選択と集中

経営戦略として、選択と集中という事業整理の手法が挙げられます。自社内の強みと弱みを明確にし、中核事業に技術や資産を集中させることで、収益性やコストの削減が見込める方法です。

選択と集中は、いつ考えられ、現在どのように経営戦略として活用されているのでしょうか。より深く戦略のポイントを知ることで、戦略的な経営が可能になります。本記事では選択と集中のメリットやデメリット、成功のポイントについて説明します。

「選択と集中」とは

選択と集中(Selection and Concentration)とは、複数の事業に進出して多角経営を行う企業や、多種多様な製品を取り扱っている企業が、中核となる事業の見極めと選択を行い、組織内の経営資源を集中的に投下することで経営の効率化や業績向上を目指す経営戦略を指します。

企業の中核となる事業をコア事業とよび、中核ではない事業はノンコア事業といわれます。ノンコア事業は、規模の縮小や撤退、事業売却など今後の対応を検討されることがあります。

赤字事業を縮小または撤退し、黒字の事業やコア事業に注力することで、組織内の経営資源を効率的に活用することで、事業価値の増大が望めます。

ドラッカーが提唱し、ジャック・ウェルチが広めた

選択と集中は、オーストリアの経営学者、ピーター・ファーディナンド・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker)氏が提唱した考え方です。

各企業の持つ経営資源である、ヒト、モノ、カネを有効に活用するために自社の注力したい事業などを選択し、それ以外を縮小、売却、外部委託することです。また、選び出したコア事業に経営資源を集中投下することです。

また、ジョン・フランシス・”ジャック”・ウェルチ・ジュニア(John Francis “Jack” Welch Jr.)氏は、「ナンバー1、ナンバー2戦略」を打ち出しました。

これは、市場1位もしくは2位でない事業は、早々に1位もしくは2位になれるように立て直し、難しい場合は、きっぱりと撤退、閉鎖、売却を行うことを徹底しました。このような大規模な選択と集中を実施した結果、CEOを努めるゼネラル・エレクトリック(GE)社は飛躍的に成長し、この経営改革の方法も広まっていきました。

選択と集中

「選択と集中」のメリット・デメリット

選択と集中のメリットやデメリットを説明します。

「選択と集中」のメリットはコスト削減と強みの強化

コア事業に事業範囲を絞ることで、組織内に蓄積された技術やノウハウを集中し、効率的な事業活動を展開できるようになります。

その結果、組織構成がシンプルになり、組織内の情報共有や事務処理がスムーズになるため、必要以上のコストがかかりません。また、事業の整理を行うことで、長く収益化できていなかった事業から撤退し、大幅なコスト削減に繋がります。

あわせて、経営の効率化による事業価値の増大が挙げられます。経営資源の「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4要素は、いずれも有限であるため、事業領域の拡大を実現させるには、増資や新規採用といった経営資源の増加策を図るか、特定の事業への集中を検討する必要があります。

コア事業に資源を集中させることで、主力事業の強化による収益性の向上が見込めるでしょう。

「選択と集中」のデメリットは人財減少と主力事業への依存

選択と集中によって選択されなかったノンコア事業を縮小する際に注意すべき点として、人材の流出が挙げられます。

得意分野に注力することで、人材過剰な状況が発生することがあります。その結果、人材が適所に割り振られず、自主退職などによって人材が外部に流出する可能性があります。

また、目的や実施後のイメージが共有されていない場合の選択と集中は、モチベーションと信頼の低下を招くこともあります。従業員の持つ特性やスキルとの合致具合が低い職に配置された従業員の中には、パフォーマンスを十分に発揮できないため、生産性の低下や退職の原因になります。

また、事業を減らすことに伴い、コア事業への依存度が高まり、経営の選択肢が狭まってしまった結果、柔軟性が無くなってしまうというデメリットも存在します。

選択と集中

「選択と集中」の実例から見る成功のポイント

選択と集中を行って成功している企業は多く存在します。ここではM&Aを活用して選択と集中を実行した企業の実例を挙げ、成功のポイントについて紹介します。

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株式会社日立製作所の「選択と集中」は大きく飛躍したきっかけに

株式会社日立製作所(以下、日立)は、バブル崩壊以降、業績の低迷が続き、リーマンショック後の2009年3月期には、国内製造業で過去最大の8,000億円近い最終赤字を計上しました。長期にわたる業績低迷を受け、同社が取った戦略はM&Aによる選択と集中でした。

2009年には、立て続けにグループ上場子会社を完全子会社化しました。

日立は伝統的に独立採算性を選択していたため、グループ内での事業が重複して非効率である点や事業の適正配置が長年の経営課題でした。上場企業の完全子会社化は日立以外の株主に対し、配当として利益が流出するのを防ぐ狙いがありました。

グループ子会社化の再編を終えたのちに、海外事業の再編にも着手しました。2012年には連結子会社でHDD駆動装置メーカーの株式会社日立GST(グローバルストレージテクノロジーズ)を、同業者でアメリカの世界最大手ウエスタンデジタル社に約3,440億円で譲渡しました。

これは日立にとって過去最大の事業譲渡価額でした。ウエスタンデジタル社は、HDD市場のシェアでは世界第3位の18%を占める企業です。

事業譲渡を行った目的としては、当時ストレージの需要は高かったものの、日立の主力産業であったPCや薄型テレビと同様に、将来激しい市場競争に陥るという懸念点があったことです。

日立GSTは、2002年に約2,400億円でアメリカのIBMから日立が買収後、長らく赤字に苦しんでいましたが、上場を目指せる段階まで回復させてからのM&Aでした。

回復していた子会社を売却したのは、事業譲渡によって獲得した資金を、今後の成長の柱として考えていたインフラ関連事業や、社会イノベーション事業に注ぎ込みたいという理由がありました。

その後も、M&Aを活用しながら海外進出を図っていきます。グループ会社の日立パワーヨーロッパが、2012年6月にドイツの有力な発電プラントサービスのクセルフォン・エナジー社を買収しています。

同年には、イギリスの原子力発電事業開発会社や、イタリアの鉄道関連事業を獲得し、欧州の原子力事業や鉄道事業に次々と参入します。原子力に注力した背景は、当時、脱原発に向かう日本に依存せず、海外展開に活路を求めたと考えられます。

また、欧州の鉄道産業は世界の46.4%を占める世界最大の市場であったため、日立にとって欧州への進出は重要な課題でした。2016年までに日立が行ったM&Aは合計39件に昇ります。

事業改善を続けてきた日立の戦略は、業態を転換し、M&Aによって事業再編や海外進出を図った事例のひとつといえます。

選択と集中

成功のポイントは事業の撤退、事業再編の見極め

近年、後継者不足の問題を解決する手段としてのM&Aが注目されることが多いですが、M&Aは事業の選択と集中の観点でも有効な手段です。

複数の事業を行っている際には、特定の事業からの撤退を余儀なくされることがあります。

シダックス株式会社は、美味しい食事と共にカラオケを楽しむ「レストランカラオケ」というコンセプトでカラオケ店を全国展開していましたが、昨今、業績が低迷していました。その結果、2016年に主要な同業他社を集め、全国に点在する主なカラオケボックスの売却を申し入れました。

また、本社機能と旗艦店を担っていた「渋谷シダックスビレッジ」という物件からも撤退し、賃貸物件として貸し出すこととなりました。

同社は産業給食で成長した企業であり、カラオケ事業からの撤退によって捻出した事業譲渡の資産は本業において活用し、病院や介護施設の給食事業を強化して、コア事業を拡大する資金に充当する方針を取っています。これは、M&Aを活用した選択と集中の事例のひとつといえるでしょう。

市場の変化と共にM&Aを活用するのも経営戦略のひとつ

選択と集中のメリットには、企業のコア事業の拡大に伴うコスト削減や収益化の増加が挙げられます。企業の成長は、従業員の雇用の安定に繋がるため、事業を成長させるには、どの事業に注力するか、そのためにどのようなM&Aの手法が活用できるか把握することが重要です。

戦略的にM&Aを行うためにも、M&Aを行う際には、M&Aアドバイザーなどの専門家のサポートを受けることをお勧めします。