中小企業において金融機関から融資などを受けようとすると、ほとんどの場合で代表者の保証を求められます。その理由として多くの中小企業の場合、後述するようにその特徴として財務基盤・経営基盤の脆弱性があるため、金融機関はその高くはない信用を経営者などの個人保証で補完しているということがいえます。
しかし、上記のような理由があるとはいえ、全ての中小企業に当てはまるわけではなく、会社の信用を経営者の保証で補完しなくてはいけない合理的な理由がないときにまで、中小企業であるからという理由だけで、会社の借入をそのまま全額保証するような保証契約は不合理です。
そのため現在では、一定の場合には不合理な範囲の保証を見直したり、経営者の保証なしでの借入を可能とするためのしくみがあります。本記事では、経営者の保証の特徴を概観した上で、それら不合理な保証を見直したりする方法などについて解説していきます。
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会社の融資に使われる「個人保証」とは
まず、ここで解説する個人保証とはどのようなものなのかをみていきましょう。
企業が金融機関から融資を受ける際に、社長などの経営者や、その親族などの個人が当該会社の融資について保証をする場合、その経営者などが負う保証のことを一般に「個人保証」といいます。このような個人保証が必要とされる理由としては、大きく3つあると考えられます。
まず1つ目として、多くの中小企業においては法人と個人が明確に分けられないことが多い点が挙げられます。
中小企業においては、経営者=大株主ということがほとんどであり、所有(株主)と経営(取締役など)が十分に分離しておらず、個人資産と会社資産がほぼ一体となって経営が行われています。そのため、会社の経営者が一体となってその弁済を担保する必要があると考えられるのです。
また、2つ目としては、経営基盤の脆弱性があります。
中小企業においては、売上げ管理などはしているものの、財務改善などのために必要なより詳細な部門別・顧客別などの収益管理が十分にできない会社が多いです。そのため、安定的な財務基盤・経営基盤が脆弱であると金融機関からみられるのです。
3つ目として、中小企業においては経理に不備が多く大幅な粉飾を慢性的に継続するような会社も存在します。
このような大幅な粉飾でなかったとしても、全く粉飾をしていないのか、会計などに関する管理が十分かどうかという評価を客観的に外部から行った場合には、疑問がある場合があります。このような中小企業の財務上の信用の低さも、金融機関が信用を補完しようと考える理由になります。
以上のような点を理由として、金融機関においては経営者の個人保証でそれらを補完しようとしているのです。
しかし、一般論としては合理的と思える理由があるとはいえ、全ての中小企業において上記の理由が当てはまるわけではありません。会社の信用を個人保証で補完しなくても良いときにまで、中小企業であるからという理由だけで、一般的な取扱いとして、会社の借入をそのまま全額を経営者などに個人保証するような保証契約は不合理です。
これらは、事業承継や相続の場合にも問題になります。例えば、(1)会社の事業がうまくいかない場合、経営者が個人保証をしているため、最終的には経営者が会社の債務を支払うことになります。そのため、自身の資産を会社に貸付け、それを原資に返済するようなことになり、経営者自身の生活が困窮することがあります。
また、(2)会社の事業がうまくいかなくなった場合、今の会社を整理して新規事業を行ったりしようと考えても、会社の債務を個人保証しているため、結局整理することができないことがあります。
さらに、(3)事業承継などの際に、後継者候補が個人保証を負うことを嫌い、スムーズな事業承継の障害になったり、(4)起業する際にも中小企業の融資と同様に個人保証が求められることから、この負担が新規事業の立上げの妨げになっていることが挙げられます。
近年、上記のような問題にようやく焦点が合わせられ、現在では一定の場合には不合理な範囲の保証を見直したり、経営者の保証なしでの借入を可能とするためのしくみが整備されつつあるのです。
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個人保証:保証と連帯保証
保証には法律上はさまざまな種類の保証があります。その中でも代表的なのは連帯保証です。連帯保証を中心に保証を概観します。
保証(担保)には、債務の弁済を保証(担保)するのが人であるのか、物であるのかによって、大きく人的担保と物的担保に分けられます。個人保証は、経営者などという「人」が会社の債務の弁済を保証(担保)するため、「人的担保」となります。
他方、例えば債務者でない者がその所有する不動産などに抵当権を設定する場合(その人自身は債務の弁済を保証しない場合)には、不動産という物の価値で保証(担保)するので「物的担保」となります。また、この場合の不動産の所有者を物上保証人といいます。
物的担保の場合には、その担保とされた物の価値で債務の支払いをすれば、それ以上の責任を追及されることはありません。例えば、1億円の債務を5,000万円の土地で担保した場合には、その土地を売った5,000万円を支払うことで担保としての責任は全うしたことになります。
しかし、人的担保の場合には「人」が当該債務の弁済を保証(担保)するのですから、保証する際に責任の限度を定めない限りは、残存する全ての債務を保証(担保)の対象とすることもできるのです。
個人保証は一般的に連帯保証がほとんどです。連帯保証とは一般的な保証と異なり、金融機関からの支払請求を受けた場合、「借りたのは債務者だから、まずは債務者に請求してほしい」という反論(催告の抗弁)や「債務者にはこのような資産があるからその資産に対する執行を先にしてほしい」という反論(検索の抗弁)、「他にも保証人がいるから全額は支払いません」という反論(分別の利益)をすることができません。
一般の保証よりも責任が加重されているのです。なお、保証契約は書面または電磁的記録にて行われなけばその効力を生じません(民法446条2項)。口頭のみで契約しても効力を生じないため、注意が必要です。
個人保証に関するガイドラインや関連法令
上記では個人保証の問題点などを指摘してきました。ここでは上記のような問題点がある個人保証について、不合理な個人保証を整理したり、個人保証を必要としない融資に関する新たなしくみをみていきます。
中小企業の経営者が知っておきたいガイドライン
これまでみてきたとおり、個人保証には経営への規律付けや信用補完として、資金調達の円滑化に寄与する面がある一方で、経営者による大胆な事業展開や、保証後において経営が窮境に落ちいった場合における早期の事業再生を阻害する要因となっていました。
そのため、行政当局の関与のもと、日本商工会議所と全国銀行協会が共同で設置した「経営者保証に関するガイドライン研究会」によって、中小企業の経営者保証に関する契約時及び履行時などにおける中小企業、経営者及び金融機関による対応についての、中小企業団体及び金融機関団体共通の自主的、自律的な準則として策定・公表されたのが「経営者保証に関するガイドライン」(以下「経保GL」)です。
この経保GLは法的な拘束力はないものの、金融庁も積極的な活用を金融機関関連団体に通知しているため、実際のところ金融機関に対し相当の効果があります。
経営者保証の材能を代替する融資方法の活用
経保GLでは、法人と個人の一体性の解消などを図ろうとしている主たる債務者(会社)が資金調達を要請した場合に、債権者である金融機関の対応として、主たる債務者において以下のような要件が将来にわたって充足すると見込まれるときは、主たる債務者の経営状況、資金使途、回収可能性などを総合的に判断し、その中で、経営者保証を求めない可能性、停止条件または解除条件付保証契約、金利の一定の上乗せなどの経営者保証の機能を代替する融資手法を活用する可能性について、主たる債務者の意向も踏まえた上で検討するとされています。
1.法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている
2.法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない
3.法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断しうる
4.法人から適時適切に財務情報などが提供されている
5.経営者などから十分な物的担保の提供がある
つまり、上記の検討の結果により、個人保証を必要としない融資を受けられたり、経営者保証の機能を代替する融資手法を利用したり、または適切な保証金額を設定するなどの対応を取るように経保GLは金融機関に対し求めているのです(経保GL 4.(2))。
保証の履行の場合における経営者の残余財産
また経保GLは、保証債務の履行については、経営者たる保証人による早期の事業再生などの着手の決断について、主たる債務者の事業再生の実効性の向上などに資するものとして、金融機関としても一定の経済合理性が認められる場合には、金融機関などは破産手続きにおける自由財産の考え方(つまり生活に最低限度必要な財産)を踏まえつつ、経営者の安定した事業継続、事業清算後の新たな事業の開始などのため、一定期間の生活費などに相当する額や華美でない自宅などを、経営者たる保証人の残存資産に含めることを検討することとされています(経保GL 7.(3)③)。
つまり、保証債務の履行に関して、経営者が破産するよりも多くの財産や、生活の本拠たる自宅(華美でないもの)を手元に残すことを検討するように、金融機関に求めているのです。
保証の一部履行後の残部の免除
経保GLは保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取扱いについて、下記の全ての要件を充足する場合には、免除要請について誠実に対応するように金融機関に要請しています(経保GL 7.(3)⑤)。
1.保証人が全ての金融機関などに対して、保証人の資力に関する情報を誠実に開示し、開示した情報の内容の正確性について表明保証を行い、弁護士などの専門家は金融機関などの求めに応じて当該表明保証の適正性についての確認を行い対象債権者に報告すること
2.保証人が自らの資力を証明するために必要な資料を提出すること
3.経保GLにもとづいて決定された保証債務の弁済計画が、金融機関などにとっても経済合理性が認められるものであること
4.保証人が開示し、その内容の正確性について表明保証を行った資力の状況が事実と異なることが判明した場合(資産の隠匿を目的とした贈与を含む)には、免除した保証債務及び免除期間分の延滞利息も付した上で、追加弁済を行うことについて保証人と金融機関などが合意し、書面での契約を締結すること
以上の要件を満たすときには、金融機関は合理的な返済をした後の残存する保証債務について、保証人から免除を求められた際には誠実に対応しなければならないのです。
2020年施行の民法改正における保証に関する重要改正
2020年に施行される改正民法においても、個人保証に関して重要な改正がなされました。経営者が行う個人保証の場合、適用されないものもありますが、一般的に保証人の責任を限定していこうという方向性といえます。
改正民法で新たに導入される保証人保護としては下記があります。
(1)保証意思宣明公正証書
経営者など(主たる債務者(会社)の役員やこれらの準ずる者、支配株主など、主たる債務者と共同して事業を行う者など、及びその配偶者でその業に従事している者)以外の第三者である個人が、事業のために会社が負担した貸金など債務を主たる債務とする保証契約などを締結する場合には、契約締結に先だって、その締結の前1ヶ月以内に作成された公正証書で、保証人になろうとする当該個人が保証債務を履行する意思を表示しなければ、保証契約は無効になります。
この公正証書を「保証意思宣明公正証書」といいます。
(2)個人根保証の極度額
平成16年の民法改正で「一定の範囲で生じる不特定の貸金債務」を個人が保証する場合は、保証契約が書面などでされなければならず、かつ、保証人が負担する最大限度額を契約で定めなければ保証は効力を生じない、という規定が設けられました。
例えば、A銀行のB社に対する融資契約によって将来生じる不特定の借入れ債務(A銀行のB社に対する一切の借入)の保証人にB社の社長Cがなる場合、社長Cが保証人として負担する最大限度額(=極度額)が保証契約書などで定められていなければ、その保証は効力を生じないとするものです。この規定は、これまでは「貸金債務」に限定されていました。
今回の改正では「一定の範囲で生じる不特定の債務の個人保証」(個人根保証)に対する保護を貸金債務から個人根保証一般に拡大したのです。
これにより、賃貸借契約においても、賃貸人Dと賃借人Eの賃貸借契約に関し、賃貸借契約の範囲から生じる債務で不特定の債務を、賃借人Eの保証人Fは個人で保証することになりますから、この個人根保証に当たり極度額の設定を要することになります。
(3)保証人に対する情報提供義務
改正民法は(ア)契約締結段階、(イ)保証債務履行前の段階、(ウ)期限の利益喪失段階のそれぞれにおいて、保証人に対する情報提供義務を定めました。
(ア)契約締結段階
(ア)契約締結段階契約締結段階としては、主たる債務者は個人の保証人に対して、事業性の債務保証を委託するにあたり、(ⅰ)財産及び収支状況、(ⅱ)主たる債務以外に負担している債務の有無、金額及び履行状況、並びに(ⅲ)主たる債務の担保の有無やその内容について情報提供をしなければならないとされています。
これは保証人が主たる債務者の経営者などの場合であっても例外ではありません。この規定に関しては主たる債務者が情報提供義務を怠ったことを債権者が知り、または知ることができた場合には、保証契約の取消が可能とされているため、債権者としては主たる債務者が情報提供義務を履行しているかをどのように確認すべきか、という点が実務上問題となります。
(イ)保証債務履行前の段階
保証契約においては、主債務者の信用状況が悪化しているにも関わらず、保証人がそのような状況を知る機会もなく、突然多額の保証債務の履行請求を受けるとの問題が指摘されていました。
そのため改正民法では、主たる債務者から委託を受けて保証をした保証人から請求があったときは、債権者は保証人に対し主たる債務の履行状況について情報提供をしなければならないとされました。この規定は全ての保証契約について適用があります。
(ウ)期限の利益喪失段階
(ウ)期限の利益喪失段階主たる債務者などが不履行となり、期限の利益を喪失した段階において、債権者は個人の保証人に対し、期限の利益喪失を知ったときから2ヶ月以内に通知をしなければならなくなりました。この通知をしなかったときは、実際に通知をするまでに生じた遅延損害金を請求できなくなります。
この規定は事業性の保証に限定されないものの、保証人が法人である場合には適用されません。
個人保証の原則禁止に向けた動き
社会において、個人保証は保証人の破産・個人再生申立ての主要な原因になっており、保証人だけではなく、その親族などの人生にも破壊的な影響を及ぼしているといえます。そのため、このような深刻な被害と社会的損失を発生させている個人保証は、原則として廃止すべきとする動きもあります。
例えば、弁護士会の単位会(地方毎の弁護士会)においてそのような決議などがなされています。また、金融実務では信用保証協会が行う保証制度では、原則として経営者本人以外の第三者を保証人として求めていなかったり、金融庁も金融機関に対する監督指針において、経営者以外の第三者の連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立を求めています。
経営者保証の整理
それではここまでみてきた個人保証に関し、これらを実際に整理するとなるとどのような方法があるのでしょうか。
個人保証を整理する方法
個人保証は中小企業などの脆弱な財務基盤などによる信用を補完する機能があるため、これらを整理するためにはその分の信用力を他の方法で補完できている必要があります。
(1)経営者保証ガイドライン(保証債務の見直しの申入れ)
経保GLにおいては、保証契約の見直しを申入れるためには、主たる債務者(会社)及び保証人(経営者)は(ⅰ)法人と経営者との関係の明確な区分・分離、(ⅱ)財務基盤の強化、(ⅲ)財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示などによる経営の透明性確保を将来にわたって維持するように努めることを求めています(経保GL 6.(1)①)。
この要件は上述の金融機関が中小企業の経営者に対し個人保証を求める理由そのものです。その上で、経保GLは経保GLにもとづく保証債務の整理の対象となり得る保証人の要件として、次に掲げる全てを充足する者としています(経保GL 7.(1))。
1.当該保証契約が経保GLの対象となる保証債務であること
2.主たる債務者が法的債務整理手続きの開始申立て、または準則型私的整理手続き(中小企業再生支援協議会による再生支援スキーム、事業再生ADR、私的整理ガイドライン、特定調停)の申立てをこのガイドラインの利用と同時に現に行い、またはこれらの手続きが継続し、もしくはすでに終結していること
3.主たる債務者(会社)と保証人の資産及び債務の状況を総合的に考慮して、主たる債務者と保証人の破産手続きによる配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、債権者(金融機関)にとっても経済的な合理性が期待できること
4.保証人に破産法に定める免責不許可事由(例えば債権者を害する目的であえて財産を毀損した場合など)が生じておらず、そのおそれもないこと
そして、保証債務の整理の手続きとして、保証債務のみを整理する場合には当該整理にとって適切な準則型私的整理手続きを利用することとされています(経保GL 7.(2)ロ))
経保GLはこのような場合には、金融機関は経営者保証の準則に従って、誠実に対応することとしています(経保GL 7.(1))。
(2)経営者保証ガイドライン(事業承継時)
経保GLには事業承継時の対応についても規定があります(経保GL 6.(2))。まず経保GLは主たる債務者及び後継者における対応として、以下を求めています。
(ア)主たる債務者及び後継者は対象債権者からの情報開示の要請に対し、適時適切に対応するものとされ、特に経営者の交替により経営方針や事業計画などに変更が生じる場合には、その点についてより誠実かつ丁寧に、対象債権者に対して説明を行うこと。
(イ)主たる債務者が後継者による個人保証を提供することなしに、金融機関から新たに資金調達することを希望する場合には、主たる債務者及び後継者は(ⅰ)法人と経営者との関係の明確な区分・分離、(ⅱ)財務基盤の強化、(ⅲ)財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示などによる経営の透明性確保を充足する経営状態(以下「経保GLの求める適切な経営状態」)であること。
上記のような場合においては、経保GLは金融機関に対し、以下を求めています。
(ウ)金融機関は前経営者が負担する保証債務について、後継者に当然に引継がせるのではなく、必要な情報開示を得た上で、主たる債務者の経営状況、資金使途、回収可能性などを総合的に判断し、その中で、経営者保証を求めない可能性、停止条件または解除条件付保証契約、金利の一定の上乗せなどの経営者保証の機能を代替する融資手法を活用する可能性について検討し、適切な保証金額の設定に努めるとともに、保証契約の必要性などについて主たる債務者及び後継者に対して丁寧かつ具体的に説明すること。
(エ)前経営者から保証契約の解除を求められた場合には、前経営者が引続き実質的な経営権・支配権を有し得るか否か、当該保証契約以外の手段による既存債権の保全の状況、法人の資産・収益力による借入返済能力などを考えあわせつつ、保証契約の解除について適切に判断すること(経保GL 6.(2)②)。
事業承継や相続に向けた個人保証の対策と再考
個人保証は相続により相続人に保証人の地位が承継されます。そのため、経営者が不合理な保証人としての責任を負っている場合、相続が開始される前に整理しておかないと、相続放棄をするしかなくなってしまいます。
また、事業承継においても、経保GLなどを利用するにしても、その手続きを利用できる準備をしておく必要があります。
つまり、経営者においては金融機関からの理解を得られるための状況を維持しておくことが必要です。経保GLを参考とすると、次の要素が重要となると考えられます(経保GL 4.(2))。
1.法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていること
2.法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えないこと
3.法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断しうること
4.法人から適時適切に財務情報などが提供されていること
5.経営者などから十分な物的担保の提供があること
このように金融機関からの理解を得られる状況とはなにかを意識した上で、不合理な保証債務を合理的な範囲に限定したり、合理的な弁済をした後の部分を免除してもらうなど、会社の状況や経営者個人の状況に合わせた整理の仕方を専門家と相談していくべきでしょう。
まとめ
金融機関から会社が借り入れる際の個人保証について、詳細にみてきました。金融機関が個人保証を必要とする理由は、中小企業特有の財政基盤の脆弱性による低い信用力を、経営者による保証により補完することにあります。
そのため、中小企業に特有とされる脆弱性をなくしたりすることで銀行の理解を得やすくなります。また、個人保証は社会的にも大きな問題ですから、不合理で過大な保証債務は整理される方向で動いています。ですから、個人保証があるから新規事業ができなかったり、事業承継ができないと諦めてしまうのではなく、何らかの方策が採れないかを専門家と相談していくべきでしょう。
※この記事は執筆当時の法令等に基づいて記載しています。