
商社は、国内外の幅広い商品やサービスの取引を中心に事業を展開する企業です。総合商社や専門商社などの種類があり、事業拡大やコア事業の強化、事業の多角化に向けたM&Aが盛んに行われている業界です。持続可能な企業成長には、M&Aを含めた経営戦略の実行が欠かせません。
本記事では、商社の概要やM&A動向を解説します。商社がM&Aを実施するメリットや注意点、M&A事例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
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商社とは
商社とは、国や地域、会社の間に立ち、商品やサービスなどの商取引を扱う企業です。近年では、物流や市場開拓、金融やリスクマネジメントなど様々な分野で総合的なサービスを提供する商社もあります。
商社が取り扱う商品やサービスは多種多様です。機械、自動車、船舶、航空機、プラント、通信機器、金属、鉱産物、エネルギー、化学品、繊維、食品などの幅広い商品を扱い、上流から下流まで様々な分野に関わります。原材料の調達から商品・サービスの販売まで、各段階での付加価値向上に寄与する企業です。
商社の中でも、上記のように多岐にわたるサービスを提供する商社は「総合商社」と呼ばれます。一方、特定の商品や地域を取り扱い、顧客の細やかなニーズにまで対応する商社は「専門商社」と呼ばれ、棲み分けがなされています。
商社のM&A動向
商社では、経営戦略の1つとしてM&Aが活発に実施されています。商社のM&A動向を同業種間と異業種間に分けて解説します。
同業種間でのM&A
同業種である商社間でのM&Aには、特定商材の事業強化やサプライチェーンの拡大などが挙げられます。
例えば、商社がある商材の事業強化を図る場合、該当する分野の専門商社の子会社化や資本提携は有効的な方法です。商社のコア事業や重点事業の強化、経営の多角化を目的とした新規商材の開拓などを目的に、その商材に強みを持つ商社を対象としたM&Aが実施されます。
その他、サプライチェーンの強化を図るために、サプライチェーンの上流や下流にある商社を買収するM&Aも盛んです。原材料の調達からより消費者に近い販売までカバーすることによって、総合的な事業展開を行えます。
異業種間でのM&A
異業種間のM&Aには、総合商社によるバリューチェーンの構築が挙げられます。バリューチェーンとは、「開発から生産、販売までの各段階で付加価値を高めるプロセス全体」を指す用語で、総合商社のコンビニエンスストア分野での川上統合戦略はその一例です。
商社が譲渡企業になるケースには、同分野メーカーによる買収や資本提携があります。例えば、製糸業を営むメーカーが、製紙分野で優れた商取引や物流機能を持つ商社を買収すると、製紙製品の生産から運搬、販売までの垂直統合に役立ちます。
商社のM&Aのメリット

商社のM&Aは、事業規模の拡大や財務状況の安定化などを目的に実施されます。商社がM&Aを実施するメリットを、譲渡企業側と譲受企業側に分けて解説します。
【譲渡企業側】M&Aのメリット
商社でM&Aを実施すると、譲渡企業側にはいくつかのメリットが見込めます。
譲受企業の規模や状況にもよりますが、主なメリットは次のとおりです。
・大手商社へのグループ入りによる財務状況の安定
・大手商社やメーカーとの連携強化
・事業の継続と従業員の雇用維持
・DXの推進
例えば、大手商社のグループ企業になると、大手商社が持つ資本や技術、ノウハウの共有によって経営が改善され、財務状況が安定する効果を期待できます。さらに、M&A先の大手商社やメーカーとの連携を強化でき、仕入れ交渉力の強化や販売チャネルの相互活用などを見込める点もメリットです。
また、業績不振の企業や後継者不在に悩む企業の場合、M&Aによって廃業を回避でき、事業の継続や従業員の雇用維持につながります。M&Aの相手がDX(デジタルトランスフォーメーション)に強みを持つ企業であれば、そのノウハウやシステムの導入でDXの推進も可能です。
【譲受企業側】M&Aのメリット
商社のM&Aは、譲受企業側にも複数のメリットをもたらします。
具体的には次のメリットです。
・スピーディな事業拡大
・新規顧客の獲得
・海外や未進出エリアの開拓
・サプライチェーンの構築
譲受企業側の大きなメリットは、スピーディに事業を拡大できる点です。例えば、特定の製品分野で実績のある専門商社を譲受できると、その商社が有する販路やノウハウを取得でき、ゼロから事業拡大するための手間やコストを軽減できます。また、譲渡企業が持つ顧客を取り込めることで、新規顧客の獲得にもつながります。
その他、商社のM&Aは国内の未進出エリアの開拓や海外進出に役立ちます。サプライチェーンの川上・川下にある企業を譲受することによって、サプライチェーン構築による垂直統合戦略の実施が可能です。
商社のM&Aの売却価格相場
M&Aを行う際の商社の売却価格は、その商社が生み出す利益や将来性などによって異なります。ただし、中小規模の商社の場合、年買法(年倍法)で簡易的な売却価格の目安を算出することが可能です。
年買法では、次の計算式でおおよその売却価格を算出します。
売却価格=時価純資産額+営業利益×2年~5年分
年買法を活用すると、上記のように時価純資産額や営業利益から売却価格の目安がわかります。M&Aにおいて売却価格はM&A戦略にも影響を与えるため、目安の把握は戦略の策定や費用の計算に役立つプロセスです。
なお、M&Aの最終的な売却価格は、企業価値の評価をもとに譲渡企業と譲受企業の交渉で決定します。企業価値の評価は「バリュエーション」と呼ばれ、主に次の3つのアプローチが存在します。
アプローチの名称 | 内容 |
コストアプローチ | 企業の純資産をもとに評価する方法簿価純資産法や時価純資産法、年買法などの種類がある |
マーケットアプローチ | 同業他社や市場の指標と比較する方法類似企業比較法や類似取引比較法などの種類がある |
インカムアプローチ | 企業が将来的に生み出す収益力をもとに評価する方法DCF法や配当還元法などの種類がある |
企業価値の評価方法は、状況に応じて選択されます。例えば、上場企業は財務状況が公表されているため、マーケットアプローチでの評価が比較的容易に実施できます。
▷関連記事:「会社売却の相場とは?決め方や高く売るポイント、必要な諸経費について解説」
▷関連記事:「M&Aの価格相場や算定方法とは?3つのアプローチと注意点」
商社のM&Aを行う際の注意点
M&Aでは異なる文化や組織を持つ企業が1つの企業になるため、統合に時間と労力がかかります。そのため、早期の準備・判断が重要です。また、脱炭素化やDXなど、ビジネスのトレンドに合わせた戦略構築も重要となります。
なお、商社の場合、海外企業とのM&Aも多く存在しますが、異なる言語や文化、法律のある海外企業とのM&Aは様々なハードルがあります。海外企業とM&Aを行う際は、デューディリジェンスの段階から対象企業が持つ文化や風土を調査するなど、M&A後の統合を見越した対応が必要です。
その他、M&Aを進行する際は、情報漏洩のリスクに配慮しましょう。従業員や取引先にM&Aを検討していることが意図せず漏れてしまうと、各関係者に不安を与えます。M&Aの進行を妨げる恐れがあるため、最終契約が締結されるまでは、原則として情報開示を限定しましょう。
商社のM&A最新事例
商社では、事業の拡大や多角化、知的財産の獲得や技術力の向上などを目的に、M&Aが多数実施されています。商社のM&A事例を紹介します。
ハイケム株式会社による住友化学株式会社の製造技術に関する知的財産譲渡
2024年11月、ハイケム株式会社と住友化学株式会社はカプロラクタム製造技術に関する知的財産の譲渡契約を締結しました。
住友化学株式会社はアグロ&ライフソリューション部門を始めとした事業を展開する総合化学メーカーであり、ハイケム株式会社は化学品の専門商社兼メーカーです。
ハイケム株式会社は上記の製造技術の継承により、世界各地でライセンス展開する予定です。
株式会社オータケによる株式会社田中産業の子会社化
2024年9月、株式会社オータケは株式会社田中産業の全株式を取得し、子会社化しました。
株式会社オータケは、1946年に創業した管工機材の専門商社です。日本国内の主要な都市や地域に営業基盤を持つ企業です。
関西を中心にステンレス鋼材・配管資材を取り扱う専門商社である田中産業の子会社化により、商品や顧客基盤の連携強化、事業領域の拡大を狙います。
ヱトー株式会社による株式会社ウエルストンの子会社化
2024年8月、ヱトー株式会社は株式会社ウエルストンの全株式を取得し、子会社化することを取締役会で決議しました。
ヱトー株式会社は極東貿易株式会社の連結子会社であり、精密ファスナーを中心に取り扱う専門商社です。船舶補修部品を取り扱う専門商社の株式会社ウエルストンを取得することで、新規事業への参入と事業の多角化、収益基盤の強化を目指します。
第一実業株式会社による株式会社ウエイブエンジニアリングの株式取得
2023年8月、第一実業株式会社は株式会社ウエイブエンジニアリングの株式を取得し、グループ化しました。
第一実業株式会社は、産業用機械を中心とする総合機械商社です。
石油プラントの設計やコンサルティング業務を展開する株式会社ウエイブエンジニアリングとの連携により、エンジニアリングのワンストップサービスを実現し、企業価値の向上を狙います。
まとめ
商社は商品やサービスを取引する企業であり、近年では総合商社を中心にバリューチェーンの構築など幅広い事業を展開しています。
日々変化する経済状況の中で安定的な収益を上げるため、M&Aを活用したコア事業の強化や新規事業への参入、経営の多角化が図られている状況です。企業を譲渡する側でも、子会社化による財務基盤の安定化や事業継続などのメリットが期待されます。
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