医療業界では人手不足が深刻な問題となっており、高齢化による医療需要の増加などが原因の1つとされています。
本記事では、日本の医療業界での人手不足の現状や原因、もたらす影響や解決策を解説します。
様々なデータを用いて説明するため、ぜひ医療業界の方は参考にしてください。
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医療業界の人手不足の現状
医療業界の人手不足は、複数の最新データからも深刻な状況が確認できます。以下に、代表的な3つの指標を整理します。
■ 医療・福祉の労働者過不足判断D.I.(2026年5月時点)
厚生労働省「産業別景況動向」によると、医療・福祉の労働者過不足判断D.I.は2026年5月時点で57の不足超過となっています※。
労働者過不足判断D.I.とは、「不足」と回答した事業所の割合から「過剰」と回答した事業所の割合を差し引いた値であり、プラスであれば人手不足、マイナスであれば人手過剰を示します。数値が高いほど、現場での人手不足感が強いことを意味します。
■ 看護職の求人倍率(2024年度)
公益社団法人日本看護協会「2024年度 ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」によると、2024年度の看護職の求人倍率は2.51倍(前年度2.22倍)で、求人数172,522人に対して求職者数は68,724人にとどまっています。
求人数が求職者数を大幅に上回っており、看護職の需給ギャップが拡大していることがわかります。
| 指標 | 2023年度 | 2024年度 |
| 求人倍率 | 2.22倍 | 2.51倍 |
| 求人数 | 175,964人 | 172,522人 |
| 求職者数 | 79,151人 | 68,724人 |
※出典: 公益社団法人日本看護協会「2024年度 ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」
■ 医師の地域・診療科偏在
厚生労働省「医師養成過程を通じた医師の偏在対策などに関する検討会」では、医師数の絶対的な不足に加え、地域間・診療科間での偏在が大きな課題として取り上げられています※。
都市部への医師集中や、産科・小児科・救急など特定の診療科での不足が続いており、地方や過疎地域では医療提供体制の維持が困難な状況です。
これらのデータが示すように、医療業界全体で人手不足は深刻な水準に達しており、早急な対策が求められています。
※出典:厚生労働省「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」
医療・福祉では人手不足感が強い
労働者過不足判断D.I.は、数値が大きいほど人手不足感が強いことを示す指標です。
厚生労働省の「産業別景況動向」によると、医療・福祉の正社員などD.I.は、以下のように一貫して高水準で推移しています※。
- 2025年8月:54
- 2025年11月:58
- 2026年2月:56
- 2026年5月:57
この数値からも、医療・福祉業界における人手不足感が非常に強い状態にあることが確認できます。
※出典: 厚生労働省「産業別景況動向」
看護職では採用難が続いている
2024年度のナースセンターにおける看護職の求人倍率は2.51倍で、コロナ前の2016〜2019年度を上回る水準となっています※。
施設別に見ると、訪問看護ステーションが4.54倍、病院(20〜199床)が3.00倍、病院(200〜499床)が2.49倍と、施設の種類によって採用難の度合いに大きな差があることがわかります。
※出典: 公益社団法人日本看護協会「2024年度 ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」
医師は地域・診療科で偏在が続く
医師不足は全国で一律に生じているわけではなく、地域や診療科によって確保状況が大きく異なる「偏在」が主要な政策課題となっています。
厚生労働省は、医師偏在指標を用いて相対的に医師が少ない地域を把握し、地域枠の設定や医師確保計画の策定を通じて、地域・診療科偏在への対策を継続しています。
産科・小児科については個別の医師偏在指標も設定されており、医師が不足しやすい診療科への重点的な対応が進められています。
主な対策の内容は以下の通りです。
- 医学部に、特定の地域・診療科での勤務を条件とする地域枠を設定し、地域医療を担う医師の育成を促進
- 都道府県が医師確保計画を策定し、医師の派遣調整やキャリア形成支援などを実施
また、医師の働き方改革も、人材確保と勤務環境改善の重要な背景として位置づけられており、医師が長く安心して働き続けられる環境の整備が求められています。
医療業界で人手不足が起きる原因
医療業界で人手不足が起きる原因は、主に以下の3つです。
高齢化による医療需要の増加
生産年齢人口の減少
採用・定着の難しさ
高齢化が進むにつれて、医療を必要とする患者数は増加の一途をたどっています。一方で、働き手となる生産年齢人口は減少しており、医療現場では需要と供給のバランスが崩れやすい状況が続いています。
さらに、長時間労働や夜勤・交代制勤務といった厳しい勤務条件が定着率の低下を招き、せっかく採用した人材が離職してしまうケースも少なくありません。これら3つの要因が複合的に絡み合うことで、医療業界の人手不足は慢性化しています。
高齢化で医療需要が増えている
2024年10月1日時点で、65歳以上の人口は3,624万3千人、総人口に占める割合は29.3%と過去最高を記録しています※。高齢になるほど医療サービスを必要とする機会が増えるため、高齢者人口の増加は医療サービスの需要増加に直結します。
需要が増加する一方で、それに見合った人材を十分に確保できなければ、医療現場では人手不足が生じやすくなります。
「平均寿命が延びたから人手不足になる」と単純に捉えるのではなく、高齢化による医療需要の拡大が人員確保の難しさを生み出しているという構造的な関係を理解することが重要です。
※出典:総務省統計局「人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)結果の要約」
生産年齢人口が減少している
総務省のデータによると2024年10月1日時点の15〜64歳の生産年齢人口は7,372万8千人で、前年より22万4千人減少しています※。医療業界に限らず、働き手の母数そのものが縮小している状況です。
働き手の母数が減ることで、医療機関も必要な人材を確保しにくくなっています。特に医療は診療・看護など人が直接対応する業務が多く、他の業界と比べて人材確保の難しさが表れやすい分野といえます。
※出典:総務省「人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)結果の要約」
厳しい労働環境で採用・定着が難しい
医療業界では、採用・定着を難しくする要因が複数重なっています。日本看護協会の調査によると、看護職の求職者が就職時に重視する条件として「勤務時間」が最も多く挙げられており、次いで「給与」「通勤時間」「看護内容」「休暇」と続きます。
給与だけでなく、勤務時間や休暇といった労働条件全体が、求職者の就職先選びに大きく影響していることがわかります。
また、退職したい理由としても「勤務時間が長い・超過勤務が多い」が挙がっており、負担の重さが定着率の低下につながっている実態があります。
こうした勤務条件・待遇・業務負担など複数の要因が重なることで、人手不足がさらに深刻化するという悪循環が生まれやすい構造になっています。
医療業界の人手不足がもたらす影響
医療業界における人手不足は、患者・診療・従業員・医療機関の経営など、様々な面に深刻な影響を与えています。ここでは、主な影響を3つの観点から整理します。
| ・患者・診療への影響 ・従業員への影響 ・医療機関の経営への影響 |
診療の質低下・医療事故のリスク
医療現場で人員が不足すると、1人あたりの業務負担が増加し、患者への説明や対応に十分な時間を割きにくくなる可能性があります。
丁寧なコミュニケーションや細やかなケアが難しくなることで、診療の質が低下するリスクも懸念されます。
また、多忙や慢性的な疲労が続く環境では、ヒューマンエラーや医療事故が発生する可能性が高まるとも指摘されています。
人手不足が直接的な事故の原因となるとは断言できませんが、医療従事者の負担増加がリスク要因の1つになり得ることは、医療安全の観点からも見過ごせない問題です。
従業員の負担増と離職につながる
医療業界で人手不足が生じると、残っているスタッフへの残業・勤務調整・休暇取得制限といった負担が増えやすくなります。
日本看護協会が公表したデータによると、就業中の求職者が退職したい理由として「勤務時間が長い・超過勤務が多い」が上位に挙げられており、労働環境への不満が離職意向に直結していることがわかります※。
さらに、求職者が就職先を選ぶ際に重視する条件としても、勤務時間や休日・休暇に関する項目が重要視されており、職場環境の改善が採用力にも影響を与えていることが示されています。
人手不足によって負担が増えた結果、離職者が増え、さらに人手不足が深刻化するという悪循環に陥るリスクも考えられます。医療機関がこの連鎖を断ち切るためには、勤務環境の整備や業務負担の分散など、根本的な対策を実施していきましょう。
※出典:公益社団法人日本看護協会「2024年度 ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」
採用・人件費の増加で経営が圧迫される
医療業界で人手不足が深刻化すると、医療機関の経営にも直接的な影響が生じます。採用活動を強化するほど、求人広告費や人材紹介会社への手数料といった採用コストが増加しやすくなります。
また、人員が不足している分を既存の職員で補おうとすれば、残業代などの人件費がかさむことになります。さらに、人材の確保・定着を図るために賃上げや待遇改善を実施すれば、その費用負担も経営を圧迫する要因につながりかねません。
人員確保が十分にできない場合には、病床の稼働や診療体制の維持にも影響が及ぶ可能性もあるでしょう。人手不足は医療サービスの質や量に関わる問題であると同時に、医療機関の経営基盤を揺るがすリスクでもあります。
規模の小さなクリニックや地方の医療機関ほど採用が難しく、大規模病院との間で人材確保の格差が広がりやすい点も課題として指摘されています。
医療業界の人手不足を解消する対策
医療業界の人手不足を解消するには、採用活動の強化だけでなく、「定着」「業務効率化」「経営基盤の安定」といった複数の観点から施策を組み合わせることが重要です。
主な対策としては、以下の5つが挙げられます。
| ・給与・福利厚生など待遇の改善 ・働きやすい環境の整備 ・医療DX・AIとタスク・シフト/シェア ・研修・キャリアアップ支援 ・M&A |
それぞれの解決策について解説します。
給与・福利厚生など待遇を改善する
待遇の改善は、採用力を高めるうえで欠かせない取り組みです。給与だけでなく、各種手当や休暇制度、育児・介護との両立を支援する制度なども含めて、総合的に見直すことが求められます。
改善にあたっては、職種や地域の採用相場を把握するとともに、在籍する従業員のニーズを確認したうえで、優先順位をつけて取り組むことが大切です。
公益社団法人日本看護協会の調査によると、看護職の求職者が就職時に重視する条件として「勤務時間」が22.6%、「給与」が18.1%、「休暇」が10.6%と続いており、給与以外の条件も重要視されていることがわかります※。自院の状況と照らし合わせながら、求職者のニーズに応えられる待遇整備を進めていきましょう。
※出典: 公益社団法人日本看護協会「2024年度 ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」
働きやすい労働環境を整え定着を促す
採用数を増やすことと同様に、既存職員の離職を防ぐことも人手不足対策として重要です。残業の削減や有給休暇の取得促進、勤務シフトの見直しといった基本的な取り組みに加え、子育てや介護と仕事を両立できる支援制度の整備も、職員の定着率向上に効果的といえまです。
医師については、2024年4月から時間外・休日労働の上限規制を含む「医師の働き方改革」の新制度が施行されています。長時間労働の是正が法的にも求められるようになっており、医療機関には制度に沿った労働環境の整備が必要です。
離職率を下げ、働き続けられる職場をつくることが、医療現場の人手不足解消への着実な一歩となるでしょう。
医療DX・AIとタスク・シフトを進める
電子カルテの整備や予約・問診システムの導入、AI・RPAを活用した文書作成支援など、定型業務や事務的な負担を減らすデジタル化の取り組みは、医療現場の人手不足対策として有効な手段の1つです。厚生労働省の調査でも、ICT機器の活用が勤務環境改善に寄与することが示されています※。
あわせて、看護補助者や医師事務作業補助者などへのタスク・シフト/シェアを組み合わせることで、医師・看護師が本来の専門業務に集中できる体制を整えることが必要です。
医療DX・AIはあくまで医療従事者を支援するための手段であり、これらを活用することで生まれた余力を、より質の高いケアに振り向かせられるとよいでしょう。
研修・キャリアアップを支援する
医療・福祉業界は技術進歩が著しく、職員が常に新しい知識や技術を習得できる環境を整えることが重要です。新人研修やOJT、eラーニング、外部研修、資格取得支援など、継続的に学べる仕組みを導入することで、即戦力の育成と定着率の向上を同時に図ることができます。
あわせて、キャリアパスや評価基準を明確にし、職員が将来のビジョンを描きやすい職場環境をつくることも大切です。「この職場で成長できる」という実感は、離職防止にも直結します。
医療技術の高度化に対応しながら、人材の定着を促す観点からも、研修・キャリアアップ支援への投資は採用力の強化につながる取り組みといえるでしょう。
M&Aで人材・経営基盤を確保する
自院だけで採用活動や設備投資、経営改善を進めることが難しい場合、M&A(企業の合併・買収)も選択肢の1つとして検討する価値があります。特に後継者不足による閉院リスクを抱える医療機関にとって、M&Aを通じた事業承継は現実的な打開策となり得るでしょう。
譲受側にとっては、既存の事業基盤や即戦力となる人材・ノウハウを引き継げる可能性があります。ただし、スキームによっては従業員の同意取得や雇用条件の確認が必要になるケースもあるため、事前に十分な調査と準備が求められます。
M&Aはあくまで経営課題を解決するための手段の1つであり、実施すれば必ず人手不足が解消されるわけではありません。自院の状況や課題を整理したうえで、M&Aが有効かどうかを慎重に見極めることが重要です。
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医療業界の人手不足でよくある質問
ここでは、医療業界における人手不足に関するよくある質問を紹介します。
人手不足が特に深刻な医療職種は?
医療業界の人手不足は、職種や施設の種類によって状況が大きく異なるため、一概に特定の1職種だけが最も深刻とはいえません。
ただし、採用難が目立つ職種として、まず看護職が挙げられます。日本看護協会の調査によると、2024年度の看護職の求人倍率は2.51倍に達しており、中でも訪問看護ステーションでは4.54倍と特に高い水準となっています。
医師についても、地域偏在・診療科偏在が長年の課題となっています。都市部と地方では医師数に大きな差があるほか、診療科によっても確保の難しさが異なります。
専門研修においては、地域偏在と診療科偏在に配慮する観点から、都道府県別・診療科別に専攻医の採用数の上限を設ける仕組みが設けられており、必要な診療科の医師の育成・確保に向けた取り組みが進められています。
AIやDXで医療の人手不足は解消できる?
AIやDXの導入は、事務作業や定型業務の効率化、情報共有の改善といった面で大きな効果を発揮します。
一方で、人員配置の最適化や専門職による判断・対人業務の全てを代替できるものではなく、あくまで補助的なツールとして位置づけることが重要です。
医療現場の人手不足を根本的に解消するには、AIやDXの活用だけでなく、タスク・シフト/シェアによる業務分担の見直し、労働環境の改善、そして人材育成といった取り組みを組み合わせることが求められます。
テクノロジーと制度・環境整備を一体的に進めることで、より持続可能な医療提供体制の構築につながるでしょう。
まとめ
医療業界の人手不足は、少子化や高齢化の進行、長時間労働による離職、医師・看護師の地域偏在など、複合的な要因が絡み合って生じています。今後もこの状況はさらに深刻化すると予測されており、早急な対策が求められています。
人手不足の解消に向けては、処遇改善や労働環境の整備、ICT・AIの活用による業務効率化、外国人医療人材の受け入れ、そしてM&Aを活用した人材・体制の確保など、多角的なアプローチが有効です。医療や福祉を必要とする方が十分なサポートを受けられる環境を守るためにも、業界全体で取り組むべき重要な課題といえます。
なお、M&Aを実施する際には専門的な知識を要するため、まずは専門家への相談をご検討下さい。
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