合併を実施する際には、合併契約の締結や自社の既存の契約の見直し、実務レベルのすり合わせなど、さまざまな手続きを行います。合併は組織再編行為であり、組織の見直しや人事制度、従業員の待遇、事業計画など、合併後の明確なビジョンを策定するため、検討の際には現状を正確に把握するところから始まります。その上で取引先との契約は合併後どうなるのか、契約を再度結ぶべきなのかなど疑問は多々あるのではないでしょうか。
本記事では合併における「既存契約」について取り上げ、疑問の解消に向けて解説します。
また、合併には新設会社が存続会社となる「新設合併」と既存の会社が存続会社となる「吸収合併」の2つがあります。しかし、新設合併は新設会社の設立手続きや許認可の再取得など多くの時間やコストが必要になるため、実際のところ、吸収合併が利用されるケースが大多数です。そのため、本記事では吸収合併を前提として解説します。
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吸収合併では契約が承継される
まず、会社法(会社法2条27号)における吸収合併の定義について見ていきましょう。
吸収合併とは、「会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。」と規定されています。つまり、原則として消滅会社の合併前の契約は、そのまま存続会社に包括的に承継されます。しかしながら、あくまで原則であり、例外もあるため注意が必要です。
▷関連記事:合併において契約は承継される?契約関係の注意点を解説
契約が承継されない例外。チェンジオブコントロール条項に注意
ここでは、吸収合併の契約の承継において注意が必要な「チェンジオブコントロール条項」とはどのようなものかを説明します。
チェンジオブコントロール条項(COC条項)とは
チェンジオブコントロール条項(以下、COC条項)は、取引先と消滅会社との商取引契約において、経営陣や主要株主などが持つ支配権に重要な変更が生じた際には、取引先に契約の解除権を認めるという契約書上の条項です。COC条項が契約にある場合は、取引先に対し事前または事後に通知もしくは届け出を行い、解除権を行使するか否かを確認するようにしましょう。
つまりCOC条項とは、吸収合併を含むM&Aに伴い、主に支配権に大きな移動が生じた場合の取引会社側の対応に言及した条項です。これは、取引先との関係では、相手方が競合の傘下に入った場合などに、自社の財産やノウハウが競合他社に流れてしまうことを防ぐために設けられています。該当する商取引そのものが存続会社にとって、大きなメリットであり相乗効果を見込めると考えていた場合、吸収合併の決定を揺るがす重要事項となり、承継にも影響を及ぼす可能性があるので慎重な判断が求められます。
吸収合併を考える際には、取引先との既存の契約内容にこのCOC条項が盛り込まれているかを確認しましょう。なお、金融機関との契約(銀行取引約定)には必ず盛り込まれる一般的な条項です。
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新たに覚書を交わす必要はある?
吸収合併では消滅会社が取引先などと結んでいた契約は存続会社に承継されます。しかし、消滅会社が結んでいた契約は消滅会社の商号で契約されていますから、新たに覚書を作成し取引先と結ぶ必要があるか気になるものでしょう。
合併は包括的な承継になるため、消滅会社の商号で契約していたとしても法的には契約書の変更や新たな覚書の作成は基本的に不要です。また、消滅会社が合併後に消滅し、さらに合併後に存続会社が社名変更を行ったとしても消滅会社の権利・義務は包括的に承継されているため、契約の再締結や新しい覚書は必要ありません。
一方、消滅会社の取引先にとっては合併によって、契約相手が変わったように思われますが、こちらも特段の手続きは求められません。仮に、合併前に消滅した取引先名義で請求書の発行を行ってしまったとしても、権利・義務は存続会社に承継されているため、その支払いの義務は合併後の存続会社が負うことになります。
まとめ
吸収合併では吸収される側である消滅会社の債務や事業、権利義務の一切が存続会社へ承継されます。合併前に取引先と交わしている既存の契約は、原則そのまま承継されるので、新たに契約を結び直す必要はありません。
しかし、契約にチェンジオブコントロール条項が盛り込まれている場合は例外として契約の解除を求められる可能性があります。契約先に対し、契約解除を行使するか否かの確認を取るようにしましょう。
吸収合併後も仕入れ先や販売先との円満な取引きが継続できるように、不明な点は司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。