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2023/09/26

M&Aによる個人保証と担保の解消

M&Aによる個人保証と担保の解消

なぜ個人保証や担保を提供しなければいけないのか

中小企業経営者が抱える悩みの一つとして金融機関から借入を行う際に提供しなければいけない個人保証や担保の問題があります。

2015年に中小企業庁がみずほ研究所に委託して行った「中小企業の資金調達に関する調査」によると、中小企業が現在利用している融資手法の中で最も多かった形態は「代表者等の保証による融資」で76.3%を占めました。続いて「信用保証協会の保証付融資」が69.1%、「不動産を担保とする融資」が62.2%となっており、個人保証や不動産等の自己資産を担保として提供している中小企業経営者が多いようです。

一方で「事業性を評価した担保・保証によらない融資」はわずか25.9%でした。中小企業が事業の安定性や将来性のみで金融機関から融資を獲得することは難しく、個人保証や担保を提供しなければ融資を獲得できないという現状があります。

個人保証や担保が要求される理由

ではなぜ個人保証や担保を提供しなければいけないのでしょうか。

2011年に山田ビジネスコンサルティング株式会社が行った「個人保証に関するアンケート調査」によると、金融機関が代表者保証を徴求する主な目的は「経営への規律付けのため(モラルハザードの防止)」が最も多く83.4%を占めました。続いて「会社の信用力補完のため(企業との一体性を確保)」が75.8%、「保全のため(担保としての位置付け)」が58.0%でした。金融機関は中小企業経営者に経営に対する責任を求め、財務状況や経営状況等の信頼性を保全するために個人保証を求めているようです。

公認会計士や税理士等の専門家を雇用していない中小企業は経営状況や財務状況が不透明、不正確な場合があるため、金融機関は個人保証や担保を要求することで信用を保全しています。

個人保証を徴求する際に金融機関は根保証と特定保証を徴求します。根保証とは継続的な取引関係から生ずる不特定・多数の債務のためにする保証のことです。これは、債務者が現在保有する債務、および将来保有する債務の全てについて保証する約束を意味します。特定保証とは特定の債務に対してのみ保証債務を負う保証のことです。

同調査によると、証書貸付の場合は94.1%の金融機関が特定保証を徴求するのに対して、手形貸付では56.0%、当座貸越では65.4%、その他の融資取引では 50.8%が根保証を徴求すると回答しており、反復取引が見込まれる際には多くの金融機関で根保証が利用されています。

では金融機関は根保証の金額はどのように設定しているのでしょうか。同調査によると、65.9%の金融機関が「実際の融資金額に対し、120%の極度額とする」と回答しています。融資額に対して100%より大きな保証極度額を徴求する金融機関は合計で79.5%を占めており、債務者にとって個人保証は大きな負担になっています。次に担保の内訳を見ていきます。中小企業総合研究所が2005年に行った「中小企業向け貸出における実態調査」によると、担保を提供した中小企業経営者の内、85.7%が不動産、10.1%が預金・債券を担保として金融機関に提供しています。経営状況等の急な悪化により借入金の返済が滞った際には、自宅を含む不動産、自己資産を提供しなければいけません。会社経営どころか日々の生活さえ苦しくなる可能性があります。このように会社の運用資金を調達する際の個人保証や担保の提供は経営者個人の生活にも関わるため、経営者は個人保証や担保についての理解を深める必要があります。

個人保証や担保の提供が経営に与える悪影響

では個人保証や担保の提供は中小企業経営者にどのような悪影響を及ぼすのでしょうか。

悪影響は大きく2つあります。

1つ目は個人保証や担保の提供が積極的な挑戦の妨げになります。企業が成長していく際には時としてリスクを取らなければいけません。しかし、個人保証や担保を提供しているということは業績の悪化や倒産の際には職を失うどころか自己資産も失う可能性があるため、経営者は挑戦を躊躇するケースが多くなります。

一度倒産や自己破産を経験すると、再挑戦が難しくなります。新たに資金を確保することが難しいからです。日本の金融機関は失敗経験者に対する融資は非常に消極的です。同調査によると「保証人である経営者が自己破産した後に、引き続き会社経営を行う際の融資姿勢に変化はありますか」という質問に対し、86.6%の金融機関が「経営者に自己破産経験があるため、新規融資に応じづらい」と回答しています。経営者の意欲ある挑戦が妨げられるということは日本経済全体の衰退にもつながります。

2つ目は個人保証や担保の存在が事業承継を難しくしています。中小企業庁が野村総合研究所に委託して行った調査「中小企業の事業承継に関する調査に係る委託事業報告書」によると[5]、第三者に承継を行う際に生じる問題として38%の経営者が「借入金の個人保証の引き継ぎが困難」と回答しており、最も多い回答になっています。

個人保証の引き継ぎが困難な理由として後継者が個人保証を引き継ぐだけの資産を持ち合わせていないことや金融機関の信用を得ることが難しいことが挙げられます。また、親族承継の場合には後継者が個人保証や担保等のリスクの承継をためらうケースもあり、個人保証や担保の存在は円滑な事業承継の妨げになっています。

M&Aによる個人保証、担保からの解放

では個人保証や担保から解放されるためにはどうすればいいのでしょうか。今回はその一例としてM&A(事業承継)による個人保証、担保からの解放について紹介します。M&Aを行うことで会社の資産を売却すると同時に個人保証や担保等の負債も譲受企業が引き継ぎます。ここで得た資金を元に新たなことに挑戦できます。また、個人保証や担保等から解放されているため、非常に挑戦しやすい環境でもあります。M&Aを機に経営から引退し、安定した生活を送ることも可能です。事業承継の際、後継者に個人保証や担保の引き継げなかった場合、引退後もリスクを背負い続けることになります。万が一、後継者が会社の経営に失敗した場合には経営に関わっていないにもかかわらず自己資産を明け渡さなければいけないケースもあります。上記のようにM&Aによって個人保証や担保から解放されることで得られるメリットは多くあります。

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経営者保証ガイドライン、個人保証を利用しない借入方法

最後に個人保証や担保の提供が不要な資金調達方法についてご紹介します。2013年の12月に「経営者保証に関するガイドライン」が公表され、2014年2月に適用が開始されました。このガイドラインには経営者保証に関して大きく3つのことが記載されています。

1つ目は融資を受ける際に経営者保証が不要な条件が定められています。中小企業や経営者がある一定の条件を満たすことで融資を受ける際に経営者保証が不要になります。

2つ目は早期に廃業や事業再生を決断した経営者に一定の資産を残す基準を定めています。これにより、再挑戦しやすい環境を作ることができます。

3つ目は新規融資のみならず、既存の経営者保証の見直しや事業承継の際の保証制度の見直しについての基準が記載されています。経営者保証が不要な条件として企業側に求められることは「法人と経営者の関係の明確な区分・分離」、「財政基盤の強化」、「経営
の透明性」です。金融機関に求められる対応は「保証を求めない融資や代替的な融資手法の検討」、「やむを得ず経営者保証を求める際の丁寧な説明、適切な保証額の設定」です。

中小企業経営者が上記の条件を満たすことで融資の際に個人保証が不要になります。また、すでに融資を受けている場合にも個人保証の見直しを金融機関に求めることができるため、中小企業経営者は「経営者保証に関するガイドライン」を十分に確認することをおすすめします。資金調達や債務整理の際にガイドラインの利用を希望の場合には商工会や商工会議所、取引先の金融機関、公認会計士、税理士等に相談すると良いでしょう。

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