第三者割当増資は、企業が資本金を増やしたい時に選ぶ手法の一つです。
増資によって資金を調達できれば、「新規事業を始める」「海外進出を行う」「新しい工場を建設するための設備投資資金を集める」など、会社を発展させるためのさまざまな経営活動が可能になります。
増資には、「第三者割当増資」以外に、不特定多数に対して募集株式を取得させる「公募増資」や、既存の株主に持株割合に応じて新株引受権を与える「株主割当増資」があります。第三者割当増資では募集株式の引受人が会社の経営に参加する、会社との業務提携を行うなど関係を強固なものにできるなどのメリットがあります。
ここでは、第三者割当増資とはどういったものかという基本的なことから、第三者割当増資の原則的な手続きと、総数引受について紹介します。自社に合った手続きを把握し、第三者割当増資を成功に導けるように解説します。
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第三者割当増資の引き受け手続きについて
第三者割当増資とは、特定の第三者(既存の株主であるか否かは問わない)に対してのみ、新株を引き受ける権利である新株引受権の勧誘を行い、新株を割り当てる(購入してもらう)ことを指します。これにより、企業は資本金の増加と新たな事業資金を手にすることができ、さまざまな企業活動に資金を投入できます。
上場企業の場合、増資に関しては、不特定の一般投資家に対して新株を発行し、増資を募る「公募増資」が一般的です。しかし、株式を非公開にしている未上場の中小企業の場合は公募増資を行うことが事実上ほとんどできません。
そのため、未上場企業は資金調達の際に第三者割当増資を活用するケースが多いです。特定の第三者の内訳については、業務提携している企業や取引先(会社・個人)、取引金融機関、持株会、自社の役員、従業員などが対象になることが多くなります。
元々関係のある相手に対して行う募集であるため「縁故募集(縁故者割当増資)」とも呼ばれます。また、公募増資に対し、投資のプロである適格機関投資家や、特定の資産家50人未満に出資してもらう場合には、特に「私募増資」とも呼ばれます。
第三者割当増資のメリットとしては、金融機関からの増資が難しいような場合でも資金を得ることができ、財務を強化できることです。また、金融機関の融資とは異なり返済義務がないことや資金の使い道・用途を柔軟に決められる点、業務提携中の企業や取引先との安定した関係構築などに役立ちます。そのほか、譲受企業が譲渡企業の総株式の過半数以上を取得して、資金投入と同時にM&Aを行うといった手法でも用いられます。
引受人としての観点から見ると、有利発行等により1株あたりの価値の移転等が無い場合には、第三者割当増資ならば原則、税負担なしで新株を入手できるという利点があります。
財務状況を改善することができる資金調達方法である第三者割当増資。法律で定められた手続きを正しく踏むことで、そのメリットを得ることができます。
▷関連記事:【公開会社・非公開会社の違いも】第三者割当増資の手続きとは
第三者割当増資の引受の手続き
第三者割当増資を行う際の新株発行における原則的な手続きを紹介します。まず、全株式譲渡制限会社においては、株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の多数)によって募集事項の内容を決定します。
※割当先の決定については、全株式譲渡制限会社においては、取締役会設置会社であれば定款に別段の定めがない限り取締役会によって、取締役会設置会社以外の会社であれば株主総会の特別決議によって決定します。
募集事項の内容については、「募集株式の数」「募集株式の払込金額またはその算定方法」「金銭以外の財産を出資の目的とするとき(現物出資)はその旨並びに当該財産の内容及び価額」「金銭の払込みまたは財産の給付の期日またはその期間」「株式を発行するときは増加する資本金及び資本準備金に関する事項」を決議します。
この内容については会社法199条、201条によって法律で定められています。
募集事項が決まれば、その後、株式会社は、募集株式の引受の申込みをしようとする者に対し、株式会社の商号、募集事項等を通知し(会社法203条1項)、その申込みをする者は、氏名又は名称を及び住所等を記載した書面を交付して申込みます。そして、申込者から金銭の払込みを受けたら、払込期日または払込期間の末日から2週間以内に、管轄する法務局へ変更登記申請を行って手続きは完了です(会社法203条2項)。
また、募集株式を引き受けようとする者がその総数の引受を行う契約を締結する場合(総数引受契約)には、この申込みの手続および割当の手続は不要です(会社法205条)。実際には、会社と第三者との間には、既に割り当てる株式の種類・数、払込金額等に関する合意があることが多く、総数引受契約が締結されることが多いです。
引受手続きの注意点
1.取締役会設置会社と取締役会非設置会社の手続きの相違点
第三者割当増資の手続きにおいては、取締役会設置会社と非設置会社で内容が異なる点があります。
最初に割当先の決議についてですが、全株式譲渡制限会社では、取締役会設置会社は基本的に「取締役会」、非設置会社は「株主総会」で行います。
異なる点としてはほかにも、公開会社の場合、非設置会社は募集事項の決定を株主総会の特別決議で行うため開示が不要です。また、公開会社で種類株式発行会社において、譲渡制限種類株式の第三者割当を行う場合は、募集事項の決定を取締役会で決定できるものの、持ち株比率の変動が生ずること、及び公正な払込金額の決定が容易でないことから、種類株主総会の特別決議が必要なケースもあります。
2.株価によっては既存株主への通知も必要
第三者割当増資では、関係性の高い引受人に株を買ってもらうことから、引受人に有利な金額(実際の株価よりも低い金額)で払込金額が設定されるケースがあります。しかし、それでは既存の株主にとっては不平等かつ利益の侵害になります。募集株式の払込金額が有利発行になる場合は、株主総会の特別決議が必要になります。
また、基本的に既存株主に対しては通知を行い、第三者割当増資の差止請求を行う機会を与える必要があります。
なお、有利発行の基準は、上場会社の場合、原則として、払込金額が第三者増資にかかる取締役会決議の前日の終値の90%を下回る場合とされています。非公開会社の場合は株価の時価を算定することが難しいですが、過去の募集株式発行における払込金額や株式譲渡における譲渡価格を参考にして、それを下回ると有利発行に該当すると考えて良いでしょう。
総数引受契約の第三者割当増資の手続き
新株発行の際に企業や個人(複数の場合もあり)の引受人が発行株の総数引受けを行う契約を結ぶ場合があり、その契約方式は総数引受契約と呼ばれます。総数引受契約では、最初から割り当てる株式の種類や総数、払込金額等に関する内容についてまとまっているため、手続きの内容が簡単になっています。
具体的には、上記で説明した原則的な手続きである「申込予定者へ募集事項や申込期日等の通知から割当先(申込者)へ割当事項の通知」までの間で、申込をしようとしている者への通知、申込人による募集株式引受けの申込み、割当決定の通知が簡略化できます。これは、総数引受契約が締結されている場合、申込みと割当てに関する会社法の規定が適用されないためです(ただし、募集株式が譲渡制限株式の場合は、定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会もしくは取締役会で総数引受契約の承認決議、株主総会の場合特別決議が必要)。
これにより、通知や申込みなどの段階をスキップして、総数引受契約が締結できるのです。原則の第三者割当増資の手続きと比べて、総数引受契約ならば登記手続きを含めてスピーディに最短1日で完了することも可能です。
英語での総数引受契約は海外の法律も確認
総数引受契約は手続きの内容がスリムで、短期間で第三者割当増資を行えることになります。しかし、引受人に海外の企業や個人が関係する場合は要注意です。
それは契約書などの形式や総数引受のルール(法律)が日本とは異なっている可能性があり、日本語と英語など、違う言語を使う海外とのやり取りで時間がかかってしまったりする可能性があるためです。海外の引受人を相手に総数引受契約を締結する場合は、海外法務に強い専門家に相談して進めるのも1つの方法です。
まとめ
以上が第三者割当増資の引受の手続きと注意点になります。非公開企業の中小企業でも資金を得やすい手段ですが、そのメリットを得るため原則の第三者増資か総数引受かの2つから自社に適した手続きを選択する必要があります。
2つの違いを明確に把握しておき、しっかりと手順を踏まえて、第三者割当増資を有効に活用して下さい。