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2023/09/29

医療施設M&Aの譲渡価額決定において重要な「のれん代」(営業権)とは

医療施設M&Aの譲渡価額決定において重要な「のれん代」(営業権)とは

医療経営者がM&Aを検討する際、もっとも気になる事項の1つが、M&Aの譲渡価額、平たくいえば「いくらで売れるの?」という点でしょう。
医療施設や医療法人の譲渡価額に関しては、かつて用いられることがあった「ベッド1床につき◯◯円」といった“神話”を未だに、信じているかたも見受けられますが、現在はそのような雑な方法で譲渡価額を見積もることは通常ありえません。
では、どのようにして譲渡価額を見積もるのでしょうか。本記事では、医療M&Aにおける、譲渡価額算定の考え方について解説します。
その際、重要なポイントとなるにも関わらず、一般的には馴染みがないのでわかりにくい「のれん代(または営業権)」という考え方について、重点的に説明していきます。

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医療法人M&Aにまつわる“神話”と現実

医療業界には、「あそこの病院が売りに出ている」とか「あの地域で病院を買いたいといっている医療法人がある」といった情報を持ち込み、両者を引き合わせていくらかの手数料を得ようという、(言葉は良くないかもしれませんが)「病院ブローカー」的な人物が昔から存在しています。

もしかすると、そういう人物から、「病床は1床1,000万円の価値がある。100床あれば10億円で売れる」といった「見積り」を聞かされたことがある医療経営者の方もいるかもしれません。

実際にM&Aでの譲渡を検討している場合、そういったブローカー的な人物に相談をしてしまうと、秘密保持契約も結ばずにあちこちに話を拡散されるなど、困った事態になることがあります。そのため、基本的に、ブローカーのような人物には関わらないほうがいいのですが、「1床1,000万円」といった価額は、どう考えればいいのでしょうか?

病院は、基準病床数制度の規制により、基本的に新規設立が不可能であるため、病床自体に「既得権」として価値があるという理解は間違っていません。そのため、たしかに昔は、病院(医療法人)の売却価額は、「1床◯◯万円」などといわれることもあったことは事実でしょう。

しかし、M&Aの市場が拡大し、中小企業も含めてM&A譲渡が当たり前に行われている現在では、企業の資産性や事業性、収益性を客観的、合理的に評価して、事業価値(あるいは企業価値)が評価され、それを基準にして譲渡価額が形成されます。

医療事業も、特殊な面がある業界とはいえ、事業である以上、理論的、客観的に導かれる事業価値の「相場」が形成されています。それがなければ、買い手のほうも投資をするかどうか、合理的な判断ができません。投資として見合うかどうかが客観的に価値算定される中で、病床自体の価値も含めて計算されます。

そのため、「1床◯◯万円」のような雑な算定の仕方で病院の価額を決めるという話自体が、過去の「神話」に近いものといってよく、少なくとも、まともなM&A仲介会社や金融機関などがM&Aに関与する場合は、そのような考え方は採用されません。

M&Aにおけるバリュエーションとは

M&Aの際に、その対象となる事業主体(医療経営であれば、医療法人や病院)の事業価値を評価することを一般的に「バリュエーション(Valuation)」と呼びます。そして、バリュエーションの結果、算定された事業価値をもとに、売り手と買い手双方の個別事情等を勘案して、実際の譲渡価額が決定されます。

たとえば、不動産取引においては、不動産鑑定士などが、理論的客観的な観点から、その土地の評価をした額が「公示地価」として示されます。そして実際の取引の際には、その公示地価を基準としつつ、その時のタイミング(市況)や、売り手と買い手の個別事業(早く売りたい、どうしてもその土地が欲しい、など)を反映して、実際の取引価額が決定されます。

医療M&Aもこれと同様で、バリュエーションにより、理論的な価値を算出後、実際のM&Aの交渉において、売り手と買い手の個別事情が反映されて、最終的な売買価額が決定されます。

そこで、M&Aを検討するにあたっては、M&A仲介会社や買い手が提示する価額の根拠を知るためにも、バリュエーション方法の基本を押さえておくことをおすすめします。

基本的なバリュエーション手法

バリュエーションにはさまざまな方法があります。これは「事業」という、形がなく、また常に変化しているものを評価するにあたって、その全体像を完全に評価できる唯一の方法が、存在しないためです。

一般的に、大きく、次の3つのタイプに分類されます。なお、以後は話を単純化するため、医療法人を前提にします。

①コスト・アプローチ

対象法人の貸借対照表上の純資産額を基準として、事業価値を算定する考え方です。

②マーケット・アプローチ

類似する法人や業界平均などの評価額を基準として、事業価値を算定する考え方です。

③インカム・アプローチ

対象法人が将来生み出すであろうと見込まれる利益やキャッシュフローの予測金額を基準として、事業価値を算定する考え方です。

下表は、上記の3つのアプローチにおける代表的な事業価値算定手法と、その特徴をごく簡単にまとめたものです。いずれの手法を用いるかは、M&Aの案件ごとに、適した手法を当事者が選択することになります。複数の手法で算定した結果を加重平均するといったことが行われることもあります。

分類代表的な手法特徴
コストアプローチ時価純資産+のれん代・比較的簡便かつ客観的な評価が可能
・将来の収益性を考慮するのにのれん代部分に恣意が入りやすい
マーケットアプローチEBITDA倍率法・類似法人を基準とするため客観性が高い
・類似の事例がない場合には適さない
インカム・アプローチDCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法・将来の収益性を踏まえた評価が可能 ・もっとも合理的だが、計算に専門知識が必要 ・将来の業績見込みが安定していないと使いにくい

医療法人のM&Aでは「時価純資産+のれん代」で評価されることが一般的

上記の各手法のうち、医療法人のM&Aで多く用いられているのは、時価純資産に「のれん代」を加える方法です。そこでまず、時価純資産について簡単に説明します。

「純資産」とは、医療法人の決算書の、「貸借対照表」における「純資産の部」の金額です。ごく簡単にいうと、現金や不動産などを集計した「資産」から、借入金などを集計した「負債」を差し引いた差額です。

ただし、貸借対照表においては、資産や負債はそれが発生した時の金額で計上されています。これを「簿価」といいます。不動産などをイメージするとわかりやすいですが、個々の資産の評価額は、時間が経過すると簿価と乖離していきます。(評価額が上がる場合も下がる場合もあります。)

そこで、評価益、または評価損を調整して、「いま換金したらいくらになるのか」を計算したものを「時価」といいます。すべての資産、負債を時価で評価しなおして、その差額を計算したのが、時価純資産額です。これは、おおざっぱにいえば、「いまこの医療法人を清算したらいくら残るのか」という、計算上の金額になり、“現時点”において医療法人が持っているものすべての価値だと考えられます。

会計のルールは厳密に決められているので、時価純資産額は、客観的な評価額であり、しかも比較的簡単に算定できることがメリットです。

ちなみに、中小規模の事業会社のM&Aにおいては、一般的に、マーケット・アプローチ(上場企業を基準としたEBITDA倍率法)が利用されることが多いのですが、医療法人の場合は、比較対象となる上場企業が存在しないため、これは使いにくい方法となります。

また、DCF法は、一般的には、大企業で将来の収益の見込みがかなり合理的に予想できる事業などの場合に用いられ、中小・中堅規模のM&Aではあまり用いられません。

「のれん代」とは、将来の収益を生む“見えない価値”

通常、事業者には、収益を生み出す源泉ではあるけれども、決算書には計上されない無形資産を持っていると考えられます。
たとえば、過去の歴史から生まれる信用力(ブランド)や、現在通っている患者さんとの関係性、優秀なスタッフの存在などです。医療法人であれば、行政の許認可(病床数)などもその1つになるでしょう。これらは、決算書に「資産」として計上されないので、時価純資産額には含まれていません。

また、M&Aで医療法人を譲り受ける買い手は、その医療法人が持つ資産が欲しくて買うわけではなく、将来、医療事業において生み出される収益を求めて譲り受けるのが普通です。しかし、将来予想される収益も、時価純資産には含まれていません。たとえば、時価純資産が10億円の医療法人で、来年以降毎年1億円の利益を上げることが予想される場合に、その予想利益をまったく考慮せずに、“現時点”で持っているものの評価額である10億円を、法人の評価額とするのは不合理でしょう。

そこで、そういった会計上の純資産価額には計上されない無形の価値をまとめて表すのが、M&Aにおいて「のれん代」または「営業権」(本記事では、以後「のれん代」で統一します)と呼ばれる部分です。
時価純資産に「のれん代」を加えた「時価純資産+のれん代」を事業価値とするのが、医療M&Aにおいてよく用いられているバリュエーション方法です。

のれん代の「相場」は?

では、のれん代はいくらと見積もればいいのでしょうか?

無形資産であり、価額がついているものではないために、のれん代を客観的な根拠によって見積もることは難しいのが現実です。そのため、M&Aに際しては、あくまで、慣習的な相場で示されます。中小企業庁が作成している「中小M&Aガイドラインの参考資料(6頁)」では、通常、営業利益の1~3年分との記載が見られます。ただし、これは一般的な事業会社で、かなり小さい企業も含めた目安であり、医療法人の場合であれば営業利益の3~5年分程度までを相場と見てもさほど間違っていないと思われます。

買い手の立場からすれば、営業利益の3年分ののれん代なら、3年後にはのれん代をほぼ回収できるだろうと見込める、ということです。

時価純資産額は決算書から求められるものであり、のれん代には、慣習的な相場感があります。そのため、きちんとしたバリュエーションをすれば、だれが計算しても譲渡価額の目安は、それほど大きな差は出ないはずです。

そうすると、M&Aの検討段階で、複数のM&A仲介会社などに相談をして譲渡価額の仮算定をしてもらった際に、ほとんどの仲介会社が10億円から15億円の範囲でバリュエーションをしている中で、「うちなら30億円で売れます」というようなことをいう仲介会社あったとしたら、適正なバリュエーション計算をしているのかという点について、大きな疑問符がつくことになります。買い手も事業上の投資としてM&Aをおこなう以上、ある程度客観的に示されるバリュエーションの範囲から大きく外れる金額で買収することは考えにくいのは当然です。

もし、そのような金額を提示する仲介会社があれば、どうして大きく異なるのか、その根拠を確認したほうがいいでしょう。そのためにも、バリュエーションの基本知識を持っておくことは有用です。

最終的な価額決定は、売り手、買い手の事情が勘案される

バリュエーションは、あくまで「目安」として、医療法人の事業価値を評価するためにおこなうものです。繰り返しになりますが、実際の譲渡価額は、売り手、買い手双方の個別事情等を勘案し、両者の合意により決定されます。
たとえば、売り手となる医療法人において、病棟の建て替えが近い将来必要とされるのであれば、その分が譲渡価額から差し引かれることになるでしょう。また、M&Aの買い手の需要が非常に強ければ、事業価値よりも売却価額が高めに算定されることもあるでしょう(これは買い手にとってのシナジー効果にかかるのれん代ともいえます)。売り手が何らかの事情で、急いで確実に譲渡したいと考えていれば、ディスカウントをすることもありますし、逆に、特に急がないので、多少高めの価額でも買ってくれる相手を、時間を掛けて探すという場合もあります。
このようなことから、バリュエーション=譲渡価額とならない点には、注意してください。

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