経営不振となり、負債を抱える多くの企業経営者は「会社を倒産させずに事業を継続する方法はないか…」と悩むのではないでしょうか。
その際の事業再生の手法として「第二会社方式」が挙げられます。
第二会社方式を採用すれば、抱える負債や、滞納している税金を減らせる可能性があります。
そこで本記事では、第二会社方式に関する基礎知識やメリット・デメリットを解説します。
第二会社方式の方法や事例についても触れていますので、利用を検討する方はぜひ参考にしてみてください。
上場企業に負けない 「高成長型企業」をつくる資金調達メソッド
本資料では自社をさらに成長させるために必要な資金力をアップする方法や、M&Aの最適なタイミングを解説しています。
・縮小する日本経済市場を生き抜くために必要な戦略とは?
・まず必要な資金力を増強させる仕組み
・成長企業のM&A事例4選
M&Aをご検討の方はもちろん、自社をもっと成長させたい方やIPOをご検討の方にもお役立ていただける資料ですので、ぜひご一読ください。
目次
第二会社方式とは?M&Aとの関連性を解説
債務超過などにより経営難に陥った会社から「採算性のよい事業だけを取り分けて」新しい会社に引き継ぐ手法が、第二会社方式です。第二会社方式による事業の切り離しは、特別措置法や破産により負債額を減らせるので、引継ぐ企業の負担軽減につながります。
また、既存の企業は引き継ぎ対象事業の引き継ぎが完了した際に清算により消滅します。
経営不振企業の継続方法は第二会社方式を含めて主に下記が挙げられます。
・事業譲渡(=第二会社方式)
・会社分割(=第二会社方式)
・株式買収(M&Aで主となる手法)
・事業転換
・個人事業へ縮小
M&Aとは、2つの企業を1つに合併したり他の会社を買収したりする「企業の合併と買収」を指す言葉です。M&Aで多く用いられる手法は「株式譲渡」ですが、「事業譲渡や会社分割」も注目されています。
第二会社方式をM&Aの手法で行う場合、「事業譲渡」または「会社分割」を用いて取引を行います。
両手法とも、引受会社が事業を引き継ぐためには、会社を新設しなければなりません。
第二会社方式のメリット
第二会社方式を採用して事業再生を行う場合のメリットは、以下の3つです。メリットを享受したい方は、ぜひ検討してみてください。
税務面で有利になる
第二会社方式の利用は、税務面で有利になります。企業経営者が私的に「負債額を減らしたい」と考える場合、債務免除の選択が頭に浮かぶのではないでしょうか。
債務免除とは「債権者(貸付側)が借金返済を無効とする」手続きで、負債を抱える企業にはうれしい手段といえるでしょう。しかし、負債免除を受けると「債務免除益という収入」を得た形になり、収益には法人税が加算されます。
繰越欠損金があれば相殺できますが、ない場合は、税金支払いの負担がかかるのです。第二会社方式は、法的手続きを踏むことで期限切れ繰越欠損額も利用できるので、納税額を下げられます。
支援者や金融機関の協力を得やすい
第二会社方式は、優良事業に限定して承継会社に移転できるため、支援者の協力を得られやすい手法といえます。承継の手段に事業譲渡を用いれば、引き継ぐ債務を選択できるので、簿外債務や偶発債務のリスクを減らせるのです。優良事業のみの承継で将来起こり得るリスクを遮断すると、よりよい状態で再スタートできるでしょう。
事業拡大の見通しが立てば、支援者や金融機関の信頼獲得につながります。スポンサーが多いほど企業の運用資金拡大を狙えるので、安定した運営ができるでしょう。
優良な事業だけで再生できる
第二会社方式を利用すれば、赤字が続く不採算事業を切り離して、収益性の高い優良事業のみで再生を図れます。「抱える負債をなくそう」と企業の破産手続きをすれば、採算が取れるはずの黒字事業もすべて消滅してしまい、何も残りません。
しかし、第二会社方式を採用すれば、赤字事業のみを切り離し、黒字事業のみで再スタートできます。
後継者にとってもメリットが大きく、安定して優良事業を運営できるでしょう。
第二会社方式のデメリット
第二会社方式には、メリットだけではなくデメリットも存在します。
両面を把握したうえで、実施を検討しましょう。
移転コストが発生する
第二会社方式を用いると、移転コストが発生する点を視野に入れましょう。第二会社方式にM&Aの手法を用いると「事業譲渡」または「会社分割」の選択となります。事業譲渡を用いる場合「モノの購入と同じ扱いになる」ので、取引には両企業に税金が発生するのです。
また、手法に関わらず、会社設立の際には不動産取得税や、登録免許税の支払いも必要となります。
不動産所得税と登録免許税は、会社分割だと一部軽減されますが、事業譲渡では全額負担となる点にも注意しましょう。
許認可を再取得する必要がある
会社を設立し、承継した事業をスタートさせるには「許認可の再取得」が必要です。
許認可書類の提出先は、各事業により異なります。
【許認可の主な届け出先】
・国や地方自治体
・保健所
・税務署
・警察署 など
許認可を得ずに営業や工事を行った場合には、罰則もあるので注意しましょう。例えば、建設業で許認可を得ずに営業を行った場合、建設業法第47条により「3年以下の懲役または200万円以下の罰金」を受けることになります。
許認可申請の手続きが完了するまでには、時間を要します。すべての事業に許認可が下りるわけではないので、承継前の確認がおすすめです。
資金調達が難しい
第二会社方式を実施する際は、当面の資金を準備してからの実行が望ましいでしょう。運転資金を金融機関から調達しようとしても、銀行は新・旧問わず同じ会社として見ています。
新たな負債を抱えないためにも、金融機関が貸付を行わない可能性が高いのです。引継企業は「資金調達は自社企業で行う」覚悟も必要となります。
第二会社方式を利用した中小企業再生支援協議会の認定制度
ここでは、第二会社方式を利用した、中小企業支援協議会の認定制度について解説します。
第二会社方式のデメリットを避けるためにも、ぜひ活用しましょう。
中小企業再生支援協議会とは?
中小企業再生支援協議会とは、中小企業再生への取り組みを支援するために、都道府県ごとに設置されている公的機関です。収益の見込みがあるにも関わらず、現段階で財務上の問題を抱える中小企業は、機関を利用して専門家に相談できます。
【相談可能な専門家】
・金融機関経験者
・公認会計士
・税理士
・中小企業診断士
中小企業再生支援協議会は、第二会社方式への取り組みに力を入れており、相談をすれば以下の支援を受けやすくなります。
【主な支援内容】
・許認可の承継
・税負担の軽減
・金融支援
支援の1つである「日本政策金融公庫の特別融資」を受けられると、金利が長期固定となるメリットがあります。許認可の承継だけでなく、登録免許税や不動産取得税の軽減も支援対象です。
第二会社方式を利用した事業再生と適応条件
「中小企業承継事業再生計画」へ申請し、支援を受けるには条件を満たす必要があります。
【申請ができる条件】
・多大な負債額を抱える「中小企業」
・承継する企業と共に再生計画の申請ができる
また、申請をした後でも、以下の条件をクリアしなければなりません。
【申請後にクリアする条件】
・会社分割または事業譲渡により第二会社へ事業を承継し、承継後2年以内に旧会社を清算する
・中小企業再生支援協議会などの公正な債権者調整プロセスを経ていること
・旧会社の承継される事業で従業員の8割以上の雇用を確保すること
申請前・後の条件を満たすには計算や書類作成などが必要なので、スムーズに行いたい人は専門家へ依頼しましょう。
第二会社方式で用いられる方法
第二会社方式をM&Aの手法で行う方法は「事業譲渡」と「会社分割」の2つ。
それぞれの方法について解説します。
事業譲渡
事業譲渡とは、旧会社の中から残したい優良事業を切り離して「債権や債務について契約者と合意したうえ」で他会社に承継する手法です。事業譲渡における手続き完了までの流れは、以下のとおりです。
【事業譲渡の流れ】
1.承継する企業が新会社を設立する
2.両企業が事業譲渡契約を締結する
3.新会社へ資産を移転する
4.承継企業が対価を支払う
5.残った企業を消滅させる
特別清算や破産手続きにより、企業の消滅を行います。
新会社にとって「契約書に明記された債務以外は引き継ぐ必要がない」というメリットがあります。
しかし、事業譲渡は「モノの売買」と見なされるため、消費税が課される点に留意しましょう。
登録免許税や不動産取得税への軽減措置がない点も、事業譲渡のデメリットとなります。
会社分割
会社分割は、旧会社の中から残したい優良事業だけを切り離す点では事業譲渡と変わりません。引き継ぐ事業の資産だけでなく、将来の負債もまとめて抱える点が、会社分割と事業譲渡の大きな違いとなるでしょう。
また、会社分割は、会社法にのっとった包括的な承継方法であるため「個別の同意は不要」です。
事業譲渡よりも税金の負担軽減ができる一方で、取引には株式を用いることも多いため、複雑な手続きを要します。よって、会社分割を検討する際は、経験を積んだ専門家への依頼が必要となるでしょう。
第二会社方式の事例
ここでは、山形県にある「藤圧印刷株式会社」が行った第二会社方式の事例を紹介します。
企業概要
藤圧印刷株式会社:山形県内規模No.1の総合印刷業者であり、地域の情報文化・生活産業に深く貢献した企業。
事業再生が必要となった経緯
関東の需要を取り込むべく埼玉工業を新設しましたが、過当競争により低収益を余儀なくされ、財務内容を圧迫していました。手付かずの人員整理により売り上げピーク時の従業員をそのまま抱え、低い生産性により収益が悪化。また、売り上げ至上主義となり、原価に対する感度が低く赤字受注を認識できない経営体制なども要因になり、機構への支援申し込みを行います。
第二会社方式の流れ
旧会社の100%出資の新会社を設立し、新会社の発行株式のすべてを機構に対して譲渡。新会社は、旧会社から主力である蔵王の森工場に関する資産・負債を承継し、旧会社は非承継資産を売却、売却代金は負債の返済に充当されました。資産売却代金で返済できなかった残債務は、会社分割による特別清算によって処理されています。
金融支援の流れ
旧会社の借入債務36.3億円のうち、8.4億円を新会社が承継。27.8億円を旧会社に残したうえで、不動産売却の収益をあて7.4億円を返済しました。債権を放棄した金額は、20.4億円と見込まれています。
まとめ
今回は、第二会社方式を実施する際のメリット・デメリットを解説しました。第二会社方式は、事業再生手法として有効な手法です。過剰債務で事業の継続が困難な場合でも、自社の優良な事業があれば第二会社方式を採用し、新会社として継続を期待できます。
しかし、事業再生の最適な手法を見定めるには、デメリットも考慮しなければなりません。
正しい知識を身に付けたうえで実行しないと、負債を抱えるリスクが大きくなるでしょう。
第二会社方式の成功率を上げるには、経験豊富な専門家への依頼が近道といえます。