援は以下のとおりです。

  • 税制支援(贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度)の前提となる認定
  • 金融支援(中小企業信用保険法の特例、日本政策金融公庫法等の特例)の前提となる認定
  • 遺留分に関する民法の特例
  • 所在不明株主に関する会社法の特例の前提となる認定

なお、2019年度の税制改正で個人版事業承継税制(個人事業主用)も創設されましたが、以下では法人版(非上場会社)に焦点を当てて解説します。

事業承継税制の一般措置と特例措置

事業承継税制は2018年度の税制改正により、従来の一般措置に加えて、特別措置が創設されています。

一般措置特例措置
特例承継計画の提出不要必要
適用期限なし令和9年(2027年)12月31日まで
対象株数総株式数の3分の2まで(最大)全株式
納税猶予割合贈与:100%、相続:80%100%
後継者複数の株主から1人の後継者複数の株主から最大3人の後継者
雇用確保要件承継後、5年平均で8割の雇用維持実質撤廃
事業継続が困難な事由が
生じた場合の免除
なしあり

創設された特例措置では、従来の一般措置より納税猶予割合が優遇されており、事業承継税制の適用を受け続けるための雇用確保要件が実質撤廃となっています。

ただし、特例措置は2024年3月31日までに特例承継計画の提出が必要となるため、事業承継に事業承継税制の活用を検討している方は、早めに準備をするようにしましょう。

事業承継税制の適用要件

事業承継税制の適用は、経営承継円滑化法の認定を受けることが前提です。経営承継円滑化法の認定を受けるためには、「会社」「先代経営者」「後継者」のそれぞれが以下の要件を満たす必要があります。

対象要件
会社     中小企業である従業員が1名以上非上場会社で風俗営業でない資産管理会社ではない
先代経営者会社の代表であった相続・贈与時に、親族で自社株式の過半数以上を保有し、筆頭株主であった贈与時に代表ではない(贈与の場合)
後継者相続・贈与時に後継者と親族で自社株式の過半数以上を保有し、親族の中で筆頭株主になる会社の代表である18歳以上で、贈与時まで役員を3年以上務めている(贈与の場合)相続直前に役員であり、相続してから5ヶ月後に代表である(相続の場合)

なお、事業承継税制の特例措置を受けるためには、経営承継円滑化法の認定を受ける前に、「特例承継計画」を策定し、期日までに各都道府県知事に提出する必要があります。

特例承継計画は会社を承継するまでの運営や、承継後5年間の事業計画等を記載しなければいけない他、認定経営革新等支援機関(商工会、金融機関、税理士、弁護士等)による所見の記載も必要となるので、早めに準備しておきましょう。

事業承継税制の取消事由

事業承継税制は、適用されて終わりではなく、適用後も満たさなくてはいけないさまざまな要件があります。要件を満たせない場合は、事業承継税制の適用が取消となり、猶予されていた全額または一部の贈与税・相続税に利子を上乗せして納付しなくてはいけないため、注意が必要です。

主な取消事由には以下のようなものがあります。

  • 後継者が代表者でなくなる(退任・株式譲渡・死亡)
  • 平均8割の雇用が維持できなくなった
  • 後継者と同族関係者の議決権割合が50%以下になった
  • 後継者が筆頭株主でなくなった
  • 納税猶予中の株式の一部を譲渡した
  • 会社が解散または組織変更をした
  • 都道府県・税務署へ必要書類の提出をしなかった
  • 資産管理会社に該当した
  • 後継者の議決権を制限した
  • 拒否権付株式(黄金株)を後継者以外が保有した
  • 資本金・準備金を減少した
  • 本業の総収入が0円に該当した

ここでは、各取消事由の内容を解説するので、確認しておきましょう。

税制取消事由①:後継者が代表者でなくなる(退任・株式譲渡・死亡)

承継後の5年間は事業継続期間となり、事業継続期間内は後継者が引き継いだ会社の代表でなければいけません。

事業承継税制は事業承継を円滑に実施するために、納税を猶予または免除する制度のため、後継者が会社の経営を続けることが前提です。そのため、退任または株式の譲渡により後継者が代表でなくなった場合は事業承継税制の適用が取消となります。

ただし、以下の「やむを得ない理由」がある場合は取消事由に該当しません。

  • 精神障害者保健福祉⼿帳(1級)の交付を受けた
  • ⾝体障害者⼿帳(1級または2級)の交付を受けた
  • 要介護認定(要介護5)を受けた
  • 上記に類すると認められる場合

また、後継者が死亡した場合も事業承継税制の適用が取消となりますが、税務署に「免除届出書」または「免除申請書」を提出すれば、納税は免除されます。

税制取消事由②:平均8割の雇用が維持できなくなった

事業継続期間内は、従業員の雇用を平均8割以上維持することが義務となるため、満たせない場合は事業承継税制の適用が取消となります。

ただし、前述しているように特例措置が適用されている場合は5年間の平均が8割を下回っても取消にはならず、代わりに「要件を満たせない理由」を都道府県に報告しなければいけません。

都道府県への報告は、認定経営⾰新等⽀援機関が所見を記載しなければいけないので、流れを把握しておくようにしましょう。なお、要件を満たせない理由によっては、認定経営⾰新等⽀援機関による指導や助言を受ける必要があります。

税制取消事由③:後継者と同族関係者の議決権割合が50%以下になった

事業継続期間内は、後継者と同族関係者が有する議決権の数が総株主等議決権数の50%以下になると、経営権を握っているとは言えないなるため、事業承継税制の適用が取消になります。

税制取消事由④:後継者が筆頭株主でなくなった

事業継続期間内に後継者が筆頭株主ではなくなり、同族関係者が筆頭株主になった場合は、後継者が代表者ではないと考えられるため、事業承継税制の適用が取消となります。

税制取消事由⑤:納税猶予中の株式の一部を譲渡した

事業継続期間内に納税猶予中の株式の一部を譲渡した場合は、事業承継税制の適用が取消になり、猶予を受けていた納税額の全額と利子の支払いが生じます。ただし、事業承継税制を利用する前に保有していた株式の範囲内で譲渡するのは問題ありません。

事業承継税制の適用を受けている株式と受けていない株式の譲渡は、受けていない株式から譲渡したとみなされます。

例えば、後継者が元から30株保有しており、先代経営者から70株を譲渡された場合、30株までの譲渡は問題なく譲渡できますが、31株以上を譲渡すると取消事由に該当するので、注意しましょう。

なお、事業継続期間経過後(6年目以降)に納税猶予対象株式の一部を譲渡した場合は、譲渡部分のみ適用が取消になります。

税制取消事由⑥:会社が解散または組織変更をした

事業承継税制の適用を受けた後に解散した場合は、適用が取消になります。株式会社の場合は、最後の登記から12年間、役員の登記をしないでいると解散したとみなされ、これを「休眠解散(みなし解散)」と言います。

休眠解散も解散に含まれるので注意しましょう。なお、組織変更(合併、完全子会社)も取消事由に含まれますが、一定の要件を満たせば事業承継税制の適用は承継されます。

税制取消事由⑦:都道府県・税務署へ必要書類の提出をしなかった

事業承継税制の適用を受け続けるためには、以下の書類を提出する必要があります。

  • 事業継続期間内:都道府県に「年次報告書」、税務署に「継続届出書」を毎年提出
  • 事業継続期間経過後(6年目以降): 3年に1回税務署のみに「継続届出書」の提出

特に事業継続期間経過後は書類提出の内容が緩和されたため、提出義務を忘れないように注意が必要です。事業承継税制を活用するのであれば、書類の作成や提出などの管理ができる仕組みを作っておくと良いでしょう。

税制取消事由⑧:資産管理会社に該当した

事業承継税制の適用は資産管理会社でないことが要件に含まれているため、資産保有型会社または、資産運用会社に該当した場合は、事業承継税制の適用が取消になります。

  • 資産保有型会社:「特定資産の帳簿価額の合計÷資産の帳簿価額の総額」が70%以上の会社
  • 資産運用会社:「特定資産の運用収入の合計額÷資産の帳簿価額の総額」が75%以上の会社

特定資産とは、国債や株式等の金融商品や、ゴルフ場の会員権など、特定の目的のために使途・保有するまたは、運用等に制限がある資産のことを指します。

なお、「常時使用する従業員数が5人以上」や「事務所、店舗、⼯場その他これらに類するものを所有し、または賃借していること」など、一定の条件を満たせば資産管理会社でも事業承継税制の適用が認められます。

税制取消事由⑨:後継者の議決権を制限した

事業継続期間内は、後継者の議決権を制限した場合に経営者として支配能力がないと判断されるため、事業承継税制の適用が取消になります。具体的には、以下の状態が該当します。

  • 株式会社:後継者が取得した納税猶予対象株式を議決権制限株式に変更した場合
  • 持分会社:後継者の議決権を制限する旨の定款の変更をした場合

税制取消事由⑩:拒否権付株式(黄金株)を後継者以外が保有した

事業継続期間内に、株式総会や取締役会での議案を拒否できる拒否権付株式(黄金株)を後継者以外が有した場合は、事業承継税制の適用が取消になります。

後継者以外が黄金株を有してしまうと、後継者の意思決定に拒否権を発動できることになり、後継者の経営権が不完全になるためです。

税制取消事由⑪:資本金・準備金を減少した

資本金や準備金の減少を行ってしまうと、事業承継税制の適用は取消になります。事業承継税制を活用した場合は原則、減資できないと認識しておくことが大切です。ただし、減少資本金の全額を準備金とする場合や欠損補填目的の減資は取消事由から除外されます。

税制取消事由⑫:本業の総収入が0円に該当した

承継した会社の主たる事業の収入(営業外収益および特別利益は除く)が0円の場合は、事業実態がなくなるため、事業承継税制の適用が取消になります。あくまでも主たる事業の収入がなければいけないため、営業外収益で収入があっても取消事由に該当する点は注意が必要です。

事業承継税制が取消されたときのリスクと減免措置

事業承継税制の取消事由に該当して適用が取消になった場合は、猶予されていた贈与税または相続税の全額または一部に加えて、利子税を納付しなくてはいけません。

事業承継時の贈与税・相続税の納税額は、基本的に高額となるケースが多いため、事業承継税制の適用が取消になると後継者の税負担は重くなってしまいます。そのため、事業承継税制を利用する際は、取消事由に細心の注意を払うようにしましょう。

ただし、事業承継税制の特例措置の場合は、経営環境変化による減免措置が設けられています。

従来の事業承継税制(一般措置)では、後継者が自主廃業したりM&Aによる株式の譲渡を実施したりした場合に株価が下落していても、承継時の株価を基に贈与税または相続税が課税されていました。

特例措置では、売却額や廃業時の評価額を基に納税額を計算し、承継時の株価を基に計算された納税額との差額が減免されます。

例えば承継時の株価総額が2億円で納税猶予額が1億円だったとします。20年後に1億2,000万円の売却額に減少し、再計算した納税額が6,000万円だった場合は、1億円ではなく、6,000万円が納税額になります。

なお、減免措置が受けられるのは、事業継続期間経過後(6年目以降)が条件となるので、覚えておきましょう。

事業承継税制が取消されないための注意点

事業承継税制を活用して後継者の納税負担が軽減できても、取消事由に該当してしまうと、結果的に重たい税負担が生じてしまいます。そのため、事業承継税制が適用されたら、取消されないように注意が必要です。

ここでは、事業承継税制の適応が取消されないための注意点を紹介するので、確認しておきましょう。

適用要件を確認する

事業承継税制はそもそも適用要件を満たしていなければ利用できませんが、適用後も取消事由に該当しないよう注意が必要です。

主な取消事由を紹介しましたが、他にも取消事由はあり、細かい点も多いです。基本的に経営者や後継者のみで要件を全て把握するのは難しいため、事業承継税制に詳しい専門家に相談しながら制度を利用すると良いでしょう。

従業員雇用維持が難しいときには報告書を提出する

事業承継税制の特例措置が設けられたことで、「5年間平均8割以上の雇用維持」の要件が実質撤廃になりましたが、要件を満たせない場合は報告書の提出義務があります。

万が一、経営状況の悪化でなどで雇用の維持が難しい場合は、満たせない理由を記載した書類を必ず提出するように心がけてください。報告書の提出をしないまたは、虚偽の報告をすると、事業承継税制の適用が取消されてしまうので、注意しましょう。

5年経過後の「継続届出書」の提出を忘れないようにする

事業承継税制の適用後5年間は毎年、都道府県に「年次報告書」、税務署に「継続届出書」を提出しなければいけません。

適用後5年間は毎年の業務になるので、忘れることが少ないと考えられますが、6年目以降は3年に1回、税務署のみに「継続届出書」の提出となり、提出する書類の数と頻度が緩和されるため、忘れがちです。

6年目以降に継続届出書の提出を忘れてしまうと事業承継税制の適用が取消になってしまうため、事業承継の利用を決めたら、忘れずに書類を作成・提出できる仕組みを構築しておきましょう。

まとめ

事業承継税制は、承継時の贈与税または相続税の猶予・免除を受けられる制度です。後継者の納税負担を軽減し、承継後の事業を円滑に進めるために導入された制度のため、事業承継を実施する際は上手に活用してみてください。

ただし、事業承継税制は、適用時だけではなく適用後も要件を満たさなければいけない点に注意が必要です。適用後に取消事由に該当してしまうと、猶予されていた贈与税または相続税の全額または一部に加えて利子税の納付が必要になるので、取消にならないよう細心の注意を払うようにしましょう。

また、事業承継税制の取消事由は項目が多く、内容も細かくなっています。そのため、制度を活用して事業承継を実施する場合は、事業承継税制に詳しい専門家に相談しながら行うのがおすすめです。

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