
中小企業の大きな悩みの1つとして挙げられるのが後継者問題です。近年、この問題に対しての解決策の手段として事業承継ファンドが注目されています。
本記事では、事業承継ファンドの種類や活用方法、メリット・デメリットを解説します。事業承継を考えている経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。

・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
事業承継ファンドとは?
まず、「ファンド」とは投資家から集めた資金を運用専門家が運用する仕組みのことを指します。そして、事業承継を目的としたファンドのことを「事業承継ファンド」と呼ぶことがあります。
事業承継ファンドでは、投資家から資金を集め、後継者や経営状況悪化などの問題を抱える中小企業の事業承継をサポートします。具体的には、中小企業の株式を買い取り経営権の取得をした後に、事業のテコ入れを行って経営再建の支援をします。そして経営再建が完了すると、企業価値が高まった状態で株式を売却し売却益を投資家に再分配するというビジネスモデルで、近年、注目されているファンドです。
なぜ今、事業承継ファンドが注目されているのか、下記で解説していきます。
●事業承継の1つの選択肢として注目されている
近年、経営者の高齢化とともに後継者不在の企業が増加していることから、自社を承継する先の選択肢の1つとして事業承継ファンドが注目されています。
帝国データバンクの「全国企業後継者不在率動向調査(2024年)」によると、全国・全業種約27万社への調査において、後継者不在率の平均は52.1%でした。また、先代経営者との関係性(就任経緯別)のデータを見ると、同族承継は2020年以降5年連続で減少傾向にあります。他方、従業員・役員を後継者とする「内部昇格」や、買収・出向を中心とする「M&Aほか」の割合は増加傾向にあります。事業承継ファンドもまた、このデータに比例するように存在感を増しています。
後継者不在に悩む経営者からすると、株式を買い取り、その後の経営支援までしてくれる事業承継ファンドは、頼もしい存在といえます。
※出典:帝国データバンク「全国企業後継者不在率動向調査(2024年)」
事業承継ファンドとM&Aの違い
ここでは、事業承継ファンドと、後継者問題を解決する代表的な方法の1つである「M&A」との違いについて説明します。
まず、事業承継には、大きく分けて上記の3つの承継方法があります。
1.親族内事業承継
2.社内事業承継
3.M&Aによる事業承継(第三者承継)
3つの主な違いは、後継者の属性です。親族内承継は、親族が後継者となります。親族外承継は、親族以外の社内の役員や従業員が後継者となります。M&A活用は、M&Aによって社外の第三者が後継者となります。
事業承継ファンドは、親族・従業員・役員に該当しない第三者であることから、M&Aの1つに分類されます。M&Aで会社を引き継ぐ相手は、企業もしくはファンドです。
次に、事業承継ファンドとM&Aそれぞれのメリット・デメリットについて簡単に説明します。事業承継を検討されている経営者はそれぞれの違いを確認しておきましょう。
●譲渡経営者からみたM&Aのメリット・デメリット
譲渡側の視点でのM&Aのメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット
・事業承継問題の解決
・企業基盤の強化
・個人保証の解除
・創業者利益の実現
・従業員の雇用が守られる
デメリット
・最適な買い手が見つかるかといった問題
・M&A成約後の従業員と組織の問題
・企業文化が廃れる可能性
●譲渡経営者からみた事業承継ファンドのメリット・デメリット
他方、譲渡側の視点での事業譲渡ファンドのメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット
・事業承継問題の解決
・創業者利益の実現
・経営支援を受けられる
・企業文化を継承できる
デメリット
・最適なファンドが見つかるかといった問題
・数年後にM&Aが実施されると経営者が変わる可能性
▷関連記事:M&Aとは?意味・流れ・手法・費用など基本をわかりやすく解説
事業承継ファンドが有効な場合とは?
では、どのような場合に事業承継ファンドを有効活用できるのでしょうか。
ここでは、事業承継ファンドが有効な会社について解説します。
①身内や社内に後継者候補がいない場合
身内や社内に後継者候補がいない場合は、「廃業にする」「M&Aによって譲渡する」などの方法がありますが、事業承継ファンドを行うのも有効的です。
特に、企業理念や経営方針を尊重しながら事業拡大・経営再建を行いたい場合は、事業承継ファンドの利用をおすすめします。
②身内に後継者はいるがまだ経験が浅い場合
親族に後継者候補がいるものの、経験が浅く事業を引き継ぐには不安がある場合も、事業承継ファンドの活用は有効的です。事業承継ファンドの中には、後継者の成長を支援してくれるファンドもあるため、活用すれば後継者育成中に第三者へ経営を任せられます。後継者の成長を待ってから事業を引き継ぐこともできるため、安心して勇退後の生活を送ることができるでしょう。
③社内で後継者にしたい人材がいる場合
事業承継ファンドは、社内に後継者候補がいる場合も有効的な手段になります。
社内に後継者候補がいる場合、後継者候補自身が会社の株式を買い取る必要があり、資金確保が課題になるケースがあります。その場合は、事業承継ファンドを活用して一度事業承継ファンドに株式を売却します。その後、後継者は支援を受けながら資金を貯め、資金が貯まった際に事業承継ファンドから株式を買い取ることが可能です。
④経営陣が引き続き経営に携わる意思を持っている場合
事業承継ファンドでは、経営陣メンバーが株式の一部を保有することで引き続き経営に携われます。
そのため、経営陣が引き続き経営に携わる意思を持っている場合も、事業承継ファンドは有効的です。
経営再建のサポートを受けることで、経営陣はそのままの形で自社の価値を向上させられる可能性が高まるでしょう。
事業承継ファンドによる事業承継の流れ
事業承継ファンドを活用した事業承継の一般的な流れは以下のとおりです。
1.投資会社が投資家から資金を集め、事業承継ファンドを組成
2.譲渡経営者が専門家を通じてあるいは直接事業承継ファンドに問い合わせる
3.秘密保持契約を締結。財務情報等を開示。
4.基本合意書の締結
5.双方の条件のすり合わせ
6.デューディリジェンス(買収監査)の実施
7.最終譲渡契約の締結
8.クロージング手続き
9.事業承継ファンドが経営支援を実施
10.数年後、事業承継ファンドは株式を売却して売却益を獲得
具体的な手続きは事業承継ファンドによって異なるため、細かい部分は担当者に確認しておくことがおすすめです。
事業承継ファンドの種類
事業承継ファンドにはいくつもの種類があり、どの事業承継ファンドを選択すればいいか迷うこともあるでしょう。
ここでは、事業承継ファンドを運営している代表的な組織を紹介します。各事業承継ファンドの特徴も合わせて紹介するので、参考にしてみてください。
①中小機構の事業承継ファンド
中小機構の事業承継ファンドは、「中小企業基盤整備機構」によって運営されています。
幅広い経営支援を行っており、民間の事業承継ファンドに比べて公的な視点からのアドバイスを受けやすい点が特徴です。中小企業の相談先として最もポピュラーな事業承継ファンドです。
②日本投資ファンド
日本投資ファンドは、日本M&Aセンターと日本政策投資銀行が共同設立した事業承継ファンドです。
豊富な事業承継実績とノウハウを持っている点が特徴となり、公的要素が合わさったファンドであるため、支援対象の審査ハードルは比較的低くなっています。
③PE(プライベートエクイティ)ファンド
PEファンドは、対象企業の未公開株を買い取って経営に関わり、企業価値を高めてから売却し運用益を得るファンドのことを指します。PEファンドを運営する会社の一例としては「日本プライベートエクイティ」が挙げられます。PEファンドの特徴は、社員の自立を促しオーナー経営から組織経営に移行するサポートを得意としている点です。オーナーに頼らない組織を形成できるため、企業をより成長させられる可能性があります。
④SBI地域事業承継ファンド
SBI地域事業承継ファンドは、SBIホールディングスの子会社が2019年に設立した比較的新しいファンドです。
地域創生の一環として、後継者問題を抱える日本の中小企業への投資を目的としています。
他の事業承継ファンドとは異なり、「小規模な企業にも投資を行う」と公表している点が特徴で、今後サービスの充実が期待されている事業承継ファンドです。
事業承継ファンドを選ぶ際のポイント
事業承継ファンドを選ぶ際には、注目すべきポイントがいくつかあります。ポイントを押さえておくと自社に適したファンドを選べるため、ここでは、事業承継ファンドを選ぶときのポイントを解説します。
①過去の実績を確認する
事業承継ファンドを選ぶ際には、過去の実績を把握しておくことが大切です。
特に、自社と類似しているケースの支援実績を確認しておくと、選ぶ際の参考になるでしょう。
②支援内容など特徴を把握する
事前に、事業承継ファンドの支援内容を確認しておくことも大切です。その際に自社の基本情報や相談内容を伝え、具体的な支援内容を確認しておきましょう。どのようなサポートを受けられるのか相談前の段階で明確に把握しておくと、その後の進行をよりスムーズに行うことできます。
③長期的な期間・視点を持っているか確認する
長期的な視点で、事業の存続や成長を考えているかを見極めることも重要です。
なぜなら、短期的視点で利益を求める事業承継ファンドでは、自社の存続や十分な成長を期待できないからです。利益が出るまでに時間がかかる場合でも、しっかりと支援してもらえるかを過去の実績などから確認しておきましょう。
④担当者との相性を見極める
事業承継ファンドを選ぶ際には、担当者の人間性にも注目しましょう。相談時に違和感を覚えた場合には、すぐに話を進めず担当者や事業承継ファンドの変更も検討した方が良いかもしれません。事業承継は自社や従業員にとって非常に重要なイベントです。相性の良い担当者に相談できれば、安心して事業承継を進められます。
事業承継ファンドのメリット
事業承継ファンドには、様々なメリットがあります。
メリットを理解しておくと、事業承継ファンドを最大限活用できるでしょう。ここでは、事業承継ファンドのメリットを経営者と後継者、従業員、出資者とそれぞれの立場から解説します。
経営者のメリット
まず、経営者が事業承継ファンドを利用するメリットとしては、次の点が挙げられます。
1. 経営者の意図に沿った事業承継ができる
2. 売却利益を得られる
3. 経営に関してのアドバイス・サポートが受けられる
4. 会社の理念・文化を風化させずに支援を受けられる
それぞれのメリットを解説します。
①経営者の意図に沿った事業承継ができる
事業承継ファンドの最大のメリットは、経営者の意図に沿った事業承継が可能な点です。
事業承継ファンドでは、後継者の育成も行っています。後継者育成の段階で、企業理念やコンセプトを根付かせて育成するため、経営者の意図に沿った事業承継が可能です。
また、社内に後継者候補がいない場合は、ふさわしい人材を後継者に選定してくれます。
②売却利益を得られる
廃業する際は、不動産売却や機械設備廃棄など多額のコストが必要になりますが、事業承継ファンドを活用すると株式を買い取ってもらえるため、経営者は売却益を得ることができ廃業に関するコストもかかりません。
得たお金を別の事業資金に充てたり、勇退後の生活資金に活用したりできます。事業承継ファンドは、経営者にとって大きなメリットがある制度です。
③経営に関してのアドバイス・サポートが受けられる
事業承継ファンドを活用すると、経営に関するアドバイス・サポートが受けられる点も大きなメリット。
事業承継ファンドはまず株式を買い取り、経営支援によって会社を成長させます。そして数年後に、株式を売却し運用益を出すビジネスです。
ファンドは経営支援のノウハウを持っているため、事業承継ファンドを活用すれば、事業を成長させ、より良い形で会社を存続させられる可能性が高くなります。
④会社の理念・文化を風化させずに支援を受けられる
事業承継ファンドでは会社の理念・文化を風化させることなく経営支援を受けられる点もメリットです。
会社の理念や文化を維持できれば、経営者は愛着のある会社をできるだけ変えずに存続でき、経営者交代による従業員への影響も最小限に抑えられます。
後継者のメリット
次に、後継者にとってのメリットを解説します。
後継者にとっては、資金負担が軽減される点がメリットといえます。
企業を買い取って引き継ぐ場合は、多額の費用が必要になりますが、事業承継ファンドを利用できる場合は、自己負担額なしで企業を引き継げる可能性もあります。
また、事業承継ファンドを利用する際に、経営アドバイスを得られるケースがあります。経営者として実績が豊富なアドバイザーから具体的なアドバイスを受けることができれば、すぐに活用できる現実的な経営スキルを身に付けられるでしょう。
従業員のメリット
次に、従業員にとってのメリットです。
従業員のメリットとしては、雇用契約の継続が挙げられます。
事業承継ファンドは中小企業の事業承継をサポートするファンドであるため、通常は従業員の雇用契約も引き継がれ、失職するケースは少ないです。また、経営基盤が強化されることで、長期的な雇用も期待できます。業績が向上すれば、待遇改善の可能性もあるでしょう。
出資者のメリット
最後に、出資者にとってのメリットです。
事業承継ファンドによって成長が見込まれる中小企業に投資すれば、将来的に売却益の獲得が期待できます。中小企業の将来性だけでなく、ファンドの経営支援の実績にも注目して出資先を選びましょう。
また、事業承継ファンドは社会貢献にもつながるファンドです。地域経済の発展や雇用創出など社会的意義のある投資を実現できます。
事業承継ファンドのデメリット
事業承継ファンドには多くのメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。ここでは、事業承継ファンドから支援を受ける経営者にとってのデメリットを解説します。
①必ずしも支援を受けられるわけではない
事業承継ファンドは、あくまでも利益を出すことを目的としているため、会社の経営状況によってはファンドから支援を断られる可能性がある点を理解しておきましょう。「財政状況が悪化しすぎている」「改善が見込めない」と判断される場合は、そもそも支援を受けることができない可能性もあります。
②ファンド選びが難しい
事業承継ファンドには多くの種類があり、それぞれ今までの経験値やノウハウが異なります。
そのため、自社が求める支援内容に対応できないファンドを選んでしまうと、事業承継が失敗してしまう可能性もあります。自社に合った実績があり、ノウハウを十分に発揮できる事業承継ファンドを選ぶには時間がかかります。
自社に適しているかどうか、しっかりと見極めることが大切です。
③ファンドの運営方針が変わることがある
吟味して支援を受ける事業承継ファンドを選んでも、途中でファンドの運営方針が変わる可能性もあります。その場合、最初に期待したような効果が得られないというリスクがあります。
基本的に事業承継ファンドでは支援先企業の理念や文化を尊重しますが、その一方、投資によるリターンも重視します。ファンドによりリターンがあまり得られないと判断されたときは、経営方針を大きく揺るがすようなテコ入れが入ることもあります。
ファンドの運営方針が突然変わることがないよう、経営者はファンドと契約を締結する前に自社の理念や長期的なビジョンを伝えておくことが必要です。また、運営方針の変更についてもあらかじめファンド側と話し合い、急激な変更をできるだけ回避できるようにしておきましょう。
まとめ
本記事では、事業承継ファンドのメリット・デメリット、種類などを解説しました。
事業承継ファンドはM&Aとは違い、会社が合併・買収されません。そのため後継者問題に悩みを抱えており、経営理念を守りながら経営再建を行いたい中小企業にとって非常に有効的な選択肢です。
しかし、必ずしも支援を受けられるわけではなかったり、ファンド選びが難しかったりするなどのデメリットもあります。
ポイントを押さえファンドを見極めることができれば、自社に適した事業承継ファンドを活用できます。
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