昨今、働き方改革や労働力不足への対応として、DXによる業務効率化への注目が高まっています。
一方で、IT人材の不足やシステムの老朽化がDXを阻害し十分に対応できていない企業も多数存在しているのが現状です。経済産業省も「2025年の崖」として着目し、仮に日本企業がこのままDX化を推進できなかった場合、2025年以降毎年最大12兆円もの経済損失が生じるとして強く警鐘を鳴らしています。
DXを活用したビジョンや経営戦略の策定、システム導入や運用をより密に連携するためM&Aでソフトウェア企業のグループ化、業務効率化、自社サービスの多様化・差別化などの背景から、IT企業においてはIT業界以外の異業種企業からのM&Aニーズも増加しています。
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上場企業に負けない 「高成長型企業」をつくる資金調達メソッド
本資料では自社をさらに成長させるために必要な資金力をアップする方法や、M&Aの最適なタイミングを解説しています。
・縮小する日本経済市場を生き抜くために必要な戦略とは?
・まず必要な資金力を増強させる仕組み
・成長企業のM&A事例4選
M&Aをご検討の方はもちろん、自社をもっと成長させたい方やIPOをご検討の方にもお役立ていただける資料ですので、ぜひご一読ください。
IT業界におけるM&A動向と特徴
まず、IT業界のM&A動向とその特徴について簡単に触れておきます。
IT業界の国内市場規模は、2021年で約20兆円となっています。
IT業界は1980年代にMicrosoftなどのソフトウェア開発企業が登場し、1990年代にインターネットが世界的に普及、2010年代にはUberやAirBnBなどのシェアリングビジネスも普及しました。直近ではメタバースやNFT、ChatGPTといったAIツールなど常に新しいサービスが誕生し、IT業界は激しい変化が生まれながらも歴史はまだ浅い業界です。
IT業界のM&A動向については、先述の通り業務のシステム化やIT化に着手する企業は増加しており、そういったIT需要の高まりからM&A件数は年々増加傾向にあります。
また、IT業界は歴史がまだ浅く、経営者の年齢も他の業界と比べて若いことから、M&A時譲渡オーナーの平均年齢においても54.5歳と、他業種に比べて約10歳若いだけでなく、5人に1人は30代以下という割合になっています。
IT業界は専門性が求められ、かつ変化のスピードも速い業界であることから、自社の生き残りをかけてM&Aを経営戦略に取り入れる企業も多く、譲受企業・譲渡企業共に、企業が成長期に入ったタイミングから、成長戦略の一環としてM&Aを選択するケースが多く見受けられます。そのため、株式譲渡後も約60%のオーナーが継続して経営に携わっており、中にはIPOを目的として複数企業からの資金調達ではなく、投資ファンドや特定の大手企業とのM&Aを選択する事例も見受けられます。
(参照元:https://reorganization.nihon-ma.co.jp/report/2367/)
カテゴリ別成長戦略と、紐づくM&A事例
次に、IT業界を5つの分野に細分化し、それぞれの成長戦略とM&A事例を見ていきましょう。
業界のカテゴリー分類はいくつかありますが、今回は下記5分野に沿って解説していきます。
分野 | 概要 | 代表企業 |
---|---|---|
通信インフラ(通信回線) | ・固定電話回線や携帯通信の整備 ・通信施設や通信衛星の保守運営 | ・NTTドコモ ・ソフトバンク ・KDDI |
ハードウェア | ・PCやプリンターなど有形なものの操作 ・家電や自動車などの制御プログラム | ・日立 ・SONY ・Panasonic |
ソフトウェア | ・ITシステムの受託開発 ・アプリなどの開発 | ・Microsoft ・サイボウズ ・日本オラクル |
インターネット・Web | ・Web制作、SNSや通販サイトの運営 | ・Google ・楽天 ・Yahoo! |
情報処理 | ・ITシステムの設計・開発・運用サポート ・SIer | ・富士通 ・NTT DATA ・日本総研 |
1.通信インフラ業界
通信インフラ業界はかつて電気通信業界の再編によりソフトバンクグループ、NTTグループ、KDDIの3社に集約していました。この状況を切り崩すため、政府は通信設備を自社保有ではなく借り受けることで通信サービスを提供するMVNO(Mobile Virtual Network Operator)を重要視し、格安SIMを提供するMVNO企業の新規参入を促しています。モバイル端末の普及率が飽和状態であることが通信インフラ業界の課題であり、新たな収益源の確保や事業エリア拡大のためのM&Aが行われています。
【事例】2019年7月:協和エクシオ×北第百通信電気
互いに通信インフラ事業を手掛ける会社です。譲渡企業は技術力と高い品質をもち、北海道内で幅広い顧客基盤を有し、譲受企業とも長年の取引実績がありました。
両社の保有技術や拠点の活用により、北海道エリアでの事業拡大を図り、M&Aを実施しました。
(引用元:https://www.exeo.co.jp/wp-content/uploads/2020/03/news20190708-1.pdf )
2.ハードウェア業界
ハードウェア業界はソフトウェアの会社と提携することが多いです。ITやIoTの技術発展に伴い新たな需要が生まれることにも期待が寄せられており、アプリケーションなどのソフトウェア開発と連携したサービス提供に向け、大手企業を中心とした買収が進んでいます。
【事例】2022年7月:SONY×バンジー
バンジーは世界有数の独立系ゲーム会社でSONYとは長年取引のあるパートナーでした。この買収を通してSONYはバンジーが保有するライブゲームサービスへのアプローチと技術専門性へのアクセスが可能になり、SONYが抱える数十億人のプレイヤーに繋がるというビジョンへ近づき、SONYのエンタメ事業と技術を掛け合わせ事業の拡大を図ります。
(引用元:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC190R70Z10C22A7000000/)
【事例】2021年12月:ミナトHD×エクスプローラ
譲受企業は、デジタル会議システム関連機器の販売・保守や半導体デバイスへのプログラム書込みサービス、システム受託開発などを展開しています。譲渡企業は、画像・音声処理システム開発における技術力をコアに医療・放送などの幅広い分野で豊富な開発実績を有し、製品開発から製造まで一貫した開発サービスを展開。AI・5G・クラウドシステムなどの最新技術を活用した開発に取り組んでいます。
今後更なる拡大が見込まれるIoT分野、車載関連分野でのソフトウェア開発を強化するとともに、映像関連事業などの他事業でもシナジーを創出できるとしてM&Aを実施しました。
(引用元:https://www.minato.co.jp/cms/wp-content/uploads/2021/12/20211228_1.pdf)
3.ソフトウェア業界
ソフトウェア業界はIT業界の中でも特にM&Aが活発に行われている業界です。ICT, IoT化に加えて個人情報漏洩やサーバー攻撃などセキュリティ対策に関する関心も加速しており、企業のソフトウェア投資意欲は年々上昇しています。M&Aや資本提携により新たな技術や機能を補完し業容を拡大するケースが増加しています。
【事例】2022年11月:Papillon×カヤック
譲受企業はWeb制作、トーナメントを企画・運営するツール「Tonamel」に取り組む企業です。譲渡企業は東南アジア向けにeスポーツ大会ツールを提供しており、両社のノウハウを結集し、世界に通用するプラットフォームを構築することを狙っています。カヤックがeスポーツ事業の海外市場進出を目指す第一歩として、本M&Aが実現しました。
(引用元:https://www.kayac.com/news/2022/10/papillon)
【事例】2022年5月:テンダ×三友テクノロジー
譲受企業はAIやクラウドを活用した自動作成ソフト/ツールの開発などを手掛ける企業です。譲渡企業は、業務系システム開発における解析・構築・導入コンサルティングやマイグレーション提供を中心とするソフトウェア受託開発企業で、専門性の高い特化技術やプログラミング言語の対応力が強みです。
IT/DX人材の確保や専門領域での顧客基盤獲得によるトップライン拡大、単価や間接部門の生産性改善による効率化の2面においてシナジーが見込めるとしてM&Aを実施しました。
(引用元:https://resource.ufocatch.com/pdf/tdnet/TD2022051800155)
【事例】2022年4月:ピアズ×イーフロンティア
譲受企業は店舗のDX化支援事業を展開している企業です。譲渡企業は3DCGの景観やキャラクター作成、ARやVR関連製品などのソフトウェアを各種販売しており、国内向けコンピュータ周辺機器の販売及び付帯サービスも展開しています。3DグラフィックやAI×ゲームソフト開発などにおいて専門性を有する企業との提携により、互いのチャネル利活用や新規事業への展開を図ってM&Aを実施しました。
(引用元:https://resource.ufocatch.com/pdf/tdnet/TD2022041200141)
4.インターネット・WEB業界
インターネット・Web業界においては、スマートフォンの普及に伴い、テレビやラジオなどのマスメディア広告からインターネット広告に需要がシフトしている背景を受け、インターネット広告やECサイトの立ち上げ・運営、マーケティング運用など新たな技術や広告手法を得るためにM&Aが活用されています。
【事例】2023年8月:電通グループ×RCKT社
譲受企業は国内最大手の広告代理店であり、海外にも広くネットワークを持つ世界的な企業です。譲渡企業はドイツのデジタルクリエイティブに強みをもつエージェンシー事業を展開しており、本M&Aにより、ドイツ市場における広告領域の成長戦略を描いています。
(引用元:https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/001021.html )
【事例】2021年5月:クロスデバイス×T-image
譲受企業は広告制作事業やVRコンテンツ制作、EC事業などを展開する会社です。譲渡企業は大阪でWeb制作やWebコンサル、VR事業を手掛ける会社です。VR事業及び関西エリアにおける業務強化、Web制作のデザイン性向上を狙ってM&Aを実施しました。
(引用元:https://t-image2014.org/?p=946 )
5.情報処理サービス業界
情報処理サービス業界が製造業を中心としたIoT化やサービス業の自動決済システムなど、IT投資への動きが活発で需要が高く、異業種との提携も多く見られます。技術者確保や薄利な多重下請構造で中小企業も多いという課題を解決できることからも、成長戦略の一環としてM&Aが活発に行われています。
【事例】2023年4月:浅小井農園×大和コンピューター(農業×システム開発)
譲受企業は40年以上にわたってシステム開発を手掛け、2009年からは農業事業にも力を入れる企業です。譲渡企業は「朝恋トマト」のブランドで知られる農園で、滋賀県内では最大規模のハウスを持つ企業であり、ITの力で農業事業を成長させるという両社の想いが合致し、M&Aに至りました。
(引用元:https://fundbook.co.jp/cases/interview/20230728-2/)
【事例】2021年7月:カンダHD×ソフトエイジ(総合物流×システム開発)
譲受企業は国内外に100を超える拠点を有する総合物流企業。譲渡企業はソフトウェアや情報処理システム・ネットワークシステムの設計開発を手掛ける会社です。
物流専業者として必要な情報システム部門の発展に寄与することに期待してM&Aを実施しました。
(引用元:https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/d19bri/)
【事例】2021年3月:長大×エフェクト(建設コンサル×システム開発)
譲受企業は、インフラ整備の側面から幅広い分野で事業を展開する建設コンサルタントです。超高齢化社会に対応した新たな国土づくりや、これらを支えるインフラの老朽化などに対応すべく、ITを活用したサービスの高度化及び効率化に着手しています。
譲渡企業は、AI/IoT活用システムの受託や自社開発を行う福岡のIT企業。高い技術力をもつ豊富な人材を有し、地元で道路交通の安心安全や農業の生産性向上などの地域課題解決に貢献すべく事業を展開しています。
事業の方向性に相通ずるものがあり、譲渡企業の高い技術力を譲受企業の実需に生かすことで両社の企業価値向上が図れるものとしてM&Aを実施しました。
(https://www.chodai.co.jp/news/docs/20210303.pdf)
【事例】2021年10月:ヒューマンホールディングス×エフ・ビー・エス(人材派遣×システム開発)
譲受企業は人材派遣事業を中心に手掛ける会社です。定常業務の自動化に対する関心の高まりから、自社の強みである教育と組み合わせた顧客企業のDX化推進と生産性向上をサポートしています。譲渡企業は、システムの細やかな機能提供とアフターサービスの充実が評判の会社です。
譲受企業の教育を組み合わせたDX化推進サービスと、譲渡企業の企画開発力を融合することで、時代のニーズを捉えたサービス開発を加速させ、更なる企業価値向上が見込めるとしてM&Aを実施しました。
(引用元:https://ssl4.eir-parts.net/doc/2415/tdnet/2031638/00.pdf)
まとめ
IT業界では、技術/サービスの獲得や人材不足の解消、顧客基盤拡大などを目的として、譲受企業・譲渡企業共に成長戦略の一環としてM&Aが実施されています。IT開発への需要拡大を背景に、同業種からだけでなく異業種からのM&Aニーズも多様化している今、事業規模や事業展開エリアに関わらず中小ベンダー企業も早めのタイミングからM&Aを検討することが重要です。また、昨今は働くエンジニアのキャリア志向も多様化してきており、自社内だけでは優秀なエンジニアの成長意欲を満たす案件を確保することが難しい場合も多くなっています。大手企業との提携を通して、エンジニアのキャリアパスや開発環境を充実させ優秀な人材確保につなげている事例もあります。
弊社では3,000社を超えるIT企業への譲受ニーズを蓄積しており、中小ベンダーや独自サービスを展開するベンチャー企業のM&A戦略を多数支援しております。自社にどのような選択肢があるのか、経験豊富なアドバイザーがM&A戦略・資本政策の立案から伴走いたします。