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2023/09/15

事業譲渡の際に注意すべき会社法の項目は?定義や手続き、重要なポイントをわかりやすく解説

事業譲渡の際に注意すべき会社法の項目は?定義や手続き、重要なポイントをわかりやすく解説

事業譲渡はM&Aの手法の1つで、会社の一部または全部の事業を第三者に譲渡(売却)することを指します。事業譲渡の手続きは会社法に則って進める必要があります。

会社法には、株式の取得や役員の設置、資金調達など、事業譲渡以外にもさまざまなことが規定されていますが、事業譲渡を検討している方は、実施の際に係る法律については把握しておいたほうが良いでしょう。今回は、中小企業の経営者の方が知っておくべき会社法の内容を解説します。

▷関連記事:M&Aの事業譲渡とは?株式譲渡との違いやメリット・デメリットを徹底解説

事業譲渡を行う際、会社法に記載されているどの部分に注意すればいいのでしょうか。該当する箇所を取り上げて説明します。

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事業譲渡には株主総会の承認が必要

事業譲渡を行う際は、基本的には株主総会で承認を得る必要があります。効力が発生する前日までに、株主総会の特別決議で承認を得なければなりません。(株主総会での承認を必要としない例外的な場合については、次の項で説明をします)
この部分に関しては、会社法第467条に定められています。

会社法第467条 (事業譲渡等の承認等)

1. 株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。

一 事業の全部の譲渡

二 事業の重要な一部の譲渡 (当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一 (これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合) を超えないものを除く。)

二の二 その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)

 イ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えるとき。

 ロ 当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき。

三 他の会社(外国会社その他の法人を含む。次条において同じ。)の事業の全部の譲受け

四 事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに準ずる契約の締結、変更又は解約

五 当該株式会社(第二十五条第一項各号に掲げる方法により設立したもの【発起設立の株式会社】に限る。以下この号において同じ。)の成立後二年以内におけるその成立前から存在する財産であってその事業のために継続して使用するものの取得。ただし、イに掲げる額のロに掲げる額に対する割合が五分の一 (これを下回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合を除く。

 イ 当該財産の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額

 ロ 当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額

2. 前項第三号に掲げる行為をする場合において、当該行為をする株式会社が譲り受ける資産に当該株式会社の株式が含まれるときは、取締役は、同項の株主総会において、当該株式に関する事項を説明しなければならない。

※【】部分はコラム編集により加筆。

会社法では下記の6つの場合の事業譲渡について、いずれも株主総会の特別決議による承認を要求しています。詳細は後述します。

  1. すべての事業を譲渡する場合
  2. 法務省令で定める方法により算定された譲渡企業の総資産(以下単に「総資産額」)の1/5を超える、事業の重要な一部分を譲渡する場合
  3. 親会社による子会社株式等の全部またはその一部の譲渡の場合
  4. 譲渡企業から譲り受ける事業が、譲受企業の総資産の1/5を超える場合(法第468条2項)
  5. 事業をすべて賃貸、または委任する場合
  6. 譲受企業が事後設立*1 により譲り受ける場合

*1.事後設立:会社設立前から予定していた事業等を、設立後に譲り受ける契約。

平成26年(2014年)の会社法の改正によって、上記の会社法第467条の1項二の二号が追加されました。こちらも株主総会の特別決議での承認が必要な項目です。

事業譲渡には株主総会の承認が必要ない場合もある

事業譲渡を行う際、株主総会の承認を必要としない場合もあります。どのような場合が該当するのか、まず会社法第468条を見ていきましょう。

会社法第468条 (事業譲渡等の承認を要しない場合)

1. 前条の規定は、同条第一項第一号から第四号までに掲げる行為(以下この章において「事業譲渡等」という。)に係る契約の相手方が当該事業譲渡等をする株式会社の特別支配会社(ある株式会社の総株主の議決権の十分の九(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社及び当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の会社をいう。以下同じ。)である場合には、適用しない。

2. 前条の規定は、同条第一項第三号に掲げる行為をする場合において、第一号に掲げる額の第二号に掲げる額に対する割合が五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないときは、適用しない。

 一 当該他の会社の事業の全部の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額

 二 当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額

3. 前項に規定する場合において、法務省令で定める数の株式(前条第一項の株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)を有する株主が次条第三項の規定による通知又は同条第四項の公告の日から二週間以内に前条第一項第三号に掲げる行為に反対する旨を当該行為をする株式会社に対し通知したときは、当該株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。


先程紹介した、6種類の事業譲渡に記載している行為に関して、以下のような場合は簡易・略式の方法を採用することが可能となり、取締役会の決議のみで決定することができます。

簡易手続き
譲渡企業は、事業の全部または重要な一部の譲渡について、譲渡する資産の帳簿価額が譲渡企業の総資産額の5分の1を超えない場合には株主総会の特別決議の省略が可能です。

略式手続き
契約相手が譲渡企業の特別支配会社である場合、簡易手続きによって譲渡企業の株主総会特別決議の省略が可能となります。

特別支配会社とは、単独、あるいは100%子会社またはその他これに準ずるものとして法務省令で定める法人と合算して、ある株式会社の総株主の議決権の9割以上を保有する会社のことを指します。また、総株主の議決権の9割を上回る割合を定款で定めることができます。

本来であれば譲渡企業の株主総会における特別決議を必要としますが、譲受企業が総株主の議決権の9割以上を保有しているため議決は容易になります。そのため、株主総会での決議は不要とされています。

会社法における特別決議を要する6種類の事業譲渡

先述したように、会社法においては特別決議を要する事業譲渡として、6つの場合分けが存在します。それぞれについて詳しく解説していきます。

すべての事業を譲渡する場合
事業のすべてを譲受企業に譲渡することを指します。譲渡企業の株主総会で特別決議が必要です。

総資産額の1/5を超える、事業の重要な一部分を譲渡する場合
「重要な一部」とは、量的基準と質的基準の双方の側面で判断されます。量的基準とは売上高や利益、従業員数などの譲渡対象が事業全体の1割を超える場合には重要と考えられます。質的基準では会社の事業内容などからイメージに大きく影響すると重要と考えられます。それらの基準により重要な一部と認められても、譲渡する資産の帳簿価額が譲渡企業の総資産額の5分の1を超えなければ、特別決議は省略できます。

親会社による子会社株式等の全部またはその一部の譲渡の場合
譲渡企業の総資産の1/5にあたる子会社の株式の全部またはその一部の売却を行い、親会社の影響力がなくなった場合、譲渡企業の株主総会で承認を得なければなりません。

譲渡企業から譲り受ける事業が、譲受企業の総資産の1/5を超える場合(法第468条2項)
譲渡企業の事業をすべて譲り受ける場合です。この場合、会社法468条2項によって、法務省令で定める算定方法で算出された譲渡企業の事業のすべてを譲り受ける際、譲受企業の純資産の帳簿価額が譲受企業の純資産額の1/5を超えないときは、特別決議を省略できる簡易手続きが可能です。

ただし、譲受企業の一定の株式数を有する株主から反対意見があった場合には、効力発生日の前日までに株主総会の特別決議で承認を得る必要があります。

事業をすべて賃貸、または委任する場合
事業のすべてを貸し出すため、所有権は譲渡企業に残ります。この場合も譲渡企業側で株主総会での特別決議が必要です。また、譲受企業は賃料という形で譲渡企業への支払いが発生します。

譲受企業が事後設立により譲り受ける場合
事後設立を行う場合、譲受企業の総資産1/5を超えるものとし、設立から2年以内に取得します。譲受企業は株主総会の特別決議を行い、株主の承認を得る必要があります。

事業譲渡と競業避止義務

事業を譲渡した会社は、競業避止義務を負うことになります。競業避止義務について、会社法では次のように規定しています。

会社法第21条 (譲渡会社の競業の禁止)

1. 事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示

がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない。

2. 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。

3. 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。

譲渡企業は、同一の市町村(東京都及び政令指定都市では区)の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から原則として20年間、特約をすれば30年間は同一の事業を行うことが禁止されるという規定です。当事者間で特約を定めることにより、期間を短くしたり、競業避止義務を負わないというようにもできます。

会社法第21条の見解に対する注意点

現在、中小・零細企業であってもインターネットにより場所に縛られず事業が行えるようになりました。その点において、場所的な規制を設ける会社法第21条は時代に合っていないため、使いにくい規定です。

最近は事業譲渡契約において、当事者間で一定期間・一定範囲の競業避止義務を取り決めることが多く見受けられます。この場合、会社法第21条1項の場所的規制に限定されることなく、日本全国のみならず全世界を含めた区域を設定することも可能になり、競業避止義務の期間も20年という枠を外すこともできます。

さらに、事業の範囲においても「同一の事業」の範囲を広げて競業避止義務を課すことも可能です。競業避止義務に関しては、十分に注意をしながら譲受企業と契約を進めていきましょう。

▷関連記事:事業譲渡契約書の記載内容やひな形使用時の注意点、印紙代について解説

まとめ

事業譲渡を行う際は特例を除き、会社法の手続きに乗っ取りまずは株主総会での承認を得る必要があります。事業譲渡を行うことを検討している方は、会社法で定められている事業譲渡の定義や手続きを知っておくと、契約をスムーズに進めることが出来るでしょう。また、譲受企業との契約の際には、競業避止義務などの注意すべき法律もありますので、事業譲渡を進める場合は経験豊富な専門家の助けも借りることが賢明です。

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