近年、中小企業の経営者や個人で事業を経営する方の高齢化が進み、事業承継の動きが活発化しています。
事業承継士は、事業承継に関する深い知識を有し、全体的な視点から承継の進行を支援する有資格者です。
本記事では、事業承継士の概要から資格取得の流れ、事業承継士の仕事や相談するメリットなど、事業承継士に関する事柄をまとめて解説しています。
事業承継士の資格に興味を持つ方、あるいは、事業承継士への相談を検討している方はぜひ参考にしてください。
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事業承継士とは
事業承継士とは、事業承継に関する専門的な知識を持ち、税理士や弁護士などの各種専門家をコーディネートしながら、事業承継の手続きを総合的にサポートする資格保持者です。
事業承継では、会社の理念や収益をあげる仕組み、経営資源や独自の文化などを後継者へと承継します。自社株式や事業用資産の相続・贈与への対応や税負担に対する対策も必要となり、法務・税務・財務などさまざまな専門的知識が必要です。
事業承継士は、全体的な視点から各種専門家との調整を行い、スムーズな事業承継の進行を支援します。事業承継士に依頼すると、複雑化した経営課題一つひとつに対応し、将来の成長を見据えた事業承継が可能です。
事業承継士の認定団体
事業承継士は一般社団法人事業承継協会が認定する民間資格です。
事業承継協会は2015年に設立された比較的新しい団体で、中小企業の事業承継のサポートや事業承継を支援する人材育成などの事業を実施しています。
事業承継協会では、事業承継に関する知識を幅広く世間に広める活動や事業承継に関する基礎研究・調査、事業承継に関する専門的な書籍の発行事業も手掛けています。
事業承継協会から認定を受けた事業承継士は、横浜市や東京都など地方自治体からも事業承継に関する業務を受託し、信用金庫をはじめ金融機関との連携も多く、幅広い分野で活躍しています。
事業承継士になるには国家資格が必要
事業承継士を取得するには講座の受講が必要となりますが、講座の受講資格には以下のような国家資格いずれかを有していることが求められます。
・中小企業診断士
・税理士
・公認会計士
・弁護士
・司法書士
・社会保険労務士
・行政書士
・土地家屋調査士
・一級建築士
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・ファイナンシャル・プランニング技能士
・一般社団法人事業承継協会の認めた国家資格保有又はそれと同等の知識と能力があると判断される方
上記のように、事業承継士の取得には一定の資格の所持が必要です。各資格の取得難易度は総じて高いことから、事業承継士の取得難易度も高いとされています。
事業承継士の資格取得の流れ
事業承継士の資格取得には、事業承継センター株式会社が運営する資格取得講座を受講後、認定試験を受ける必要があります。資格取得の流れは以下のとおりです。
1.資格取得講座の受講
2.認定試験の合格
3.事業承継協会への入会
資格取得講座の受講
事業承継士の資格取得講座は、全30時間で構成されています。
内容は事業承継士や事業承継の概論からはじまり、相談者に対するヒアリングや状況分析といった依頼相談の方法や相続・贈与などの専門的な知識、事業用資産の承継方法まで多岐にわたります。
2,000件を超える事業承継コンサルティングのノウハウをもとにしたケーススタディも含まれており、実践的かつ具体的な内容です。
講座は常時開催されているビデオ講座のほか、東京や福岡など主要都市で開催される教室講座、WebとビデオのMIX講座などさまざまな形態があり、自分の希望に合わせた選択が可能です。
なお、事業承継士の取得講座の75%以上に出席すると、次のステップである認定試験の受験資格が得られます。
認定試験の合格
事業承継士認定試験は事業承継協会が実施する試験です。
先述のとおり、事業承継士の資格取得講座を75%以上の出席率で修了した方に対し、受験資格が与えられます。
事業承継士認定試験の試験範囲は、事業承継士資格取得講座で使用したテキストに記載されている内容、およびその関連項目です。
基本的に講座で学習した範囲から出題されるため、試験前は講座内容を復習しておきましょう。出題形式は選択形式と記述形式の混合方式となっており、60点以上を獲得すると合格となります。
事業承継協会への入会
事業承継士認定試験に合格後、事業承継協会への入会により、事業承継士の資格を取得できます。入会の申し込みは、事業承継士認定試験の合格通知に同封される「入会申込書」にて可能です。入会時には事業承継協会による審査があり、倫理規定や懲罰基準、資格要件などが確認されます。
事業承継士の資格取得にかかる費用
事業承継士の資格取得では、資格取得講座・認定試験・事業承継協会への入会で以下のような費用がかかります。
項目 | 費用 |
---|---|
資格取得講座の受講料 | 330,000円(税込) |
認定試験の受験料 | 9,900円(税込) |
事業承継協会への入会金 | 11,000円(税込) |
また、事業承継協会では年会費が11,000円(税込)、3年ごとに更新料が5,500円(税込)必要です。
事業承継協会ではリモートによる無料ガイダンスを開催しているため、詳細を知りたい場合は無料ガイダンスを申し込んでみると良いでしょう。
事業承継士の仕事について
ここからは、事業承継士の仕事について、その将来性や仕事内容を紹介します。また、事業承継士と同様に事業承継の専門的な知識をもつ事業承継アドバイザーとの違いもあわせて解説します。
事業承継士の将来性
事業承継士の取り扱う事業承継の需要は、近年大きな高まりを見せています。
帝国データバンクの「事業承継に関する企業の意識調査(2021年5月)」によると、事業承継を経営上の問題と認識する企業は67.4%にのぼり、多くの企業が事業承継を検討課題としている状況です。
特に中小企業や小規模事業者では経営者の高齢化が進み、次の世代への事業承継は喫緊の課題です。
国も税制面の優遇措置や事業承継・引継ぎ補助金の設置など、さまざまな支援策を実施しています。
このような状況のなか、事業承継に関する案件は今後も増加が見込まれています。
日本の雇用や技術を支える中小企業の円滑な事業承継のためにも、事業承継士は今後の活躍が期待される職業です。
事業承継士の仕事内容
事業承継士は主に事業承継支援の仕事を受託し、事業承継の準備段階から実際の手続きまで総合的にサポートします。具体的には、準備段階では後継者選定や育成のための研修のサポート、事業計画の策定、事業承継に向けた経営の磨き上げなどが主な仕事です。
そのほか、実際の手続きでは自社株式承継への対策や贈与税・相続税の税負担軽減への対応などの仕事を行います。
また、事業承継では不動産評価では不動産鑑定士や土地家屋調査士、自社株評価では税理士など、各種専門家と連携して手続きを進める場合もあります。
事業承継士は各専門家のコーディネートや全体のスケジューリングの役割も果たす重要な仕事です。
事業承継アドバイザーとの違い
事業承継アドバイザー認定試験(BSA)は、一般社団法人金融検定協会が実施する試験です。
金融機関に勤務する方のキャリアアップ検定の一環として行われており、試験取得を通じて業承継の基礎知識や親族内承継・親族外承継・M&Aの手法が学べます。
事業承継士と事業承継アドバイザーは、どちらも事業承継の専門的な知識を身に付けられる点では同じです。
ただし、実施する団体、資格取得までの流れ、試験内容などに違いがあります。
また、事業承継士が税理士や中小企業診断士など士業の方が多く取得するのに対し、事業承継アドバイザーは金融機関に在籍する方に取得者が多い違いもあります。
事業承継士に相談するメリット
これまで紹介してきたように、事業承継士は事業承継の実践的な知識をもち、各種専門家のコーディネートの役割も果たします。ここでは、相談する側の視点から、事業承継士に相談するメリットを解説します。
専門的で正確な知識からのアドバイスを受けられる
事業承継士に相談する大きなメリットは、専門的な視点からのアドバイスを受けられる点です。
事業承継では、後継者を誰にするかという問題1つ取り上げても、子どもや親族、従業員や役員、外部の企業や個人などさまざまなケースがあり、それぞれに必要な手続きや知識は異なります。
また、自社株や不動産など事業用資産の評価、節税対策などには専門的な知識が必要です。
事業承継士は、事業承継と関わりのある国家資格を持つ人が実践的な教育を受けた上で有資格者となっています。事業承継の実務経験が豊富な場合が多く、更新制度があるため、事業承継に関する最新知識も持ち合わせています。
事業承継を円滑に進めるためには、専門的な知識をもち、豊富な経験をもつ専門家から支援を受けることがとても重要です。事業承継士に相談することで、事業承継を取り巻く多くの課題によりスムーズに対応できます。
専門家とのネットワークやコネクションが豊富
事業承継は単に自社株や事業用資産を後継者へ承継するだけとは限りません。
後継者が子どもや親族に見つからない場合は第三者へのM&Aを検討する必要があり、場合によっては事業の一部だけを他社へ承継し、会社自体は廃業するケースも考えられます。
事業承継士は各種専門家とのネットワークやコネクションを持つ場合が多く、上記のように多種多様な承継の問が生じた場合でも、それぞれの問題を専門分野とする専門家へ相談することにより、柔軟に対応できます。
事業承継の相談の流れ・ポイント
事業承継を相談する際の基本的な流れは以下のようになります。
・相談(見積もり等)
・自社の状況の把握
・後継者の選定・育成
・事業計画の策定
・関係者説明
・引き継ぎ
初めの段階は、事業承継に関する初歩的な相談です。
事業承継をどのような形で、どのようなスケジュールで進めていくか、大まかな相談を行います。事業承継の相談費用がいくらかかるか、見積りを出してもらってもよいでしょう。
その後、自社の状況の把握や後継者の選定・育成、事業計画の策定など、事業承継の準備段階へと移ります。
各手続きでわからない点がある場合は、事業承継士にアドバイスを求めましょう。事業計画の策定が終わったら、取引先や従業員など関係者への説明を行い、事業の引継ぎを実施します。
先述のように、事業承継では法務・財務・税務などの専門知識も必要となるため、他の専門家との連携も必要です。場合によっては、事業引継ぎ相談窓口、金融機関などとの相談も行ってください。
まとめ
事業承継士は中小企業診断士や税理士など国家資格をもつ人が取得でき、事業承継に関する深い知識を有しています。そのため、専門的な観点からのアドバイスが受けられ、各種専門家とのネットワークをもつ人も多い資格です。
これまでご紹介してきたように、事業承継を実施する際には専門的な知識が不可欠であり、後継者がいない場合には第三者へのM&Aを検討すべきケースもあります。
もし、事業承継でお悩みなら、fundbookまで一度ご相談ください。
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