事業譲渡とはM&Aの手法の一つで、会社の一部または全部の事業を第三者に譲渡することです。
事業を承継させるという点においては会社分割というM&Aの手法もあり、会社の状況に合わせてどちらを選択するかは検討する必要があります。
事業譲渡と会社分割の違いとしては、事業譲渡は企業の権利義務は個別に引き継がれます。そのため、譲渡企業の権利義務や契約上の地位を譲受企業が承継するには第三者の同意を得る必要があります。一方で会社分割は包括承継となるため、原則すべての権利義務を承継できます。また、事業譲渡は法律上は対価を伴う契約であり、資産の移転にあたっては消費税が発生することになります。
そのため、事前に確認しておくことが重要となりますので、この記事で解説します。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
事業譲渡で発生する税金を確認
まず、事業譲渡を行う際にどのような税金が発生するかの確認をしておきましょう。
先述の通り、事業譲渡とは、会社の一部または全部の事業を第三者に譲渡することです。事業譲渡によって、譲渡した事業の純資産を超える利益が発生した場合は、譲渡企業は法人税の課税対象となります。
また、資産の売買である事業譲渡は消費税の課税対象にもなりますが、すべての資産が消費税の課税対象となるわけではありません。課税の対象となる課税資産と課税の対象にならない非課税資産に分かれます。なお、譲受企業が不動産を譲り受けた場合には、不動産取得税・登録免許税が課税されることも事業譲渡の税金を考えるうえでは重要です。
分割の条件 | 分割会社 | 分割承継会社 |
適格分割 | 繰越欠損金を引き続き利用可 | ・吸収分割の場合、条件により既存 の繰越欠損金を引き続き利用可 ・新設分割、吸収分割での繰越欠 損金は引き継げない |
非適格分割 | 繰越欠損金を引き続き利用可 | ・吸収分割の場合、 既存の繰越欠 損金を引き続き利用可 ・新設分割、吸収分割での繰越欠 損金は引き継げない |
消費税の計算は、個々の財産の販売価格で計算するのが通常ですが、事業譲渡の場合には個々の財産の価格を決めずに、一括して売却価格を定めることがあります。
そのような場合には、課税資産と非課税資産の対価の額を区分して課税対象となる金額を求めます。
課税資産と非課税資産の違いとは?
上述のように、消費税は「課税資産」の売却によって課されることになります。どのような資産が課税対象となるのかについては、消費税法4条および6条・別表1に規定されています。
課税資産
課税される資産の代表的なものは、次のとおりです。
土地を除く有形固定資産 | ・企業の営業活動に際して、長期的に使用するために所有している有形の資産 ・建物、車両運搬具、器具備品、 機械装置、 船舶などが対象 ・土地は対象とならない |
無形固定資産 | ・貸借対照表に計上される無形の資産 ・特許権・実用新案権・商標権・著作権などが対象 |
棚卸資産 | ・営業や販売活動を行うための資産 ・在庫・仕掛品・原材料などを指す |
のれん(営業権) | ・非金銭的な資産についての会計科目 ・M&Aをした際に純資産を超える取引がされた場合に発生する ・企業のブランド・有する技術力やノウハウ・顧客などとの取引関係といった 独自の収益力を評価したもの |
非課税資産
これに対して課税されない資産の代表的なものには次のようなものがあります。
土地 | 有形固定資産の中でも土地だけは消費税の対象にならない |
有価証券 | 株券・債券・手形・小切手など |
債権 | 法律上は他人に請求することができる請求権のことをいうが、 税務上は売掛金や未収金といったものを指す |
会社分割では非課税?事業譲渡の消費税の納税義務を解説
会社の組織再編を行う場合に、事業譲渡と比較して検討されることが多いのは会社分割です。この会社分割を行う場合は、消費税は課税されません。
なぜなら、事業譲渡は資産の売買ですので消費税の課税対象になりますが、会社分割は、資産の譲渡にあたらない「組織再編行為」とされているためです。
事業譲渡を行う際の消費税に関する注意点
では、事業譲渡を行う場合の消費税についてはどのような注意が必要なのでしょうか。
のれん代と課税額が比例する
先述の通り、のれんは課税資産となります。そのため、事業譲渡の対象が強いブランド力を持っているなど、のれんが資産の大部分を構成しているような場合には、事業譲渡を選択するよりも消費税の課税がされない会社分割を選択する方が税法上のメリットがある場合があります。
M&Aを行うにあたっては、事前にデューディリジェンスを行うのが通常ですので、のれん代が大きくなりそうな場合には、M&Aの専門家などに相談するのが賢明といえます。
棚卸資産は常に変動するため要確認
棚卸資産は、企業が販売する目的で一時的に保有している在庫のことをいいます。在庫を抱える企業においては、在庫がどのくらいあるかという事を把握して事前に消費税のかかる金額を見積もる必要があります。在庫数の変動に応じて実際の納税額も変動します。
細かい数の変動であれば大きな影響はないのですが、在庫が時期に応じて大きく変動するような場合には、事前の試算を大きく上回るようなケースもあります。
在庫数のコントロールと納税の時期をしっかり確認して、事前に試算をしておくことが望ましいといえるでしょう。
消費税率が変動する
消費税率が法令によって変動した場合、事業譲渡に課税される税率も同様に変動します。2014年4月以降、消費税は8%(消費税〈国税〉6.3%・地方消費税〈地方税〉1.7%)とされていますが、2019年10月には8%から10%(消費税〈国税〉7.8%・地方消費税〈地方税〉2.2%)に変更されます。
増税に合わせて軽減税率が導入される予定なので、特定のものを購入する際には負担する税金は軽減されます。しかし、現段階で軽減税率が適用されるものは飲食物や新聞紙などを中心に対象となっており、上記で紹介した課税資産は対象とされていません。そのため、事業譲渡を行う際には、消費税の税率の変動時期に注意をする必要があります。
事業譲渡時の消費税の計算方法
では実際に事業譲渡をした場合の消費税がどのようになるのかを確認してみましょう。
売却価格 | 2億円 |
建物 | 5,000万円 |
棚卸資産 | 2,000万円 |
有価証券 | 2,000万円 |
のれん代 | 3,000万円 |
土地 | 3,000万円 |
債権 | 3,000万円 |
特許権 | 2,000万円 |
上記を例にとって紹介します。
建物:5,000万円
棚卸資産:2,000万円
のれん代:3,000万円
特許権:2,000万円
有価証券・土地・債券は非課税資産となるので、課税対象になりません。
そのため、5,000万円+2,000万円+3,000万円+2,000万円=1億2,000万円が課税対象となります。
よって、2019年10月までの8%で計算すると、消費税(国税)は1億2,000万円×6.3%=756万円、地方消費税(地方税)が1億2,000万円×1.7%=204万円、消費税の総額は960万円となります。
まとめ
M&Aの手法として事業譲渡を行う際の、消費税の取り扱いについて解説しました。事業譲渡は資産の売買であるため、会社分割などの組織再編行為と異なり、消費税の課税対象になるという事を把握しておきましょう。
その上で、消費税の計算の対象になる課税資産と対象にならない非課税資産があることを把握し、消費税の納税額が事前の試算から大幅にずれる可能性があるといった注意点などを把握しておく必要があります。
この記事では、消費税の取り扱いについて対象となる項目を中心にお伝えしてきましたが、非課税資産については消費税法で非常に詳しく分類されているので、きちんとその分類を把握しておくことは必須です。消費税の取り扱いに関しては、税務の専門的な知識が必要となりますので、会計士や専門のM&Aアドバイザーに相談をするようにしましょう。