株式譲渡 所得

M&Aというと、大規模な会社間の買収を想像する人も多いかと思います。古くから続く総合商社が実施する事もあれば、日本の企業が海外企業を譲り受けるクロスボーダーM&Aも、しばしばニュースで見かけることでしょう。しかしながら、近年では中小企業が事業承継を目的としてM&Aをするケースが増えてきているのです。

M&Aの手段の1つである株式譲渡は、事業譲渡と同じく事業承継を行う上で多く選ばれるスキームです。中小企業のM&Aではほとんどのケースで株式譲渡の手法が用いられますが、それにより具体的にどのような税金がどれほどかかるのかについてはあまり知られていません。今回は、株式の譲渡を行う場合にかかる税金とはなにか、どのくらいの税金がかかるのか、そして株式の譲渡に適用できる控除について詳しく説明します。

▷関連記事:株式譲渡とは?中小企業のM&Aで最も活用される手法のメリットや手続き、事前に確認しておくべき注意点を徹底解説
▷関連記事:M&Aの事業譲渡とは?株式譲渡や会社分割との違いからメリット・デメリットまで解説

株式譲渡所得課税と計算方法

まずは株式譲渡にかかる税金の種類と、その計算方法について説明します。事業承継のために株式譲渡を用いたM&Aを行った場合、株主が株式を売却したことによって譲渡益(売却益)を得ることができますが、それにより得た収益がそのまま収入となるわけではありません。最終的に手元に残るのは、得られた収益から税金を差し引いた金額となります。このように株式譲渡の際に課される税金を「譲渡所得課税」といいます。

生計に伴う主たる所得には給与所得などがありますが、譲渡所得は事業所得や給与所得とは別の所得として区分されます。他の所得金額と合算せずに切り離して税額を計算し、確定申告にてその税額を納める仕組みを「申告分離課税制度」といいます。申告分離課税の税率は20.315%(所得税+復興特別所得税15.315%、住民税5%、2018年11月現在)となり、以下の計算式から、譲渡所得の金額は求められます。

譲渡所得金額 = 譲渡収入金額 – (取得費 + 譲渡費用)
※取得費 = 取得金額 + 設備費 + 改良費 + 付随費用

取得費や手数料などがわからなければ、譲渡価額の5%を「概算取得費」として処理することが可能です。

分離課税となるのは公平性を担保するため

そもそも分離課税は何のための制度なのでしょうか?基本的に税制度は、その負担が公平に配分されるような仕組みになっています。株式の譲渡によって得た所得は、他の所得のように毎年継続的に発生するものではありません。このような所得に対して継続的に課税し続けると公平性に欠けてしまいます。そのため、給与所得や不動産所得などの他の所得と分離して課税される申告分離課税に区分しています。ただし、基本的には所得控除を行うことができませんので注意してください。

非上場株式の評価方法

非上場株式とは、上場企業のような市場の取引相場のない株式のことをいい、上場していない中小企業の株式がこれにあたります。本記事では非上場株式を、上場株式、もしくは気配相場等のある株式以外の株式とします。非上場企業の株式は市場に出回っていないため、時価が存在しません。そのような場合の譲渡所得金額は、譲渡価格を上場株式とは異なる計算方法にて算出します。非上場株式の評価方法については、会社規模によっても異なります。また、相続や贈与の場面で税法上の株価を算定するために用いる考え方と、M&Aのための企業価値評価額を算定するために用いる考え方はまた異なります。

M&Aにおける譲渡金額の算定方法(バリュエーション)には下記にて詳しく解説しています。

▷関連記事:企業価値評価(バリュエーション)の意味とは?3つのアプローチ方法と6つの算出方法を解説

所得控除は株式譲渡では適用されない

所得控除とは所得税の課税にあたり、総所得の中から特定の金額を差し引く減税措置のことです。所得控除は全部で14種類あり、よく知られているものでは、下記が挙げられます。

  • 給与所得控除
  • 基礎控除
  • 配偶者控除
  • 扶養控除
  • 医療費控除

これらは個々の収益力を考慮した上で負担することとなる税金の額を調整し、最低生活水準を担保する目的がありますが、株式譲渡により所得を得た場合は適用されません。
というのも、上場株式と非上場株式は最初から申告分離課税に則り税を課しているためです。そのため、株式の譲渡を行うことにより損失額が発生した場合でも控除額としてそれぞれの譲渡所得から差し引くことはできないのです。

雑損控除とは

国税庁によると、特定の場合に限り譲渡所得から所得控除が可能とされています。それが雑損控除です。雑損控除は所得控除の1つで、生活上の資産に損害があった場合、その損害額のうち一定金額を差し引くことができる控除のことです。損害の原因として、いずれかに該当した際に適用になります。

  • 地震や台風といった自然災害
  • 火災または火薬類の爆発等の人為的災害
  • 害虫・害獣による異常災害
  • 空き巣やひったくりなどの盗難
  • 横領

雑損控除の対象になる資産の要件

雑損控除対象となるには、下記の2つの要件を満たしていなければなりません。

  1. 資産の所有者が納税者、または納税者と生計を共にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額等が38万円以下の者であること。
  2. 棚卸資産もしくは事業用固定資産・生活に通常必要ない資産のいずれにも当てはまらない資産であること。

ただし、雑損控除は生活に通常必要ない資産には適用できない制度となっているため、M&Aの手段として株式譲渡を行い、それによる税金が発生した場合は雑損控除を受ける事ができません。

まとめ

株式譲渡にかかる税金や、控除についてまとめました。株式譲渡の際に課税される税金について正しい知識を持つことは、株式譲渡を行う上で必要不可欠です。しかも、株式譲渡に伴う税金は上場企業、非上場企業という枠だけでなく、同じ非上場企業のくくりにあっても株式の評価方法が異なるなど、とても複雑です。株式譲渡を考えているが税金についてまだよくわからない、間違いなく納税できるか自信がないという場合は、一度専門家に相談してみるといいでしょう。