株式譲渡は、中小企業のM&Aでは最も行われている手法の1つで、譲渡企業の株式を譲受企業が買い取り、経営権を譲受企業に移動することを指します。
株式譲渡を行うことで、事業を続けてきた会社の経営者は譲渡所得を得られます。幸せなリタイア生活を考えて、株式譲渡を検討している経営者も多いのではないでしょうか。
しかし、株式を売却し金銭などを得る際に、気にしなければいけないのが税金です。
本記事では株式譲渡の際にかかる税金の種類や、その計算方法について詳しく紹介します。
▷関連記事:株式譲渡とは?株式譲渡と事業譲渡の違いや2つの注意事項
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
株式譲渡の際に発生する税金
株式譲渡を行った際に発生する税金は主に「所得税」、「住民税」、「法人税」の3種類があります。
株式譲渡は株式の売却により、売り手が譲渡所得を得ることになるため、この譲渡所得に対して税金が発生し、個人であれば所得税+住民税、法人であれば法人税を納税する必要があります。
また2037年までは株式の取引に対して復興特別所得税が課せられています。
株式譲渡の税金の算出方法
続いて株式譲渡の際の税金の算出方法を整理します。
▶︎株式譲渡の税金の対象
株式譲渡で税金が発生するのは上記の通り、譲渡所得に対してとなります。
譲渡所得は「株式の譲渡価格」から「株式の取得費用や各手数料などの必要経費」を差し引いた額を指します。
なお相続により株式を取得した場合の様に取得費用が不明である場合については、売却価格の5%を概算として取得費とすることも可能です。
▶︎上場株式等と一般株式等
株式譲渡の税金については、まず売却した株式が「上場株式等」と「一般株式等」のいずれかに区分を行う必要があります。
上場株式等は一般的には証券取引所に上場している株式や外国債券、公社債などが該当し、上場していない株式など、上場株式等以外のものは一般株式等となります。
▶︎申告分類課税
上場株式等と一般株式等を区分したうえで、申告分離課税と呼ばれる納税方式で確定申告を行う必要があります。
申告分類課税とは、給与所得や不動産所得といった総合所得と分離して計算し、所得税の確定申告をすることにより納税する課税方式を指します。
なお株式譲渡による所得は土地や建物の譲渡所得などの様な申告分離課税の対象となるほかの所得とも分離されるので注意しましょう。
▶︎所得税・復興特別所得税・住民税の税率
所得税・復興特別所得税・住民税のそれぞれの税率は、上記の上場株式等、一般株式等による違いはなく、一律の税率が適用されます。
・所得税:15%
・復興特別所得税:0.315%
・住民税:5%(合計:20.315%)
株式の売却により発生した所得に対し、上記の20.315%の所得税が発生することになります。
▶︎株式譲渡の税金の計算例
株式譲渡の税金について、以下のケースで税金を計算してみましょう。
・株式の売却価格:5,000万円
・株式の取得費用:1,000万円
・売却の各手数料:500万円
1)譲渡所得の算出
株式の売却価格(5,000万円)-売却の必要経費(1,000万円+500万円)=3,500万円
2)所得税の算出
譲渡所得(3,500万円)× 20.315%=711万250円
上記のケースでは所得税として711万250円の納税が必要になります。
株式譲渡と確定申告
譲渡所得があった場合は、確定申告が必要となるのでしょうか。
給与を1か所だけから受けており、給与の年間収入金額が2,000万円以下の給与所得者は確定申告をする必要はありませんが、給与を1か所だけから受けており、給与の年間収入金額が2,000万円以下でも、給与以外の所得が20万円を超えた人は確定申告が必要です。
ただし、株式譲渡に利用したのが源泉徴収ありの特定口座であったり、株式売却を行った年に損失が利益を上回っている場合は確定申告が不要になります。
しかしM&Aによる株式譲渡した際の所得が20万円を超えないことは考えにくく、M&Aの場合であれば、ほぼ全ての人に申告の義務が生じます。
株式譲渡の税金に関する特例
株式譲渡の税金には2種の特例制度が存在します。
▶︎事業承継税制
1つ目は事業承継税制です。
事業承継税制は、非上場会社の株式等や事業用資産を前経営者から贈与または相続により後継者が取得した場合、経営承継円滑化法による認定を都道府県知事から受けると、贈与税・相続税の納税が免除または猶予される制度を指します。
事業承継税制の適用を受けるためには、「会社」「前経営者」「後継者」「制度適用後」の4項目に設けられた要件を満たすことが必要です。
・事業承継税制の要件:会社の要件
会社が満たすべき要件は以下3点となります。
1)中小企業に該当する
2)従業員が1名以上
3)上場企業や資産管理会社等に該当しない
1)の中小企業は中小企業基本法の規定によると以下の様な企業が該当します。
-製造業その他:資本金3億円以下または従業員数300人以下
-卸売業 :資本金1億円以下または従業員数100人以下
-小売業 :資本金5,000万円以下または従業員数50人以下
-サービス業 :資本金5,000万円以下または従業員数100人以下
・事業承継税制の要件:前経営者の要件
前経営者が満たすべき要件は以下3点となります。
1)前経営者は会社の代表者であった
2)前経営者は相続開始または贈与の直前に、現経営者親族などで総議決権数の過半数を保有しており、筆頭株主であった
3)【贈与の場合】前経営者は贈与後に代表者を退任しているなど
3)については贈与後に相談役や取締役会長といった有給役員として会社に在籍することは可能です。
・事業承継税制の要件:後継者の要件
後継者が満たすべき要件は以下となります。贈与か相続かにより要件が変わるため注意が必要です。
1)【贈与・相続ともに】贈与、または相続により前経営者と同族関係者で発行済み議決株式総数の50%以上を保有、かつ筆頭株主になる
2)【贈与の場合】贈与を受ける直前に継続して3年以上役員だった
3)【贈与の場合】贈与を受けるタイミングで代表取締役に就任した
4)【相続の場合】相続する段階で役員であり、かつ相続開始から5か月以内で代表取締役に就任する
・事業承継税制の要件:制度適用後の要件
最後に制度適用後ですが、事業承継税制が適用された後、5年間は以下要件を守る必要があります。
1)後継者が代表取締役、かつ筆頭株主
2)継続者が制度の対象となる株式を保有
3)5年間の平均で雇用の8割以上を維持
4)資産保有型会社等、上場会社、風俗営業会社等に該当しない
5)年次報告を都道府県知事へ毎年提出
6)継続届出書を税務署へ毎年提出
なお事業承継税制では納税が猶予されてからも取消事由に該当した場合、途中で打ち切られる可能性があります。
打ち切られてしまった場合、猶予された税額と利子を納付する必要があり、取消自由に該当しない様注意が必要です。
▶︎取得費加算の特例
取得費加算の特例とは「譲渡した株式に対応する相続税額を取得費に加算できる」という制度です。
上場株式・非上場株式の双方で活用が可能で、取得費加算の特例を用いることで取得費が増加する事により譲渡所得が減少するため、結果的に課税額を抑えることが可能です。
ただし、相続税の申告期日の翌日から3年以内に株式の譲渡を行う必要があり、確定申告も必要となりますので、注意しましょう。
株式譲渡の税金に関する注意点
株式譲渡を行う際に、「上場企業か非上場企業か」や「親族との株式譲渡か第三者との株式譲渡か」などによって税務に違いが出てきます。
いくつか注意点がありますので、確認しておきましょう。
▶︎親族間で株式譲渡を行う場合の譲渡価額
上場株式の株式譲渡の場合は、株価は市場で公開されている価額を使用し、非上場株式の株式譲渡の場合は、第三者との売買であれば最終的に合意に至った譲渡価額が時価と見做されるケースが大半なので問題は無いでしょう。
ただし親族間で株式譲渡を行う場合、株式を譲渡した価額と時価との差額によっては時価における株式譲渡とは異なる税金が発生するケースがあります。
▶︎相続税と見做される場合
株式譲渡では譲渡所得に対して税金が発生します。
そのため基本的に株式を売却した売り手に対して税金が課されます。
ただし親族へ株式を譲渡する場合、相続と見做される可能性が出てくる点には注意しましょう。
相続と見做された場合、株式を買収した買い手側にも10~55%の相続税が課されます。上記の「親族間で株式譲渡を行う場合の譲渡価額」の項目と合わせて事前に専門家に相談をするようにしましょう。
▶︎上場株式・非上場株式間の損益通算は不可
2016年以降、上場株式と非上場株式の間で株式譲渡の損失を損益通算することが出来なくなりました。
非上場株式同士であれば単年、上場株式であれば3年間は損失の繰り越しは可能ですが、非上場株式の損失の繰り越しは出来ませんので、注意しましょう。
株式譲渡の税金の節税
株式譲渡を行う場合、課される税金は高額となり、税率が数%異なるだけで大きな金額が変わってきます。
M&Aの場合、株式譲渡と他の手法を比較すると、株式譲渡の方が税金を大幅に節税することが可能です。
それに加えて、以下の様な節税方法が考えられるので、事前に確認をしておきましょう。
▶︎退職金の活用
株式を譲渡する金額の一部を退職金と受け取ることで節税が期待できます。
退職金は役員として5年以上勤務している場合、課される税金は通常の半分となります。そのため株式を譲渡する金額の一部を退職金とすると節税が見込まれます。
ただし節税出来るのは一定の条件を満たした場合のみで、条件によっては税金が増加する事になるため注意が必要です。
まとめ
株式譲渡は国内の中小企業のM&Aで多く行われている手法の1つです。
株式譲渡を行う際に、忘れてはいけないことが税金です。M&Aで株式譲渡を行う上でほとんどの人に確定申告の義務が発生します。
今回紹介した税金の種類や計算方法を理解し、株式譲渡をスムーズに進められるようにしましょう。
また、特に税務に関する事は頻繁に制度が変わります。そのため、税務などの専門知識はM&Aアドバイザーに相談し、最終的な判断をする際には税理士に相談することをおすすめします。