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2025年6月27日

M&Aにかかる税金は?株式譲渡・事業譲渡の税務や節税方法をわかりやすく解説

M&Aにかかる税金は?株式譲渡・事業譲渡の税務や節税方法をわかりやすく解説

M&Aにかかる税金は、個人と法人で異なる他、選択する手法によって注意する点も大きく異なります。税務においては専門的な知識が必要ですが、M&Aを円滑に進めるうえで、税務を理解することは重要です。また、海外企業とM&Aを行う際には、国によって税法や処理の方法が異なります。海外企業とのM&Aの成功には、適切な税務手続きの把握が欠かせません。

本記事では、M&Aでよく用いられる株式譲渡と事業譲渡を中心に、課税される税金の種類や節税方法を解説します。

安田 亮
この記事を監修した専門家
公認会計士・税理士・1級FP技能士
安田 亮
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。
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M&A実施時の税金は負担者・スキームごとに異なる

M&Aにかかる税金は、個人と法人で異なる他、株式譲渡や事業譲渡などの手法によっても違いがあります。まずは、個人と法人の所得にかかる税金の違いを紹介します。

譲渡側所得にかかる税金
個人所得税、復興特別所得税、個人住民税、個人事業税
法人法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税

【個人】所得と課税される税金

個人が所得を得た場合は、所得税、復興特別所得税、個人住民税、個人事業税が課せられます。中でも所得税は、所得の種類に応じて「分離課税」と「総合課税」に分かれるため、内容を把握しておく必要があります。

個人の所得の種類は、以下のとおりです。

種類該当する所得
分離課税利子所得、退職所得、山林所得、譲渡所得(土地・建物の売却、株式の売却)
総合課税配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得(ゴルフ会員権等の売却)、一時所得、雑所得

分離課税は、それぞれの所得を区別し、課税所得に一定の税率をかけて税額を計算します。

一方、総合課税は、対象の所得を合計し、課税所得に応じて税率が上がる累進課税制度です。

【法人】所得と課税される税金

法人の所得には、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税が課税されます。法人の所得に対して実質的にかかる税率は「実効税率」と呼ばれ、会社の規模や課税所得に応じて異なります。

株式譲渡で課税される税金

M&Aと税金、税務、節税

中小企業のM&Aにおいてよく活用される「株式譲渡」では、譲渡企業の株主が譲受企業に株式を譲渡し、対価として現金などを手にします。譲渡側の株主が個人の場合は、株式譲渡で獲得した譲渡所得に所得税、復興特別所得税、個人住民税が課されます。
株式の売却による譲渡所得は、他の所得とは分けて計算される分離課税方式であり、税率も一定であることが特徴です。
また、株主が法人の場合には法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税が課されるなど、同じ株式譲渡でも税金の内訳が大きく異なります。

個人と法人で株式譲渡時にかかる税率の違いは、以下のとおりです。

・個人:20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)
・法人:規模
所得に応じて異なる

なお、株式譲渡による譲渡所得などの金額は、他の所得の金額と区分して税金を計算する「申告分離課税」となります。
▷関連記事:株式譲渡の税金は?課税内容や計算方法、特例

▷M&Aの譲渡所得と税金の計算方法

譲渡企業が獲得するのは、最終合意時に同意した譲渡価額になります。その後、譲渡所得金額に応じて個人と法人のそれぞれに税金が課せられます。

譲渡所得金額は、以下の計算によって算出されます。

1. 取得費=取得金額 + 付随費用
2. 譲渡所得金額=譲渡収入金額 -(取得費 + 譲渡費用)

例えば、譲渡側が個人の場合、株式譲渡によって5,000万円の収入を得て、取得費2,000万円と譲渡手数料500万円がかかったとします。この場合の納税額は、以下のとおりです。

・取得費:2,000万円
・譲渡所得金額:5,000万円 -(2,000万円+500万円)=2,500万円
・税金:2,500万円×0.20315=5,078,750円

売却によって手元に残る金額は、譲渡収入から税金を引いた金額となるため、上記の場合であれば約4,500万円となります。

一方、株主が法人の場合、基本的な計算方法は個人と同じですが、株式譲渡益を含めたその会社の全損益を通算した金額に課税されます。法人税の税率は規模、所得に応じて異なりますが、実効税率は約30%となるケースが多いです。

▷関連記事:株式譲渡の所得税はどれくらい?控除の有無についてもわかりやすく解説

節税対策

株式譲渡に伴い、譲渡企業の役員や従業員が退職することが想定されます。そのため、譲渡企業は譲受企業と移転する従業員の雇用条件や制度についてすり合わせを行い、退職を防ぐことが重要です。

そのような対応を行っても、役員や従業員が退職してしまう場合、支払う退職金は会社の費用として損金算入が可能です。
そのため、退職金支給後の残金を株式譲渡の対価として支払うことで、譲渡企業の株式譲渡代金は減少し、譲渡企業は法人税の節税効果を期待できます。

また、譲渡企業の創業者目線で検討する場合、退職金は税金が優遇されているため、退職金の活用は節税効果があります。譲渡企業の創業者が会社の株式を全て持っている場合、譲渡対価は株主である譲渡企業の創業者に渡されます。株式譲渡の譲渡所得に課される税金は20.315%(所得税および復興特別所得税15.315% + 住民税5%)(2025年5月現在)です。

そのため、M&Aにおける株式の譲渡額を1億円、過去に株式を取得した価額を3,000万円とした場合、譲渡益の7,000万円に対して約1,400万円の税金がかかります。

もし、会社から創業者に対して退職金を4,000万円支給し、M&Aの取引価額を差し引きの6,000万円と決定した場合、株式譲渡にかかる課税所得は、譲渡収入6,000万円から取得費3,000万円を差し引いた3,000万円となり、最終的に支払う税金は約600万円まで減少します。
譲渡価額の税金とあわせて退職金にかかる税金も別途発生するため、これらを総合して判断することが重要です。

このように、株式譲渡の際は、役員退職金を組み合わせることで創業者に節税効果が見込める場合があります。

株主が個人の時は「概算取得費の特例」を検討する

譲渡側が個人の場合は、概算取得費の特例を活用することで税金を抑えられる可能性があります。

概算取得費の特例とは、株式の売却代金の5%相当を取得費とすることができる制度です。この特例は、株式の購入時期が古いなどの理由で取得費がわからない場合を想定したものですが、実際の取得費が判明している場合でも適用することができます。

例えば、1,000万円の出資で設立した会社を株式譲渡によって5億円で売却する場合を考えてみましょう。

・通常の出資額で計算する場合:取得金額1,000万円
・概算取得費の特例で計算する場合:2,500万円(5億円×0.05)

概算取得費の特例で計算する場合、通常の出資額を取得費とするより1,500万円多くなります。

株式譲渡の税金は、譲渡収入金額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額が譲渡所得金額に課せられます。そのため、取得費が多くなれば、その分譲渡所得金額が少なくなり、節税できる可能性があります。

事業譲渡で課税される税金

事業譲渡の場合の税金、税務、節税

事業譲渡」では、譲渡企業が譲受企業に事業の一部または全部を譲渡し、対価として現金などを譲渡企業が受取ります。課税対象は法人のため、株主に税金の負担はありません。

M&Aの所得と税金の計算方法

事業譲渡の所得に課税されるのは、主に法人税等(法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税など)です。

法人税等は、譲渡益のみに課税されるわけではなく、会計年度の損益の全てを通算し、利益に対して課税されます。なお、会計年度の利益がマイナスの場合は、譲渡益と相殺されます。

事業譲渡にかかる法人税等の計算方法は、以下のとおりです。

1. 譲渡益=譲渡金額 – (譲渡資産-譲渡負債)
2. 税金=(譲渡益 + 本業の利益) × 実効税率

実効税率は、譲渡企業の規模や所得によって異なりますが、約30%程度となるケースが多いです。

また、事業譲渡には例外もあり、完全支配関係がある法人間で事業譲渡を行った場合は、一定の要件を満たすとグループ法人税制が適用され、譲渡損益が繰り延べられます。

その他、譲渡対象資産に課税対象資産が含まれている場合、譲渡企業は消費税を納税する必要があります。消費税を実質負担するのは、譲受企業です。

譲受側に課税される税金

事業譲渡の場合、譲り受ける資産によっては、譲受側にも消費税、登録免許税、不動産取得税が課税されます。

税金の種類内容
消費税譲渡対象資産に設備や店舗などの課税対象資産が含まれる場合、10%の税率をかけて譲渡企業に支払う
実際の納税は譲渡企業が行う
登録免許税譲渡対象資産に土地・建物が含まれている場合、その所有権を登記するために当該不動産の固定資産税評価額に2%の税率をかけた登録免許税がかかる
2026年3月31日までの登記に関しては、1.5%の軽減税率が適用される
不動産取得税譲渡対象資産に土地・建物が含まれている場合、原則、土地・家屋(住宅)には当該不動産の固定資産税評価額に3%、家屋(非住宅)には4%の税率をかけた不動産取得税がかかる
※2025年5月時点

▷関連記事:M&Aによる事業譲渡を行う際の消費税

節税対策

譲渡企業の場合、事業譲渡によって生じた譲渡益(資産売却益など)には法人税が課されますが、法人税は会計年度における全体の損益に基づいて計算されるため、必要な経費を計上することで課税所得と相殺できます

例えば、譲渡益が出るタイミングで、広告宣伝費や設備投資などの将来につながる支出を行えば、実効税率約30%を前提に法人税の節税効果が期待できます。

支出に伴い資金は減少しますが、有意義な投資であれば税金の抑制と事業成長の両面で効果が見込めるでしょう。

一方、譲受企業が移転された資産を時価で受け入れ、その対価が純資産価額を上回る場合、その超過額は「のれん(営業権)」として計上されます。

のれんに相当する金額は、税務上資産調整勘定として取り扱われ、5年間での均等償却による損金算入が認められています。
そのため、のれんが発生した場合、法人税の課税対象となる利益を5年間減らすことができます。

▷関連記事:M&Aの「のれん」とは?償却期間や会計処理、注意点を分かりやすく解説
▷関連記事:事業譲渡と株式譲渡の違いとは?メリット・デメリットとM&Aの手法として判断するポイントを解説

合併など組織再編成で課税される税金

合併など組織再編成の場合の税金、税務、節税

合併」は、2つ以上の会社が1つの会社になることを指します。その他のM&Aの手法と異なり、合併すると消滅会社は消滅し、法人格がなくなります。

合併の際、資産・負債は原則として消滅会社が時価で存続会社に譲渡したものとして取り扱います。
また、会社から実質的に利益が配当されたと見なされる、みなし配当を消滅会社の個人株主が受取ったと認識された場合、所得税などによって最大55.945%の税率で課税されます。
ただし、合併には税制適格要件が存在し、条件を満たした適格合併の場合は、合併の存続会社、消滅会社および各株主は、原則として課税が将来に繰り延べられます。

その他、適格要件を満たすことで消滅会社から存続会社への資産・負債の引継を時価ではなく簿価で行えること(法人税法第62条の2第1項)や、消滅会社の繰越欠損金を原則として引継ぐことができます(法人税法第57条の2項)。繰越欠損金を引継ぐことで、欠損金の繰越期限切れとなる10年の間に課税所得が生じた場合、課税所得を減額することが可能です。そのため、税制適格要件を活用することで節税効果を見込めます。

なお、合併の申請時にかかる登録免許税も、合併の手法によって税率が異なるので、把握しておきましょう。
・吸収合併:資本の増加分のみに対して、0.15%が課税される
・新設合併:資本金そのもの(資本金の総額)に0.15%が課税される


※みなし配当:何らかの事情で、会社から株主に現金や株式などを渡されることを指す。実質的に会社から株主に利益が配当されているため、みなし配当と呼ばれる。

▷関連記事:適格合併とは?メリットや要件、繰越欠損金を全額引き継げるケースを解説
▷関連記事:合併登記の必要書類-登記にかかる費用や許認可の取り扱い、登録免許税

M&Aに関する税金の申告時期

M&Aの実施によって個人が所得を得た場合は、原則、所得のあった翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行い、所定の税金を納める必要があります。

所得税(復興特別所得税を含む)は確定申告の期限までに納めますが、住民税は確定申告後の6月頃に自治体から郵送で届く納付書で納税します。

また、法人の場合は、納税時期が中間申告分と確定申告分の2回あります。中間申告分は、各事業年度開始日以降6ヶ月を経過した日から2ヶ月以内です。確定申告分は、各事業年度終了の日の翌日から原則として2ヶ月以内になります。

あわせて、別途消費税の申告納税義務がある場合も原則、法人税と同じ申告・納付期限が設定されているため、同時に申告しましょう。

クロスボーダー(国際間取引)の税務について

税法はそれぞれの国の課税権に基づいて定められていますが、国境を超えた取引を行う場合は、国際間における税務上の問題が発生します。

複数の国にわたる取引が行われる場合、双方の国から課税を受ける二重課税や、双方から課税を受けない二重非課税が発生するため、公平性を保つ目的で租税条約や外国税額控除などの制度が設けられ、二重課税などを防いでいます。

また、中には法人税率が低い国も存在します。前述のとおり、二重課税が防がれているため、可能な限り税率の低い国に所得を集中させて、企業の税額を減少させる租税回避が多国籍企業によって行われています。

ただし、近年は意図的な租税回避を受け、タックスヘイブン対策税制や移転価格税制などに関する規制が国際的に強化されています。

M&Aに関する近年の税制改正のポイント

2019年に税制改正が行われました。以下では、M&Aに影響する主なポイントを紹介します。

三角合併

適格合併とされる三角合併の合併対価については、従来、合併法人の完全親会社株式(直接の100%親会社株式)のみが対象でしたが、税制改正により、間接の100%親会社株式も適格合併とされ、三角合併の合併対価に含まれるようになりました。

逆さ合併

吸収合併では、一般的に規模の大きい会社が存続会社、小さい会社が消滅会社になります。

しかし、規模の小さい会社が存続会社、規模の大きい会社が消滅会社となる特殊なケースもあります。いわゆる逆さ合併と呼ばれる手法です。

税制改正前は、適格合併の要件を満たすことが難しかったため、非適格合併となるケースが多く、譲渡企業の一定の資産の評価損益を認識する必要がありました。

税制改正によって、逆さ合併であったとしても一定の要件を満たせば適格合併として認められるようになったため、時価評価損益の認識が不要となりました。

その他のポイント

・個人事業主の相続税、贈与税の納税が猶予される「個人版事業承継税制」の創設(2019年1月からの相続・贈与から開始)
・特別法人事業税(国税)の創設、法人事業税の税率の改正(いずれも2019年10月以降、開始事業年度から開始)
・相続時精算課税制度、直系尊属からの贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例(2022年4月以降の贈与から開始。受贈者の年齢要件を20歳から18歳以上に引き下げ)
・中小企業などの法人税の軽減措置(15%適用)を令和9年3月までの開始事業年度まで延長

まとめ

M&Aにおける税務は、仕組みを理解したうえで活用すれば、税負担の軽減やM&A後の企業の運営に役立つケースが多く、知識を持つことは無駄になりません。
ある程度の概要を把握したうえで、課税対象や支払い期間を把握し、M&A後の税務に速やかに対処するためには、税理士などの専門家への相談がおすすめです。

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