
近年、国内の業界再編や中小企業の事業承継手段として、M&Aが注目されています。市場縮小傾向がみられるエステサロン業界も例外ではありません。各企業や店舗では、生き残るために事業拡大や経営多角化を目指したM&Aが盛んです。
本記事では、エステサロン業界の特徴や現状、M&A動向を解説します。エステサロン業界でM&Aを実施するメリット・デメリットや売却価格相場、事例も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
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目次
エステサロン業界とは
エステサロン業界とは、手技・化粧品・エステ機器を用いて、「肌を美化する」「体型を整える」などの施術を提供する業界です。総務省の日本標準産業分類では「エステティック業」に分類されます。
エステサロンは、エステティシャンによる施術がサービスの中心です。痩身機器・フェイシャル機器・脱毛機器などの機器も使用されますが、技術を持つエステティシャンに売上を依存するケースも多くあります。
エステサロン業界の業態は、個人経営の小規模なサロンや複数の従業員を雇用する大規模店舗型のサロン、フランチャイズで全国展開する企業など様々です。
代表的な企業にはTBCグループ株式会社や株式会社ミス・パリ・グループ、たかの友梨ビューティクリニックを運営する株式会社不二ビューティなどが挙げられます。
エステサロン業界の市場規模
株式会社矢野経済研究所が2024年2月に発表した調査によると、2022年度の国内エステサロン市場の規模は3,163億円でした※。同研究所の予測では、2023年度は3,139億円、2024年度は3,133億円と微減する見込みです。2019年度から4年連続で市場規模は微減しており、市場は縮小傾向にあります。
一方、近年は女性だけでなく男性も肌や体型に対する美意識が高まっており、メンズエステ市場の規模は拡大する見込みです※。
※出典:株式会社矢野経済研究所「エステティックサロン市場に関する調査を実施(2024年)」
エステサロン業界の現状と課題
エステサロン業界は市場全体の規模が減少傾向にあるため、業界内での競争が激化しています。また、広告に対する規制やエステティシャンの人材不足も問題となっています。
以下では、エステサロン業界の現状と課題を解説します。
広告に対する法令の厳格化
エステサロン業界では、集客のための広告施策が欠かせません。そのため、消費者が情報収集するツールの変化に合わせてSNSやネット広告などのWebマーケティングも積極的に活用されます。
ただし、エステサロンは人の肌や体型への施術が行われるため、広告では薬機法や景表法への配慮が必要です。近年、薬機法や景表法による広告規制は厳格化しており、コンプライアンスに配慮した広告の実施が課題になっています。
同業他社や関連業種との競争激化
エステティシャンはあん摩マッサージ指圧師などの国家資格が必要なく、参入しやすい業界である一方で、市場規模は減少傾向にあり同業他社との競争が激化しています。
株式会社東京商工リサーチが2024年12月に発表した「2024年1-11月脱毛サロンなどエステティック業倒産状況」の調査では、99件の企業が倒産したことが明らかにされました※。
特に脱毛サロンの倒産が多く、エステサロン業界全体でも倒産件数は過去最多を更新しました。2024年12月には、医療脱毛サロン大手である「アリシアクリニック」運営の医療法人社団美実会が倒産を発表した件は記憶に新しい方も多いでしょう。
エステサロン業界の競合は同業他社だけではありません。近年は自宅でフェイシャルエステや脱毛が行えるセルフケア製品が多く販売されており、関連業種との競争も存在します。
※出典:株式会社東京商工リサーチ「2024年1-11月脱毛サロンなどエステティック業倒産状況」
エステティシャンの人材不足と人件費の高騰
エステサロンは人材がメインの経営資源であり、エステティシャンの確保は重要な課題です。
国内で深刻な問題とされている高齢化や人口減少に伴う人材不足はエステサロン業界でも同様で、エステティシャンの人材不足が問題となっています。
また、人材不足に伴って提供サービスの質の低下や人件費高騰などの課題も抱えています。
エステサロン業界のM&A動向

エステサロン業界では、同業他社との競争やエステティシャン不足を解消する経営戦略としてM&Aが検討されています。以下ではエステサロン業界のM&A動向を解説します。
事業拡大のためのM&A
M&Aは、「売上や市場シェアの拡大=事業拡大」に適した経営戦略手法です。
同業他社との競争が激化する中、エステサロン業界では、店舗数の拡大・人材の確保・顧客の引き継ぎなどを目的としたM&Aが行われています。
事業の選択と集中のためのM&A
エステサロン業界は市場規模が縮小傾向にあるため、「事業の選択と集中」を目的としてエステサロン事業をM&Aで売却するケースが見られます。
2021年、百貨店業大手の「株式会社三越伊勢丹ホールディングス」が、子会社でエステティック事業を営む「SWPホールディングス株式会社」の株式を「TBCグループ株式会社」に譲渡した事例はその一例です。
業績が芳しくないエステサロン事業を売却すれば、経営資源をより収益性の高いコア事業へと集中させることができます。譲渡側は、経営効率化やコスト削減を図れる他、売却益を得られる点でも利点があります。
エステサロン業界のM&Aのメリット
エステサロン業界でM&Aを行うと、譲渡企業・譲受企業それぞれにメリットをもたらします。
以下ではM&Aのメリットを譲渡企業と譲受企業別に解説します。
譲渡企業のメリット
エステサロン業界のM&Aで、譲渡企業が得られるメリットは以下のとおりです。
・後継者不在の問題を解消できる
・経営基盤の安定化を図れる
・廃業に伴う費用を軽減できる場合がある
・従業員の雇用を維持できる
・創業者利益を得られる
特に、エステサロン業界では店舗の原状回復費用がかかるため、廃業・店舗閉鎖に伴う費用を軽減できる可能性がある点は大きなメリットでしょう。また、大手エステサロンの傘下に入れば、ブランド力や財務的な支援によって経営基盤の安定化を図れます。
譲受企業のメリット
エステサロン業界のM&Aで、譲受企業が得られるメリットは以下のとおりです。
・市場シェアや営業エリアを拡大できる
・エステティシャンや設備を確保できる
・出店にかかる初期費用を抑えられる
M&Aを行うと、譲受側は市場シェア・営業エリアの拡大によって売上や収益の向上を図れます。また、エステティシャン不足が問題となる中、M&Aで人材を確保できれば、サービスの質や顧客満足度の向上にもつながります。
エステサロン業界のM&Aのデメリット
エステサロン業界にとってM&Aは有効的な経営戦略手法であるものの、デメリットも存在します。M&Aを成功させるためには、デメリットも把握しておきましょう。
譲渡企業のデメリット
エステサロン業界のM&Aで、譲渡企業が注意すべき点は以下のとおりです。
- 希望する譲渡先が見つからない
- 事業譲渡では手続きが煩雑になる
- 売却後の経営引き継ぎが必要になる
エステサロン業界を含め、M&Aは自社の希望条件に合った譲渡先が見つかるまでに時間がかかるケースも少なくありません。また、M&Aの手法によっては手続きが煩雑になる場合もあります。
M&Aの進め方や手法について悩む場合は、M&A専門仲介サービスの利用がおすすめです。
譲受企業のデメリット
エステサロン業界のM&Aで、譲受企業が注意すべき点は以下のとおりです。
・譲受のための費用がかかる
・排水管の修繕などのコストがかかる場合がある
・従業員の離職や顧客離れを招く可能性がある
M&Aでは株式や事業用資産の取得に費用がかかります。また、店舗改装や排水管修繕などの費用が発生する可能性もあり、自己資金または金融機関から借り入れるなどして資金を確保する必要があります。
その他、M&Aによって既存従業員の離職や顧客離れを招く可能性があります。エステサロン業界はエステティシャン自身に顧客がつくケースが多いため、人材が流出しないよう、M&A後は速やかに今後の雇用・待遇などを相談できる環境を整えましょう。
エステサロン業界の売却価格相場
エステサロン業界のM&Aの売却価格は、事業規模・収益・財務状況などを総合的に考慮して決定します。通常、譲渡価格を決定する金額は企業価値評価に基づきます。
企業価値評価の主なアプローチは次のとおりです。
アプローチの種類 | 概要 |
インカムアプローチ | 企業の将来の収益を評価する方法「DCF法」や「配当還元法」がある |
マーケットアプローチ | 同業他社や市場と比較して評価する方法「類似企業比較法」や「類似取引比較法」がある |
コストアプローチ | 企業の純資産をもとに評価する方法「年買法」や「簿価純資産法」がある |
例えば、年買法で評価する場合、「純資産(時価)+営業利益2年~5年分」の式で売却価格の目安を計算します。
なお、エステサロン業界でのM&A以外で初期投資費用を抑えて開業する選択肢の1つとして、居ぬき物件を「借りる」もしくは「購入」するというケースがあります。
居ぬき物件とは、設備・什器備品・家具などが付属したままの状態で売買または賃貸借される物件のことを指します。店舗を居抜きで購入する際は、立地条件・店舗の広さ・内装・設備などをもとに売却価格が決定します。
居抜き物件を購入すると初期投資費用を抑えて開業することが可能ですが、あくまでも店舗空間の購入であり、M&Aのように従業員・ノウハウ・ブランド力を引継げるわけではない点を理解しておきましょう。
▷関連記事:「会社売却の相場とは?決め方や高く売るポイント、必要な諸経費について解説」
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▷関連記事:「【企業価値評価】インカムアプローチとは?DCF法の計算方法」
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エステサロン業界のM&A事例
エステサロン業界では、事業拡大やシナジー効果を目的としたM&Aが盛んに行われています。以下ではエステサロン業界のM&A事例を紹介します。
ウエルシアホールディングス株式会社による株式会社ププレひまわりの子会社化
2021年7月、ウエルシアホールディングス株式会社は株式会社ププレひまわりの株式を50%超取得し、子会社化・資本提携することを発表しました。
ウエルシアホールディングスは調剤併設型のドラッグストアチェーンを運営する企業です。一方、ププレひまわりは中国・四国地方を中心に、大型ドラッグストア「スーパードラッグひまわり」「サプラス」「ひまわり薬局」やフェイシャルエステサロンを運営する企業です。
ウエルシアホールディングスは、ノウハウや人材などの経営資源を共有することで中国・四国地方を中心に店舗網・経営規模の拡大を目指すとしています。
株式会社AcroX Holdingsによる株式会社TACHIAOIの株式取得
2021年4月、株式会社AcroX Holdingsは株式会社TACHIAOIの株式を取得し、グループ会社化しました。
AcroX Holdingsはホテル向けのコンセプトルームプロデュースを中心とした観光コンサルティング事業を展開する企業です。一方、TACHIAOIは化粧品輸出・サロン運営を行う企業です。
このM&AによってAcroX Holdingsは、ホテル向けアメニティ開発や観光に照準を合わせたサロン事業展開などにおいてシナジー効果を発揮し、事業の多角化を行うとしています。
株式会社ANAPと株式会社アセアンビューティホールディングスの業務提携
2020年8月、株式会社ANAPは、株式会社アセアンビューティホールディングスとの業務提携を取締役会で決議しました。
ANAPはカジュアルファッション販売事業を手がける企業です。一方、アセアンビューティホールディングスは美容サロンの開業支援や経営支援サービスを中心に事業を展開しています。
ANAPは、フィリピンでエステサロンを展開するアセアンビューティホールディングスとの業務提携により、フィリピン国内での販路拡大を目指します。
まとめ
エステサロン業界は比較的参入しやすい業界ですが、市場規模は減少傾向にあります。同業他社との競争激化やエステティシャン不足などの課題を抱えており、課題解決手段の1つとしてM&Aを実施する企業が増えています。
M&Aは、事業拡大やエステティシャン確保に有効な手法です。ただし、M&Aの成功には適切な相手先探しと綿密な計画立てが重要であり、専門的な知識が求められます。
fundbookでは、M&Aに関する専門的な知識を持つアドバイザーのもと、豊富なネットワークでマッチングをサポートします。M&Aを検討する企業の方は、fundbookのM&Aサービスをご活用ください。