近年、消費者のニーズが多様化し、品質や価格はもちろん、安心・安全を求める傾向やエコ、ロハス*1など環境を意識したライフスタイルを志向する消費者が増えています。「自然派」や「オーガニック」などに関連する商品が脚光を浴び、多くの人に支持されるようになりました。

そのような状況の中で、最近では女性だけではなくスキンケアやコスメに関心を持つ男性も増え、メンズコスメコーナーがある店舗もあります。また、インターネットでも手軽に購入できるようになりました。

昨今の化粧品業界では、より品質や価格などにおいて競争力のある商品を提供することが求められ、化粧品メーカーは国内のみならず海外へと活路を見出し始めています。加えて、インターネット通販による販売や異業種からの参入が活発化し、化粧品業界ではM&Aが積極的に行われています。

本記事では化粧品業界の現状や最新の業界動向を説明したうえで、化粧品業界で行われたM&Aの事例についてご紹介していきます。

*1 ロハス(LOHAS):lifestyles of health and sustainabilityの頭文字をとった略語。地球環境保護と健康を重視する生活スタイルのこと


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化粧品業界の現状と業界動向

化粧品業界とは化粧品の製造及び販売に携わる産業のことを指します。化粧品にはスキンケア用品やメークアップ用品、ヘアケア用品、フレグランス用品といったさまざまな種類があります。

経済産業省の発表によると、2018年の化粧品の生産金額が約1兆6,794億となり、前年度の約1兆5449億円と比較して約9%増加となりました。

市場が回復しつつある要因の一つはインバウンド需要の拡大です。観光庁の調査によると、2017年の訪日外国人数のうち46.2%が化粧品や香水を購入しており、その一人当たりの平均購入額は28,614円でした。

一方で国内市場は人口減少の影響による市場の縮小が懸念されています。また、近年の自然派化粧品*2やドクターズコスメ*3に代表されるように、消費者の意識はブランド力を売りにした高級品のみではなく、安心・安全も重視されるように変わってきました。加えて、インターネットの普及による通信販売が多様化しています。このような背景から異業種からの化粧品市場への参入が増加してきています。1990年代から2018年までの約28年間に異業種から化粧品分野に新規参入した企業は累計で約110社に上ったことが美容経済新聞社の調査で明らかになりました。

そのため、近年の化粧品業界は国内での市場飽和などを背景に新たな需要を求め海外へと市場を移しています。大手化粧品メーカーの中には海外の化粧品メーカーの譲受けや現地法人の開設などによって、海外市場に販売網を構築し、売上比率を高めようしています。特に、中国などのアジア諸国で、売上増加を目指す企業も少なくありません。

*2 自然派化粧品:動物・植物を問わず自然由来の原料を使用して作られた化粧品やコスメのこと

*3 ドクターズコスメ:医師や医療機関などの専門家が開発もしくは監修しているコスメのこと

化粧品業界のM&A動向

日本の化粧品開発技術や品質管理体制は海外から高く評価されており、今後も日本のきめ細かい技術やノウハウを活かした品質の高い化粧品の需要が世界的に高まっていくでしょう。一方で、日本化粧品メーカーによる製品開発スピードの加速化や異業種からの新規参入などにより、国内市場の競争は熾烈化しています。そのため、M&Aを活用することで、ブランド力の強化や事業規模の拡大を目的として海外進出を図る企業が増加しています。

▷関連記事:M&Aによるブランド強化 ブランドを譲受けるM&Aが盛んな背景とブランドの価値

また、高機能化粧品やメークアップ商品の売上が好調なことから、異業種から化粧品業界に参入する企業が増加しています。その主な理由としては3つ挙げられます。

1つ目は、本業で培った技術を活用しやすいという点です。化粧品以外の業界でも保有している技術を応用できる可能性はありますが、本業で研究を重ねてきた材料を使うことで、競合に対する明確な差別化が図りやすいのです。例えば、株式会社富士フイルム ヘルスケア ラボラトリーが販売する化粧品ブランド「ASTALIFT(アスタリフト)」が挙げられます。こちらは、フィルム写真に使用されるコラーゲンに関する技術を応用したものです。

2つ目は、参入コストが低いという点です。2005年の改正薬事法の施行により、製造工程を外部に委託することが可能となり、医薬品の受託製造(OEM)が行われるようになりました。そのため、工場などへの大規模な設備投資を行わなくても化粧品を製造することが可能になりました。

3つ目は、インターネットによって通販市場が拡大した点です。女性誌や美容専門誌の充実から、日本女性の化粧品に関する知識が向上したことや、独自の販売チャネルを持たなくても、ECサイトを通じて化粧品を販売できるようになりました。

▷関連記事:国内M&Aの市場規模と現状。2018年のM&Aは過去最多の3,850件

国内企業による海外企業のM&A事例5選

1.花王株式会社によるOribe Hair Care社の譲り受け

引用元:https://www.kao.com/jp/

2017年12月、花王株式会社は米国の子会社である花王USA Inc.を通じて、ヘアサロン向けヘアケア製品のスーパープレミアムブランド*4を有する、Oribe Hair Care社を譲受けました。

花王は、「化粧品」「スキンケア・ヘアケア」「ヒューマンヘルスケア」「ファブリック&ホームケア」の4つの事業分野で一般消費者に向けたコンシューマープロダクツ事業を、また「ケミカル」事業分野においては幅広い製品を届けています。化粧品事業では「ソフィーナ iP」、「キュレル」、「SUQQU」や「KATE」などを展開しています。

Oribe Hair Care社のサロン向けヘアケアブランドで、一流のヘアサロン業界と米国の主要専門小売店で大きな存在感を示しています。

花王グループはOribe Hair Care社を譲受けることにより、ヘアサロン事業においてスーパープレミアムブランドおよび製品を獲得し、事業ポートフォリオの拡充と顧客基盤の拡大の実現を見込んでいます。花王が2017年からスタートした4ヵ年の中期経営計画「K20」の達成と、花王グループのヘアケア事業が今後グローバルに成長していくための布石のひとつとしています。

*4 スーパープレミアムブランド:花王はOribe Hair Care社の有するブランドを「スーパープレミアムブランド」と位置付けている

2.株式会社資生堂によるGiaran Inc.の譲り受け

引用元:https://www.shiseidogroup.jp/

2017年11月、株式会社資生堂はアメリカ地域本社であり連結子会社であるShiseido Americas Corporation を通じて米国のベンチャー企業Giaran Inc.(以下、Giaran社)を譲受けました。

資生堂は2017年国内化粧品業界売上高・シェア首位、世界化粧品業界売上高7位の企業です。全世界85の国と地域で共通のプロダクトとイメージを展開しています。近年は中国へ積極的に展開を加速しています。2018年、売上高・営業利益・純利益ともに過去最高を更新し、すでに海外での売上高は60%を超えています。

Giaran社は米国のノースイースタン大学のSynergetic Media Learning Laboratoryから独立した研究所を前身として、2016年に世界的に著名なAI専門家である科学者レイモンド・フーによって創設されました。Giaran社はAI技術を駆使してディープラーニング、データマイニング、予測モデリングの新しいアルゴリズムを開発しています。バーチャルにメイクアップをしたり素顔に戻したりする技術に加え、メイクアップのアドバイス、カラーマッチング、パーソナルコンサルティング、顔の測定、肌色判定などの技術を保有しています。

今後資生堂はGiaranの持つ人工知能(AI)プラットフォームの先進技術を始めとする優れたデジタル技術により、ビューティー分野において、顧客のさまざまな情報をもとに一人ひとりに最適な情報を届け、新しい消費者体験を生出していく見込みです。

3.株式会社コーセーによるTarte, Inc.の子会社化

引用元:https://www.kose.co.jp/

2014年、株式会社コーセーはTarte, Inc.(以下、Tarte社)の株式を取得し、子会社化しました。

コーセーは1946年の創業以来、化粧品を中心とする美の創造企業として事業を展開しています。ブランド別では、「DECORTÉ」「雪肌精」「JILL STUART」「ADDICTION」「CLEAR TURN」の5つを重点グローバルブランドと位置づけ、ブランド育成と市場開拓を推進しています。

Tarte社は米国を中心に天然由来成分配合のスキンケア及びメイクアップ製品ブランドを展開する企業です。

コーセーは今回の子会社化により、これまで主にアジア・アセアンを中心に行ってきた海外展開を今後は成長市場や未進出国での進出も視野に入れ、更なるグループ化の加速を図ります。

4.株式会社ポーラ・オルビスホールディングスによるJurlique International Pty Ltdの完全子会社化

引用元:https://www.po-holdings.co.jp/

2011年11月、株式会社ポーラ・オルビスホールディングス(以下、ポーラ)はJurlique International Pty Ltd(以下、Jurlique社)の株式を取得し、完全子会社化しました。

ポーラは化粧品・カウンセリング・エステの3つのサービスが融合したショップ「ポーラ ザ ビューティー」を軸に全国約4,200店舗を展開しています。また、アジア圏を中心とした海外の6の国と地域で商品販売・エステ事業を展開しています(2018年12月時点)。成長戦略の一環としてM&Aに投資しており、今後もM&Aを使ってアジアなどの海外事業拡大を図ります。

Jurliqueは独自の無農薬有機農法により自社農園で栽培された天然植物などのオーガニック原料にこだわるブランド姿勢でナチュラルオーガニックカテゴリーに入るパイオニアとして評価されています。世界20の国と地域に子会社及び代理店を通じて展開しており、特に近年はアジアの展開が本格化しつつあります。

ポーラはJurliqueを子会社化することで、エイジング・ホワイトニングといった機能性の高い製品との早期シナジー創出を図る見込みです。

▷関連記事:譲渡企業側こそ意識しよう。企業選定で欠かせないポイント「シナジー効果」とは

5.株式会社マンダムによる ACG INTERNATIONAL SDN. BHD.の子会社化

引用元:https://www.mandom.co.jp/

2018年11月、株式会社マンダムはACG INTERNATIONAL SDN. BHD.(以下、ACGI社)の株式を取得し、完全子会社化しました。

マンダムは主に男性用整髪剤やフェイシャルペーパーを中心とした男性用化粧品を展開し、そのシェアは国内トップに位置しています。近年では女性化粧品に対する取り組みを強化しています。

ACGI社はマレーシアを中心に若年層の女性向けメイクアップブランド「SILKYGIRL」を中核として化粧品の企画及び販売を展開しています。世界的なコスメティックトレンドを素早く取り入れたうえで東南アジアの感性豊かな消費者の嗜好にフィットし、10代~20代の女性を中心に大きな支持を得ています。

マンダムはACGI社を完全子会社化することで、今後、東南アジアにおけるグループの存在感を一層高めていく見込みです。

国内の化粧品企業同士でのM&A事例2選

1.株式会社山田養蜂場による株式会社PDCの譲り受け

引用元:https://www.3838.com/

2016年12月、株式会社山田養蜂場は株式会社ポーラ・オリビスホールディングスの子会社である株式会社PDCの全株式を譲受けました。

PDCはドラックストアなどの一般小売流通市場における事業展開を目的に、「ピュアナチュラル」などのスキンケア用品を提供しています。

山田養蜂場は養蜂産品を中心とする健康食品、化粧品及び自然食品の研究・開発、製造、販売を展開しています。

山田養蜂場はPDCを譲受けることにより、PDCが持つドラックストアやスーパーなどへの販路拡大を見込んでいます。

2.株式会社ナリス化粧品による株式会社ナリスアップ コスメティクスの合併

引用元:https://www.naris.co.jp/

2019年4月1日、株式会社ナリス化粧品は子会社である株式会社ナリスアップ コスメティクスを合併しました。

ナリスは1932年に設立された、訪問販売を主流通とする化粧品製造・販売会社です。1988年にセルフコスメ市場に進出し、2000年に株式会社ナリスアップ コスメティックスを設立しました。

今回の合併に伴い、ナリスは両社の有する販売促進力や、イベント展開力などの経営資源を効率的に活用し、さらに国内外に向けてお客様満足度の高い製品開発やサービス提供を実施することでナリスブランドを向上させ、事業拡大を図る見込みです。

異業種による化粧品企業のM&A事例3選

1.ヤーマン株式会社による株式会社ディーフィットの完全子会社化

引用元:https://corporate.ya-man.com/

2018年9月、ヤーマン株式会社は株式会社ディーフィットの発行済株式を100%取得し、子会社化しました。

ヤーマンは1978年に設立された美容・健康機器メーカーです。美顔器、痩身機、脱毛器など、手で持って使えるコンパクトな家庭用の美容・健康機器を中心に販売しています。ヤーマンは中国での販売も積極的に行っております。2017年には、インターネット通販で大規模なセールが行われる11月11日の独身の日に、大手アリババが運営するECサイト「Tmall」で、コスメ部門の電子美容機器カテゴリで販売実績1位を獲得しました。

ディーフィットは、金沢の金箔製造業を発祥とする和コスメブランド「まかないこすめ」などを展開しています。まかないこすめは、金沢にある創業1899年の金箔屋(吉鷹金箔本舗)のまかない(作業場)から生まれました。金箔屋のまかないは、極度の乾燥や高熱に肌をさらさなければならない環境です。まかないこすめは、金箔屋で働く女性たちがまかないで繰り返してきた美肌づくりのための試行錯誤を「まかないレシピ」として集約・編纂し、つくりあげたコスメです。

ヤーマンは「Beauty secret from Japan」というディーフィットの商品展開コンセプトを活かし、Made in Japanとしてのブランド価値の向上とさまざまなシナジーを見込んでいます。

2.住友商事株式会社によるSACI-CFPAの子会社化

引用元:https://www.sumitomocorp.com/

2019年4月1日、住友商事株式会社は、フランスにおいて化粧品素材ディストリビューター*5事業を行うSACI-CFPA(以下、SACI-CFPA社)の株式約90%所得しました。

住友商事はディストリビュータービジネスのグローバル展開を柱の一つとしています。2010年に米国の化粧品素材販売会社であるプレスパース社の完全子会社化をきっかけに化粧品素材事業へ本格的に参入しました。

SACI-CFPA社は、欧州市場の中心地であるフランス市場において、化粧品メーカー向けに素材の販売や処方の開発、提案を行っており、化粧品素材専業のディストリビューターとしては欧州トップの規模を誇ります。特に、マルチナショナルブランドをはじめ、300社以上に化粧品素材を販売しているほか、欧州で特に需要が高い天然由来の素材の取扱いが多い点に特長があります。

住友商事は、米国のプレスパース社、ブラジルのコスモテック社の買収や、100%子会社のSummit Pharmaceuticals Europe(SPE社)によるドイツ協和発酵バイオの欧州化粧品原料事業の譲受を通じて、化粧品素材ディストリビューター事業をグローバルで展開してきました。今般のSACI-CFPA社の買収によって欧州の事業基盤を強化・拡大し、世界各地の優れた化粧品素材や処方を欧州の化粧品メーカーに提供します。

*5 ディストリビューター:商品の販売者。販売代理店。

3.大正製薬株式会社によるドクタープログラム株式会社の完全子会社化

引用元:https://www.taisho.co.jp/

2016年12月26日、大正製薬株式会社はキョーリン製薬ホールディングス株式会社の連結子会社であるドクタープログラム株式会社の全株式を取得し、完全子会社化しました。

大正製薬は世界有数のOTC医薬品*6メーカーとしてさまざまな製品群を販売しています。

ドクタープログラムは機能性基礎化粧品「トリニティーライン」を中心としたスキンケア領域を主軸に事業展開をしており、その販売経路のほとんどが通信販売となっています。

子会社化により、大正製薬の通信販売の強化が図れるとともにスキンケア領域を効率的に拡充することを見込んでいます。

*6 OTC医薬品:薬局・薬店・ドラックストアなどで販売されている医薬品

まとめ

近年、インバウンド需要の拡大などにより、再び化粧品業界は活況を迎えている一方で国内市場は縮小の一途を辿っています。インターネットを通じた口コミサイトやSNSが普及したことで消費者の商品を見る目はますます厳しくなり、多様化する消費者のニーズを満たす高品質で低価格な商品が求められるようになりました。

また、通信販売が定着したことや既存の事業で培ったノウハウを製品開発に応用しやすいことからも、化粧品業界は他業種と比較して高水準の収益性で魅力的な事業分野としての注目度は高く、今後も活発な新規参入や業界再編が予想されます。

そのため、有力な化粧品ブランドを自社に取り込む目的のM&Aの他、国内での市場飽和を背景に新たな需要を求め海外へと市場を移す企業は増加していくでしょう。今後さらに化粧品業界の競争が熾烈化し、新たなビジネスモデルを探る挑戦が求められる中、M&Aは有効な武器となり得るのではないでしょうか。

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