昨今、後継者不在問題がニュースを騒がせており、2/3以上の会社が後継者不在といわれています。後継者が不在のままでは事業を続けることが難しくなり得るため、事業を継続し、取引先との関係や従業員の雇用を守るための方法として、合併という選択肢が考えられます。吸収合併と新設合併の2つの手法がある合併は組織再編などで活用されることが多々あります。
合併を行うことで被合併会社は、自社の事業や従業員を合併会社に承継してもらい、事業や従業員の雇用を守ることができます。
今回は、対価を株式とすることを前提に、吸収合併について解説します。
※本記事の会社は株式会社を指し、吸収合併を行った後に存続する会社を合併会社、吸収合併を行った後に消滅する会社を被合併会社とします。
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吸収合併とは
吸収合併(Absorption-type Merger)とは、合併の方法のひとつで、一方の会社が消滅する他方の会社の権利義務のすべてを承継することを指します。これに対して、全ての会社が消滅して、その権利義務のすべてを新たに設立される会社が承継する方法は、新設合併といわれます。
会社法では第2条27号において、「会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。」と定義されています。
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M&Aにおける吸収合併と新設合併との違い
合併とは2つ以上の会社が1つの会社になることです。合併には「吸収合併」と「新設合併」の2つの手法があります。
吸収合併とは既存の会社が合併会社になり、被合併会社と合併を行うことです。合併後には、被合併会社は消滅します。また、合併は包括的な承継になるため、被合併会社の権利や債務は全て合併会社に引き継がれることになります。一方、新設合併は新たに会社を設立し、既存の会社を解散して新会社へ全ての権利義務を承継させる手法です。
実務においては、新たに合併会社を設立する新設合併に比べ吸収合併が多く行われています。吸収合併では既得の許認可や免許などを承継でき、工数やコストの削減ができるためです。
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子会社の吸収合併について
組織再編などで親会社が子会社を吸収合併することがあります。この場合、子会社とのより綿密な関係性を構築し、経営の効率化を図ることが主だった目的です。
また、吸収合併では対象会社の権利義務をすべて引き継ぐため、負債を抱えた子会社を救済する目的で行われることもあります。親会社が子会社を吸収するケース以外にも、子会社同士が吸収合併をすることもあります。
吸収合併のメリット・デメリット
吸収合併のメリット・デメリットは下記になります。
吸収合併のメリット
・多くのシナジーが見込め、早期実現が期待できる
M&Aでよく行われる株式譲渡では、譲渡企業と譲受企業はそれぞれ別の会社として存続しますが、合併では2つ以上の会社が1つの会社になります。そのため、綿密な関係性が築け、シナジーの効果が高まることが見込めます。また、経営資源が統合されるためシナジー効果の早期実現が期待されます。
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・被合併会社は契約や債務などを包括的に合併会社に承継できる
吸収合併は包括的な承継となるので、被合併会社は自社の持っている権利や債務をすべて合併会社に引き継ぐことができます。また、取引先との契約や従業員の雇用もそのまま合併会社に承継することが可能です。
一方、合併会社は被合併会社が結んでいる取引先との契約なども包括して引き継げるため、被合併会社の取引先と新たに契約を締結する必要がありません。
・合併会社に資金がない場合にも実施可能
被合併会社への対価を合併会社の株式とすることで、合併会社に資金がなくても実施可能です。特に、合併会社の株価が高いときに効果的な手法となります。
・被合併会社の繰越欠損金を引き継げる可能性がある
被合併会社に繰越欠損金があった場合、適格合併であれ合併会社が引き継ぐことができます。これにより、将来得られる利益と相殺され節税効果を得られます。
吸収合併のデメリット
吸収合併のデメリットには下記があります。
・様々な手続きが必要
株式譲渡と比較すると、吸収合併では被合併会社が消滅することなどから、様々な手続きが必要になります。具体的には、株主総会の特別決議や契約書の備置・開示、債権者の異議手続きなどがあります。
・PMIの負担が大きい
譲渡企業と譲受企業がM&A後も別会社として存在し続ける株式譲渡などに比べて、吸収合併では2つ以上の会社が1つになるため、PMIの負担が大きくなります。例えば、人事評価制度や経理処理などを一本化します。
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・合併会社が未上場会社の場合、株式の現金化が難しい
合併会社から被合併会社への対価を株式とした際に、合併会社が未上場会社の場合には、株式の流動性が乏しいため、売却などによる現金化が難しくなります。
吸収合併の手続き
合併の基本的な手続きは下記です。
1.合併契約の締結
合併会社と被合併会社で合併契約を作成、締結します。併せて、株主への通知・公告も行います。
2.合併契約等の備置・開示
合併契約等の書類を、登記上の本拠である本店にて承認決議を行う株主総会の2週間前または、合併契約の締結時の株主への株式買取請求に関する通知日または公告日、新株予約権買取請求に関する通知・公告の日(被合併会社の場合)、または債権者の異議に関する公告・催告の日、のいずれか早い日から6ヶ月間、保管をします(被合併会社は契約の効力発生日まで)。(会社法782条2項、794条2項、803条2項)
3.合併契約の承認決議
原則、合併会社と被合併会社のそれぞれの株主総会で承認を得ます。
4.反対株主の株式・新株予約権の買取請求への対応
合併に反対する株主は原則として、株式・新株予約権の発行元の会社に対して、株式・新株予約権の買取請求を行えます。株式・新株予約権の買取請求がある場合、対応が必要です。
5.対価の交付
被合併会社の株主へ対価になる株式の交付を行います。
6.合併の効力発生
合併契約にて定めた日から効力が発生します。
7.事後開示書類等の備置・開示
合併会社は効力発生日から6ヶ月間は、本店に事後開示書類を保管します。
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吸収合併時の登記
吸収合併を行った際は、効力発生日から2週間以内に合併会社は登記の変更を行い、被合併会社は解散の登記を行います。この登記は合併会社と被合併会社で同時に行います。
吸収合併の登記時に必要な書類
吸収合併の登記時に必要となる書類(一例)
・合併契約書
・株主総会の議事録
・資本金の計上証明書
・消滅会社の登記事項証明書
必要な書類は、合併の仕方や事業の種類などによっても異なります。
吸収合併の登記時に生じる登録免許税額
合併会社には、吸収合併によって増えた資本金の0.15%が登録免許税額としてかかります。ただし、資本金の増加額が被合併会社の資本金を超える場合は、当該部分に対応する登録免許税額は0.7%となります。一方、被合併会社の消滅会社の登記手続きは一律3万円となります。
※合併会社にかかる税金が3万円を下回る場合でも、納める税金は3万円となります。
吸収合併の事例
実際に吸収合併が実施された事例を紹介します。
綜合警備保障の事例
セキュリティ事業、総合管理、防災事業、介護事業などを展開する綜合警備保障株式会社は、2022年4月に子会社のALSOKリース株式会社を吸収合併すると発表しました。
ALSOKリースは綜合警備保障の完全子会社であり、警備機器や防災機器などのリース、割賦販売を手掛けていました。
グループの体制を効率化させるために吸収合併に至った模様です。
三菱UFJリースの事例
三菱UFJリース株式会社は、2020年9月に日立キャピタル株式会社を吸収合併しました。
三菱UFJリースは東証一部上場のリース会社でしたが、コロナウイルスの影響でリース会社に対しビジネスチェンジを余儀なくされたことから、ビジネス領域の相互補完、経営基盤の強化の2点を主な目的として実施されました。
まとめ
吸収合併はPMIの負担が大きいなどのデメリットがありますが、合併の魅力である親密な関係が築けるなど多くのシナジーが見込めるメリットがあります。また、組織再編などにも比較的活用しやすいという特徴があります。シナジーを見込み吸収合併を行う際や、組織再編に活用する際は、スムーズに行えるように、早い段階で専門家に相談しましょう。
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