厚生労働省が行っている衛生行政報告例では、令和2年の美容院の数は「257,890施設」とコンビニの約4倍強ほどの件数となっています。平成5年時には20万施設を下回っていたため、順調に右肩上がりで増加している事になります。
その様な美容室業界においても近年、M&Aが普及しつつあり、買収や売却が活発に行われ始めています。
本記事では美容院のM&Aについて、M&Aの動向やメリット、手法、相場観などを纏めていますので、美容院の経営者の方や美容院の買収をご検討の方は是非ご参照ください。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
美容院業界の現状
冒頭に記載した様に厚生労働省が発表する衛生行政報告書例における美容院の数は、令和2年時に「257,890施設」となり過去最高を更新、直近5年の推移を見ても右肩上がりに美容院数が増加傾向にあります。
また施設数の増加と同様に美容師の数も増加傾向にあり、令和2年の54万9,935人と過去最高となっています。
平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | 令和元年度 | 令和2年度 | |
---|---|---|---|---|---|
理容所 | 122,539 | 120,965 | 119,053 | 117,266 | 115,456 |
美容所 | 243,360 | 247,578 | 251,140 | 254,422 | 257,890 |
施設や美容師は増加傾向にある一方、市場規模は横ばいが続いています。
2021年に矢野経済研究所が発表した理美容市場に関する調査によると、2021年予測値で1兆4,820億円となりますが、2016~2019年も1兆5,000億円ほどで推移していないため、施設数の増加に対して市場規模が伸びていない事がわかります。
同調査では2021年以降も少子高齢化の進行や出生率の低下から引き起こされる人口減少により、市場規模が縮小する見通しとなるため、美容院業界の各社がシェア獲得に注力する構図は変化しないと予測されています。
▷美容院業界の課題
美容院業界の課題は、主に以下の2点挙げられます。
・美容室業界における競争激化
・美容師の人材難/後継者不足
美容室業界における競争激化
1点目は業界内の競争激化です。
前章で記載した様に美容室業界は「美容院数:増加/美容師数:増加/市場規模/横ばい」と施設や美容師の数に対して市場規模が増加していません。
美容室業界では低価格帯のチェーン店の台頭などもあり、顧客単価の伸び悩みなどが考えられます。
今後、少子高齢化などによる人口の減少が進んでいった場合、美容師1人当たりの顧客数の減少も見込まれるため、美容院各社での顧客の奪い合いが起る事が想定されます。
美容師の人材難/後継者不足
美容師の数は増加傾向にあるものの、美容室業界は勤務時間が長く、立ち仕事が多いことから肉体的・精神的に疲労がたまる一方、給与が安いという点から離職率が高いことで知られる業界です。
また厚生労働省の調査では、美容院業界の経営者の年齢構成比率は最も多いのは50-59歳で41.1%、60-69歳が281%、70歳以上が8.5%と他業界同様、経営者の年齢は高いことが分かります。
ただし他業界とは異なり、開業をする際には「美容師免許」や「管理美容師免許」が必要です。
そのため後継者とするにしても有資格者である必要があるため、他業界と比較すると親族内承継は行いにくい業界といえるでしょう。
美容室業界のM&A動向
市場規模の伸び悩みや競合他社との競争激化、人材難・後継者不足などから、近年では事業承継の手段としてM&Aを行う美容院が増加傾向にあります。
ただし大中規模の美容院(グループ)と小規模の美容院とではM&Aの傾向が異なり、大中規模の美容院はファンドにより買収される事例が多く見られ、小規模の美容院は居抜きとして売却となる傾向が見られるのが特徴です。
なお、M&Aと居抜きは異なり、M&Aでは経営権や従業員など店舗に関する全ての権利を譲渡・売却するのに対し、居抜きは内装をそのままの状態とし、店舗や施設の権利を譲渡・売却する行為となります。
美容院業界のM&A活用メリット
美容院業界において、M&Aを行うことで譲渡企業・譲受企業がそれぞれ受けるメリットについてご紹介します。
▷譲渡企業のメリット
まず最初に譲渡企業のM&A活用のメリットを紹介します。
・後継者問題の解決
・事業の拡大
・従業員の雇用の維持
・創業者利潤の獲得
後継者問題の解決
こちらは主に小規模美容院に該当するメリットです。
美容院経営者の高齢化が進み、後継者に美容師免許などが必要という状況から、小規模美容院の経営者の中には後継者不在が課題となっている方もいると思います。M&Aによる売却であれば、後継者にふさわしい人材を外部企業から探すことが可能です。
事業の拡大
競合他t社との競争激化により、経営に行き詰っている場合、大手グループ傘下に入ることも経営戦略の1つです。
大手グループ傘下に入ることにより、そのブランドを利用できる様になり、集客力の強化や潤沢な経営基盤による更なる成長が見込めます。
従業員の雇用の維持
廃業を選択した場合、自社の従業員の雇用は失われますが、一方、M&Aであれば基本的に従業員の雇用を維持することが見込めます。
譲受企業と譲渡企業間で雇用の引継ぎに関して十分に協議し、双方が納得の行く内容を契約書に反映させる必要があるので、注意しましょう。
創業者利潤の獲得
M&Aにより譲渡を行うことで、廃業コストの削減だけではなく、売却利益の獲得が見込めます。
企業価値次第ですが、一定の売却益が見込めますので、次の事業への挑戦や引退後の資金などに活用が出来ます。
▷譲受企業のメリット
続いてM&Aにより美容院を譲受・買収するメリットを紹介します。
・人材の獲得
・経営の多角化や新規事業参入
人材の確保
M&Aで買収した場合、従業員の引き継ぎを行う事が可能です。
美容院であればトップスタイリストなど、特に人気のある美容師に対し顧客がついているケースが多々ありますが、M&Aにより美容院を買収することで、そういった人気スタイリストを自社に招き入れられる可能性があります。
ただし、M&Aを行った際に買収先の従業員が退職してしまうリスクはあります。
上記の様にスタイリストに対して顧客がついていた場合、顧客も同時に失うことになりかねますので、雇用条件や引き継ぎ条件については慎重に譲渡企業と議論を重ねる様にしましょう。
経営の多角化や新規事業参入
新規事業や新店舗、新ブランドの立ち上げは簡単ではなく、また時間を要するものです。
M&Aにより既に一定の成功を収めている美容院を買収する事により、新規事業参入や経営の多角化の時間を短縮することが出来ます。
美容院業界で用いられるM&A手法
美容院のM&Aにおいて採用される手法は、「株式譲渡」と「事業譲渡」が主な手法になります。
▷関連記事:M&Aとは?M&Aの意味・流れ・手法など基本を分かりやすく【動画付】
▷株式譲渡とは
株式譲渡とは、譲渡企業の株主が、保有株式を譲受企業、または個人に譲渡することで会社の経営権を移転させる方法です。
双方で株式譲渡契約を締結し、譲受企業が代金を支払い、譲渡企業が株式を交付します。
▷関連記事:株式譲渡とは?株式譲渡と事業譲渡の違いや2つの注意事項
▷事業譲渡とは
事業譲渡とは、会社の一部または全部の事業を第三者に譲渡(売却)することを指します。
ここでの「事業」とは、対象となる事業を行うために企業が組織化し、機能している財産すべてを指しています。
例えば商品などの物、工場などの設備、不動産・動産、事業組織など、そして財産や債務、人材、ノウハウ、ブランド、特許権、取引先との関係などが含まれます。
▷関連記事:M&Aの事業譲渡とは?株式譲渡との違いやメリット・デメリットを徹底解説
美容院のM&Aを成功させるために
美容室・理容室業界のM&Aは、譲渡企業・譲受企業の双方にメリットが多いものですが、成功させるにはいくつか注意すべきポイントがあります。
ここでは美容院のM&Aを成功させるために押さえておきたいポイントを纏めています。
譲渡企業・譲受企業のそれぞれのポイントがありますので、ご参照ください。
▷譲渡企業|美容院のM&Aを成功させるために
まず譲渡企業側のM&A成功のために、押さえておきたいポイントからご紹介します。
・自社の強みを明確に
・譲渡のタイミング
自社の強みを明確に
まず1点目は譲渡や売却を検討した際に自社の強みを明確にしましょう。
例えば、「非常によい立地に店舗を構えている」や「美容師の技術力が高い」、「競合他社と比較し安価な料金設定」などが挙げられます。
特に立地の良い美容院の場合、譲受企業が付きやすい傾向があります。
また自社の強みを明確にしておくことは譲受企業との交渉の際にも非常に重要です。
自社の強さを裏付けるデータと合わせて用意することで説得力が増し、交渉をよりスムーズに進められるでしょう。
譲渡のタイミング
2点目は譲渡のタイミングを見計らうという事です。
新型コロナウイルス感染症が流行した際に美容院業界の市場規模が縮小した様に、美容委業界は外部環境の影響を受けやすい業界です。
可能な限り外部環境が良い時期に譲渡を行うことで譲渡価額の最大化を狙うことが可能です。
事業承継には時間を要しますが、なるべく早めに準備を行うことで、上記の様な”良い時期”を逃さずにM&Aを行うことが出来、成功に近づけることが出来るでしょう。
▷譲受企業|美容院のM&Aを成功させるために
続いて譲受企業側がM&A成功のために、押さえておきたいポイントをご紹介します。
・従業員や顧客の流出防止
・簿外債務の確認
美容師や顧客の流出防止
まず1点目は譲渡企業に勤めていた美容師が、M&Aにより退職しない様、努める必要があります。
先ほど記載した様にトップスタイリストなどであれば、その美容師に対して顧客が付いているケースがありますので、美容師の退職=顧客の流出となりかねません。
譲渡企業に丁寧に対話し、雇用条件などを擦り合わせ退職を防ぐ様、注意しましょう。
簿外債務の確認
M&Aで企業を譲り受ける場合、譲渡企業のリスクを引き受ける可能性があります。特に簿外債務には注意が必要です。
簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務のことです。
中小企業は現金主義の考えに基づいて会計を行っていることも多いため、まだ支払いが発生していない費用について、貸借対照表に負債として計上しないケースがあります。
簿外債務については以下記事に詳細を纏めておりますので、ご参照ください。
▷関連記事:必ず確認しておきたい、貸借対照表に計上されない「簿外債務」とは
▷譲渡企業の注意点
競争が激しい業界のため、譲渡企業は「駅から近くて立地が良い」「独自の技術を持っている」など、競合する他店との違いを示すことができなければ、譲渡時の価格が落ち込む可能性があります。
▷譲受企業の注意点
美容・理容業は1店舗の商圏が狭く、美容師個人に固定客がつきやすいなど、地域との結び付きが強い業態のため、美容師が入れ替われば、客数や客単価に大きな変化が出る場合があります。
美容院業界のM&A相場感
一般的にM&Aにおける譲渡価額は、譲渡企業と譲受企業間で協議の上、決定されます。
美容院業界の市場動向や譲渡企業の経営状態、立地条件や競合優位性、譲渡企業と譲受企業の相性、M&A実行タイミングなど多くの要因により価額は変動しますので、一概に美容院業界の譲渡価額相場は●●円とお伝えする事は困難です。
ただ美容室業界の成約事例などを確認すると、美容室1店舗当たりの譲渡成約価額は数百万円~千万円代となっているケースが多い様です。
複数の店舗展開を行っている場合、億単位での譲渡となる可能性も見込めます。
美容院業界のM&A事例
近年行われた代表的な美容院業界のM&A事例を紹介いたします。
▷CLSAキャピタルパートナーズによるAGUグループの株式取得
2018年、日本全国に展開しているAguグループを運営する「株式会社ロイネス」及び「B-first 株式会社」の株式を、CLSAキャピタルパートナーズが運営するファンド「Sunrise Capital」が取得することを発表しました。
株式取得額は約100億円とされており、美容院業界におけるM&Aの中でも大規模な事例となります。
本M&Aを通じて、CLSA グループの有する店舗やフランチャイズビジネス、サービス業界にお ける経験など経営資源を活用し、Aguグループの店舗開発を加速させることを狙いとしています。
▷剣豪集団と潤首有限公司によるエム・エイチ・グループの株式取得
2015年、剣豪集団と大連幸福家居世界の投資子会社である潤首を組合員とした剣豪1号投資事業有限責任組合が行うTOBに賛同することをエム・エイチ・グループが発表しました。
これにより。剣豪1号投資事業有限責任組合は発行株式の50.81%を取得します。
買付価格は1株330円、575万7500株の取得となるため、約19億円規模のOBとなりました。
剣豪集団は本M&Aを通じ、エム・エイチ・グループの持つ美容技術やサービスの高さ、フランチャイズなどを取り入れ、中国における美容サロン事業の拡大を目指しているとしています。
▷関連記事:TOB(株式公開買付)とは?目的からメリット、友好的・敵対的の違いまで分かりやすく解説
美容院業界のM&A まとめ
美容院・美容室業界では、M&Aによる売却が増加傾向にあり、その背景には美容業界内における競争の激化や後継者確保の課題があります。
M&Aを行うことで、譲渡側には後継者の確保や大手傘下に入ることによる事業拡大、創業者利潤の獲得などのメリットがあり、譲受側には人材確保や新規事業参入・経営の多角化が図れるというメリットがあります。
事業承継は親族承継、社内承継、M&Aのいずれにしても非常に時間を要しますので、ご検討中の方や相談先に迷われている方は、着手金無料でご相談可能ですのでfundbookにお問い合わせくださいませ。