従来ではベンチャー企業にとってIPOを目指すのが一般的でしたが、近年はM&Aを目指す経営者も増えています。
そのため、ベンチャー企業の経営者や起業を考えている方の中には、M&Aを見据えている方もいるのではないでしょうか。
IPOとM&Aには、それぞれメリット・デメリットがあるので、どちらが適しているのかをしっかりと把握する必要があります。
本記事ではベンチャー企業がM&Aを実施する意味やメリットの他、事例や成功のポイントも解説します。M&Aの活用を検討している経営者や起業を考えている方は、参考にしてください。
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M&Aをご検討の方はもちろん、自社をもっと成長させたい方やIPOをご検討の方にもお役立ていただける資料ですので、ぜひご一読ください。
目次
ベンチャー(スタートアップ)企業におけるM&Aの意味
ベンチャー企業のイグジットとして代表的なものには、IPO(新規上場)がありますが、近年はM&Aを目指すベンチャー企業も増えています。
M&A(Mergers and Acquisitions)とは、「合併と買収」の意味です。M&Aは事業成長や事業承継等さまざまな目的で行われますが、ベンチャー企業の場合はイグジット(投資を回収する)の方法の1つとしても活用されています。
もちろん、ベンチャー企業の中にはイグジットとしてではなく、M&Aによって買収を繰り返すことで急成長を遂げている企業もあります。
ベンチャーと似た言葉にスタートアップがあります。
厳密に言うと両者の意味は以下のように異なりますが、本記事ではベンチャー企業にスタートアップ企業を含めているものとします。
・ベンチャー:既存のビジネスモデルを元に新しいサービスを作り出す企業
・スタートアップ:革新的なアイデアで短期的に成長する企業
ベンチャー企業がM&Aを行う際の流れ
ベンチャー企業のM&Aは、一般的なM&Aと基本的な流れは同じです。
——————————-
1:相談・問い合わせ
2:秘密保持契約・アドバイザリー契約締結
3:各種資料の提出
4:企業価値評定の実施と企業概要書の作成
5:譲受企業とのトップ面談
6:基本合意
7:譲受企業によるデューディリジェンス
8:最終合意クロージング
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まずは、自社にとってM&Aが最適なのかを検討し、M&A仲介業者への相談・問い合わせを行います。M&Aの実施を決めた後は、M&A仲介業者との秘密保持・アドバイザリー契約の締結を行い、ノンネームシートや企業概要書等の資料の作成を行いましょう。
その後、譲受企業の打診が行われ、候補先となる数社とトップ面談を実施します。面談後に譲受企業が決まると、譲渡価格やスケジュール等を定めた基本合意書の締結、譲受企業によるデューディリジェンスが実施されます。
問題がなければ最終合意、クロージングとなります。
M&Aを採用するベンチャー企業は増加傾向
以前は、ベンチャー企業のイグジットの方法としてIPOが一般的でした。
そのため、ベンチャー企業の経営者の到達点の1つとしてIPOを目標とするのが一般的な流れでしたが、近年はM&Aを検討する企業も増加傾向にあります。
しかし、増加傾向にあるとは言え、海外と比較すると、まだ日本のベンチャー企業におけるM&Aの市場規模は小さいです。
事実、経済産業省によれば日本のベンチャー企業のイグジット状況は、約7割がIPO、約3割がM&Aとなっているのに対して、アメリカでは約9割がM&Aとなっており、IPOは1割程度しかありません。
ベンチャー企業のIPOとM&Aの比較
IPOとM&Aにはそれぞれメリット・デメリットがあります。
両者の違いを把握しておきましょう。
▷IPOのメリット・デメリット
IPOは、未上場の企業が証券取引所に新規で上場して株式を公開することです。
IPOのメリットとデメリットは以下になります。
メリット | デメリット |
---|---|
・市場から多くの資金調達ができる ・上場によって社会的な信用・ブランド力の向上 | ・準備にコストと時間がかかる ・証券会社と証券取引所による審査がある ・株式の現金化がしづらい |
未上場の企業は、上場によって直接金融市場から資金調達ができるようになるため、広くかつ柔軟に資金の確保が可能になり、事業拡大の機会が生まれる可能性が高くなります。
また、上場により社会的な信用とブランド力が上がるため、人材の採用がしやすくなったり、従業員のモチベーションが上がったりといったメリットも考えられます。
一方、デメリットですが、IPOは準備にコストと数年の期間がかかってしまい、上場するためには証券会社と証券取引所による審査も通過しなくてはいけないため、IPOまでたどり着ける企業が少ないことが挙げられるでしょう。
加えて、仮に上場できても経営者が保有している全株式を売却してしまうと、市場にマイナスの印象(売り抜けや定石不振等)を与えることもあるため、経営者や投資家にとっては株式の現金化が難しくなる点もマイナス要素です。
つまり、IPOは、会社として資金調達がしやすくなるものの、経営者や投資家等の個人にとっては利益を得づらい傾向があります。
▷M&Aのメリット・デメリット
M&Aのメリットとデメリットは以下になります。
メリット | デメリット |
---|---|
・株式の現金化がしやすい ・IPOよりコストと時間がかからない ・規模や業績に関係なく実施できる ・短期間での事業成長が期待できる | ・経営権が離れてしまう ・最適な譲渡先が見つかるとは限らない |
基本的にM&Aは、譲渡企業と譲受企業の1対1による取引となるため、お互いの合意があれば成立します。そのため、会社の規模や業績に関係なく、成約すればすぐに株式の現金化が可能です。
さらに、譲受企業は譲渡企業より規模の大きな会社となるのが一般的なため、譲受企業とのシナジー効果によって自社を短期間で成長させられることも期待できます。
また、M&Aもコストと時間はかかりますが、IPOに比べて負担を抑えられる可能性が高い点もメリットになるでしょう。
一方、デメリットですが、基本的にM&Aは経営権の売却となるので、現経営陣が直接経営に関わることが難しくなる点が挙げられます。そのため、M&Aによって企業理念や社内文化等が変化する可能性があり、人材の流出に繋がる恐れもあります。
その他、M&Aでは希望の譲渡先が見つからない可能性もあります。そのような場合は成約まで長期化したり、M&A自体実施できなかったりすることもあるので、注意が必要でしょう。
有名企業とベンチャー企業のM&A事例
ここでは、有名企業とベンチャー企業のM&Aの事例を紹介します。
▷「日立製作所」によるスタートアップ企業「KYOTO ROBOTICS」の子会社化
2021年4月、総合電機メーカー大手の株式会社日立製作所は、知能ロボットシステム開発のスタートアップ企業であるKyoto Robotics株式会社の株式を株式譲渡によって96%取得し、子会社化しました。
M&Aの背景には、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い自動化ニーズが急激に高まったことがあります。日立製作所はKyoto Roboticsを子会社化することで、Kyoto Roboticsが持つロボットの3次元ビジョンやAIを活用した制御システム等の高度な独自技術の獲得に成功しています。
また、工場や物流センターの自動化ラインにKyoto Roboticsの技術を組み込むことで、現場と経営のシームレスな連携を可能にするトータルソリューションを実現できるとしています。
▷「シード」によるベンチャー企業「ユニバーサルビュー」の子会社化
2021年3月、コンタクトレンズの製造販売を行う株式会社シードは、眼科医療機器開発ベンチャー企業の株式会社ユニバーサルビューを子会社化しています。
M&Aの手法は株式譲渡が用いられ、ユニバーサルビューの株式94.2%を取得しています。ユニバーサルビューは、寝ている間に装着することで角膜の形状矯正を促し、近視の矯正を目的とするオルソケラトロジーレンズ「ブレスオーコレクト」を製造販売していた企業です。
ブレスオーコレクトは、手術不要な視力矯正方法として年々使用者が増加していましたが、シードはM&Aによるユニバーサルビューの子会社化を機に、ブレスオーコレクトの製品競争力を高め、国内外の販売体制の強化を目指すとしています。
▷「ランサーズ」によるベンチャー企業「パラフト」の完全子会社化
2017年11月、ランサーズ株式会社はベンチャー企業の「パラフト株式会社」の発行済株式を株式譲渡により全て取得し、完全子会社化しています。
パラフト株式会社は、エンジニア・デザイナーを中心としたIT系フリーランスの複業・独立を支援する「PROsheet」を提供するベンチャー企業です。
一方、ランサーズ株式会社はクラウドソーシングサイト大手の企業で、同年10月より、プロフェッショナルタレントサービス「Lancers Top」の提供を開始し、オフライン・実名制によるタレント人材の活躍・活用へと支援領域を拡大中でした。
IT人材不足の高まりが予想される中、人材不足の解消と増え続ける広義のフリーランスの活躍推進を目的として、パラフトのグループ会社化合意に至っています。
ベンチャー企業がM&Aの成功率を高めるポイント
ベンチャー企業がM&Aを成功させるためには、注意点やポイントを把握しておく必要があります。
ここでは、M&Aの成功率を高めるためのポイントを紹介するので、確認しておきましょう。
▷PMIを策定・確認する
M&Aを成功させるためには、譲渡後のPMI(統合プロセス)を考慮することが重要です。PMIを疎かにしてしまうと、M&Aによるシナジー効果を最大限発揮できなくなってしまう可能性が高いので、注意が必要です。
また、M&Aによってモチベーションが下がってしまう従業員もいるため、M&A後に人材の流出や組織力の低下を防ぐ意味でも事前に策定し、確認しておきましょう。
▷M&Aを実施するタイミングを考慮する
M&Aを実施するにあたり、タイミングは重要です。
業界全体が成長傾向にあったり、勢力図が変化したりするタイミングは譲渡先が見つかりやすくなる傾向があるので、業界の動向を把握しておくようにしましょう。
加えて、自社の業績が上がっているタイミングは、譲受企業に自社の将来性をアピールしやすくなります。
▷シナジー効果を期待できる譲受企業を選ぶ
M&Aは自社の成長のチャンスでもあります。
M&Aの譲渡先は、シナジー効果(相乗効果)が期待できる企業を選ぶことで、短期間での事業成長が見込めます。
また、譲受企業にとってもシナジー効果は重要なため、得られるシナジー効果をアピールできればM&A時の評価が上がり、譲渡価額も高くなることが期待できます。
▷株式譲渡の手法を選ぶ
M&Aの手法はさまざまありますが、ベンチャー企業のM&Aでは株式譲渡を選択するのが良いでしょう。
株式譲渡はM&Aの中でも手続きが簡易なため、手間が軽減できる可能性があります。
また、M&Aの実施によって経営者は売却益を得られますが、売却益には税金がかかります。株式譲渡であれば課税割合も低くなるケースが多く、売却益を最大限に得られる可能性が高いでしょう。
▷M&A仲介業者等の信頼できる専門家に相談する
M&Aを成功させるためには、自社にとって理想的な譲受企業を見つけることが重要です。
M&Aを実施する際はM&A仲介業者やM&Aアドバイザー等の専門家に依頼するのが一般的ですが、依頼する場所によって特徴は異なります。そのため、ベンチャー企業がM&Aを実施するのであればベンチャー企業のM&Aに強く、信頼できる専門家に相談するのがおすすめです。
まとめ
ベンチャー企業におけるイグジットの方法は、従来だとIPOが一般的でしたが、近年はM&Aが採用されるケースも増えています。
日本は海外に比べてM&Aを実施するベンチャー企業が少ないものの、M&AにはIPOより時間がかからず、すぐに株式を現金化できる等のメリットがあります。
今後もイグジットの方法としてM&Aを採用する企業が増えていくと考えられているので、ベンチャー企業の経営者や起業を考えている方は、M&Aの活用も視野に入れてみてはいかがでしょうか。