
事業承継やM&Aでは、「承継人」や「一般承継」、「特定承継」などの用語が用いられる場面があります。それぞれの用語の意味や違いを知っておくと、手続きを進める際に便利です。
本記事では、一般承継、特定承継、承継人などの用語の意味と、それぞれの違いや権利・義務を解説します。一般承継や特定承継が行われる場面やメリット・デメリット、事業承継やM&Aを例に具体的に説明しているので、ぜひ参考にしてください。
▷関連記事:M&Aの包括承継とは?特定承継との違いや適用範囲、メリット・注意点を解説
企業価値100億円の企業の条件とは

・企業価値10億円と100億円の算出ロジックの違い
・業種ごとのEBITDA倍率の参考例
・企業価値100億円に到達するための条件
自社の成長を加速させたい方は是非ご一読ください!
承継とは?
「承継(しょうけい)」とは、引き継ぐことを表す一般的な名詞です。法律用語として使われるときは、相続や契約などの主に権利や義務を引き継ぐ行為を指します。
例えば、事業承継は、現経営者から経営権や有形・無形資産などを引き継ぐことです。また、社風や経営方針といった抽象的な概念を引き継ぐことも含まれます。
承継と相続の違い
承継と混同しやすい言葉として「相続(そうぞく)」が挙げられます。
相続とは特定の状況下で起こる財産の引き継ぎを指す言葉です。引き継ぎ一般を指す承継とは異なり、状況や承継する対象を限定されることから、相続は承継の一種といえます。
一般承継と特定承継の違いは?
法律用語として承継を用いる場合、承継の対象を特定するかによって「一般承継」と「特定承継」に区別されます。それぞれの違いを解説します。
一般承継(包括承継)とは
「一般承継」とは、権利や義務をまとめて承継することです。単に「承継」ともいいますが、全体をそのまま承継することから「包括承継」と表現することもあります。
例えば、相続人が1人のみの相続は一般承継です。相続人は相続したい財産を自由に選択できないため、相続したい財産だけでなく、管理や売却が難しそうな不動産や負債などもまとめて相続することになります。全てを承継するかしないかの二者択一であるため、相続することによりデメリットが多いと考えられる場合は、一切を相続しない「相続放棄」を選択します。
▷関連記事:M&Aの包括承継とは?特定承継との違いや適用範囲、メリット・注意点を解説
特定承継とは
「特定承継」とは、承継する対象を限定して引き継ぐことです。権利や義務も引き継いだ対象にのみ発生するため、承継による不利益を回避しやすくなります。
例えば、事業承継は引き継ぐ財産や権利を選択できるため、特定承継の一例になります。前途有望で利益が上がっている事業に関する権利のみを承継すれば、会社が抱えている負債や赤字事業による不利益を被らずに済みます。
一般承継人と特定承継人の違いは?|権利と義務
「一般承継人」と「特定承継人」には、以下のような違いがあります。
・一般承継人:権利・義務ともに包括的に承継する
・特定承継人:権利・義務ともに個別に承継する
一般承継人と特定承継人は、権利と義務を「包括的に承継するか」「個別に承継するか」の点で大きく異なります。
一般承継人とは
「一般承継人(いっぱんしょうけいにん)」とは、親族や第三者などから権利義務を一括して承継する人のことを指します。権利義務を特定せずに一般的・包括的に承継することから、「包括承継人」とも呼ばれています。
例えば、親から財産を相続する場合、一身専属権(譲渡されることのない権利)など一部の例外を除き、親が持つ権利や義務を包括的に相続するのが原則です。権利義務の法律関係を特定せずに一般的に承継することから、「一般承継人」または「包括承継人」と呼称されます。
その他、法人では会社法上の合併などで権利義務を一括で承継する場合、一般承継(包括承継)に該当します。
特定承継人とは
「特定承継人(とくていしょうけいにん)」とは、他人から個別の権利を承継する人のことです。権利義務の法律関係を特定して承継するため、特段の定めがない限り、被承継人が持っていたその他の権利や義務などの法律関係に拘束されません。一般承継人(包括承継人)と対になる概念として用いられます。
例えば、土地の所有権を売買する場合、その土地を購入する人は特定承継人に該当します。また、法人の場合、事業の全部または一部を個別に引き継ぐ「事業譲渡」が特定承継に該当する行為です。
▷関連記事:M&Aの事業譲渡とは?株式譲渡との違いやメリット・デメリットを徹底解説
承継が行われるケース

承継が行われるケースも、一般承継(包括承継)と特定承継では異なります。具体的な例を挙げて解説します。
一般承継(包括承継)が行われるケース
それでは、一般承継(包括承継)は実際にどのようなケースで適用されるのでしょうか。一般承継(包括承継)の代表的な例として、個人の場合は相続、法人の場合は合併や会社分割が挙げられます。
【個人】相続
対象の財産をまとめて引き継ぐ相続は、一般承継の一例です。相続では対象財産を全て引き継ぐか、引き継がないかというどちらか一方を選択するため、引き継ぐ場合は一般承継を実施します。
相続人が1人のときはその相続人が財産全てを一般承継します。一方、相続人が2人以上かつそれぞれが財産を別個に相続する場合は、全体を見れば一般承継といえますが、各相続人においては特定承継が実施されていると考えられます。
【法人】合併、会社分割
合併や会社分割は、権利や義務がまとめて引き継がれる一般承継です。
合併では資産や債務は包括的に移転され、許認可や労働契約も原則として承継されます。それぞれの会社が所有する商標権は合併後の新会社が承継するため、個別に権利義務を承継する手続きの多くを省略できる点は、大きなメリットです。ただし、特許庁への商標権の移転登録申請など、別途手続きが必要なものもあります。
一般承継で包括的に承継する場合は、債務も承継する点に注意が必要です。財務諸表上に記載される債務だけでなく、簿外債務(貸借対照表に計上されない債務)や偶発債務(将来的に債務となり得る債務)もそのまま承継されることとなります。
特定承継が行われるケース
特定承継が行われるケースとしては、個人の場合は売買や贈与、交換、法人の場合は事業譲渡などが挙げられます。それぞれのケースを見ていきましょう。
【個人】売買、贈与、交換
財産を指定して引き継ぐ売買・贈与・交換は、特定承継の一例です。例えば、特定の人に財産を贈与する場合、対象となる財産を指定して実施します。権利や義務も対象財産に付随するものに限定されるため、贈与者が抱えている負債(対象財産とは無関係な負債)に対する責任を、受贈者が負うことはありません。
また、相続財産を指定する遺言書がある相続も、特定承継の一例です。ただし、遺言によって相続財産を指定された相続人が唯一の相続人の場合、指定されなかった財産も相続する必要が生じることもあり、特定承継を実現できない可能性があります。
【法人】事業譲渡
選択的に承継を実施する事業譲渡も、特定承継の一例です。事業譲渡は、M&Aの中でも頻繁に活用される手法です。
例えば、事業譲渡で承継する場合、当事者間で事業譲渡契約を交わしても、許認可や労働契約をまとめて承継できるわけではありません。
資産の移転や許認可、従業員との労働契約など、個々の権利義務は個別に承認・手続きを行ったうえで承継します。
事業譲渡後も引き続き従業員を雇用したい場合は、個別の手続き(労働契約の再契約や転籍合意書など)が必要であり、債務を引き継ぐ場合には債権者の譲渡承認が必要です。
このように手続きが煩雑な一方、承継する事業や資産を選別できる点は、特定承継の大きなメリットです。例えば、業績が好調な事業のみを承継し、不採算事業は承継の対象から除外するケースはその一例です。
その他、簿外債務や偶発債務を承継しない選択ができる点も特定承継のメリットです。承継人のニーズに合わせて柔軟な選択をしたい場合に、事業譲渡などの特定承継は有力な選択肢となります。
まとめ
承継人とは、他人から権利や義務を受け継ぐ人のことです。承継の仕方により、一般承継人(包括承継人)と特定承継人に分かれます。
事業承継やM&Aでは、権利義務を一般承継(包括承継)で引き継ぐのか、特定承継で引き継ぐのかによって、必要な手続きが異なります。自社の状況や承継の目的に合わせて、最適な手法を選択しましょう。
事業承継やM&Aで権利義務を受け継ぐ際には、整理しなければならない課題も多く存在します。どのように対処すべきか迷ったときは、専門家に助言を求める方法も有効です。
fundbookでは、各業界に精通した専門チームや、公認会計士・税理士・司法書士などの有資格者が丁寧なサポートを提供します。事業承継やM&Aでお悩みの際は、ぜひfundbookまでご相談ください。