業界毎の事例

2023/12/18

【製造業のM&A】動向やメリット、事例、成功のポイント

【製造業のM&A】動向やメリット、事例、成功のポイント

製造業は日本経済を支えている中心的な産業ですが、業界全体が抱えている課題がいくつかあります。
製造業界が抱える課題の解決策としてM&Aが活用されるケースも多く、製造業に携わる経営者の中にはM&Aを検討している方もいるのではないでしょうか。

M&Aを実施する際は、業界のM&A動向や実施することで得られるメリット、成功させるためのポイント等を把握しておくことが大切です。
本記事では、製造業のM&Aについて動向やメリット、成功事例、成功させるためのポイント等を解説します。

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製造業とは

製造業は「有機または無機の物質に物理的,化学的変化を加えて新たな製品を製造し,これを卸売する事業所」と定義されています。
具体的には以下の2つの業務を行う事業所(工場や作業所等)のことを指します。

・新たな製品の製造加工を行う
・新たな製品を主として卸売する

新たな製品の製造加工を行う事業所の観点からすると、単に製品の選別や包装の作業を行う事業所は製造業には含まれません。
一方で、完成された部品の組み立て作業を行う事業所は製造業に含まれます。また、卸売業者や小売業者に販売したり、産業用使用者(工場や官公庁、学校、ホテル等)に大量または多額に製品を販売したりといった卸売の条件を満たしている事業所であることも必須です。
製造業の業種は幅広く、食品製造業や飲料・たばこ・飼料製造業、繊維工業、鉄鋼業等の24業種に分類されています。

▷製造業界の市場規模

経済産業省によれば2020年時点で、製造業が日本のGDPに占める割合は19.7%と、全体の約2割を占めています。
そのため、製造業は日本の経済を支える中心的な業種と考えられますが、2010年の20.8%から見ると市場規模は縮小傾向です。事実、2020年の製造業全体の営業利益は8.6兆円となっており、過去10年で最も高かった2017年の17.3兆円と比較すると、約2分の1まで落ち込んでいます。
ただ、2021年は一部の製造業が回復したことで、製造業全体としては18兆円と、過去10年で最も高い営業利益となっており、今後の回復が期待されています。

製造業界の経営課題

日本経済の中心的な産業である製造業ですが、業界全体としての課題がいくつかあります。製造業界の主な経営課題を3つ解説します。

▷少子高齢化による人材不足

日本全体の問題でもある少子高齢化は製造業界にも影響を与えており、製造業では人材不足が深刻な問題です。 事実、製造業の就業者数は2002年から20年間(2022年)で158万人減少し、若年層の就業者数は129万人減少しています。

一方で、高齢就業者は32万人増加していることから、製造業界では高齢化が進んでいることが見て取れます。
また、経済産業省が過去に行ったアンケートでは、94%の企業が「人材確保に課題がある」、さらに3割強の企業においては「ビジネスに影響が出ている」と回答していることからも、人材の確保は製造業の大きな課題といえるでしょう。

▷無形固定資産への設備投資が不足している

新型コロナウィルスの影響もあって、製造業では2020年まで設備・環境投資を見送っている企業が多く見られました。
しかし、2020年の前半は業界全体の設備投資額が大幅に落ち込んでいたものの、以降は設備投資が増加傾向にあり、製造業でも徐々に設備投資が進んできています。製造業では有形固定資産への投資が高い水準となっていますが、無形固定資産への投資は半数以上の企業が実施していない状況です。
無形固定資産には業務効率化やコスト削減はもちろん、工場のIoT化やテレワーク等のDX化も含まれているため、無形固定資産への投資が不十分だとDX化が推進できない状態が続いてしまいます。

▷人材育成が進まない

日本の製造業は高い技術力を持っていますが、人材不足で技術の継承ができない状況にある点も大きな課題です。
経済産業省によれば、製造業において計画的なOJTやOFF-JTを実施した企業の割合は2019年から2020年にかけて低下しています。また、人材育成の問題点の内訳は「指導する人材が不足している」が6割程度となっており、半数以上の企業が人材育成のための人材が不足していると回答しています。
日本の製造業がいくら高い技術力を持っていても、技術の継承ができなければ衰退してしまうため、早期に解決が必要な課題と言えるかもしれません。

製造業界におけるM&Aの現状と動向

【製造業のM&A】動向やメリット、事例、成功のポイント

製造業界のM&Aは、事業承継や生産性の効率化、販路の拡大等、さまざまな目的で行われます。製造業界におけるM&Aの動向を紹介します。

▷大手企業による中小企業買収M&Aが多い

製造業界でのM&Aは、一般的に中小企業同士で行われるケースが少なく、大手企業の参加に入るために実施されるケースが多いとされています。
このようなM&Aでは譲渡企業の経営が悪化していることが多く、事業整理やコストの削減等から会社や事業の譲渡が検討される傾向があります。

その一方で、譲受企業は業界の課題でもある人材の確保を目的としてM&Aを活用する傾向があります。

▷本業の変革・IT革新のための異業種M&A が増加

製造業界では、多角的な経営から中核となる事業に集中する企業も増えており、M&Aを活用して中核事業以外を手放すことや、中核事業に関連する事業を取り込むケースが増えています。
また、他業種同様に、製造業でもDX化やIT化への対応が迫られている傾向があります。自社でIT人材の教育を進めている企業もありますが、IT人材の教育については不足感が量・質共に高まっている企業も多いようです。

事実、経済産業省によれば「IT人材が大幅に不足している」と回答した企業は全体の約4割に達しています。こうしたIT人材の確保や最新技術への対応を目的に、M&AによってIT企業を買収するケースも増えています。

▷後継者不足解消のためのM&Aが増加傾向

休廃業・解散の件数は、製造業を含めて産業全体的に見ると、2020年から2021年にかけて減少傾向です。
しかし、後継者不足が理由で廃業を余儀なくされる企業は増加傾向にあります。事業承継ができずに廃業してしまうと、既存の従業員だけではなく、取引先にも大きな影響を与えてしまいます。
M&Aによる事業継承は、後継者不足を解消する手段の1つとして活用されており、製造業に限らず増加傾向にあります。

製造業でM&Aを活用するメリット

製造業でM&Aを活用するメリットはさまざまあり、譲受企業と譲渡企業によって異なります。譲受企業、譲渡企業のそれぞれのメリットを紹介します。

▷譲受企業のメリット

M&Aによる譲受企業の主なメリットには、以下のようなものがあります。

・技術と人材の確保が期待できる
・原材料の仕入れや機械等のリソースを活用できる
・事業の内製化が可能になる

それぞれ解説します。

技術と人材の確保が期待できる

製造業界では団塊の世代が退職したことで、人材の確保や育成が問題となっています。
人材の確保や育成には時間もコストもかかりますが、M&Aによって、譲受企業は譲渡企業の技術と人材の両方を確保できるため、時間とコストを削減できる可能性があるでしょう。

原材料の仕入れや機械等のリソースを活用できる

譲受企業は、M&Aによって製造業に携わる企業を譲受できれば取引先や設備等も譲り受けることができます。
製造業は、一から原材料の仕入れ先を探して、設備も整えてとなると多大なコストや時間がかかってしまいます。

一方、M&Aを活用すれば、事業に必要な取引先や設備等の経営資源をまとめて獲得することが可能となるため、自社の成長や新規事業の立ち上げにかかるコストや時間の削減が期待できるでしょう。

事業の内製化が可能になる

製造業界では、業務の効率化やコストの削減等を目的として内製化(自社グループで一貫した製造を行うビジネスモデル)に取り組む企業も多いです。
内製化には自社が持ち得ない技術やノウハウ等が必要となることが多く、対応できる人材も必要になります。譲受企業は、M&Aによって譲渡企業の技術やノウハウ等を得ることができ、効率的な内製化が可能になるでしょう。

▷譲渡企業のメリット

M&Aによる譲渡企業の主なメリットには、以下のようなものがあります。

・廃業コストの削減
・譲渡益の獲得
・後継者がいなくても事業を承継できる

こちらもそれぞれ解説します。

廃業コストの削減

製造業に携わる企業の大半が製造や修理等で使用する何かしらの設備を所有しています。
そのため、経営状況の悪化や後継者未決定等によって廃業してしまうと、設備を処分するための費用がかかってしまいます。設備の処分にかかる費用は自費になりますが、M&Aによって会社や事業を譲渡できれば設備もそのまま譲渡できるため、廃業にかかるコストを削減することができるでしょう。

譲渡益の獲得

製造業は負債があったりキャッシュがほとんどなかったりすることが珍しくないため、そのまま廃業してしまうと何も残らないケースが多いです。
しかし、M&Aによって会社や事業を譲渡できれば、経営者は譲渡益を獲得することができるため、新規事業の立ち上げやセカンドライフの資金にすることができます。

後継者がいなくても事業を承継できる

製造業を営む経営者の中には、後継者が決まらずに事業承継ができないという悩みを抱えている方もいます。M&Aを活用すれば第三者に事業を譲渡できるため、後継者がいなくても事業承継が可能です。
M&Aによって第三者に事業を承継すれば会社の存続ができるため、従業員の雇用を守れたり取引先に影響を与えなくて済んだりするだけではなく、地域のインフラを守ることにも繋がります。
また、製造業のM&Aでは譲受企業が大手となることがほとんどのため、シナジー効果も期待でき、自社の大幅な成長も期待できるでしょう。

製造業M&Aの3つの事例

【製造業のM&A】動向やメリット、事例、成功のポイント

製造業でM&Aが実施された事例を3つ紹介します。
実際のM&Aの事例を見ることで、目的や活用方法等が把握できるので、確認しておきましょう。

▷M&A事例①:日本電産による工作機器メーカーOKKの買収

2022年2月、精密小型モータや車載及び家電・商業・産業用モータ等を主軸とする日本電産株式会社が、創業100年の老舗工作機器メーカーのOKK株式会社を買収し、傘下に加えました。買収額は約54億円とされています。
日本電産は2021年の8月に三菱重工工作機械(現日本電産マシンツール)を買収しており、OKKを傘下に加えることで、OKKの強みである汎用性の高いマシニングセンタと、日本電産マシンツールの門形五面加工機や横中ぐりフライス盤等の大型機を組み合わせ、幅広いサイズの加工ニーズに対応したいとしています。

この買収によって、日本電産グループと OKK のそれぞれが所持する技術力やブランド力、顧客基盤を活用し、グローバルベースでの工作機械市場の発展が期待されています。

▷M&A事例②:テクノホライゾン・ホールディングスによるブルービジョンの買収

2020年5月、テクノホライゾン・ホールディングス株式会社は、連結子会社である株式会社タイテックによる株式会社ブルービジョンの発行株式のうち、1,460株(81.11%)を取得しています。

ブルービジョンは光学機器及び関連機器の企画・設計・製造・販売を手がける企業です。テクノホライゾン・ホールディングス株式会社はブルービジョンをグループ内に取り込むことで、シナジー効果を高めていき、魅力ある製品の提供を目指すとしています。

▷M&A事例③:シェアリングテクノロジーによる電子プリント工業の買収

2018年4月、シェアリングテクノロジー株式会社は電子プリント工業株式会社の株式を100%取得し、完全子会社化しています。取引価額は約5.9億円です。
シェアリングテクノロジーは、シロアリ100番やフランチャイズの窓口等、一般家庭で生じる生活トラブル関連サービスを対象としたWebサービスを展開するIT業界の企業です。
一方、電子プリント工業は、白物家電や照明器具等に使われるプリント配線板の製造・販売事業を行う企業です。

シェアリングテクノロジー株式会社は、大手電機メーカーを取引先に持っている電子プリント工業をグループに取り込むことで、企業価値拡大を図りたいとしています。

製造業におけるM&Aを成功させるポイント

M&Aを成功させるためには、いくつかポイントがあります。
ここでは、製造業ならではの成功のポイントを紹介するので、確認しておきましょう。

▷M&A後に巨額の投資が必要な場合があることに注意

譲受企業はM&A後に生産性の向上やDX化の推進等で巨額の投資が必要になる場合があります。
M&Aを検討している譲渡企業では、設備投資を実施しないケースが少なくありません。そのため、譲受企業は譲渡企業に対して最適化に向けた設備投資が必要になる可能性があることを考えておくと良いでしょう。

ちなみに、製造業は一から設備や人材等を集めるとなると、時間もコストもかかってしまいます。そのため、M&A後に設備投資が必要になったとしても、結果的に時間とコストを削減できる可能性が高いと考えられ、M&Aを実施する企業が多いといわれています。

▷デューディリジェンスは厳密に行う

M&Aでは、譲受企業が譲渡企業に対してデューディリジェンスを実施しますが、製造業はサプライチェーンやDX化に伴う設備投資等といった、一般的な企業にはない特徴があります。
そのため、デューディリジェンスが不十分な場合は、M&A後に赤字販売が発覚したり想定外の設備投資が必要になったりする可能性があることに注意が必要です。製造業だからということではありませんが、M&Aを実施する際はデューディリジェンスを厳密に行い、事前に留意点等を理解しておくようにしましょう。

・関連記事:解説動画付|「デューディリジェンス」とは?種類や手順・費用や注意点

▷サプライチェーン全体を把握する

譲渡企業の場合は、自社の強みやM&Aによるシナジー効果を明確にすることが大切です。
というのも、自社の強みやシナジー効果が明確なほど、譲渡時の価額が高くなる傾向があるからです。特に製造業は、サプライチェーン(材料の調達から販売までの一連の流れ)が重要になりますが、中小企業の場合はサプライチェーンマネジメントが確立されていないことがあります。
そのため、M&Aを検討する際は、まず自社のサプライチェーン全体を把握しておくようにしましょう。

▷製造業M&Aに強い専門家のアドバイスも検討する

M&Aは専門的な知識が必要となるため、実施する際はM&Aアドバイザー等の専門家に相談するのが一般的ですが、専門家にも得意な分野と不得意な分野があります。
特に、製造業は一般的なM&Aと異なる面があるため、希望の譲受企業を見つけて正しい価額で譲渡するためにも、製造業界に強い専門家に相談すると良いでしょう。

まとめ

製造業は日本経済を支える中心的な産業ですが、課題も多くあります。M&Aを活用することで、譲受企業と譲渡企業の双方にメリットがあり、製造業が抱える課題の解決にも繋がるため、M&Aを活用することはとても有用です。
ただし、M&Aを成功させるためには、製造業ならではのポイントを把握しておく必要があります。M&Aは専門的な知識が必要になるため、M&Aを検討する際は製造業界に強い専門家に相談するのがおすすめです。

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