中小企業の大きな悩みの種となっているのが後継者問題。解決策の一つとして、近年注目されているのが事業承継ファンドです。
そこで本記事では、事業承継ファンドのメリット・デメリットや種類を解説します。事業承継を考えている経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
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・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
事業承継ファンドとは?
事業承継ファンドとは投資家から資金を集め、後継者不足や経営状況悪化などの問題を抱えた中小企業の事業承継サポートを行う投資ファンドのことです。
中小企業の株式を買い取って経営権を取得後、事業のテコ入れを行い経営再建の支援をします。経営再建完了後、企業価値が高まった状態で株式を売却し売却益を投資家に再分配するビジネスモデルで、近年、注目されているファンドです。
なぜ今、事業承継ファンドが注目されているのでしょうか。
●事業承継の一つの選択肢として注目されている
事業承継とは、現在行っている事業を別の人に引き継ぐことを指しますが、後継者不在の企業が増加していることから、その承継先の選択肢の一つとして事業承継ファンドが注目されています。
帝国データバンクの「全国企業後継者不在率動向調査(2021 年)」によると、全国・全業種約26万6000社への調査において、後継者不在率は61.5%でした。また、先代経営者との関係性(就任経緯別)のデータを見ると、同族承継は過去5年で減少傾向にあります。一方、従業員・役員を後継者とする「内部昇格」や、買収・出向を中心とする「M&Aほか」の割合は増加傾向にあり、これに比例するように事業承継ファンドの存在感が増しています。
後継者不在に悩むオーナー経営者からすると、株式を買い取ってくれ、かつその後の経営支援までしてくれる事業承継ファンドは、頼もしい存在と言えます。
事業承継ファンドとM&Aの違い
ここでは、後継者不在問題を解決する代表的な方法の一つであるM&Aとの違いについて説明します。
まず、事業承継には、大きく分けて上記の3つの承継方法があります。
1.親族内事業承継
2.社内事業承継
3.M&Aによる事業承継(第三者承継)
3つの主な違いは、後継者の属性です。親族内承継は、親族が後継者となります。親族外承継は親族以外の社内の役員や従業員が後継者となります。M&A活用はM&Aによって、社内以外の第三者が後継者となります。
事業承継ファンドは、親族・従業員・役員に該当しない第三者であることから、M&Aの一つに分類されます。M&Aで会社を引き継ぐ相手は、企業もしくはファンドです。
次に、事業承継ファンドとM&Aそれぞれのメリット・デメリットについて簡単に説明します。事業承継を検討されている経営者はそれぞれの違いを確認しておきましょう。
●譲渡経営者からみたM&Aのメリット・デメリット
メリット
・事業承継問題の解決
・企業基盤の強化
・個人保証の解除
・創業者利益の実現
・従業員の雇用が守られる
デメリット
・最適な買い手が見つかるかといった問題
・M&A成約後の従業員と組織の問題
・企業文化が廃れる可能性
●譲渡経営者からみた事業承継ファンドのメリット・デメリット
メリット
・事業承継問題の解決
・創業者利益の実現
・経営支援を受けられる
・企業文化を継承できる
デメリット
・最適なファンドが見つかるかといった問題
・数年後にM&Aが実施されると経営者が変わる可能性
・関連記事:M&Aとは?M&Aの手法や流れ、メリットを解説【分かりやすい動画・図解付き】
事業承継ファンドが有効な会社
どのような場合、事業承継ファンドを有効活用できるのでしょうか。
ここでは、事業承継ファンドが有効な会社について解説します。
①身内や社内に後継者候補がいない
身内や社内に後継者候補がいない場合、「廃業にする」「M&Aによって譲渡する」といった方法がありますが、事業承継ファンドを行うのも有効です。
特に、企業理念や経営方針を尊重しながら事業拡大・経営再建を行いたい時には、事業承継ファンドの利用をおすすめします。
②身内に後継者はいるがまだ経験が浅い
親族に後継者候補がいるものの、経験が浅く事業を引き継ぐには不安がある場合にも事業承継ファンドの活用は有効です。事業承継ファンドの中には、後継者の成長を支援してくれるファンドもあるため、活用すれば後継者育成をしている間、第三者に経営を任せられます。後継者の成長を待ってから事業を引き継ぐため、安心して勇退後の生活を満喫できるでしょう。
③社内で後継者にしたい人材がいる
社内に後継者候補がいる場合の問題点は、後継者候補自身が会社の株式を買い取る必要があり、資金確保が課題になるケースがあります。事業承継ファンドを活用する場合、一度事業承継ファンドに株式を売却します。
後継者は支援を受けながら資金を貯め、資金が貯まったら事業承継ファンドから株式を買い取ることが可能です。
④経営陣が引き続き経営に携わる意思を持っている
事業承継ファンドでは、経営陣メンバーが株式の一部を保有することで引き続き経営に携われます。
そのため、経営陣が引き続き経営に携わる意思を持っている場合も、事業承継ファンドは有効。
経営再建のサポートを受けることで、経営陣そのままに自社の価値を向上させられる可能性が高まるでしょう。
事業承継ファンドの種類
事業承継ファンドにはいくつもの種類があるので、どの事業承継ファンドが良いのか迷ってしまいます。
ここでは、事業承継ファンドを運営している代表的な組織を紹介しましょう。
事業承継ファンドごとの特徴も合わせて紹介するので、参考にしてみてください。
①中小機構の事業承継ファンド
中小機構の事業承継ファンドは、「中小企業基盤整備機構」によって運営されています。
幅広い経営支援を行っており、民間の事業承継ファンドに比べて公的な視点からのアドバイスを受けやすい点が特徴です。中小企業の相談先として、最もポピュラーな事業承継ファンドです。
②日本投資ファンド
日本投資ファンドは、日本M&Aセンターと日本政策投資銀行が共同設立した事業承継ファンドです。
豊富な事業承継実績とノウハウを持っている点が特徴となり、公的要素が合わさったファンドなので、支援対象の審査ハードルは比較的低くなっています。
③PE(プライベートエクイティ)ファンド
PEファンドは、対象企業の未公開株を買い取って経営に関わり、企業価値を高めてから売却し運用益を得るファンドのことを指します。
PEファンドを運営する会社の一例として、「日本プライベートエクイティ」が挙げられます。
PEファンドの特徴は、社員の自立を促しオーナー経営から組織経営に移行するサポートを得意としている点で、オーナーに頼らない組織を形成できるので、より企業を成長させられる可能性があります。
④SBI地域事業承継ファンド
SBI地域事業承継ファンドは、SBIホールディングスの子会社が2019年に設立した比較的新しいファンドです。
地域創生の一環として、後継者問題を抱えている日本の中小企業への投資を目的としています。
他の事業承継ファンドとは異なり、「小規模な企業にも投資を行う」と公表している点が特徴となり、今後のサービスの充実に期待されている事業承継ファンドです。
事業承継ファンドの選ぶときのポイント
事業承継ファンドを選ぶ際には、注目すべきポイントがいくつかあります。
ポイントを抑えておくと、自社に適したファンドを選べるでしょう。
ここでは、事業承継ファンドを選ぶときのポイントを解説します。
①過去の実績を確認する
事業承継ファンドを選ぶ際には、過去の実績を確認しておくことが大切です。特に、自社と類似しているケースの支援実績を確認しておけば、選ぶ際の参考になるでしょう。
②支援内容など特徴を理解する
事前に、事業承継ファンドの支援内容を確認しておくことも大切です。その際に自社の基本情報や相談内容を伝え、具体的な支援内容を確認しておきましょう。
どのようなサポートを受けられるのか、具体的に確認してみてください。
③長期的な期間・視点を持っているか
長期的な視点で、事業の存続や成長を考えているかを見極めることも重要です。なぜなら、短期的視点で利益を求める事業承継ファンドでは、自社の存続や十分な成長を期待できないからです。利益が出るまでに時間がかかる場合でも、しっかりと支援してもらえるかを過去の実績などから確認しておきましょう。
④担当者との相性
事業承継ファンドを選ぶ際には、担当者の人間性にも注目しましょう。相談時に違和感を感じた場合には、すぐに話を進めず担当者や事業承継ファンドの変更も検討した方が良いかもしれません。少しの違和感でも流さず、相性の良い担当者を探すことで、安心して事業承継を進められます。
事業承継ファンドでの事業承継の流れ
事業承継ファンドを活用した事業承継の一般的な流れは以下の通りです。具体的な手続きは、事業承継ファンドによって異なるため、細かい部分は担当者に確認しておくことがおすすめです。
1.投資会社が投資家から資金を集め、事業承継ファンドを組成
2.譲渡経営者が専門家を通じてあるいは直接事業承継ファンドに問い合わせる
3.秘密保持契約を締結。財務情報等を開示。
4.基本合意書の締結
5.双方の条件のすり合わせ
6.デューディリジェンス(買収監査)の実施
7.最終譲渡契約の締結
8.クロージング手続き
9.事業承継ファンドが経営支援を実施
10.数年後、事業承継ファンドは株式を売却して売却益を獲得
事業承継ファンドのメリット
事業承継ファンドには、さまざまなメリットがあります。
メリットを理解しておくと、事業承継ファンドを最大限活用できるでしょう。
ここでは、事業承継ファンドのメリットを解説します。
①経営者の意図に沿った事業継承ができる
事業承継ファンド最大のメリットは、経営者の意図に沿った事業承継が可能な点です。
事業承継ファンドでは、後継者の育成も行っています。
後継者育成の段階で、企業理念やコンセプトを根付かせて育成するため、経営者の意図に沿った事業承継が可能です。
また、社内に後継者候補がいない場合、ふさわしい人材を後継者に選定してくれます。
②売却利益を得られる
廃業する場合、不動産売却や機械設備廃棄など多額のコストが必要です。しかし、事業承継ファンドを活用すると株式を買い取ってもらえるので、経営者は売却益を得られコストもかかりません。得たお金を別の事業資金に充てたり、勇退後の生活資金にするなど自由に使えます。事業承継ファンドは、経営者にとっても大きなメリットがある制度です。
③経営に関してのアドバイス・サポートが受けられる
事業承継ファンドを活用すると、経営に関するアドバイス・サポートが受けられる点も大きなメリット。
事業承継ファンドはまず株式を買い取り、経営支援によって会社を成長させます。
そして数年後に、株式を売却し運用益を出すビジネスです。
ファンドは経営支援のノウハウを持っているので、事業承継ファンドを活用すれば、事業を成長させさらに良い形で会社を存続させられる可能性が高くなります。
④会社の理念・文化を風化させずに支援を受けられる
事業承継ファンドはM&Aと違い、会社の理念・文化を風化させることなく経営支援を受けられる点もメリット。
会社の理念や文化を維持できれば、経営者は愛着ある会社を変えずに存続でき、経営者が変わったことによる従業員への影響も最小限に抑えられます。
事業承継ファンドのデメリット
事業承継ファンドには多くのメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。
ここでは、事業承継ファンドのデメリットを解説しましょう。
①必ず支援を受けられるわけではない
会社の経営状況によっては、ファンドから支援を断られる可能性があるので注意が必要です。
事業承継ファンドは、あくまでも利益を出すことを目的としています。
そのため、「財政状況が悪化しすぎている」「改善が見込めない」と判断されると支援を受けられません。
②ファンド選びが難しい
事業承継ファンドには多くの種類があり、それぞれ今までの経験値やノウハウが異なります。
そのため、自社が求める支援内容に対応できないファンドを選んでしまうと、事業承継が失敗する可能性もあるでしょう。しっかりとした実績があり、ノウハウを十分に発揮できる事業承継ファンドを選ぶには時間がかかります。
自社に適しているかどうかをしっかりと見極めることが大切です。
まとめ
本記事では、事業承継ファンドのメリット・デメリット、種類などを解説しました。
事業承継ファンドはM&Aとは違い、会社が合併・買収されません。
そのため後継者問題に悩んでいて、経営理念を守りながら経営再建を行いたい中小企業にとって非常に有効な選択肢です。
しかし、必ず支援を受けられるわけではなかったり、ファンド選びが難しかったりするなどのデメリットもあります。
しっかりとポイント抑えファンドを見極めれば、自社に適した事業承継ファンドを活用できるでしょう。