多くの費用が必要となる事業承継ですが、生命保険を効果的に活用すると事業承継をスムーズに進められ、事前対策を打つことが可能です。
本記事では、事業承継に生命保険を活用した際のメリット・デメリット、活用方法などを解説します。事業承継を検討中の方は、ぜひ参考にしてみてください。
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目次
事業承継は経済的負担が大きい
後継者へ事業を引き継ぐ事業承継ですが、株式を後継者へ譲渡する場合、後継者は株式取得の対価を支払わなければいけないため、多額の資金がかかります。
また、株式を相続・贈与して承継する場合にも、株式評価額に応じた相続税・贈与税が必要です。
その他にも現経営者への退職金などが必要となるため、後継者の経済的負担が大きくなってしまいます。後継者に資金がないとスムーズに事業承継が進まず、事業承継を断念せざるを得ない状況になることも考えられるでしょう。
生命保険を活用した事業承継対策とは?
多額の資金が必要になる事業承継ですが、生命保険をうまく活用すると対策できます。
生命保険の保険金受取人を会社や後継者にしておけば、経営者が亡くなった後に事業承継に必要な資金を残すことが可能です。
会社や後継者は、受け取った資金を事業承継の必要資金に回せるので、スムーズな事業承継が可能になるでしょう。また、生命保険を活用すると自社株式の評価額を引き下げられるため、後継者の負担を軽減できます。
生命保険を活用した事業承継対策のメリット
事業承継対策になる生命保険の活用には、多くのメリットがあります。
どのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
▷メリット①:相続税・贈与税の納税資金にできる
株式を相続・贈与で後継者に譲渡した場合、株式評価額に応じた相続税・贈与税が必要です。
相続税・贈与税のために株式の売却はできないので、資金が足りない場合は不動産などの資産を売却して資金を準備しなくてはいけません。
事前に生命保険に加入し、後継者を受取人にしておけば納税資金を残せるので、後継者の負担を軽減できるでしょう。
▷メリット②:自社株式の評価額を引き下げられる
非上場企業に限られますが、生命保険を活用すると自社株式の評価額を引き下げられる点も大きなメリットです。
法人向けの生命保険に加入し、保険料を会社が支払えば損益算入でき、その分資産を減らせます。非上場企業の場合、自社株の価値を時価純資産などから評価します。
資産を減らし自社株式の評価額を引き下げておけば、後継者の株式取得費用・納税金額を抑えられるでしょう。
▷メリット③:運転資金に充てられる
経営者が事故や病気などで急に亡くなり、事業承継せざるを得なくなった場合、生命保険の受取保険金を運転資金にまわせます。
事業承継の準備をしていない状態で、経営者が亡くなった場合に考えられる問題は、資金不足です。中小企業は特に経営者の役割が大きいため、経営者が亡くなった途端に売り上げが激減する可能性も十分に考えられます。売り上げが激減したことで現金が足りず、従業員への給与支払いや取引先への支払いが滞ってしまう可能性もあるでしょう。
後継者を生命保険の受取人にしておけば、経営者が急に亡くなった場合にも運転資金を確保できます。
生命保険を活用した事業承継対策のデメリット
多くのメリットがある生命保険ですが、一方でデメリットもあります。
デメリットも理解した上で、活用するかどうかを検討しましょう。
▷デメリット①:保険料が必要になる
生命保険に入ると、当然ですが毎月の保険料が必要になります。高額な保険に加入すると、会社の利益やキャッシュフローを圧迫してしまうので注意が必要です。
しかし、保険料が安過ぎると事業承継対策にならないため、会社のキャッシュフローを考え保険料をどの程度にするか検討しましょう。
▷デメリット②:解約時期によっては損失が出る可能性がある
保険の解約時期を間違えた場合、損失が出る可能性がある点もデメリットです。生命保険を解約したときには返戻金が受け取れますが、解約返戻率がピークを迎える前、もしくはピークを過ぎた後に解約してしまうと、受け取る返戻金が少なくなります。
結果的に、予定していた金額よりも返戻金が少なく、損失が出てしまうこともあり得るでしょう。生命保険に加入する際には、解約の適切な時期を把握しておく必要があります。
事業承継対策となる生命保険と注意点
事業承継対策に活用できる生命保険は、主に以下の4つです。
すべて後継者を保険金受取人にしておくことで、事業承継に活用可能です。
ここでは事業承継対策に活用できる生命保険と注意点を紹介します。
▷一般的な生命保険
一般的な生命保険は、一定期間保険料を支払う掛け捨て型で、後継者の資金を確保する際に活用できます。保険料が他の保険に比べて安く設定されており、コストがかからない点がメリットとして挙げられますが、保障期間が過ぎると保険金が支払われないので、注意が必要です。
支払い期間中に被保険者が死亡した場合は保険金が支払われますが、途中解約した場合は返戻金がほとんどないか全く支払われないので、事前に返戻金を確認しておきましょう。他の保険に比べて保険料が安く設定されているため、コストを抑えて事業承継対策を行いたい場合に利用すると良いでしょう。
▷終身保険
終身保険は、保障期間が定められていない保険で、解約をしない限り保障が続きます。そのため、一般的な生命保険と違い、必ず保険金を受け取れる点がメリットです。
途中解約した場合も、それまでの払込期間に応じた返戻金が受け取れます。ただし解約時期によっては、払込金額よりも返戻金が少なくなる可能性があるので注意が必要です。
株式を相続した場合、後継者は相続税を納税しなくてはいけません。後継者が必要資金を持っていない場合は、会社が後継者から自社の株式を買い取り、納税資金に充てる方法が一般的ですが、法人契約で終身保険に加入しておけば、会社は経営者が亡くなった場合に保険金を受け取れるので、株式の買取資金に活用できます。
ただし、終身保険は保険料が高く設定されていることから、コストと対策効果のバランスを見極めて商品を選ばなくてはいけません。
▷長期平準定期保険
長期平準定期保険は、保険料が一定で変動しない保険です。
保障期間が長く設定されている点が特徴で、終身保険のように活用できます。保険金が一定なので、キャッシュフローや利益への影響を予想しやすい点がメリットです。
しかし2019年に制度が変わってしまい、損益算入の条件が厳しくなったため、現在は事業承継対策への効果が低くなっています。
▷逓増(ていぞう)定期保険
逓増定期保険は、加入期間が長いほど受け取れる保険金が多くなる生命保険です。期間が前期と後期に分かれている点が特徴で後期に入ると、保険料が高くなっていきます。
返戻率のピークが10年程度に設定されており、その後減少し満期を迎えると返戻率がゼロになるので、解約時期に注意しなくてはいけません。返戻率のピークがわかりやすいので、事業承継のタイミングが明確な場合におすすめの保険です。
しかし制度が変わり、解約返戻金が高い商品は損益算入割合が大幅に制限されたため、現在は事業承継対策への効果が低くなっています。
事業承継対策に生命保険を利用する場合の注意点
生命保険は事業承継対策に活用できますが、利用する際にはいくつか注意しておくべき点があります。
注意点を抑えておけば、効果的に生命保険を活用できるでしょう。
▷将来的なキャッシュフローを把握しておく
生命保険に加入する際に、注意しておきたい点が保険料の支払いです。
保険料があまりに高額な場合、会社のキャッシュフローを圧迫する可能性があります。将来的なキャッシュフローを予測せず加入すると、資金不足になり途中解約せざるを得ない状況になってしまうかもしれません。
事業承継対策の生命保険が、会社のキャッシュフローを圧迫してしまうのは本末転倒ですので、しっかりと将来的なキャッシュフローを予測し、無理のない範囲の生命保険に加入することが大切です。
▷保険解約のタイミングを考える
保険を解約するタイミングも、しっかりと計画しなければいけません。生命保険の受取保険金や解約返戻金は、利益金として算入されるため、解約タイミングを間違えると思わぬ納税が発生してしまいます。
事業承継の時期を明確にし、保険の解約時期を合わせれば、効果的な事業承継対策を行えるでしょう。
▷保険の活用が最善かどうかを見極める
生命保険の活用が、自社にとって最善かどうかを判断するのも重要です。
生命保険は事業承継対策に有効ですが、2019年に制度が改定された影響で以前より効果が出にくくなりました。
そのため、会社によっては生命保険の活用が最善ではない場合もあります。現在では、贈与税・相続税を事実上免除する「事業承継税制」という制度もあるため、自社の状況を鑑みてさまざまな方法を検討することが大切です。
まとめ
本記事では、生命保険を活用した事業承継対策のメリットやデメリット、活用方法を解説しました。
事業承継の方法はさまざまですが、どの方法でも多くの資金が必要です。生命保険をうまく活用すれば、事業承継の負担を軽減できるでしょう。生命保険の種類によっても事業承継対策の効果が変わってくるので、自社に合った保険を選ぶことが大切です。
また事業承継を行う場合、時間を要するものになりますので、早めに準備を始めましょう。事業承継に関してまとめた記事も御座いますので、ぜひご参考にしてください。
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