
情報通信業は将来性が期待される分野ですが、新技術への対応や経営資源の確保などが課題に挙げられており、M&Aが盛んに行われる業界です。
将来的な事業承継や新技術の確保を考えている方は、業界の現状や動向などを把握しておくと良いでしょう。
本記事では、情報通信業の現状やM&A動向、メリット、デメリット、最新事例などを解説します。
企業価値100億円の企業の条件とは

・企業価値10億円と100億円の算出ロジックの違い
・業種ごとのEBITDA倍率の参考例
・企業価値100億円に到達するための条件
自社の成長を加速させたい方は是非ご一読ください!
目次
情報通信業とは

情報通信業とは、情報の伝達や処理、提供を行う事業所を総称した業種です。
総務省の日本標準産業分類によると、「通信業」「放送業」「情報サービス業」「インターネット附随サービス業」「映像・音声・文字情報制作業」が該当します※。
情報通信業は、情報の流通やコミュニケーションを支える、現代社会において重要な役割を担う業界です。
※出典:総務省「日本標準産業分類分類項目名、説明及び内容例示令和5年7月告示第14回改定」
情報通信業の市場規模
総務省情報流通行政局が発表した「2023年情報通信業基本調査」によると、2022年度の情報通信業の企業売上高は約31兆1,800億円で、前年度比106.2%の増加となりました。
次の表は、2022年度の情報通信業の売上高の内訳をまとめたものです。
売上高 | 割合 | 前年度比 | |
電気通信業 | 約14.8兆円 | 66.1% | 100.7% |
放送業 | 約2.9兆円 | 13.3% | 103.9% |
インターネット付随サービス業 | 約4.2兆円 | 19.1% | 121.9% |
テレビジョン番組制作業 | 約0.3兆円 | 1.5% | 101.6% |
特に伸びているのはインターネット付随サービス業で、IT化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に伴い、社会インフラとしての重要性が高まっています。
今後は、Beyond5G(6G)や人工知能(AI)などの先進技術の発展により、さらなる市場拡大が期待されている業界です。
情報通信業のM&A動向と目的
情報通信業のM&A動向と目的は以下のとおりです。
・最新技術の獲得
・事業規模の拡大
それぞれ解説します。
最新技術の獲得
情報通信業界におけるM&Aは、「最新技術の獲得や適応」を目的として活発に行われています。
自社でゼロから技術を開発するよりも、すでに開発された技術を持つ企業を買収することで、開発に必要なコストや手間、リスクを抑えることが可能です。
例えば、マイクロソフトは2022年にゲーム開発大手のActivision Blizzardを買収し、「Warcraft」や「Call of Duty」などの人気フランチャイズを取得しました。
マイクロソフトはこのM&Aによって、モバイルやパソコン、コンソール、クラウドなどの多様なプラットフォームでゲーム事業の成長を加速させ、将来的にメタバース構築にも寄与することを目指しています。
また、Googleは2022年にサイバーセキュリティ企業のMandiantを買収しました。
M&Aの実施によって、Google Cloudのセキュリティを補完し、強力なサービスをユーザーに提供できるようになった事例です。
情報通信業界では、本事例のように、M&Aを通じて最新技術や専門知識を迅速に取り入れ、市場での競争力を高める傾向が見られます。
事業規模の拡大
情報通信業界におけるM&Aでは、譲受企業は事業に必要な経営資源を確保できるため、「事業規模の拡大」を目的とする場合があります。
M&Aによって獲得できる経営資源の例は以下のとおりです。
・最新技術
・優秀な人材
・高度な設備
・新たな販路
開発コストやリスクを抑えつつ事業の成長を加速させることができれば、投資家の注目度が高まり、資金調達が容易になります。さらなる大規模な事業展開や新規プロジェクトの立ち上げも可能です。
実際、米国の通信業界におけるT-Mobileとスプリントの合併では、両社は経営資源を統合して事業規模を拡大させ、米国携帯電話市場での競争力を強化しました。
また、楽天は2016年にフリマアプリ「フリル」を提供するFablic社を買収し、CtoC(個人間売買)市場への参入を強化し、事業領域を拡大しています。
なお、譲受企業だけでなく、譲渡企業にもメリットがあり、例えば、大手企業の傘下に入ることで経営基盤の安定や事業の加速が期待できる点もM&Aの特徴です。
つまり、情報通信業界においてM&Aは、「事業規模の拡大」や「経営資源の確保」が可能になる方法であり、企業の成長戦略に重要な役割を果たしています。
情報通信業のM&Aのメリット
ここからは、情報通信業のM&Aのメリットを譲渡側と譲受側別にそれぞれ解説します。
譲渡企業のメリット
情報通信業のM&Aにおける譲渡側の主なメリットは以下のとおりです。
・売却利益を獲得できる
・事業承継・撤退の費用を削減できる
・巨大なグループの傘下に入れる可能性がある
上記を順番に解説します。
売却利益を獲得できる
M&Aで事業を売却した場合、譲渡企業の経営者は引退後の生活資金や新規事業への投資など、多様な用途に活用できる「売却利益」を得られます。
さらに、経営難に陥った企業が本業の損失を補填する手段としても有効的です。経営を安定させたい場合は、事業の一部または全てを売却することを検討してみましょう。
事業承継・撤退の費用を削減できる
情報通信業界におけるM&Aは、事業承継や撤退に伴う費用削減の手段としても有効的です。
本来、廃業時には従業員の解雇や在庫の処分、設備の解体など、多くの手続きやコストが発生しますが、M&Aを活用すれば、その分コスト削減が可能です。
さらに、M&Aによって従業員の雇用を守り、取引先との関係も継続できます。事業の安定性を保ち、関係者への影響を最小限に抑えたい場合に有効的な方法です。
巨大なグループの傘下に入れる可能性がある
譲受企業が大手企業など巨大なグループの場合、譲渡企業はM&Aによってグループ傘下に参入できます。
大手企業の資本力やブランド力を活用できれば、経営基盤が強化され、さらなる事業の成長や拡大を図ることが可能になります。
さらに、従業員の労働環境や待遇の改善も見込まれ、優秀な人材の確保や定着にも寄与するため、組織全体の生産性向上につながります。
M&Aを通じて大手グループの一員となれば、企業は多角的な成長と発展の機会を得られる可能性があると理解しておきましょう。
譲受企業のメリット
情報通信業のM&Aにおける譲受側の主なメリットは以下のとおりです。
・技術を獲得できる
・従業員や設備を獲得できる
・新規事業が始めやすくなる
上記を順番に解説します。
技術を獲得できる
情報通信業界のM&Aは譲受企業にとって、最新技術や特許などの迅速な獲得に効果的な手段です。
自社で新技術を開発するためには多大な時間とコストがかかりますが、M&Aによってすでに技術を持つ譲渡企業を取り込めれば、あらゆるコストを大幅に削減できます。
例えば、クラウドやIoT、AI、サイバーセキュリティなどの革新的な技術を取り込むことで、競争力を強化し、サービスの多様化を図ることが可能です。
M&Aは、企業の技術力向上と市場競争力の強化に寄与する重要な戦略です
従業員や設備を獲得できる
譲受企業は、M&Aの実施によって優秀な人材や高度な設備を獲得できる場合があります。
熟練した技術者や専門知識を持つ従業員の確保は、人材不足の課題を解決し、技術力やサービス品質の向上も可能です。
また、高価な設備やインフラを一括して引き継ぐことで、設備投資の負担を軽減し、初期投資や導入期間を短縮しながら迅速な事業展開を実現できます。
事業基盤を強化し、競争力を高めながら市場の地位を確立したい場合は、M&Aを検討しましょう。
新規事業が始めやすくなる
買収によって事業規模が拡大できれば、資金調達力や信用力が向上し、新たなプロジェクトへの投資がしやすくなります。
また、譲渡企業が築いた顧客基盤や販売チャネルを活用することで、新しい商品やサービスを迅速に市場へ投入できます。
さらに、上記の効果として、リスクを分散させながら新規プロジェクトに取り組む余裕も生まれます。
M&Aは、新規事業を効果的に開始し成長を加速させたい場合にもおすすめの手段です。
情報通信業のM&Aのデメリット
情報通信業のM&Aのデメリットを譲渡側と譲受側別にそれぞれ解説します。
譲渡企業のデメリット
情報通信業のM&Aにおける譲渡側の主なデメリットは以下のとおりです。
・企業文化や経営方針の違いによる衝突が起こる場合がある
・買収価格が低く評価される場合がある
買収後、譲受企業との間で企業文化や経営方針の違いが表面化すると、組織内での摩擦や従業員の士気低下を招く可能性があります。
また、譲渡企業の価値が適切に評価されず、期待していたよりも低い買収価格が提示されるケースも珍しくありません。
デメリットを回避するためには、事前に綿密な準備を行い、M&Aの専門家から助言を受けると良いでしょう。
譲受企業のデメリット
情報通信業のM&Aにおける譲受側の主なデメリットは以下のとおりです。
・企業文化や経営方針の違いによる衝突が起こる場合がある
・従業員が離職する可能性がある
・顧客離れや市場シェアの低下を招く場合がある
譲受企業側でもM&A実施後、譲渡企業との企業文化や経営方針の違いが表面化し、組織内での摩擦や従業員の士気低下を招くと、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
さらに、従業員が不安を感じ、優秀な人材の流出や離職につながってしまう可能性もあります。
また、M&Aによる企業統合が市場や顧客に否定的に受け取られ、顧客離れや市場シェアの低下を招くリスクがあります。
デメリットを回避するためには、各実行フェーズで計画を立て、譲渡企業と綿密にコミュニケーションを取ることが重要です。特に、企業文化の統合や従業員のケアなどは、M&Aの成功率を高めるのに役立ちます。
情報通信業の売却価格相場
情報通信業界のM&Aにおける売却価格の相場は、公開情報が限られており、一概に価格を示すことは難しい場合が多いです。
金額が公表されている企業の売買事例としては、2024年にベライゾンが同業のフロンティアを約1.4兆円で買収した事例や、NTTドコモがオリックス・クレジットを約792億円で子会社化した事例があり、高額な取引として注目されました。
企業の売却価格を把握したい場合は、「企業価値」を算出します。
「企業価値」とは、現在の事業価値に加えて企業の成長性や将来性なども含めた価値の指標のことです。算出方法には主に「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」という3つの方法があります。
次の表は、企業価値の算出のアプローチをまとめたものです。
概要 | |
コストアプローチ | 企業の有している資産および負債など純資産をベースにして企業価値を算出する方法 |
マーケットアプローチ | 対象企業の時価総額や、類似企業の株価、類似したM&A取引の価格などを基準に企業価値を算出する方法 |
インカムアプローチ | 企業の将来的な収益やキャッシュフローを基に企業価値を算出する方法 |
上記の手法を組み合わせることで、情報通信業の適切な売却価格を求めることが可能です。
▷関連記事:「会社売却の相場とは?決め方や高く売るポイント、必要な諸経費について解説」
▷関連記事:「M&Aの価格相場や算定方法とは?3つのアプローチと注意点」
情報通信業のM&A成功事例7選

情報通信業におけるM&Aの成功事例を順番に解説します。
株式会社TOKAIホールディングスによる株式会社ジーアンドエフの買収
2024年12月、株式会社TOKAIホールディングスの子会社である株式会社TOKAIコミュニケーションズは、ITインフラの設計・構築を手がける株式会社ジーアンドエフの全株式を取得し、完全子会社化しました。
TOKAIコミュニケーションズは情報通信業を営み、デジタル社会の基盤を支える「クラウド」「ネットワーク」「システム」の3つを柱に、顧客に最適なソリューションを提供しています。
他方、ジーアンドエフは首都圏でITインフラに特化したシステムの提案や設計、構築、保守を手がけ、特にクラウド事業に注力していました。
今回のM&Aによって、TOKAIコミュニケーションズは成長分野であるITインフラやクラウド分野の技術者体制を強化し、デジタルトランスフォーメーション(DX)需要を取り込むことを目指しています。
住信SBIネット銀行株式会社によるプロフィットキューブ株式会社の買収
2024年12月、住信SBIネット銀行株式会社は、サイオステクノロジー株式会社が保有する統合与信ソリューション・経営支援ソリューション事業を会社分割により承継させたプロフィットキューブ株式会社を完全子会社化しました。
住信SBIネット銀行は金融業務に留まらず、オープンAPI・モバイル・クラウド・セキュリティ・AIなどのテクノロジーを駆使して各種プラットフォームの開発・提供を行う会社です。他方、サイオステクノロジーは、SaaS・クラウドサービスなどの情報システムの開発や基盤構築、運用サポートを行う会社です。
今回のM&Aによって、住信SBIネット銀行はプロフィットキューブが提供するALM(資産・負債総合管理)やリスク管理などの豊富な知見と技術力を取り込み、自社のプラットフォーム事業の強化を図ります。
他方、サイオスグループは、事業環境の変化に対応しSaaS・サブスクリプション事業や生成AIへの投資を強化するための選択として今回の譲渡を決定しました。
株式会社カプコンによるMinimum Studios社の買収
2024年7月、株式会社カプコンは、台湾の3DCG制作会社であるMinimum Studios Co., Ltd.の発行済株式総数の2/3を取得し、子会社化しました。
カプコンは、家庭用テレビゲームソフト・モバイルコンテンツ・アミューズメント機器などの企画、開発、製造、販売、配信やアミューズメント施設の運営を行う会社です。他方、Minimum Studiosは、コンシューマーゲーム開発におけるアニメーション制作を得意とし、カプコンの大型作品にも制作実績を持つスタジオです。
カプコンは年間販売本数1億本達成に向けた開発力や技術力の持続的強化を目指しており、今回のM&Aも必要とする技術力の獲得で、開発体制の拡充を図っていくとしています。
東京センチュリー株式会社によるNTT GDC社の買収
2024年3月、東京センチュリー株式会社は、NTTデータグループ傘下で米国シカゴにてデータセンター事業を展開するNTT Global Data Centers CH, LLCを子会社化しました。
東京センチュリーは、国内リース事業・オートモビリティ事業・スペシャルティ事業・国際事業・環境インフラ事業などの「金融・サービス・事業」を提供するリース会社です。他方、NTT Global Data Centers CH, LLCは、NTTグループ共通のデータセンター建設・保有・設備提供を一元的に実施する投資子会社です。
シカゴはデータセンターの集積地として知られ、大規模なクラウドサービスプロバイダーからの需要が高い地域です。
今回のM&Aによって、東京センチュリーはNTTデータグループと共同でシカゴのデータセンター事業を運営し、成長が見込まれるデータセンター市場での事業基盤を強化することを目指しています。
株式会社NTTドコモによるオリックス・クレジット株式会社の買収
2024年3月、株式会社NTTドコモはオリックス株式会社の子会社であるオリックス・クレジット株式会社の株式を66%取得し、連結子会社化しました。
NTTドコモは、携帯電話などの通信事業やスマートライフ事業を手掛ける会社です。他方、オリックス・クレジットは、個人向けの金融サービス業を展開する会社です。
今回のM&Aによって、ドコモは自社のdポイントクラブ会員基盤とオリックス・クレジットが培ってきた金融事業のオペレーション力や個人向け融資の与信ノウハウを組み合わせ、より幅広い金融サービスの提供を図っています。
株式会社POPERによる株式会社ティエラコムの事業承継
2024年3月、株式会社POPERは、株式会社ティエラコムとの間で学習塾領域における業務提携契約を締結し、ティエラコムが提供する学習塾経営支援システム「BIT CAMPUS」に関する事業を承継しました。
POPERは、教育機関向けの業務管理プラットフォームを提供する会社です。他方、ティエラコムは、受験学習指導・合宿教育・語学教育・留学などの総合教育サービスを提供する会社です。
今回の事業承継により、ティエラコムの学習塾経営のノウハウを取り入れることで、POPERは顧客基盤の拡大と市場シェアの向上が期待されています。
デジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社によるシステム・プロダクト株式会社の買収
2024年2月、デジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社は、ソフトウェア開発会社であるシステム・プロダクト株式会社の株式80%を取得し、子会社化しました。
デジタル・インフォメーション・テクノロジーは、金融システム開発・Web系システム開発・システム運用サービスなどを提供する会社です。他方、システム・プロダクトは1979年の創業以来、金融業界、特に証券分野におけるソフトウェア開発を得意としており、近年ではクラウドビジネスにも注力しています。
今回のM&Aでは、システム・プロダクトの持つ技術力やノウハウをデジタル・インフォメーション・テクノロジーが取り込むことで、金融分野での競争力向上やクラウドビジネスの強化などのシナジー効果が期待されています。
まとめ
情報通信業界では、最新技術の獲得や経営資源の確保、事業規模の拡大など戦略的な目的でM&Aが行われます。
市場規模が拡大し続ける中、技術力や専門知識を持つ企業を大手企業が買収するケースも珍しくありません。
ただし、M&Aには企業文化の統合や従業員の定着、市場や顧客の反応など、様々な課題が伴います。適切な準備と戦略が求められるため、M&Aを成功させるには、経験豊富で信頼できるM&A仲介会社を通じて進めるのがおすすめです。
fundbookでは、M&Aにおいて経験豊富で専門的な知識を持つアドバイザーが在籍しており、初期相談からクロージングまでトータル的な支援を提供しています。
また、独自に開発したM&Aプラットフォームを活用し、企業ごとのニーズに最適な候補企業を迅速かつ的確に選定します。
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