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2023/10/02

M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは?意味・重要性から算定方法まで

M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは?意味・重要性から算定方法まで

M&Aによる自社譲渡や他社譲受を検討している方の中には、「バリュエーション」という用語を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

バリュエーションは企業価値評価を意味しており、企業が持つ資産や収益力を理論に基づいた手法で算定する過程のことを指します。バリュエーションは譲渡価額を決定する基準となるため、とても重要なプロセスです。

本記事ではバリュエーション(企業価値評価)について知りたい方へ向け、バリュエーションの意味や重要性、さまざまな算定方法や実施のタイミングを解説します。

淵邊 善彦
この記事を執筆した専門家
弁護士 淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所代表弁護士。1987年東京大学法学部卒業。89年弁護士登録。TMI総合法律事務所パートナー、中央大学ビジネススクール客員教授、東京大学大学院法学政治学研究科教授などを経て現職。主にベンチャー支援、M&A・アライアンスを取り扱う。https://venture-lab.net/
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M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは

バリュエーション(企業価値評価)とは、名称の通り、企業全体の価値を評価するプロセスのことです。企業は保有する資産や事業、人材や技術、将来的な収益性など、さまざまな価値を有しています。

これらの価値を客観的な方法で評価し、金額として数値化する過程をバリュエーションと呼んでいます。

注意したい点は、企業の価値は一義的なものではなく、測定する「ものさし」により変化することです。例えば、保有する資産を基準に価値を評価する場合と、株式などの市場価値を基準に評価する場合では、結果として算出される数値には違いが生じます。

M&Aの現場では、対象となる企業の規模や業態などから適切な方法を選択し、バリュエーションを実施します。目的や評価の手法により結果にも違いがある点は、あらかじめ覚えておきましょう。

バリュエーション(企業価値評価)と企業価値の違い

バリュエーション(企業価値評価)と企業価値の違いは、バリュエーション(企業価値評価)が企業価値を評価する行為やプロセスを指すのに対し、企業価値は価値そのものを指す点です。

またバリュエーションでは、企業価値の他、事業価値や株式価値も評価の対象となります。

それぞれの意味する内容の違いは下記の通りです。

企業価値・企業全体の価値を指す
事業価値・運転資本や有形・無形の固定資産など事業そのものに関連する価値を指す
・事業価値に非事業用資産を加えたものが、企業価値となる
株式価値・企業価値のうち、株主(自己資本)に帰属する価値を指す
・企業価値から有利子負債など債権者に帰属するもの(他人資本)を控除したもの

上記を簡単な数式で表すと、「企業価値=事業価値+非事業用資産」ということになります。

また、企業価値の帰属先により表すと、「企業価値=株式価値(自己資本)+有利子負債など(他人資本)」となります。

それぞれ異なる意味を持っていますので区別しておきましょう。

M&Aにおけるバリュエーションの重要性・影響について

M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは?意味・重要性から算定方法まで

M&Aにおいて、バリュエーションは譲渡価額の基準や目安、いわゆるフェアバリューを算定するための重要なプロセスです。バリュエーションの結果は、譲渡企業と譲受企業、そしてそれぞれのステークホルダーに異なる影響を与えます。

そのため、バリュエーションは客観的でフェアな手法により、適正に進めることが必要です。算出方法にはコストアプローチやインカムアプローチ、マーケットアプローチといった3つのアプローチから、さまざまな算出方法があります。バリュエーションの算出方法は後述するため、そちらをご参照ください。

なお、バリュエーションは上記以外でも、下記のような場面で影響を与えます。

▷TOB(株式公開買付)への影響

TOB(株式公開買付)は上場企業をM&Aで買収する際に採用される手法の1つです。対象企業の株式を市場から購入するのではなく、価格や期間、株数などを公告した上で既存株主より直接購入します。

TOBを実施する際には、買付価格の算出にバリュエーションの1種であるDCF法を採用するのが一般的です。バリュエーションはこのようなTOBの場面でも、企業価値の算定にする手法として影響を与えます。

▷金融機関からの融資への影響

金融機関が企業へ融資する際には、金融機関でバリュエーションに類似した企業の信用判断が行われる場合があります。そのため、バリュエーションにより高い企業価値が算定される場合は、金融機関からの融資を受けやすい傾向があります。

もちろん、金融機関での信用審査はM&Aにおけるバリュエーションと同一ではないため、一概に企業価値が高ければ融資を受けられるものではありません。ただし、バリュエーションを理解し、価値が高まる方向へ経営を進めていけば、資金調達の面でプラスの影響を与える可能性があります。

▷中小企業の倒産対策への影響

金融機関からの間接金融に多くの資金調達を依存している中小企業にとって、取引金融機関からの評価は重要なポイントです。バリュエーションによる評価が低い場合、希望する金額の融資を受けられないケースもあります。

企業価値により融資の金額が変動する可能性を考慮すると、企業価値は中小企業における資金繰りや倒産対策へも影響を与える重要な要素となり得ます。

M&Aのバリュエーションの算定方法

バリュエーションには複数の方法がありますが、評価の手法としては一般的に下記の3つのアプローチに分類されます。

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・コストアプローチ

・インカムアプローチ

・マーケットアプローチ

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以下では、各アプローチの特徴を紹介し、各アプローチの代表的な算定方法を2~3個ピックアップして解説します。

▷コストアプローチ

コストアプローチとは、企業が保有する資産や負債を基準に株式価値を算定するアプローチです。

貸借対照表に記載された純資産額を基準として評価するため、客観性と公正性に優れた側面を持っています。

一方で、企業の持つ将来的な収益性やM&Aによるシナジー効果を結果に織り込みづらいデメリットもあります。

コストアプローチは中小企業のM&Aで多く採用されるバリュエーションです。対して、大企業のM&Aではインカムアプローチやマーケットアプローチがよく採用されます。

中小企業ではインカムアプローチやマーケットアプローチの算定基礎となる参考データが得られにくいことも、コストアプローチが主流となっている一因です。

コストアプローチの代表的な算定方法は以下の2つです。

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・簿価純資産法

・時価純資産法

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次項からそれぞれの考え方や特徴を解説します。

簿価純資産法

簿価純資産法は、貸借対照表に計上された資産から負債を差し引き、純資産額を計算して株式価値を算定する方法です。

貸借対照表上の数値を利用するため、算出が極めて簡単で、客観性を保てるメリットを持っています。簡易的なバリュエーションにも援用できる方法です。

一方、簿価純資産法では帳簿価格を利用する性質上、時価との間で含み益や含み損が生じている場合には実際の価格との差額が発生するデメリットを持ち合わせています。

時価純資産法

時価純資産法は、資産や負債を時価に換算した上で株式価値を算定する方法です。

資産や負債を全て評価替えすることは難しいため、M&Aの現場では売掛金や有価証券など重要な含み損益が生じている科目を対象に評価替えを実施するケースが多くなります。

時価純資産法は、簿価純資産法に比べ、現時点での資産や負債の価値を評価に反映できる点は大きなメリットです。

ただし、将来的な収益性を評価に反映できないデメリットがあります。

▷インカムアプローチ

インカムアプローチとは、将来的に期待される収益にリスクを織り込み、現在価値に換算することで算出するアプローチです。

対象企業の将来的な利益、配当、キャッシュフローなどを勘案して算定するため、企業の持つ将来性を評価に反映できるメリットを持ちます。

ただし、将来的な収益性を予測するプロセスでは、少なからず評価者の主観性や恣意性が入ります。そのため、どのようにして客観性を保つかが課題です。また、参考データの収集や事業計画のシミュレーションなどで一定の時間がかかる場合もあります。

インカムアプローチの主な算定方法は以下の2つです。

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・DCF法

・配当還元法

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次項から各方法の考え方や特徴を紹介します。

DCF法

DCF(Discounted Cash Flow)法は、対象企業の将来的なキャッシュフローを計算し、現在価値に割り引いて株式価値を算定する方法です。

市場の動向や競合企業の状況などからフリーキャッシュフローを予測し、リスクを勘案した割引率を適用して現在価値を求めていきます。割引率には、WACC(加重平均資本コスト)が多く採用されます。

DCF法は事業価値の推計方法では代表的な方法です。

企業が持つ将来的な収益性や固有の特性などを総合的に結果に反映できることから、比較的規模の大きい企業や高い成長性を持つIT企業など、幅広い企業のバリュエーションで採用されています。


一方で、事業計画の客観性や信頼性が低いと、算出される事業価値が大きく左右されるデメリットがあります。

配当還元法

配当還元法は、将来的な配当金を基準に株式価値を算定する方法です。

算定には下記の計算式が適用されます。

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株式価値 = 期待配当金 ÷ (資本コスト ー 配当金成長率)
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上記のように、配当還元法は期待配当金や配当金成長率が分かれば比較的簡単な計算式で求められるメリットがあります。
一方で、配当政策が評価に反映されない、利益が見込めず配当金が予測できない企業では採用できないなどのデメリットがあります。

▷マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、株式市場やM&A市場の取引価額を基準に、類似した企業や取引を比較して算出するアプローチです。

多くの人がアクセスできる市場情報を基準にバリュエーションを実施するため、客観性を担保できる側面を持ちます。

ただし、ベンチャー企業など新規の企業・事業では類似する企業が少なく、マーケットアプローチを採用できないケースもあります。また、市場の価格を基準とするため、各企業特有の事象を評価に反映できない点もデメリットです。

マーケットアプローチの主な算定方法は以下の通りです。

・類似企業比較法

・市場株価法

・類似取引比較法

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次項から、それぞれの考え方を見ていきましょう。

類似企業比較法

類似企業比較法(マルチプル法)は上場企業から類似企業を選定し、各企業の財務指標または企業価値や株式価値をもとに倍率を算出し、バリュエーションを実施する算定方法です。使用される指標には、EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)倍率やEBIT(Earnings Before Interest and Taxes)倍率、PER(Price Earnings Ratio)やPBR(Price Book-value Ratio)などがあります。

類似企業比較法は企業の財務指標などを利用するため、参考データを取得しやすいうえ客観性を担保できるメリットを持っています。上場企業だけでなく、中小企業のM&Aでも採用されるポピュラーな算定方法です。

市場株価法

市場株価法は、市場に公開された株価を基準に算定する方法です。そのため、算定の対象は上場企業となります。一般的に、6ヶ月間の平均株価を算出し、バリュエーションを実施します。

市場株価法はマーケットにおける市場原理が反映された株価を基準とするため、客観性が担保される点が特徴です。

ただし、株価は異常値を含む場合もあり、流動性が低いケースもあります。したがって、出来高分析や流動性分析を行い、算定した結果の妥当性を検討する必要があります。

類似取引比較法

類似取引比較法は過去のM&A取引の価額を参考に倍率を算出し、対象企業の株式価値を算定する方法です。

具体的な取引価額を参考とするため客観性を持つ側面があります。

ただし、中小の非上場企業では過去の取引額情報の入手が困難な場合があるため、実務上では採用されるケースが少なくなっています。

M&Aのバリュエーションを行うタイミング

M&Aを進行していくうえで、バリュエーションは比較的早期の段階に実施されます。バリュエーションは譲渡価額の目安、基準となる数値であり、M&Aの意思決定をする上でも重要であるからです。また、譲受企業が譲渡候補先企業を選定する際にも大切な数値となります。

M&Aでの譲渡企業の譲渡価額は、「譲渡企業とM&A仲介会社の事前相談」と「譲渡企業と譲受企業の直接交渉」の2つのプロセスを経て決定されます。バリュエーションが実施されるのは「譲渡企業とM&A仲介会社の事前相談」の段階です。M&A仲介会社とアドバイザリー契約や秘密保持契約を締結したあとに実施されます。

最終的な譲渡価額は、譲渡企業と譲受企業の間でそれぞれがバリュエーションを考慮に入れながら交渉が行われ、デューディリジェンスを実施した結果を反映した上で決定されます。一般的に、譲渡企業は自社に対する思い入れや愛着心から理論的価値を上回った価額を希望します。それに対し、譲受企業は、理論的価値に加えてM&Aで生まれるシナジー(相乗効果)を考慮しながら、譲渡価額を交渉することになります。

企業におけるM&Aのバリュエーションの違い

バリュエーションでどの算定方法を採用するかは、上場企業であるか非上場企業であるか、企業の規模や業種がどのようなものであるかなどによって違いがあります。また、ベンチャー企業では取り扱いが異なることが一般的です。

以下では3つのタイプ分けから、企業におけるバリュエーションの違いを解説します。

▷上場企業でのバリュエーション

上場企業では株式が市場に公開されていることから、「時価総額(株価×発行済総株式数)」が基準価値として扱われます。

さらに、将来的な収益性を測れるDCF法、企業の財務指標などを反映できる類似企業比較法の結果と合わせ、総合的にバリュエーションが行われるケースもあります。

▷非上場企業でのバリュエーション

非上場企業では株式が公開されていないため、株価を基準とする算定ができません。したがって、企業の経営状況や事業特性を考慮し、DCF法や類似企業比較法を用いたバリュエーションが多くなります。

なお、中小企業のM&Aでは、コストアプローチである簿価基準法に営業権あるいは無形資産(のれん代)を加算した方法が多く採用されます。

▷ベンチャー企業でのバリュエーション

ベンチャー企業でもDCF法や類似企業比較法を用いたバリュエーションが行われますが、創業して間もない企業が多く、赤字の企業も多いベンチャー企業では、算定方法をそのまま適用すると適正な価値が評価できない場合もあります。

そのため、手法としてはDCF法を用い、割引率にベンチャーキャピタルの期待利回り(IRR)を適用するなど、ベンチャー企業の特性に合わせたバリュエーションがなされています。

まとめ

M&Aでは、コストアプローチやインカムアプローチ、マーケットアプローチなど複数の算定方法の中から適切な方法を選択し、対象企業のバリュエーションを実施します。

M&Aで譲渡の対象となる企業は、上場企業や非上場企業、中小企業やベンチャー企業などさまざまです。各企業の経営状況や事業特性に合わせたバリュエーションの選択が重要となります。M&Aの成約のためにも欠かせないプロセスであるため、各算定方法がどのような考え方に基づき、どのような特徴を持っているか、しっかりと把握しておきましょう。

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