TOB 手続き

上場企業によるTOBは日々活発に行われています。例えば2018年の事例ではソフトバンクグループ株式会社によるヤフー株式会社へのTOBや、TSUTAYAなどを運営しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社による株式会社キタムラへのTOBなどは、多くのメディアで取り上げられました。上場企業同士でM&Aを行う場合、TOBは手段の1つになり得ます。

TOBを実際に行ううえでは、法律により定められたプロセスに沿って正しく行う必要があります。
本コラムではTOBの概要や、買付けを行う会社(以下、買主)が実施する必要がある具体的な手続きの流れ、既存株主がどのようなプロセスで応募する必要があるかを解説します。

TOBとは

TOB(Take-Over Bid)は「(株式)公開買付け」という制度です。これは期間や価格、買取り株数を公告*1 したうえで、不特定かつ多数の既存株主から証券取引所を通さずに株式を買い付ける行為のことを指します。

TOBの目的としては、対象会社(以下、売主)子会社化など経営権の取得です。
メリットとして、証券取引所を通して株式を取得する場合とは異なり、大量の株式を一定の株価で取得できるため、買主が株式を取得する価格の予測が立てやすくなることが挙げられます。そのため、不特定多数の者によって保有されている株式を買い集める必要がある場合には有効な手段となります。

▷参考URL:『TOB(株式公開買付)とは?友好的・敵対的TOBの意味や防衛策を具体的な事例を交えてわかりやすく解説』

*1.公告:国や公共団体が一般の人にとある事項を広く知らせること。

TOB(株式公開買付け)の手続き

この項目ではTOBの手続きの流れを解説していきます。

手続きの流れは以下のようになります。

1.公開買付開始公告と内閣総理大臣への公開買付届出書の提出

公開買付けを開始するにあたって、買主は社名、代表者名、会社の所在地、株の買付けを行う旨や目的、価格、買付予定株式の数、買付期間、買付後における買主の株券等の所有割合や対象の会社などを公告することが必要です。(金融商品取引法第27条の3第2項他)
政令*2によって、公告の方法はWeb上(EDINET)での公告もしくは日刊新聞紙掲載のいずれかの方法によるものとされています。

公開買付けでは不特定多数の株主から確実に買い付けるため、目標の持ち株率まで取得するために売主や既存株主にとって魅力的な価格を設定する必要があります。証券取引所を通した買付けと比べて開始時点の市場株価の20~50%割増し、平均して約30%割増しの株価で取り引きされることが一般的です。これを「プレミアム価格」といいます。

また、買主は公開買付けを行った日に内閣総理大臣へ公開買付届出書と添付書類を提出しなければなりません。公開買付届出書には買付け価格、買付け予定の株券などの数、公開買付の目的などに加えて、その他内閣府令*3で定める事項を記載します。

公開買付届出書の提出をもって、売主や既存株主による売付け申込みの勧誘などが可能になり、公開買付期間が開始します。公開買付期間は、20~60営業日と定められています。これは既存株主が株式を売却するか、保有し続けるか検討するために必要な期間として設けられています。

*2.政令:法律の規定を実行するために法律等の委任に基づき内閣が出した命令のこと。
*3.内閣府令:法律を実施するために法律等の委任に基づき内閣総理大臣が発した命令のこと。

2.売主の意見表明報告書の提出と回答

売主は、公開買付公告が行われてから10営業日以内に、公開買付に関する意見表明報告書を、内閣総理大臣に提出しなければなりません。また提出後、意見表明報告書の写しを、直ちに買主および金融商品取引所等に送付しなければなりません。

この意見表明報告書には、売主からの公開買付けに関する意見の他、質問などを記載することができます。そして、報告書に質問が記載されている場合、買主は5営業日以内に回答を質問回答報告書に記し、内閣総理大臣へ提出しなければなりません。また、質問回答報告書の写しを提出後直ちに、売主および金融商品取引所等に送付しなければなりません。

なお、意見表明は義務となっています。これは買主・売主双方の主張・反論を明確に示すものであり、株主や他の投資家が投資判断を行ううえで非常に重要な資料となるためです。(金融商品取引法第27条の10第1項他)

3.公開買付説明書の交付

買主は、公開買付届出書と同じ内容に加え、公益または投資家保護のために必要かつ適当とされる事項を記載した内容が書かれた公開買付説明書を作成し、売付けを行おうとする株主に対し、あらかじめまたは同時に交付します。

4.公開買付報告書の提出

買主は公開買付期日最終日の翌日に、公開買付けに係る応募株式等の数、その他内閣府令で定める事項を公告または公表した上、同日にこれらの事項を公開買付報告書に記載して内閣総理大臣へ提出しなければなりません。この公開買付報告書の提出によって、TOBの結果を報告する形になります。公告を行った日に公開買付報告書を内閣総理大臣に提出することで公開買付の手続きは終了になります。

この時点で、買主が総議決権の過半数の株式を有していれば会社支配権を獲得したことになります。また総議決権の3分の2以上の株式を有していれば、株主総会の特別決議事項において単独で可決することができます。

5.公開買付撤回届出書の提出(中止したい場合)

通常、公開買付開始公告後においては自由に公開買付けを撤回することはできません。
しかし、売主にとって業務または財産に関する重要な変更その他の公開買付けの目的の達成に重大な支障が生じ、かつ公開買付開始公告・公開買付届出書にこれらの事情が生じた場合にあらかじめ条件として伏していた場合や買主に政令で定める重要な事情の変更が生じた場合には、公開買付撤回届出書に理由を記載して提出することで、公開買付けの撤回ができます。中止の理由を明確にするのは既存株主等の保護のためです。

既存株主によるTOBへの応募】

TOBが公表されると共に、日刊新聞紙に公告が掲載されます。この公告には以下の5つの項目が記載されます。

  • TOBによって株式の公開買い付けを実施する目的
  • 買付け価格
  • 買付け予定の株数
  • 買付け期間
  • 買付の決済を行う金融商品取引業者等(多くの場合、買付け会社の主幹事証券会社です。)
    (発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令10条)

これらの情報を元に、既存株主は次の3つの選択肢の中から選ぶことになります。

  • (a)TOBに応じて株式を売却する。
  • (b)TOBに応じず、株式市場で株式を売却する。
  • (c)TOBに応じず、そのまま保有する。

もし、公告で明らかにされた条件が既存株主にとって満足いくものならば(a)を選択します。その場合、公告に記載されている証券会社等を通じて株式を売却します。この時、売却を検討する株主が公開買付けを行う証券会社の口座をすでに持っており、株式をそこに預けていれば手続きは簡単に済みます。具体的には、所定の公開買付応募申込書に必要事項を記入し、期日までに証券会社に提出することで完了します。

一方、公開買付けを行う証券会社に口座を持っていない場合、口座を新規開設後、対象株券を移管してから上記の売却手続きを行うことになります。証券口座の開設にはおおよそ1〜2週間程度かかるため、口座がある場合と比べて期間が長くなります。
(手続きは証券会社によって異なるので、詳しくは証券会社へ直接お問合せください)

仮に公表された買付け予定株数が発行株数の100%近いものだとします。
TOBが完了した後に売主が上場廃止になるという場合、既存株主はTOBに応じた方が無難であると考えられます。もし応じなかった場合、株式を売却・換金する機会が大幅に少なくなる恐れがあるためです。

他方、買付け予定株数が発行株数の100%以下に定められている場合(割合は買主の目的によって変動します)では、既存株主がTOBに応じたとしても抽選から外れる可能性があります。そのため、(b)を選択する人も少なくありません。TOB発表から買付け期間中の市場株価は買主によって定められた買付け価格に近付くように急騰することが多く、証券取引所を通して売却してもTOBに申し込んだ場合と同様の価格になる可能性が高くなります。そのため、既存株主にとっては(b)も十分検討の余地があります。その後、TOBの買い付け期間が終了すると、TOBが発表される以前の価格水準まで市場株価が戻ることが一般的です。そこで、あえてTOBに応じずに株式市場で売却するという選択肢が挙げられます。

既存株主は会社が上場廃止にならずそのまま存続するのであれば、(c)の選択肢をとり、次の売却の機会を待つこともできます。この場合、手続きは何も必要ありません。

まとめ

以上のように、TOBを行う上では法律によって定められたプロセスを正しく踏む必要があります。提出する書類を正しく理解するのはもちろんのこと、TOBを成功させる上では、既存株主がどのような状況でどのように判断をするのかを買主も正しく理解しておく必要があります。手続きと株主の考えを理解した上でTOB実施を検討しましょう。