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2023/10/24

クロスボーダーM&Aとは?目的・メリット・成功のポイントや事例

クロスボーダーM&Aとは?目的・メリット・成功のポイントや事例

クロスボーダーM&Aとは

クロスボーダーM&Aとは、直訳では国境を越えて行うM&Aであり、海外企業とのM&Aのことを指します。一般的には、M&Aの当事者のうち、譲渡企業または譲受企業のいずれか一方が外国企業である場合を指します。

一方で海外市場は成長率が高く、日本の成長率の鈍化している状態を打破するために海外進出を行う企業が増加しています。また、企業が海外に成長を求めて進出する際、M&Aが活用されています。

本記事ではクロスボーダーM&Aの目的や手法、海外市場の動きについて説明します。

▷関連記事:M&Aとは?M&Aの目的、手法、メリットと手続きの流れ

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クロスボーダーM&Aの種類

大きく分けてM&Aには、3つの種類があります。

国内企業が国内企業とM&Aをする「IN-IN」(インイン)取引、国内企業が海外企業を譲り受ける「IN-OUT」(インアウト)取引、海外企業が国内企業を譲り受ける「OUT-IN」(アウトイン)取引です。

このうち国をまたぐインアウト取引、アウトイン取引をクロスボーダーM&Aとよびます。

インアウト取引においては、日本企業はアジアなどの新興市場に加え、欧州などの巨大なマーケットにも事業規模を拡大しています。海外進出の時間を短縮したり、現地企業とM&Aすることで、海外進出が失敗するリスクを軽減することが可能なため、海外進出を行う際の手段のひとつとしても用いられます。

一方、アウトイン型のM&Aの件数は現在減少傾向にあります。その背景として、人口減少により日本市場の消費需要の縮小が予想されていることがあります。

クロスボーダーM&Aの目的・メリット

クロスボーダーM&Aとは?目的・メリット・成功のポイントや事例

日本企業が海外進出を図る理由としては、人口減少による市場の縮小や、市場の成長が見込まれる海外での売上の獲得だけでなく、相手先が有する顧客基盤、技術、人材の獲得、ビジネスモデルの獲得により更なる成長を目指すケースが増えています。

現在、日本には安価な海外の製品や食品が多く輸入され、コスト削減の競争が激化し、国内での生産では価格競争への対応が厳しい状況にあります。

また少子高齢化によって労働力確保が難しく、人件費、採用費が以前より高くなることもあります。更に原油を原料とした電力料金の上昇に伴うコストの高騰など、さまざまな要因によって運営のコスト負担が増加しています。

そのため、コストの削減を目的に、海外に拠点を移す企業も少なくありません。

海外に進出することで主に削減が期待できる費用として、人件費、原材料費、税金が挙げられます。日本よりも安い賃金で人を雇い、その国での安い価格で原材料を集めることは、コスト削減に繋がるでしょう。

また、日本よりも税率の低い国で事業を営めば、法人税などの税負担を減らすことも可能です。

クロスボーダーM&Aの特徴

クロスボーダーM&Aの特徴として、国内のM&Aに比べて対象となる企業規模が大きいことがあげられます。これは、クロスボーダーM&Aでは海外展開を見据えた大手企業が行うことが理由のひとつです。

また、国内企業が海外企業を買収した後のPMIが難しいことも特徴としてあげられます。これにも様々な要因がありますが、クロスボーダーM&Aでは企業同士のみならず、国同士の風土や文化の違いも加味しなければならないため、組織の融合におけるコミュニケーションの難しさがあります。

また、相手国の政治・経済情勢によって買収する事業の収益性が変動し、企業が損害を被るリスク(カントリーリスク)も存在します。

クロスボーダーM&Aで用いられる手法と流れ

通常のM&Aのフローは、譲渡企業と譲受企業が秘密保持契約を締結後に基本合意し、買収監査を経て、クロージングを行い成約となります。

国内企業同士のM&Aは主に株式譲渡や事業譲渡といった手法が用いられます。株式譲渡とは、株主が保有する株式を、譲渡企業のオーナーが譲受企業に譲り渡すM&Aの手法です。

そうした株式譲渡や事業譲渡といった国内のM&Aにおいて、よく使われる手法の他にもクロスボーダーM&Aでは、以下の手法が用いられます。

▷三角合併

三角合併とは、合併によって消滅する消滅会社の株主に対する合併の対価が、存続会社の親会社の株式である合併です。

存続会社から、消滅会社へ交付することのできる対価の種類には会社法上制限はありません。外国企業が三角合併を行う際に、日本に子会社がある場合、子会社と日本企業を合併させたのちに、自社株を対価として消滅会社の株主に支払うことで、多額の現金を用意しなくともM&Aが可能になります。

海外からの投資を促し日本経済を活性化させるため、2006年5月施行の新会社法に三角合併は規定されていましたが、外資系投資ファンドによる敵対的買収が続いたことを背景に、日本企業の買収防衛策の準備期間が必要との要望が高まり、2007年5月に1年遅れての導入となりました。

また、三角合併には準三角合併と逆三角合併の2種類があります。逆三角合併は譲渡企業が存続会社になる合併で、海外の譲渡企業が事業運営に必要な許認可を有している場合や、ブランド力がある場合に用いられます。

▷関連記事:M&Aにおける合併とは?意味や手続き、種類の違いを解説

▷LBO

LBO(Leveraged Buyout)とは、譲受企業が譲渡企業の資産や、今後期待される利益やキャッシュフローを担保として、金融機関などから資金調達をして買収する手法を指します。

特徴として、借金の担保に譲渡企業の資産やキャッシュフローを担保にすることが挙げられます。譲受企業が借金を自ら返済するのではなく、譲渡企業の持つ資産や、将来の収益を返済の原資とします。

そのため、譲受企業は限られた自己資金でも大型のM&Aが可能になります。しかし、LBO実施後に業績が落ちてしまった場合は、巨額の借金が残ってしまうリスクも存在します。

・関連記事:LBOとは?仕組みやMBOとの違い、成功・失敗事例など分かりやすい基礎知識

2000年以前からクロスボーダーM&Aを行って成長している企業

海外企業のM&Aと聞くと、その馴染みの薄さから、最近になって活発化してきたイメージがありますが、実は早い時期から行っていた企業も存在します。

ここでは2000年以前から海外M&Aに注力している企業について紹介します。

▷JT(日本たばこ産業株式会社)

JT(日本たばこ産業株式会社)は、1999年に「Winston」や「CAMEL」などのブランドを展開するRJRナビスコ社の海外たばこ事業を約9,400億円で買収しました。

その結果、販売本数は200億本から一気に2,000億本以上に増加し、同業界で世界第3位の企業となりました。

また、2007年には「BENSON&HEDGES」や「SILKCUT」などのブランドを展開するイギリスのギャラハー社を約2兆2,000億円で買収し、世界第3位の地位を確立、そして欧州市場への参入を実現しました。

しかし、まだ上位2つの企業との差は大きく、また近年中国企業も台頭してきています。そこで2017年にインドネシアでたばこ事業を展開するカリヤディビア・マハディカ社など2社を約1,100億円で買収した他、2018年にはロシアのたばこ会社ドンスコイ・タバック社を約1,900億円で買収するなど、更なる海外展開を目指してM&Aによる成長を続けています。

▷日本電産株式会社

日本電産株式会社は、モーター事業を中心として家電製品や産業機器、光学機械などの製品を製造、販売している会社です。

創業は1973年ですが、その11年後の1984年にはアメリカのトリン社の軸流ファン部門を買収しており、以降海外企業のM&Aを繰り返してきました。同社は2020年7月までに60社を超えるM&Aを行っており、うち海外企業は半分以上を占めています。

創業時には従業員数4名だった企業が、M&Aを積極的に活用することで、従業員数10万人、売上1兆円を超える大企業へと成長しました。

クロスボーダーM&Aを行っている業界大手の企業

国内市場が成熟していることもあり、様々な業界の大手企業は新たな市場を求めて海外進出を進めています。

ここでは近年海外M&Aに力を入れている企業について紹介します。

▷株式会社電通

国内最大手の広告代理店である株式会社電通ですが、国内広告業界の市場規模の伸び悩みを背景として、M&Aによる海外進出に乗り出しました。

2013年にイギリスの広告会社であるイージス社を約4,090億円で買収して以降、積極的にM&Aを繰り返しています。

2017年度末までに134社もの海外企業を買収しており、海外の売り上げが全体の約59%を占め国内の売り上げを上回る結果となっています。

2018年度にも、ノルウェー、チリ、アルゼンチン、オーストラリアなど世界中の広告代理店やメディアエージェンシー、データマーケティングの会社の買収を発表しており、世界規模でのM&Aへの積極さが伺えます。

▷株式会社セブン&アイホールディングス

株式会社セブン&アイホールディングスはコンビニエンスストアのセブン-イレブンや、総合スーパーのイトーヨーカ堂、百貨店のそごうや西武、金融サービスのセブン銀行など、多岐に渡るサービスを展開しています。

日本のコンビニエンスストア業界の市場が成熟したこともあり、2018年に米国の中堅コンビニエンスストアであるスノコLP社からコンビニエンスストア事業とガソリン小売事業を約3,650億円での買収に踏み切りました。国内市場の伸びが鈍化する中で、アメリカでの店舗網を拡充させてアメリカでの売り上げの向上が狙いです。

この買収の効果もあり、2018年2月期の決算では海外コンビニエンス事業の営業利益が前年比で17.3%増加しており、全体の営業利益の増加に貢献しています。

▷第一生命ホールディングス株式会社

第一生命ホールディングス株式会社は、2007年にベトナムの保険会社バオミンCMGを買収しました。

これを皮切りに、2011年にオーストラリアの生命保険会社であるタワー・オーストラリア・グループを約996億円で買収し、さらに2015年にはアメリカの生命保険会社のプロテクティブ社を約5,822億円で買収しました。

他の大手生命保険会社も、縮小傾向の国内市場を背景としてアジアや新興国などへの進出を進めており、保険業界では今後も海外企業のM&Aが行われていくでしょう。

▷リクルートホールディングス株式会社

人材業界では国内第1位のリクルートホールディングス株式会社は、国内での人材派遣市場での地位を確立した後に、国内で培ったノウハウを生かして海外進出を行いました。

2012年にはアメリカの人材募集の検索エンジンを運営するIndeed社を約1,300億円で買収しました。Indeedを初めとするHRテクノロジー事業の高成長の影響もあり、2017年度の売上は過去最高である2兆円を突破しています。

2018年5月には、求人関連の口コミサイトを運営するアメリカのグラスドア社を約1,200億円で買収すると発表しました。求人検索のIndeedと口コミのグラスドアを組み合わせることで、大きな相乗効果が得られ、更なる収益の増加を図るようです。

▷楽天株式会社

1997年に設立された楽天株式会社は、多方面に渡る分野でのビジネスを行ってきましたが、その事業の多くがM&Aによって獲得したものです。

2005年にアメリカのLinkShare社を約464億円で買収して、アメリカでのアフィリエイト市場に参入してからは、2012年にカナダのKobo社を約236億円で買収、電子書籍市場へと参入しました。

その他にも、2014年にはキプロスのバイバー・メディア社の無料メッセージングアプリViberを約920億円で買収しています。楽天は創業以来売上高を伸ばし続けており、2017年度の売上高は約9,445億円となっています。

▷クックパッド株式会社

料理レシピのウェブサイトを運営しているクックパッド株式会社ですが、世界各地でM&Aを行ってきました。

2014年にスペインのITYIS SIGLO XXI社からレシピサービスの「Mis Recetas」を約11.5億で買収し、同年にアラビア語のレシピサービス「Shahiya」を運営するレバノンのNetsila社を約13億円で買収しています。

これらの買収の影響もあり、クックパッドは現在世界67ヶ国においてレシピサービスを提供しています。

▷ソフトバンクグループ株式会社

1992年の株式公開以降、アメリカ、中国、韓国、シンガポール、インドといった世界各地の企業を買収し、売り上げを伸ばしてきました。

2007年にボーダフォン日本法人を1兆7,820億円で、2013年には米国携帯電話3位のスプリント社の株式の78%を1兆8000億円で買収して、通信事業を拡大しました。

また最近では、2016年に英国半導体開発大手のアーム・ホールディングス社を約3兆3,000億円で買収するなど、買収額が1兆円を超えるM&Aを複数回実施しています。2013年度の売上が約3兆2,000億円であったのに対して、2017年度の売上が約9兆1,500億円と3倍近く売上を伸ばしています。

※2018年4月30日、スプリントとTモバイルが合併し、スプリントはソフトバンクの子会社では無くなりました。

▷武田薬品工業株式会社

2019年1月、武田薬品工業株式会社は、アイルランドの大手製薬メーカーであるシャイアー社を約6兆2,000億円で買収しました。

これは日本企業によるM&Aでは過去最大となり、その結果武田薬品工業は世界の製薬業界でトップ10入りしました。

またこれ以前にも、武田薬品工業は2017年にもアメリカのアリアド社を約6,300億円で買収しており、近年大規模なM&Aをいくつも実施しています。

クロスボーダーM&Aの成功のポイント

クロスボーダーM&Aを成功に導くためには、いくつかのポイントがあります。

クロスボーダーM&Aとは?目的・メリット・成功のポイントや事例

▷契約書の準拠法・所轄地

M&Aで締結される契約書の準拠法や所轄地が、相手企業の所在する国などに準拠している可能性があります。

準拠法を海外の法律に設定した場合、日本の弁護士では対応が難しい場合もあり、現地の弁護士に依頼を行うことがあります。また、日本の経営に関わる法律と規定内容が異なっていることもあり得ます。

所轄地が外国であった場合も、自社の拠点を現地に保有していない際には、何らかの問題が発生しても、裁判所を通して訴訟を起こすことは実質的に困難な場合もあります。また、海外で経営を行う場合、現地の言葉に精通した人材や、ビジネス慣習に詳しい従業員などが欠かせません。

▷企業価値の判断

対象会社の市場規模や、成熟度、投資家の立場からの企業価値向上に取り組んでいるかなど、企業として外部からどのように評価されているか、企業価値判断のために情報収集することが重要です。

また、自己資本利益率(ROE)*3重視の外国人投資家による株式保有比率の増加などにより、上場企業に対する企業価値向上の期待が高まっているため、投資家からの評価も確認することが重要です。

海外企業においても、買収監査は企業価値判断のために欠かせません。その国の法律や会計の仕組みに沿って監査は進むため、現地の会計士や弁護士、税理士に依頼することも方法のひとつです。

*3 自己資本利益率(ROE):株主からの出資金を効率的に使えているかがわかる指標。当期純利益 ÷ 自己資本(出資金や利益の蓄積などの合計)× 100で求められる。

▷関連記事:企業価値評価とは?M&Aで使用される企業価値の算出方法

▷ブレークアップフィーの確認

ブレークアップフィーとは、M&Aの交渉の際に設定される条項であり、そのM&A案件が成約せずに流れてしまったとき、譲渡企業から譲受企業に解約金を支払ってM&A契約の進行を終了させる旨を定めたものです。

譲受企業から譲渡企業に支払われる違約金はリバース・ブレークアップ・フィーとよばれます。実務上、違約金の額の定めは、一般的に、取引金額の1%から5%の間に設定されることが多いとされています。

ブレークアップフィー条項を事前に締結しておくことで、さまざまな要因から契約ができなくなってしまった場合でも、違約金を受け取ることにより損害を抑えることができます。

▷M&A仲介会社を利用する

M&A仲介会社の中には、クロスボーダーM&Aの経験が豊富な業者も存在します。そうした業者であれば、クロスボーダーM&Aの相談も行うことが可能です。

また、現地の言語に対応できたり、海外企業の財務分析に強い専門のスタッフが対応することもあるため、海外企業とのM&Aのサポートの依頼や相談ができます。

▷関連記事:M&A仲介とは?仲介会社のメリットや選び方、FAとの違い【動画付き】

クロスボーダーM&Aの失敗要因・リスクと対応策

クロスボーダーのM&Aは、日本と海外での税制、法制度、会計制度の違いがあり、デューディリジェンスの範囲や内容も多岐に渡るため、その手続きが複雑になります。

また、日本と海外では言語や文化が異なるため、M&A成約後のPMIが難しいものとなります。

そのため、通常のM&Aと同様に、クロスボーダーM&Aにおいても大切なのが、自社に適した相手企業を探すこと、対象会社の何が欲しいのか明確にしておくこと、買収監査によってリスクを洗い出すこと、契約締結後のPMIを適切に行うことです。

加えて、クロスボーダーM&Aでは、準拠する法律や所轄地に対応できるように、事前の確認と準備が欠かせません。クロスボーダー案件に対応しているM&A仲介会社や、専門家に相談することをお勧めします。

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