
保育園は0~5歳の子供を対象とした保育施設であり、利用児童数の増加や待機児童問題などの影響を受け、ニーズの高い分野です。近年は待機児童問題の解消や少子化によって市場は成熟期に入り、M&Aによる事業規模の拡大や経営資源の集中などが進められています。
本記事では、保育園の概要や市場規模、M&Aの動向を解説します。保育園M&Aの特徴や実施する際の注意点も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
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保育園とは
保育園とは0~5歳の子供を対象に、仕事や療養で子供の保育ができない保護者に代わって子供を保育する施設です。小学校入学以前の時期は、周囲の人や環境とのかかわりを深め、基本的な生活習慣や愛着を形成する大切な時期です。保育園では0~5歳の子供を預かりながら、子供の健全な成長を支援します。
保育園は児童福祉法で設置基準が定められている福祉施設であり、厚生労働省が管轄しています。保育時間は1日原則8時間で、保護者の状況に応じて延長保育や休日保育などの保育サービスが提供されています。
保育園は、形態によりいくつかの種類に分かれます。
・認可保育園(保育所)
・認可外保育園
・企業主導型保育園
・認定こども園
それぞれの詳しい内容を紹介します。
認可保育園(保育所)
認可保育園(保育所)とは、「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」で定められた職員の配置基準、設置基準などを満たし、地方自治体の認可を受けた保育園です。入園要件は、児童福祉法などを基に各地方自治体の条例や規則で定められています。
認可保育園の主な収入源は、利用者から支払われる保育料と行政からの補助金です。保育園は、以前は設置主体が地方自治体や社会福祉法人などに限られていましたが、2000年に主体制限が撤廃され、現在は株式会社や学校法人、宗教法人やNPO法人も保育園の設置が可能です。
認可外保育園
認可外保育園とは、行政の認可を受けていない保育施設です。認可保育園は設置主体が法人に限られますが、認可外保育園の設置主体に制限はなく、個人でも設置が可能です。手続きは設置後1ヶ月以内の届出で済み、審査や選考などの手続きが必要な認可保育園と比較して、手続きが簡便な側面を持ちます。
認可外保育園は、「認可外保育施設に対する指導監督要綱」が定める基準を満たす必要があります。また、都道府県の指導監督の対象であり、場合によって地方自治体の職員による立入調査が実施されます。
企業主導型保育園
企業主導型保育園は、2016年に創設された「企業主導型保育事業」に基づき設置される保育園です。事業主拠出金を財源として企業が主導して設置する保育園で、延長保育や夜間保育、短時間保育など、働き方に応じた柔軟なサービスが提供されます。
企業主導型保育園の職員の配置基準は、認可保育園の小規模保育事業に準じた基準です。複数企業による共同利用が可能で、従業員以外の地域住民を受け入れる「地域枠」を設置することができます。
認定こども園
認定こども園は、幼稚園と保育園の機能を併せ持ち、教育と保育を一体で提供する施設です。幼保連携型、幼稚園型、保育所型、地方裁量型などの種類があります。認定こども園の基準は、国の基準をもとに、各地方自治体が条例で定めています。
保育園の市場規模

子ども家庭庁が公表した「保育所等関連状況取りまとめ(令和6年4月1日)」によると、保育所の定員数と利用児童数は2015年度の調査開始から右肩上がりに推移しています。近年、利用児童数に若干の減少傾向が見られますが、一定の市場規模を維持している状況です。
保育園市場には、待機児童問題を契機として国や地方自治体による積極的な支援が実施されました。働き方の多様化による保育園需要の高まりも、市場の拡大を後押しした背景に挙げられます。
待機児童の減少に伴い伸び率は鈍化傾向

保育園の待機児童数は2017年に26,081人を記録して以降減少を続け、2024年には約10分の1の2,567人に減少しました。保育園市場規模の拡大を後押しした待機児童問題は解消されつつあり、保育園の市場規模は維持されているものの、伸び率は鈍化傾向にあります。
保育園のM&A動向
保育園市場は成長を続けてきましたが、近年は成熟期を迎え、伸び率は鈍化している状況です。市場を取り巻く環境に応じていくために、近年、保育園業界では経営戦略の一環としてM&Aが実施されています。
以下では、保育園業界で見られるM&Aの動向を解説します。
同業種間によるM&A
保育園業界では、エリア拡大や施設取得に伴う人材確保などを目的に、同業種間でのM&Aが活発に行われています。
M&Aで既存の保育園を取得できれば、保育園を新設するコストを削減でき、保育士をはじめとする人材を獲得できます。特に、保育士は2024年1月の有効求人倍率が3.54倍と不足する状況にあり、M&Aで人材確保できる点は大きなメリットです。
他業種からの参入
保育園市場の成長や規制緩和を受け、保育園業界には他業種からの参入も見られます。2019年時点での私立保育所の経営主体は社会福祉法人が全体の約70%を占めていますが、次いで株式会社が8.9%、学校法人が7.8%、個人が4.3%という結果になっています。
他業種から保育園業界に参入する際は、M&Aが有効的な方法として挙げられます。既存の保育園を取得できれば、保育園を設置する土地や児童の確保など、保育園新設にかかる初期負担の軽減につながります。
後継者不足の解消
日本国内の大多数の中小企業と同様、保育園業界でも経営者の高齢化と後継者不在は喫緊の課題です。後継者が不在のまま保育園が廃園に追い込まれてしまった場合、保育園を利用する周辺住民の生活に影響を与えます。M&Aは、後継者不在の保育園の受け皿としても有効的な方法です。
保育園のM&Aの特徴

近年、株式会社や学校法人などの参入も見られますが、保育園の経営主体は現状、社会福祉法人であることがほとんどです。
保育園のM&Aの特徴として、社会福祉法人の概要や社会福祉法人のM&Aで採用される手法を解説します。
社会福祉法人とは
社会福祉法人とは、社会福祉法に基づいて設立される法人です。社会福祉法人は、社会福祉事業を行う目的で設立され、保育所事業は第二種社会福祉事業に含まれます。社会福祉法人は公益事業や収益事業の実施が可能で、保育関連事業としては子育て支援事業が公益事業に分類されます。
厚生労働省が公表した「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」によると、社会福祉法人の収益規模は、1億円~2億円が25.1%と最も多い状況です。2億円~3億円が13.8%、1億円未満が13.0%であり、収益規模3億円以下の社会福祉法人が全体の約半数を占めています。
社会福祉法人のM&A手法
社会福祉法人は株式会社と異なり、株式譲渡によるM&Aを実施できません。そのため、社会福祉法人のM&Aでは、次の手法が採用されます。
・合併
・事業譲渡
・法人間連携
・理事の交代
社会福祉法人は吸収合併や新設合併による法人の統合が可能です。吸収合併では消滅法人の資産は存続法人へ引き継がれ、新設合併では新たな社会福祉法人を設立して資産を引き継ぎます。社会福祉法では、譲渡側・譲受側の両者どちらもが社会福祉法人の場合に、合併を認めています。
また、事業譲渡は特定の事業の継続を目的に、土地・建物などの有形資産や無形資産を譲渡する方法です。2022年4月からは、「社会福祉連携推進法人制度」の施行により、複数の社会福祉法人間で協力関係の構築が可能になりました。
その他、社会福祉法人の意思決定機関は理事会であることから、理事の交代によって経営権を取得する方法も挙げられます。
保育園のM&Aの注意点
保育園の経営主体は社会福祉法人が多いため、M&Aの際には社会福祉法人が持つ公益性・非営利性への対応が必要です。
例えば、社会福祉法人では、役員などへの特別の利益供与が禁止されています。社会福祉事業で得られた剰余金は、法人外への流出が認められません。合併では所轄庁の合併認可が必要であり、対応手続きが求められます。
保育園のM&Aの事例
保育園業界では、多数のM&A事例が見られます。過去に実施された保育園のM&A事例から、その内容や目的を個別に紹介します。
ぽこころ株式会社によるAIAIグループへの株式譲渡
2024年10月、ぽこころ株式会社は、運営会社であるテルウェル東日本株式会社を通じて、AIAIグループ株式会社の連結子会社であるAIAI Child Care株式会社に全株式を譲渡する株式譲渡契約を締結しました。
ぽこころ株式会社は、テルウェル東日本株式会社の保育事業承継のために設立された株式会社です。
AIAIグループ株式会社では「保育」と「療育」、「教育」の3つの事業を運営し、シナジー効果を最大化する経営戦略を取っており、テルウェル東日本株式会社の保育園を譲り受けることにより、保育事業の規模拡大を目指します。
株式会社VISIONARYによる株式会社クオリスへの事業譲渡
2024年8月、株式会社VISIONARYは、運営する保育施設3施設の事業を株式会社クオリスへ譲渡する契約を締結しました。
株式会社クオリスの親会社である株式会社QLSホールディングスは、東京都・神奈川県、愛知県などで幅広く保育事業を展開する企業です。千葉県市川市にある株式会社VISIONARYの保育施設を譲受し、主軸事業である保育事業のさらなる拡大を予定しています。
株式会社グローバルキッズCOMPANYによる社会福祉法人すくすくどろんこの会への事業譲渡
2024年7月、株式会社グローバルキッズCOMPANYは、連結子会社の株式会社グローバルキッズが保有する3つの認可保育所を、社会福祉法人すくすくどろんこの会へ事業譲渡しました。
株式会社グローバルキッズCOMPANYは、計168の保育所や学童クラブを展開する企業です。事業展開エリアの分析を行い、保有する保育所を譲渡する決断をしました。今回の譲渡を行ったことで、経営資源の集中と効率化を目指しています。
まとめ
働き方の多様化による待機児童の増加や経営主体の規制緩和などを受け、保育園業界の市場規模は成長してきました。施設数が増加する一方、近年、待機児童問題は解消しつつあり、業界再編や経営の多角化へ向けたM&Aが活発な状況です。
保育園の経営主体は依然として社会福祉法人が多いため、社会福祉法人が運営する保育園のM&Aでは、社会福祉法人の持つ公益性や非営利性に注意する必要があります。
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