業界毎の事例

2023/09/15

農業の事業承継-現状や種類、成功させるためのポイント

農業の事業承継-現状や種類、成功させるためのポイント

農業を営んでいる方の中には、経営の未来を考え、事業承継を検討している方も多いのではないでしょうか。
農業の事業承継では後継者を探し、農地や設備などの事業用資産、栽培技術や飼養管理などのノウハウや経験を後継者に引き継ぐ必要があります。相応の年数がかかるため、計画的な実行が大切です。

本記事では、農業における事業承継の現状や承継で引き継がれるもの、承継の種類を解説します。後継者問題の解決策となる農業M&Aや事業承継を成功させるポイントも紹介しているため、事業承継をお考えの方はぜひ参考にしてください。

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農業における事業承継の現状

農業業界では近年高齢化が進み、事業承継の対象となる後継者不足が問題となっています。政府は国内の農業を保護する観点から、法人が農業に参入しやすい環境づくりを進めています。

▷高齢化による後継者不足

農林水産省が公表する「農業労働力に関する統計」によると、基幹的農業従事者(仕事として主に自営農業に従事している物)の人数とその平均年齢は下記のように推移しています。

平成 27年平成 28年平成 29年平成 30年平成 31年令和 2年令和 3年
基幹的農業従事者175.7 万人158.6 万人150.7 万人145.1 万人140.4 万人136.3 万人130.2 万人
うち 65 歳以上114.0 万人103.1 万人100.1 万人98.7 万人97.9 万人94.9 万人90.5 万人
平均年齢67.1歳66.8歳66.6歳66.6歳66.8歳67.8歳67.9歳

(出典:農業水産省統計部「農業労働力に関する統計」https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html

表を見ると、ここ7年間の基幹的農業従事者の平均年齢は66~67歳を推移しており、その多くが65歳以上の方で占められていることが分かります。
一般的な企業であれば退職後の年齢に相当する方が、国内の農業を主として支えている状況です。

農業従事者の高齢化が進む一方で、後継者確保の問題が顕在化しています。農業センサス(2020年度)によれば、全国の1,075,705の農業経営体のうち、約7割の764,367の経営体が5年以内に引き継げる後継者を確保していないと回答しており、多くの農業を営む方が後継者を確保していない状況です。

▷改正農地法による法人の参入

農業における後継者確保の問題を受け、政府はさまざまな対策を実施してきました。その1つが農地法の改正による法人の参入です。近年施行された農地法改正をまとめると、以下のようになります。

・平成21年農地法改正:農地の権利取得や農地の貸借、農業生産法人要件などが見直された
・平成27年農地法改正:農地を所有できる法人の要件などが見直された
・令和元年農地法改正:農地集積における支援や事務手続きの簡素化などが行われた

農地法は、そもそも農業を保護するために農地の所有や転用、売買などに規制を設けた法律です。しかし、後継者確保が問題となっている現在では、その規制が足かせとなるケースもありました。
平成21年の農地法改正では、改正後の約3年6ヶ月で株式会社やNPO法人などの農業参入数が改正前の約5倍のペースで増加しています。その後に進められた農地法改正とあわせ、近年では一般法人の農業参入が積極的に行われています。

農業における事業承継で引き継がれるもの

農業の事業承継では、主に以下の3つのものが引き継がれます。

・事業(経営)の承継
・財産の承継
・無形財産の承継

それぞれの項目を以下で詳しく説明します。

▷事業(経営)の承継

事業(経営)の承継とは、後継者への経営権の承継のことです。
農業は天候に合わせた作物栽培の技術や経験、地域の人との関わりなど「人」に依存する部分が大きいため、適切な後継者探しが重要となります。
後継者への承継には、親族内承継や親族外承継(従業員等)、第三者承継(M&A)などがあります。各承継の詳細は後述しているので、そちらもご参照ください。

▷財産の承継

財産の承継は、事業用資産や資金など有形の資産を承継することです。
農業の場合では、農地や耕作機械、牛や豚などの動物、ミカンやぶどうなどの樹木、運転資金や借入金などがあります。なお、自宅と農業に利用している設備が一体となっているケースでは、事業用資産と個人資産の仕分けに注意が必要です。
事業を事前に法人化し、事業用資産や資金を個人資産と分けてから事業を承継する方法もあります。

▷無形財産の承継

無形財産の承継とは、貸借対照表に記載されている資産以外の無形の資産を承継することです。具体的には、経営理念や技術・ノウハウ、経営者が培ってきた信用、ブランドや商標などの知的財産などがあります。
農業の場合では、作物の栽培方法や飼養管理のノウハウ、生産物の販路などが知的資産として考えられます。その他、生産から販売までのビジネスモデル、農家としての歴史や地域との関わりなど多くの目に見えない資産があるため、承継前に知的資産を整理し、後継者との対話を通じて引き継ぐことが大切です。

農業における事業承継の種類とメリット・デメリット

農業の事業承継-現状や種類、成功させるためのポイント

農業における事業承継の種類は、承継の対象により大きく3つに分類されます。

・親族内承継
・親族外承継(従業員等)
・第三者承継(M&A)

前述の農林水産省が公表する農業センサス2020年では、5年以内に農業を引き継ぐ後継者を確保していると回答した農業経営者 262,278の経営体の内、250,158は親族への引き継ぎ、8,712は親族以外の経営内部(従業員)への引き継ぎ、3,408は第三者への引き継ぎと、農業の事業承継は圧倒的に親族に行われるケースが多くなっています。
それぞれの承継がどのような内容か、メリットやデメリットとともに解説します。

▷親族内承継

親族内承継は、経営者の子どもをはじめとした親族に事業を承継することです。子ども以外では、兄弟の子どもや娘婿なども親族内承継に含まれます。

親族内承継のメリットとデメリット

メリットデメリット
関係者の理解を得られやすい
準備期間を確保できる
幼少期から農業に触れているケースがある
相続人が複数存在していると資産の分配が難しい
親族でも家業を継ぐ意思があるとは限らない

親族内承継のメリットは、経営者の子どもなど親族が事業を承継するため、従業員や取引先、地域の人など関係者の理解を得られやすい点です。
また、小さい頃から農作業を手伝っている人も多く、農業に対する理解があることも利点でしょう。

一方で、農家の場合は事業用資産と個人資産の分離があいまいな側面があり、相続人が複数存在している場合、事業に必要な資産を後継者へ集中して承継することが難しいケースもあります。

▷親族外承継(従業員等)

親族外承継(従業員等)は、役員や従業員、共同創業者など、親族以外の人に事業を承継することです。

親族外承継のメリットとデメリット

親族外承継(従業員等)のメリットとデメリットは以下のとおりです。

メリットデメリット
親族内に後継者がいない場合にも後継者を確保できる
農業に長年従事し、技術やノウハウを持った後継者を選びやすい
後継者に資金力が必要となる
親族内承継とくらべ、関係者の理解を得られにくい

親族外承継(従業員等)の大きなメリットは、親族内に後継者がいない場合でも事業を継続できる点です。先祖から受け継いできた家業を次の世代へと引き継げます。
ただし、農業の事業承継では農地や耕作機械など高額な資産の承継が生じる場合が多く、後継者に資金力が必要となる点には注意が必要です。

▷第三者承継(M&A)

親族外承継の中でも、従業員以外の外部の人や企業へ事業を承継することを第三者承継と呼びます。第三者承継では、事業譲渡や株式譲渡(株式会社の場合)によるM&Aや外部人材の招へいなどの方法があります。
家族経営の農業では従業員を雇っていない場合も多く、親族以外の後継者の確保に困難が伴います。現状、まだ数としては少ないものの、第三者承継は後継者確保の1手段として、現在注目されている承継方法です。

第三者承継のメリットとデメリット

第三者承継のメリットとデメリットには以下のようなものがあります。

メリットデメリット
親族や従業員に後継者がいない場合でも広く後継者を求めることができる
事業を存続できる
事業売却による利益を得られる
希望する条件にあう後継者の確保に時間がかかる
後継者が農業関係者であるとは限らない

第三者承継のメリットは、広く後継者を求められる点です。事業存続のための選択肢が増え、廃業を避けられる可能性が増えます。また、M&Aにより事業を売却すれば、売却益を得られる場合もあります。

一方で、第三者承継は自分が望むような後継者を探すのに時間がかかる点がデメリットです。新規就農希望者を受け入れる場合には、農業の基礎から育成する必要もあります。

後継者不足を解消する農業M&A

後継者確保に多くの農家の方が苦労する中、近年では第三者に事業を承継する農業M&Aが積極的に行われています。
ここからは、農業M&Aの事例やその他の第三者への事業承継の例を紹介します。

▷農業M&Aの事例

2020年1月、鹿児島市に本社をおき業務用総合食品卸業を営む西原商会は、グループ会社であるニシハラグリーンファームを介して、にんじんやゴボウ、米などの栽培を手掛ける松本農園の全株式を取得しました。西原商会は松本農園の買収により、生産から販売までの一貫したサービスの提供が可能となっています。

一方、2020年3月、大和証券グループの子会社である大和フード&アグリ株式会社は、山形県で低コスト耐候性ハウスを使用したトマト栽培を営む株式会社平洲農園に資本参加しました。目的は、トマト生産ビジネスへの参入です。このように、多くの企業が農業にビジネスとしての魅力を感じ、M&Aを通じて業・食料分野への参入を図っています。

▷新規就農者への事業承継や他の農業法人との統合というケースも

第三者への事業承継では、新規就農を希望する人を募り、承継するケースもあります。外部から新規就農希望者を招き入れ、研修生として数年間雇用したのち、事業を承継する方法です。資産の継承には農地や機械を使用貸借契約する方法もあり、新規就農者の費用面での負担にも配慮できます。
また、法人化している場合は、同じ地域で法人として農業を営んでいる人のグループ法人となることも1つの手段です。後継者となる親族がいないときでも家業を廃業することなく、事業の継続が可能となります。

農業における事業承継を成功させるポイント

近年、国は農業の事業承継に対してさまざまな支援策を実施しているため、政府支援策の積極的な活用は農業における事業承継の大切なポイントです。
また、後継者が見つからない場合には、マッチングサイトの活用も有効な手段となります。

▷政府支援策を活用する

国が行っている支援策には以下のようなものがあります。

・農地に関する納税猶予制度や事業承継税制など、税における支援策
・経営継承/発展等支援事業
・農業経営相談所やパンフレット

農地に関する納税猶予制度とは、農地を全て後継者に贈与した場合、贈与税の納税が猶予される制度です。
また、事業承継税制を活用すると、事業用資産の承継に課される贈与税・相続税が猶予または免除されます。

その他、農林水産省では経営継承・発展等支援事業の実施や農業経営相談所の整備、経営継承に関するパンフレットの発行など、さまざまな支援事業を実施しています。

▷マッチングサイトを活用する

マッチングサイトとはインターネットを活用し、オンライン上で事業の譲渡希望者と譲受希望者をマッチングするWebサイトです。
農業では「AgriTouch」という農業専門の事業承継プラットフォームがあり、後継者を探している人と農業を始めたい個人・企業をマッチングするサービスが提供されています。親族や従業員、知人の方などに後継者の候補が見つからない際に役立つサービスです。

▷専門家に相談する

農業の事業を承継する場合には、後継者探しの他、資産の承継に関する税の問題や法務・会計などの専門的な知識も必要となります。
事業承継やM&Aの経験豊富なM&Aアドバイザーが在籍するM&A仲介会社へ依頼すると、事業承継の手続きをスムーズに実施できます。

まとめ

農業における事業承継では、農業を営む方の高齢化の進展と後継者確保の問題が顕在化しています。国は農地法改正など制度面の整備を進め、法人が農業経営に参入しやすい環境作りを行っています。
事業承継には親族内承継や親族外承継、第三者承継(M&A)などの種類があり、事業用資産や資金などの有形資産や経営理念やノウハウなどの知的資産を承継します。

後継者の確保を含め、将来を見据えた事業承継が重要です。
事業承継でわからない点がある場合は、専門家への相談も1つの手段です。fundbookでは、事業承継の経験が豊富なアドバイザーが経営者の方に寄り添ったサポートを提供します。
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