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2023/09/29

M&Aの税金について-節税や税務・最新の税制変更

M&Aの税金について-節税や税務・最新の税制変更

M&Aの税務においては専門的な知識が必要となります。また、選択する手法によって注意する点は大きく異なります。
そのため、税務を理解することはM&Aを円滑に進めるうえで重要です。適切に制度を活用することで、譲渡企業、譲受企業双方が節税効果を期待できます。
あわせて、海外企業とM&Aを行う際には、国によって税法や処理の方法が異なります。適切な税務の手続きを把握しておくことが、海外企業とのM&Aの成功には欠かせないともいえます。

本記事ではM&Aの各手法において、異なる税務処理や得られる節税効果を解説します。

▷関連記事:M&Aとは?M&Aの目的、手法、メリットと流れ【図解付き】

岩波 竜太郎
この記事を執筆した専門家
公認会計士 岩波 竜太郎
大手監査法人・ベンチャー企業の執行役員・管理本部長を経て、2015年に独立開業。 海外勤務を含むこれまでの幅広い経験に基づき、事業系・国内系業務だけでなく、金融系・国際系業務も守備範囲とし、経営・財務・経理に関する各種アドバイザリー業務を展開している。
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M&Aと税金、税務、節税

M&Aにおける税金は、株式譲渡や事業譲渡など選択するスキームによって、負担者と課税内容が異なります。まずは、M&Aにおける基本的な税金や税務の知識を、主な手法別に説明します。

株式譲渡の場合の税金、税務、節税

中小企業のM&Aにおいてよく活用される株式譲渡では、譲渡企業の株主が譲受企業に株式を譲渡し、対価として現金などを手にします。譲渡側の株主が個人の場合は、株式譲渡で獲得した譲渡所得に所得税が課されます。この所得税は別の所得とは分けて計算される分離課税方式であり、税率も一定であることが特徴です。

また、株主が法人の場合には法人税、地方法人税、都道府県民税、事業税、地方法人特別税が課されるなど、同じ株式譲渡でも税金の内訳が大きく異なります。

▷関連記事:株式譲渡にかかる税金って何があるの?その種類や計算方法を徹底解説

株式譲渡によるM&Aの所得と税金

株式などの譲渡により譲渡企業が獲得するのは、最終合意時に同意した譲渡価額になります。その後、前述の通り法人税が課されます。また、取得費と税金を引いた金額が、最終的に手元に残る金額となります。

最終的な譲渡所得金額は以下の計算によって算出されます。

譲渡所得金額=譲渡収入金額ー(取得費+譲渡費用)
※取得費=取得金額+設備費+改良費+付随費用

▷関連記事:株式譲渡の所得税はどれくらい?控除の有無についてもわかりやすく解説

株式譲渡の税務

必要な申告について(確定申告)前述の通り、株式譲渡後には譲渡所得に対して所得税が課されるため、譲渡した翌年に確定申告と納税を行う必要があります。

あわせて、株式譲渡による譲渡所得などの金額は「上場株式等に係る譲渡所得などの金額」と「一般株式等に係る譲渡所得などの金額」に区分して、税金を計算する「申告分離課税」となります。申告分離課税は総合課税を選択した場合の配当控除が受けられないものの、上場株式の譲渡損失がある場合に損益通算が適応できるため、節税効果を見込めます。

▷関連記事:株式譲渡の所得税はどれくらい?控除の有無についてもわかりやすく解説

納税時期について譲渡対価を受取った株主は翌年の3月15日までに所得税の確定申告を行い、まず15.315%の所得税のみを納めます。その後申告した年の6月頃に住所地の自治体から納付書が送られてくるため、残りの住民税5%はこの納付書が到着後に納税する流れになります。

M&Aと税金、税務、節税

株式譲渡での節税対策について(退職金、相続対策など)

株式譲渡に伴い、譲渡企業の役員や従業員が退職することが想定されます。そのため、譲渡企業は譲受企業と移転する従業員の雇用条件や制度についてすり合わせを行い、退職を防ぐことが重要です。

そのような対応を行っても、役員や従業員が退職してしまう際には、支払う退職金は会社の損益(経費)として算入が可能です。そのため、退職金支給後の残金を株式譲渡の対価として支払うことで、譲渡企業の株式譲渡代金は減少し、譲渡企業は法人税の節税効果を期待できます。

また、譲渡企業の創業者の目線で検討する場合、退職金の活用は節税効果があります。前述の通り、退職金は給与や賞与よりも税金が優遇されているからです。

譲渡企業の創業者が会社の株式を全て持っていた場合、譲渡対価は株主である譲渡企業の創業者に渡されます。株式譲渡の譲渡所得に課される税金は20.315%(所得税および復興特別所得税15.315% + 住民税5%)(2019年8月現在)になります。

そのため、M&Aにおける株式の譲渡額が1億円、過去に株式を取得した価額を3,000万円とした場合、譲渡益の7,000万円に対して約1,400万円の税金がかかります。

もし、会社から創業者に対して退職金を4,000万円支給することを前提にM&Aの取引価額を決定した場合、退職金が会社の損金に算入が可能なため、株式の譲渡に関する課税所得は、退職金を差し引いた3,000万円となり最終的に支払う税金は約600万円まで減少します。譲渡価額の税金とあわせて、退職金にかかる税金も別途発生するため、これらを総合して判断することが重要です。

以上のように税務上の処理が異なるため、退職金を活用すれば所得税より低い税率で課税されるため、創業者の手元に大きな金額を残すことが期待できます。このように株式譲渡の際には、役員退職金を組み合わせることで創業者に節税効果が見込める場合があります。

また、相続の場面においては事前に株式を売却しておくことで、節税効果を期待できます。株を相続後売却すると、相続税とは別に譲渡取得税が課されます。相続財産に株式などが含まれその株式を売却した場合、先に支払った株式の相続税を株の取得費として換算できるという特例があり、譲渡所得税を減らすことが可能です。

なお、取得費に加算する要件は以下の3点です。あわせて確定申告が必要になります。

1.相続や遺贈により財産を取得したものであること
2.取得した日に相続税が課税されていること
3.相続開始日の翌日から「相続税の申告期限」の翌日、以後3年を経過する日までに譲渡していること
 
▷関連記事:事業承継にはどれくらいの費用がかかる?

事業譲渡の場合の税金、税務、節税

事業譲渡によるM&Aの所得と税金

事業譲渡では、譲渡企業が譲受企業に事業の一部または全部を譲渡し、対価として現金などを譲渡企業が受取ります。課税対象は法人のため、株主に税金の負担はありません。

株式譲渡に比べて税率が高いこと(法人税、地方法人税、法人住民税、事業税など約30%)や、建物や車両運搬具など譲渡する資産によっては、一部消費税(8%)の課税対象になることが特徴です。譲受企業においては、引受ける資産に不動産が含まれていた場合、名義変更となり登録免許税、不動産取得税などの税負担が生じます。

登録免許税とは、土地や建物の購入時にその所有権を登記する際に国に納める税金です。税額はその土地や建物の固定資産税評価額に、税率をかけて計算します。また、不動産取得税は土地や建物を購入した際や、生前贈与として受取った際に課税される税金です。

▷関連記事:M&Aによる事業譲渡を行う際の消費税の取り扱い方について解説

事業譲渡の税務

譲渡対価を受取る譲渡企業に法人税がかかる譲受企業は、事業譲渡により取得した資産の取得価額は、譲渡直前の資産の帳簿価額(簿価)が損金の額に算入されます。

譲渡企業は、実際の譲渡価額が譲渡直前の帳簿価額より高い場合、帳簿価額を超えた金額は譲渡益となり、法人税の課税対象になります。

事業譲渡にも例外があり、完全支配関係がある法人間で事業譲渡を行った場合、一定の要件を満たすとグループ法人税制が適応され、譲渡損益が繰り延べられます。

また、設備や店舗など固定資産を譲渡している場合には別途消費税が課税されます。

事業譲渡の納税のタイミング(節税対策など)

法人税は納税時期が中間報告分と、確定申告分の2回あります。中間報告分は、各事業年度開始日から6ヶ月を経過した日から2ヶ月以内となっています。一方、確定申告分は、各事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内になります。

あわせて、別途消費税が発生した場合も、原則的には同じ支払時期が設定されているため、同時に申告しましょう。

また譲受企業は、移動した資産時価以上の部分であるのれん(営業権)に相当する金額は、税務上資産調整勘定として扱い、5年間で均等償却し法人税の算定上損金に参入することができます。そのため、のれんが発生した場合、法人税の税金課税対象である利益を5年間減らすことが出来ます。

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事業譲渡の場合の税金、税務、節税

合併など組織再編成の場合の税金、税務、節税

合併は、2つ以上の会社が1つの会社になることを指します。その他のM&Aの手法と異なり、合併すると消滅会社は消滅し、法人格が無くなります。

合併の際の資産などの流れは、原則として消滅会社が時価で譲渡したものとして取扱います。また、会社から現金や株式など実質的に利益が配当されたと見なされる、みなし配当*1を個人の株主が受取ったと認識された場合、所得税などによって最大55.945%の課税が行われます。

合併など組織再編成の税務と節税(税制適格要件など)

しかし、合併には税制適格要件が存在し、条件を満たした適格合併の場合は、合併の存続会社、消滅会社および各株主は、原則一切の税金が発生しません。

その他にも、適格要件を満たすことで時価ではなく簿価で行えること(法人税法62条2第1項)や、消滅会社の繰越欠損金を原則として引継ぐことが出来ます。(法人税法第57条2項)

繰越欠損金を引継ぐことで、欠損金の繰越期限切れとなる10年の間、税金がかけられる所得の課税所得が生じた場合、課税所得を減額することが可能です。そのため、税制適格要件を活用することで節税効果を見込めます。

また、合併の申請時にかかる登録免許税も、合併の手法によって税率が異なります。吸収合併では資本の増加分のみに対して、1000分の1.5を乗じた登録免許税が課税されます。しかし、新設合併では資本金そのものに1000分の1.5を乗じた登録免許税が課税されます。

*1 みなし配当:何らかの事情で、会社から株主に現金や株式などを渡されることを指します。実質的に会社から株主に利益が配当されているため、みなし配当と呼ばれます。

▷関連記事:合併登記の必要書類とは?登記にかかる費用や許認可の取り扱い、登録免許税を解説

合併など組織再編成の場合の税金、税務、節税

クロスボーダー(国際間取引)の税務について

各国の税法はそれぞれの国の課税権にもとづいて定められていますが、国境を超えた取引を行う場合には、国際間において税務上の問題が発生します。

複数の国にわたり取引が行われる場合、双方の国から課税を受ける二重課税や、双方から課税をうけない二重非課税が発生するため、公平性を保つために租税契約や外国税額控除といった制度が設けられ、二重課税などを防いでいます。

また、法人税率が低い国も存在しています。前述の通り二重課税が防がれているので、可能な限り税率の低い国に所得を集中させて、企業の税額を減少させる租税回避が多国籍企業によって行われています。

しかし、意図的な租税回避を受け、タックスヘイブン対策税制や移転価格税制などに関する規制が国際的に強化される状況です。

M&Aに関する最新の税制

平成31年に、税制改正が行われました。M&Aに影響する主な点は以下となります。

三角合併

適格合併とされる三角合併の合併対価については、従来は、合併法人の完全親会社株式(直接の100%親会社株式)だけでしたが、平成31年度改正により、間接の100%親会社株式も適格合併とされる三角合併の合併対価に含まれるようになりました。

逆さ合併

税制改正前は、譲受会社が受皿となる会社を100%出資により設立し、その会社にオーナーなどが保有の譲渡企業の株式を譲渡により取得し、残りの少数株主の保有株式を株式交換のスクイーズアウトにより取得後、受皿となる会社を吸収合併すると、その株式交換が他の適格要件を満たしたとしても、支配関係継続要件を満たさず、非適格株式交換とされ、譲渡企業などの一定の資産の評価損益を認識する必要がありました。

しかし、他の適格要件を満たし、受皿となる会社と譲渡企業が合併直前まで支配関係を継続すれば、適格株式交換とされ、評価損益の認識が不要となることになりました。

このようなスキームで、受皿会社を存続法人、譲渡企業を消滅法人とする合併であれば、適格株式交換とされているので、この税務上の不整合が解消される形となりました。

その他のポイント

・土地売買登録免許税が1.5%となる軽減措置、令和3年3月末まで2年延長

・個人事業主の相続税、贈与税の納税猶予の創設
平成31年1月からの相続・贈与から開始。

・特別法人事業税(国税)の創設、法人事業税の税率の改正
いずれも平成31年10月以後、開始事業年度から開始。

・相続時精算課税制度、直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例
令和4年4月以後の贈与から開始。受贈者の年齢要件を20歳から18歳以上に引き下げ。

・中小企業などの法人税の軽減措置(15%適用)を令和3年3月までの開始事業年度までに2年延長

・法人が連結親法人との間に完全支配関係を有することとなり、連結納税加入時期の特例の適用を受けるための手続きについて、連結親法人に一元化する

まとめ

M&Aにおける税務は、その仕組みを理解したうえで活用すれば税負担を軽くしたり、M&A後の企業の運用に役立ったりするケースが多いため、税の知識を持つことは得策となります。課税対象や支払い期間を把握し、M&A後の税務に速やかに対処するには税理士などの専門家への相談もお勧めです。

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