企業には、零細企業やベンチャー企業、中小企業、大企業などいくつか種類があり、それぞれ特徴を持っています。中でも零細企業は日本の企業に占める割合が高い身近な存在です。
しかし、零細企業の特徴や弱み・強み、中小企業や大企業などとの違いを正しく理解している方は少ないかもしれません。
本記事では、零細企業の概要やビジネスモデルの強みと弱みなど基本的な内容から今後の展望まで、まとめて解説します。
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目次
零細企業とは小規模企業者のこと
明確な定義はありませんが、零細企業は中小企業よりも規模が小さい小規模企業者に含まれると考えられています。中小企業基本法上では、小規模企業者を以下のように定義しています。
業種 | 常時雇用する人数 |
卸売業 | 5人以下 |
サービス業 | 5人以下 |
小売業 | 5人以下 |
製造業、建設業、運輸業、その他の業種(上記を除く) | 20人以下 |
中小企業基本法の定義に従うと、零細企業は社員数名の極めて規模が小さい企業と考えることができるでしょう。
零細企業の社会的な役割は大きく2つあります。
1つ目は、「地域の生活やコミュニティーを支える」ことです。
零細企業は常時雇用する人数が少なく、規模が大きくはないため、地域に密着した経営をする企業が多くあります。人口密度の低い地方ほど零細企業の存在は大きく、零細企業が架け橋となってコミュニティーができ、その地域の課題解決に向けた中心的な役割を担っています。
2つ目は、「地域に多様な活躍の場を提供する」ことです。
2016年時点で全国に存在する零細企業(小規模事業者)は約304.8万社と、全体の84.9%を占めています。
データからもわかるように、零細企業は地方の雇用の受け皿であり、身近な存在だといえるでしょう。中には高齢者や女性が長く働ける場所を提供している企業もあり、零細企業だからこその柔軟な働き方ができる場合もあります。
零細企業とベンチャー企業、中小企業、大企業の違い
前述したように、日本の企業の中でも零細企業が占めている割合は高いですが、零細企業以外にも、ベンチャー企業や中小企業、大企業があります。
以下では、ベンチャー企業、中小企業、大企業の特徴を紹介します。零細企業との違いを把握しておきましょう。
ベンチャー企業とは
ベンチャー企業にも明確な定義はありませんが、革新的なサービスを開発しイノベーションを生み出す企業や、設立数年程度の若い企業を指すことが多い傾向にあります。
従業員数が少ない、会社の規模が小さいという面で、零細企業と共通する部分もあります。
中小企業とは
中小企業に関しては、法律や制度によって「中小企業」として扱われる範囲が異なります。
例えば中小企業基本法では、「資本金または出資金の総額」や「常時使用する従業員の数」によって中小企業の範囲を定めており、以下いずれかの要件を満たしている企業が中小企業と定義されています。
業種 | 資本金の額または出資金の総額 | 常時使用する従業員の数 |
卸売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
製造業、建設業、運輸業、その他の業種 (上記を除く) | 3億円以下 | 300人以下 |
▷関連記事:中小企業とは?中小企業基本法における定義や利用できる国の施策、今後の展望を解説
大企業とは
大企業には明確な定義がありませんが、会社法では「大会社」の定義が明記されています。「大会社=大企業」と考えると、大企業は以下いずれかの要件を満たす企業と考えることができるでしょう。
- ・最終事業年度にかかわる貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上
- ・最終事業年度にかかわる貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上
零細企業ならではの強みと弱み
零細企業には、ベンチャー企業や中小企業、大企業にはない強みがある反面、弱みもあります。ここでは、零細企業のビジネスにおける強みと弱みを紹介します。
零細企業の強み
零細企業の主な強みは以下です。
- ・地域密着型
- ・経営環境の変化に対応しやすい
- ・顧客の意見を取り入れた経営がしやすい
- ・顧客の情報を把握しやすい
- ・リピート客が多い
零細企業は、小規模だからこそ顧客との繋がりが強く、顧客の情報も把握しやすいのが大きな強みです。情報から品揃えや商品・サービスの改善など、顧客のニーズに合わせることができます。
また、顧客や地域との繋がりが強いため、リピート客が多いのも零細企業ならではの強みといえるでしょう。
零細企業の弱み
零細企業の主な弱みは以下です。
- ・BtoC型のビジネスモデルでは、商圏の拡大が難しい
- ・地域資源を活かした商品・サービスの提供が難しい
地域密着は零細企業にとってメリットのひとつですが、商圏が限られしまう点は弱みといえるでしょう。ただし、BtoB型の場合は、都道府県外へ商圏を拡大している零細企業も比較的多い傾向があります。
また、零細企業では地域資源を活かすことが重要になりますが、それらを活かした商品・サービスを提供できている企業はそこまで多くないのも実態として挙げられます。特に大都市圏では地方に比べて地域資源を活かせない傾向が強く表れています。
零細企業に就職するメリットとデメリット
ここでは零細企業に就職するメリットとデメリットについて簡単に紹介します。零細企業で働くメリットとデメリットを知ることで、より零細企業について理解を深められるでしょう。
零細企業に就職するメリット
零細企業に就職する主なメリットは以下です。
- ・役職に就ける可能性が高い
- ・成長する機会が多い
- ・上司に意見を伝えやすい
零細企業は、大企業や数百人規模の中小企業に比べて従業員の人数が少ないため、競争相手も少なく、その分役職に就ける可能性が高いです。
また、人数が少なく大企業のような細かい業務分担がされていないため、ひとりひとりが幅広い業務をこなす必要があります。その結果、知識や技量を身に着けることができれば、成長に繋がるでしょう。
少人数なので上司と接する機会も多く、直接意見を伝えやすいことも大きなメリットです。
零細企業に就職するデメリット
零細企業に就職する主なデメリットは以下です。
- ・収入が少ない可能性がある
- ・教育体制が不十分な傾向がある
- ・福利厚生制度が整っていない場合がある
零細企業は、従業員数の多い業界でも20人以下、少ない業界では5人以下です。
国税庁の「民間給与実態統計調査」によれば、令和3年分の平均給与は、5,000人以上の企業だと515.2万円(平均年齢43.7歳)ですが、10人以下だと357.7万円(平均年齢53.1歳)となっています。
零細企業と大企業では賃金格差が大きいため、働く側にとっては満足度が低くなってしまう可能性があります。
また、零細企業では、幅広い業務に携われる可能性がある反面、人材育成まで手が回らず、教育体制が不十分な傾向があります。
加えて、会社の保養所や優待など大企業のような福利厚生制度が整っておらず、法律で定められた最低限の制度しか使えない場合があります。企業型確定拠出年金を導入していないケースもあるので、就職を考えている場合は事前に調べておくことでミスマッチを防ぐことができます。
零細企業の現状と今後の展望
零細企業は、日本の企業に占める割合から見ても重要な立ち位置にいる企業です。しかし、近年は新型コロナウイルス感染症の影響や後継者不足による事業承継問題など、零細企業を取り巻く環境は必ずしも良いとはいえません。
以下では、零細企業の現状と今後の展望を解説します。
新型コロナウイルスの影響
中小企業庁が発表している「中小企業白書・小規模企業白書2021年版」によると、70%以上の中小企業・小規模事業者が新型コロナウイルスによる企業活動への影響を受けたようです。
企業の景況感を示す指数の業況判断DIも、地域に関係なくリーマンショックを超える大幅な低下となっています。
ただし、新型コロナウイルス感染症の影響により一時的に低下しているものの、中小企業・零細企業の経常利益は緩やかな回復傾向にあります。
働き方改革への対応
新型コロナウイルス感染症の影響や働き方の変化などにより、働き方改革に対する労働者のニーズは高まっています。
人員不足が深刻な零細企業においては、労働環境の改善と人材の確保が重要となっており、現状の課題としては、人材不足による長時間労働や非正規雇用労働者を含めた待遇改善が挙げられるでしょう。
そのため、今後、零細企業にはDXの導入などの設備投資による作業の効率化などが求められています。
海外の人材の受け入れ
帝国データバンクが令和2年に行った「取引条件改善状況調査」では、いずれの業種においても「国内の設備・施設等への投資の増加」の割合が最も高くなっています。
しかし、サービス業においては、新規雇用の拡大の割合が相対的に高く、人員不足がうかがえます。今後は、零細企業でも海外人材の受け入れを強化し、人材の確保と定着に注力していかなければなりません。
こういった背景を踏まえ、積極的な外国人の受け入れを目的とした特定技能制度が創設されました。これは深刻な人手不足に悩む小規模事業者が即戦力となる外国人労働者を雇用しやすく、かつ一定の専門性や技術を有する外国人が日本で仕事を見つけやすくなる仕組みで、2019年4月から受け入れが可能となっています。
ハローワークを通じて採用することもできるため、今後は海外の人材を受け入れる小規模事業者が増えることが予想されます。
副業の受け入れ
零細企業において、収益が少ない場合や先行きが不透明であるなどの都合がある場合は、社員の収入増のために多くの企業で副業を認めている傾向にありますが、副業を認めていない企業もあるのは事実です。
社員の副業は、企業や社員にとってメリットとデメリットの両方があります。まだ副業を認めていない零細企業は、企業側と社員側で話し合い、どちらにも多くのメリットをもたらすよう副業制度の導入について議論する必要があるでしょう。
テレワークの活用やDX化の促進
零細企業の経営者も、IT化・デジタル化に力を入れる傾向があります。特に、営業、販路拡大にITの力を借りたいと考えている零細企業が多いようです。
零細企業を含めた中小企業のDX化は、人手不足の解消や業務の効率化にも繋がります。単純作業に割いていた時間や人員を削減することで、より生産性の高い活動に従事することができ、生産性向上の鍵になると考えられています。
SDGsへの取組
SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2030年までの17の目標と169のターゲットからなる国際目標です。
徐々に消費者にも認知されており、SDGsの取り組みは事業に好影響を与える可能性があります。
しかし、零細企業ではSDGsの認知はしていても、取り組みまでは到達していないのが現状です。零細企業の中にも、SDGsなどの新しい価値観に対応した事業を展開し、成功している企業は見られますが、依然として少数派であることは確かです。
このような背景の中、商工会・商工会議所の経営指導員にもSDGsの重要性の認知が広まっているので、今後の零細企業への波及と取り組みが期待されています。
事業継承の促進
日本の企業に占める零細企業の割合は8割を超えており、中小企業を含めると、国内企業の約99%を占めているといわれています。
日本の屋台骨ともいえる零細企業・中小企業ですが、大きな課題のひとつに経営者の高齢化と後継者不足があります。このまま後継者不足により零細企業が廃業すると、多くの雇用が失われて地域社会のインフラにも影響を与えてしまいます。
また、後継者の有無で企業のパフォーマンスも変わり、後継者がいる企業では後継者不在の企業より売上が高くなるというデータもあります。
事業承継には時間がかかるため、高齢の零細企業・中小企業の経営者は、できるだけ早めに事業承継も考えておく必要があるでしょう。
なお、事業承継というと、親族への承継や従業員への承継をイメージする経営者がいるかもしれませんが、M&Aを活用して第三者へ承継する手段もあります。
M&Aを活用すれば事業承継問題が解決できる可能性があるため、後継者不足で事業承継に悩んでいる企業の経営者は、一度専門家に相談することをおすすめします。
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まとめ
零細企業とは、中小企業の中でもさらに少人数の小規模企業者のことです。地域に根付いたビジネスモデルの企業が多く、顧客と地域の繋がりが強いのが強みといえます。
零細企業ではさまざまな課題を抱えているケースが多く、そのひとつとして事業承継問題があります。事業承継には時間がかかるうえに、専門的な知識が必要です。
零細企業の課題でもある事業承継にお悩みの場合は、fundbookまでご相談ください。