近年、塗料・塗料卸売業界は国内市場が成熟しており、業界全体の業績が横ばいになりつつあります。国内市場にて売上を上げ続けるには厳しい状況にあり、大手企業の多くは海外進出、特にマーケットの成長が見込めるアジアを中心とした新興国に進出する事例が増えています。この厳しい状況の中で事業を続けるための有効な手段として「M&A(Mergers and Acquisitions)」が挙げられます。
本記事では、主に塗料業の定義や国内市場・海外進出の状況、譲渡企業・譲受企業それぞれでM&Aを行う理由とメリットを解説していきます。特に塗料業を営む経営者の方は理解を深めておくことをおすすめします。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
塗料業界の現状
「経済産業省生産動態統計」(経済産業省,1989〜2017)より作成
経済産業省が発表している「化学工業統計年報」によると、国内における塗料の総販売額は1990年頃から減少傾向となっており、国内で塗料および塗料卸市場で生産量を増やし、売上を上げ続けるのは非常に厳しい状況です。このため、塗料業界の大手企業は海外へ販路を拡大する戦略が一般的になりつつあります。
本見出しでは塗料業の定義、国内市場の状況や海外への進出状況を解説します。
業界定義
塗料業界は、製造販売を行う塗料メーカーが中心です。塗料メーカーの中でもさまざまな種類を扱う総合メーカーから、建築、自動車・バイク用、印刷用、家庭用など、得意な分野に特化した企業も数多くあります。
業界全体を細かく見てみると、塗料メーカーに加えて塗料の主原料の樹脂や着色に使う顔料などを製造する製造メーカー、販売を担う塗料卸売、代理店などに枝分かれしています。
国内市場は成熟し、海外進出できる企業の寡占化が見込まれる
塗料の市場は、日本国内と海外、特に新興国では将来性が大きく異なります。先述したように、日本の塗料市場は成熟しており、今後も売上は伸び悩む傾向にあると予測されています。
また、塗料市場は新規の企業が参入してくる可能性も低いのが実情です。
その理由として、原料が石油化学に依存しているため、生産量が原油価格の変動に依存します。また、顧客からの要望が細分化される事が多く、多種多様な塗料を生産する必要があります。これにより利益率が低くなる傾向にある上に参入障壁が高く、他業種を扱っている資本力の強い会社であっても参入し難い市場でもあります。
このような国内市場の伸び悩みへの対応策として、多くの塗料会社が海外への進出に目を向けています。塗料業の会社が海外に進出する上では、その国の需要に合った商品を現地で生産し輸送コストを低減するなど、利益率を高めるように努めることが重要です。
先述したように、大手企業を含め多くの塗料業界の会社は海外進出を進めていますが、海外支社を0から立ち上げての販路拡大には非常に時間がかかります。そのため活用が期待できるのが「M&A」です。M&Aにより海外の塗料メーカーを傘下に入れて、現地での拠点づくりを行う戦略が行われており、業界再編が進んでいます。
M&Aとは何か
「M&A」とは「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略で、複数の会社を1社に合併したり、ある会社が別の会社を譲り受けたりする経営戦略を指します。様々な手法がありますが、対象会社の株式の過半数を取得することで子会社化を行う「株式譲渡」という手法が最も一般的です。
塗料業界を世界的に見てみると、先進国における需要の伸びが見込めない中、新興国のシェアを獲得するために世界的大手メーカーが競争している状態です。国内・海外問わず塗料事業を発展させるための競争が激化しており、M&Aによる業界再編が世界規模で進んでいくと予想されます。
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M&Aのメリット
M&Aは塗料業界だけでなく、あらゆる業界にて行われています。本項ではあらゆる業界にあてはまるM&Aのメリットを解説致します。
譲渡する企業側のメリット
・事業承継問題の解消
・創業者利潤の実現
・個人保証の解除
・従業員の雇用が守られる
日本では経営者の高齢化が進んでおり、多くの会社は後継者問題を抱えています。
そんな中、M&Aは多くの企業が抱える後継者問題を解決できる手段として注目されています。何かしらの理由で経営の存続が難しくなった場合に、M&Aを行うことで第三者が経営を継続させることができます。廃業をするにも個人保証が解除されないことや費用と手間がかかるという問題点がある一方、M&Aは譲渡企業・譲受企業双方にとってメリットがあります。
譲受する企業側のメリット
・低コストでの事業領域の拡大
・既存事業の強化
譲受企業側にも事業拡大やシナジー効果の享受などのメリットがあります。会社や事業を0から立ち上げると非常に時間やコストがかかるため、短期間で会社を拡大する手段として活用されています。
塗料業界におけるM&Aの事例
具体的な例として、業界最大手である日本ペイントホールディングス株式会社は、海外の会社を積極的に子会社化して販路や事業範囲を拡大しています。
2017年3月に日本ペイントホールディングスは米国の塗料メーカーであるDunn-Edwards Corporation(以下、DE社)を完全子会社しています。株式取得の理由として「米国市場において自動車用塗料を中心に事業展開してきたが、DE社の完全子会社化により同市場における建築用塗料の製造・販売を本格化するための事業プラットフォームを獲得し、さらなる米国事業の拡大を図る」旨が発表されています。
他にも、同社の中国における合弁会社Nippon Paint Chinaは、中国の塗料メーカーである長潤発塗料集団の株式を60%取得するなど、積極的にM&Aを活用して海外進出を行っています。
なお、関西ペイント株式会社や大日本塗料株式会社は国内・海外問わず合弁会社を設立して販路を拡大していますが、合弁会社の設立もM&Aの手法の1つになります。
塗料業界におけるM&Aのメリット
先述の通り、塗料業界は需要著しい新興国の現地での製造、販路拡大のためにM&Aが行われることが多くなっています。
前項ではあらゆる業界に当てはまるM&Aのメリットを記載しましたが、本項では塗料業界におけるM&Aを行うメリットを譲渡企業・譲受企業ごとに分けて解説していきます。
譲渡する企業側のメリット
譲渡企業がM&Aを行う最大のメリットは、大手企業の子会社として経営を継続させることができる点です。負債の解消や、株式の譲渡に得た資金を別の事業に充てたり、大手の傘下に入ることで企業のブランドや国内・海外への販路、人材などのリソースを活用することもできます。
また、譲渡企業の経営者の方が引退を考えている場合には、株式を譲渡して対価として現金を得ることでハッピーリタイアを迎えることができます。また、会社も存続することができるため創業者としては多くの面でメリットを享受することができます。
譲受する企業側のメリット
譲受企業のメリットとしては、販路や事業領域の拡大が主なものとして挙げられます。異業種からの参入が難しい塗料業界でも、塗料業と塗料卸業のM&Aなど塗料業界内の隣接した業種のM&Aでは、新たなネットワークや販路、ブランドの獲得により、事業を大幅に拡大できるチャンスになります。また、生産拠点や生産技術を獲得することは、塗料の需要が高い地域への進出を容易にし、地域補完の効果が期待できます。
先述した日本ペイントホールディングスは、主に事業領域の拡大や地域の拡大を目的としてM&Aを行っており、中国、フィリピン、スリランカ等、海外に数多く進出しています。
まとめ
海外(特にアジアなどの新興国)では、塗料業界の市場規模は成長を続けており、M&Aにより業界再編が進む傾向にあります。日本国内でも需要の頭打ちから事業譲渡が行われ、譲受企業は技術力取得や経営効率アップ、事業拡大のためにM&Aを行っています。この流れは塗料卸売業界にとっても同様です。単独での業績改善が難しいと判断した場合は、M&Aを検討することをおすすめ致します。弊社では無料相談を行っておりますので、お気軽にご相談ください。