M&Aでは、会社組織全体や社員、株価など多方面に影響が及びます。買収されるとどうなるのか、従業員が不安を感じることも少なくありません。
M&Aに伴う企業統合作業をスムーズに進めるためには、買収による影響を従業員に丁寧に説明して社内の混乱や不安を防ぎ、M&Aへの理解と協力を得ることが重要です。
本記事では、会社が買収されるとどうなるのかを、組織面と人事・人材開発面に焦点をあてて解説します。
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目次
買収されるとどうなる?会社や社員への影響を決める3つの要素
買収された会社への影響を決める要素は主に以下の3つです。
| ・譲受企業の方針・考え方 ・買収に用いられたスキーム ・買収時の条件・合意内容 |
会社を買収された後、譲渡企業(買収される側)は譲受企業(買収する側)の経営方針や考え方に大きな影響を受けるのが一般的です。また、買収に用いられるスキームや買収時の条件・合意内容も関係します。
会社の買収では、主に株式譲渡や事業譲渡のスキームが用いられ、譲渡企業の目的によって採用するスキームが決まります。例えば、後継者不在による廃業の回避や、経営者による売却益の獲得を目的とする場合は、株式譲渡が用いられ、主力事業への集中を目的とする場合は事業譲渡が用いられます。
株式譲渡と事業譲渡では、経営権の移行や雇用契約の引き継ぎなどが異なるため、当然ながら買収後に組織に与える影響も異なります。
また、M&Aでは最終契約の締結を行ってからクロージングをする流れとなりますが、最終契約に含まれる条件・合意内容も、買収された後の会社へ大きく影響を与えます。譲れない条件がある場合は、最終契約までに交渉する余地があります。
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買収された会社の組織・経営に起こる変化
一般的に譲渡企業は、買収されると譲受企業の経営方針や考え方に従う形となるため、組織・経営に関して多かれ少なかれ変化が生じます。会社が買収されるとどうなるのか、買収後の影響・変化を考える際のポイントは主に次の3つです。
| 会社の組織構造・ガバナンス体制 会社の風土や社風 取引先との関係 |
以下では、会社が買収された後の組織・経営に関する主な変化を、株式譲渡と事業譲渡の場合で紹介します。
会社の組織構造・ガバナンス体制
株式譲渡では、譲渡企業の株式の過半数を譲受企業に譲渡することで、経営権を譲ります。経営権が移動するため、譲受企業側から新しい経営陣が派遣され、譲渡企業の経営陣と交代するのが一般的です。そのため、経営方針やガバナンス体制が大きく変化する可能性があります。
一方事業譲渡は、事業の一部または全部を譲受企業に譲渡するため、経営権の移動は行われません。譲渡企業の経営陣は変わらないため、会社そのものに大きな変化はありませんが、譲渡される事業に関しては、譲受企業の方針に従うことになります。
会社の風土や社風
株式譲渡と事業譲渡どちらの場合においても、会社の風土や社風は譲受企業に合わせるケースが多く、買収後に大きく変化する場合があります。
会社の風土や社風が譲渡企業と譲受企業で大きく異なる場合、譲渡企業の従業員は今までと異なる文化を受け入れなくてはいけないため、M&A後に人材が流出してしまう可能性もあるでしょう。
人材が流出すると、譲受企業にとっては大きなマイナスになってしまいます。そのため、譲渡企業の経営者は事前に従業員への説明をしっかりと行う必要があります。
取引先との関係
株式譲渡の場合は、経営権が移動するだけなので、買収後は譲受企業が取引先との契約をそのまま引き継ぎます。
ただし、譲渡企業と取引先とでチェンジオブコントロール条項が定められた契約を締結している場合は、注意が必要です。チェンジオブコントロール条項がある場合、買収された後の経営に大きく影響するため、譲受企業へは事前に伝えておく必要があります。
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一方、事業譲渡では取引先との契約関係が引き継がれません。買収後の取引先との契約継続は譲受企業次第なので、契約を継続する場合、譲渡企業がサポートする必要があるでしょう。
買収された会社の人事・人材開発面の変化
譲受企業の方針や買収のスキームによっては、買収された後に従業員への影響が出る場合もあります。そのため、譲渡企業の経営者は、買収による従業員への影響を理解しておく必要があるでしょう。主な影響は次の4つです。
| ・労働条件・退職金 ・福利厚生制度 ・人事評価制度 ・キャリア開発・研修制度 |
以下では、買収された会社の人事・人材開発面の変化について紹介します。
労働条件・退職金
労働条件や退職金に関しては、会社の買収が株式譲渡か事業譲渡かによって対応が異なります。
株式譲渡の場合は包括承継となるため、雇用契約はそのまま引き継がれます。また、退職金制度もそのまま引き継がれるのが特徴です。
一方、事業譲渡の場合は特定承継となるため、再度雇用契約を結び直す必要があり、定年退職の年齢や給与などの労働条件の他、退職金に関しても変更される可能性があります。
なお、事業譲渡の際の退職金の扱いについては、基本的に以下のどちらかで対応するのが一般的です。
| ・譲渡前に一度退職金を精算し、譲渡後は譲受企業の基準に沿った退職金規程に従う ・譲受企業がそのまま退職金を引き継ぎ、退職時に同額を支払う |
福利厚生制度
福利厚生は譲受企業が決めるケースがほとんどのため、待遇が良くなる場合もあれば悪くなる場合も考えられます。住宅手当の有無や金額、各施設の割引サービス、育児・介護休暇の日数などに、何かしらの変化が生じる可能性が高いでしょう。
人事評価制度
買収後は、譲受企業によって評価制度などを含めた人事制度の統合が行われます。基本的には、譲渡企業の従業員のモチベーションが下がらないように配慮して行われますが、場合によっては評価制度が大幅に変更され、待遇が変わる可能性もあるでしょう。
例えば、買収後、貢献度が相対的に十分でない従業員や、賃金が生産性を上回っている高齢の従業員の待遇が悪くなってしまう可能性も考えられます。
また、事業譲渡の場合は雇用契約を結び直すため、譲受企業との条件によっては買収前と買収後で賃金などが変わることもあります。
キャリア開発・研修制度
買収は、基本的に譲渡企業より規模の大きい会社が譲受企業となるため、譲渡企業の社員にとっては買収前より仕事の内容やキャリアの幅が広がる可能性があります。
例えば、譲受企業が異業種であれば、全く新しい仕事に取り組めるケースがある他、同業種でも異なる業務内容を経験できる場合もあるでしょう。
また、買収先が研修制度の充実している企業であればスキルアップができ、今までと違う人脈もできるため、スキルや経験、知識を深める機会にもなります。
【従業員】買収による雇用への影響を考える際のポイント

買収される会社の社員の中には、勤務先が買収されるとどうなるのか、解雇されたり勤務条件が変わったりするのか、不安になる人も少なくありません。
ただ、不必要に過度な不安を感じる必要はなく、M&Aによって勤務先が買収される場合でも冷静に対処する必要があります。以下では、買収による雇用への影響を考える際の主なポイントを2つ紹介します。
買収されても従業員が解雇されることはない
労働基準法や労働契約法により、労働者の権利を守るために、吸収合併に伴うリストラはできないことになっています。そのため、会社の買収によって従業員が解雇されることはありません。
しかし、法律で守られているのはあくまで最低限の範囲なので、労働環境や労働条件、福利厚生、退職金などが変わる可能性はあります。従業員の待遇に関して事前に交渉しておくことで、従業員にとって働きやすい環境を維持することができるでしょう。
なお、M&Aによる各種変化が原因で退職したい場合の退職金や退職理由については、スキームやM&A後の状況によって取り扱いが異なります。
M&A後の退職金や退職理由の取り扱いは、こちらの記事で解説しています。
▷関連記事:M&A後の退職金は?手法・役職別の取扱いと節税につながるスキーム、注意点を解説
事業譲渡における労働条件は会社の買収前に協議することもできる
事業譲渡では雇用契約を結び直す必要があります。その際、承継予定労働者であれば、労働組合法上の団体交渉権により、労働条件について申し入れをすることができます。
そもそも譲渡企業は、譲渡前の労働契約を譲受企業に承継させる場合、承継予定労働者から民法第 625 条第1項の規定に基づく承諾を得る必要があります。そのため、譲渡企業は事前に承継予定労働者へ十分な説明を行い、承諾に向けた協議を行うのが適当です。
承継予定労働者へは、以下のような内容を説明します。
| ・事業譲渡に関する全体の状況(譲渡会社等及び譲受会社等の債務の履行の見込みに関する事項を含む) ・承継予定労働者が勤務することとなる譲受会社等の概要および労働条件(従事することを予定する業務の内容および就業場所その他の就業形態等を含む) |
上記は、国が規定する「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社などが留意すべき事項に関する指針」で紹介されている一例です。当然ながら、事業譲渡に伴い他に説明しておく事項があれば、譲渡企業は事前に承継予定者へ説明しなければいけません。
このようにM&Aには法律が関係し、専門的な知識が必要になります。そのため、スムーズにM&Aを実施するには、専門家に相談しながら行うのが良いでしょう。M&Aを検討中の方はfundbookにお気軽にご相談ください。
【企業担当者】買収後の統合作業をスムーズに進めるためのポイント
M&Aにおいて企業統合作業をスムーズに進めるため、企業担当者が押さえておくべきポイントは次の2つです。
| ・従業員や取引先へ丁寧に説明して良好な関係を維持する ・M&A仲介会社や士業など専門家に相談する |
以下では、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
従業員や取引先へ丁寧に説明して良好な関係を維持する
従業員や取引先には、M&Aを行う目的や内容を適切なタイミングで伝えることが大切です。交渉の途中段階でM&Aの情報が漏れると、従業員や取引先が不安を感じたり混乱を招いたりするおそれがあります。
買収されるとどうなるのか、従業員が不安を感じて退職したり取引先が不信感を募らせたりしないように、配慮する必要があります。従業員や取引先とのコミュニケーションを重視することで、関係者から理解や協力を得ることができ、企業統合作業を円滑に進められるでしょう。
M&A仲介会社や士業など専門家に相談する
M&Aでは、最初の検討段階から仲介会社や士業などの専門家に相談・依頼することで、必要な対応をスムーズに進めることができます。
M&Aの検討や相手企業との交渉、実際の統合作業では、専門的な知識やノウハウが必要になる場面が少なくありません。経営者や社員が自分たちだけで企業統合作業を進めようとしても、スムーズに進まず時間がかかる場合があります。
M&A仲介会社などのサポートを受ければ効率よく統合作業が進み、統合に伴うリスクを事前に把握できれば統合後に新たな問題が発覚して混乱する事態を避けられます。
まとめ
会社が買収されるとどうなるかは、企業の経営方針や考え方に変わりますが、その他に譲渡スキームや契約時の条件・合意内容も影響を与えます。
株式譲渡では経営権の移動が行われるため、経営陣の入れ替えが生じる可能性が高いものの、取引先や従業員への影響は比較的小さいと考えられます。一方、事業譲渡では様々な契約が一度リセットされるため、取引先や従業員への影響は大きくなるのが特徴です。
買収では契約時の条件や合意の段階で譲渡企業の経営者がしっかりと内容を確認し、既存の取引先や従業員への影響がでないように話し合う必要があるでしょう。
fundbookには経験豊富なアドバイザーが多数在籍しています。M&Aを行うには専門的な知識が必要になるため、会社の売却を考えている方は一度fundbookにぜひご相談ください。